戦後における大学教員の身分に関わる判例集
解雇と教授会の自治

(判例一覧)
名古屋地裁
昭和34年11月30日
勝訴
2 名城大学教授解雇事件
名古屋地裁
昭和36年2月13日
勝訴
3 日本大学専任講師解雇仮処分事件
東京地裁
昭和51年1月29日
敗訴
4 八代学院大学助教授解雇仮処分事件
神戸地裁
昭和51年9月14日
勝訴
5 八代学院大学教授解雇仮処分事件
神戸地裁
昭和54年12月25日
勝訴
6 八代学院大学教授解雇仮処分異議事件
神戸地裁
昭和56年12月18日
勝訴
7 中京女子大学仮処分事件
名古屋地裁
昭和61年12月25日
一部認容
8 前橋育英短大教授解雇事件
前橋地裁
昭和63年3月11日
勝訴
9 甲南大学本訴事件
神戸地裁
平成10年3月27日
棄却
10 秋田経済法科大学控訴事件
仙台高裁秋田支部
平成10年9月30日
一部認容
11 西日本短期大学事件
福岡地裁
平成10年10月21日
棄却
12 甲南大学控訴事件
大阪高裁
平成10年11月26日
棄却
13 大垣女子短大本訴事件
岐阜地裁大垣支部
平成13年8月14日
認容


(1) 学問の自由の保障という立場から,私立大学の教員の人事事項は教授会の審議決定事項で あるとする判例

判例@
大垣女子短大本訴事件
岐阜地裁大垣支部
平成13年8月14日

(判決文の中の当該箇所の抜粋)
教授会の審議の必要性について
  被告は、本件解雇について、教授会における審議、決定を経ていないが、学校教育法59条1項は「大学には、重要な事項を審 議するため、教授会を置かなければならない。」と規定し、乙26によれば、被告の大垣女子短期大学教授会規程第3条は、教授会 の審議事項についての定めであり、教員人事に関しては、同条9号において、「教育職員の資格、昇格、採用にかかる資格審査 (研究業績並びに学会及び社会における活動)」と定めているだけである。この教授会の規定は、教員の解雇を審議事項としていな いものと解さざるをえない。そして、被告は上記学校教育法59条1項につき、私立学校の場合には、重要事項として何を定めるかは 大学の内部規律により定められるべきものであると主張する。しかし、学問の自由を定めた憲法23条の趣旨からすると、私立大学 の場合であっても、教員の解雇は学校教育法59条1項にいう重要事項と解すべきであり、被告においても本件整理解雇について教 授会の審議を経るべきものというべきである。
  したがって、本件整理解雇は、教授会の審議を経ていない点において、無効というべきである。

判例A
八代学院大学助教授解雇仮処分事件
神戸地裁
昭和51年9月14日

(判決)
「私学の場合,管理担当者である理事会と,学事担当者の教授会とは法規定互いに相当事項に関する意向を尊重して,協調する 組織となっている。教授会の審議決定する事項についても種々のものがあり,例えば財政的な面で理事会が反対するなど相当な 理由がある場合ならば,右決定に実質的に拘束性を認める必要はないが,大学き自治とからむ教員人事に関しては,実質的な決 定を教授会に委ねることが要請され,特段の事情がないかぎり拘束力があるものと解すべきである。特に教員の解雇について,右 見地から教授会の審議も経ずして理事会が勝手に決定することは許されず,本大学の前期学内法規に照らしても,到底認めること ができない。」(労判260)

判例B
八代学院大学教授解雇仮処分事件
神戸地裁
昭和54年12月25日

(判決)  大学教員の罷免手続きに関する教授会権限
「学校基本法は私立大学についても適用されるところ,同法59条1項は『大学には,重要な事項を審議するため,教授会を置かなけ ればならない』と規定し,教授会を大学の必置機関としてこれに『重要な事項』についての審議権を認めている。これは,憲法23条 の学問の自由,特に学術の中心として真理探究を本質とする大学におけるそれを保障するために伝統的に認められている大学の 自治の保障,強化をはかる趣旨に基づくものである。そして,この自治は教員の採用,罷免等の人事に特に保障される必要があ る。蓋し,大学教員の高度の学問的能力や知的誠実性を正しく評価し,その適格性をよく判断できるのは同僚たる教員自身であっ て設置者(任命権者,理事会等の外的管理機関)ではなく,また,大学教員の研究教育の自由の保障は,雇用者たる大学設置者 の一方的判断によってはその地位を奪われないという身分保障によってはじめて確立しうるものであるからである(教育基本法6条2 項参照)。このような趣旨からすれば,教員の採用,罷免等の人事については,学校教育法59条1項の『重要な事項』に該当し,教 授会(または教授会の自主的な意思にもとづく構成された機関)の審議が必要な手続要件であり,またこの教授会の審議権は単な る諮問機関としてのそれではなく,より実質的なものであって,これを奪うことは許されないというべきである。」(労判343)

判例C
八代学院大学教授解雇仮処分異議事件
神戸地裁
昭和56年12月18日

(判決)  学校教育法59条と教育公務員特例法4条,6条,9条,10条)の私立学校への適用
「大学は,『学術の中心として,広く知識を授けるとともに,深く専門の学芸を教授研究し,知的,道徳的及び応用的能力を展開させ ることを目的とする。』(学校教育法52条)ものであり,そこにおける学問研究においては,教員(研究者)は常にその対象たる事象と 自らの知的誠実さに裏付けられた理性とにのみ導かれ,他の外的な力に左右されることなく,その研究を行うのでなければ研究自 体成立たず,また,研究成果の教授に関しても一定の教育課程に基づく授業として行われる教授・学習指導は,公教育の一環とし て『教育を受ける権利』(憲法26条)の実現・充足という意味をもつから,この面でも外的な力による『不当な支配』に脅かされること なく(教育基本法10条)行われるのでなければ,教育ということの本来の目的・役割を果たし得ない。したがって,被雇用者として研 究・教育に従事する教育研究者は,その研究・教育という職務の遂行については,その属する研究教育施設の設置者(学校教育 法2条…私立の場合は学校法人)ないし管理者の雇用主としてもつ職務命令権,懲戒権,解雇権等の発動にさらされることなく,安 んじて研究・教育に携わることを可能ならしめる必要が生ずる。ここにおいて必然的に大学の自治が要請される。学校教育法59条 が,国,公,私立を問わず,大学の重要事項を教授会の審議により実質的に決めることを法定したのも,このことを法律上保障した ものと解される。したがって,右の『重要事項』には,教員の任命に関する事項が含まれるべきことは当然のことといわなければなら ない。そして,国公立大学については,教育公務員特例法により教員の任免について明文の規定(4条,6条,9条,10条等)が存ず るが,それは前記の…から右の法律をまつまでもなく当然あるべき手続を明文化したにすぎないのであり,したがって,私立大にも また同様に妥当するものである。蓋し,学問研究において,国,公,私立でそれに差異のあり得る筈はなく,同様の法関係は同様 の法理によって規律されるべきことは,多言を要せずして明らかだからである。
(もとより私立学校は,法人による自主的経営がなされ,宗教教育を初め(教育基本法9条),その独自の建学の精神や学風をもっ て学生を教育する権利と責任が認められているが,しかしながら,学校教育基本法に定められる学校である限り,基本的部分(学 問の自由,大学の自治,教育内容等)において共通性が要求されることは,教育基本法・学校教育法をはじめとし,教育に関する 現行法体系並びにこれを前提とする社会制度(例えば各種試験の受験資格,就職資格など)等からみなも明らかである。)」(労判 379)

判例D
前橋育英短大教授解雇事件
前橋地裁
昭和62年3月11日

(判決)
手続的瑕疵と教授会自治の侵害
「ア 学校教育法五九条は、「1大学には、重要な事項を審議するため、教授会を置かなければならない。2教授会の組織には、助 教授その他の職員を加えることができる。」と規定しているが、これは、大学の管理・運営に関する重要事項の決定に教授会の議を 経させることにより大学の自治を保障しようとしたものであり、この趣旨に鑑みれば、右規定に違反する行為は無効というべく、教員 人事は大学の自治の核心をなすといえ、右重要事項に該ることが明らかである。
イ 育英短大には、別紙のとおり前橋育英学園短期大学学則(以下「学則」という。)があり、その四五条で教授会の構成を規定し ているが、同短大においては、別紙前橋育英学園短期大学教授会規定に見られるとおり学長、教授、助教授、講師をもって教授会 を組織することが確立した慣行であり、更に、右学則四九条では教員の任免は教授会に諮問することとされている。
ウ 本件解雇に際して学長は申請人を除く各教授の意見を個別に聴取したものの、助教授等も構成員とする教授会の議を経ず、ま た、申請人の弁明を全く聴取していない。
 各教授の意見を個別に聴取したとしても、教授会の議を経たことにはならない。
エ 本件解雇事由として被申請人の主張するもののいくつかは、教授会の構成員である申請人の教授会での発言そのものをとりあ げたもので、教授会における言論の自由を封殺するものであり、教授会自治を侵害する。
オ 以上のとおりであるから、本件解雇はその手続要件を満たしておらず、憲法二三条、学校教育法五九条に反し、無効である。」

教授会の議を経ていない本件解雇の効力について
「憲法二三条に保障する学問の自由は、その制度的基盤として大学の自治を包含するものであり、大学の自治の一つの主要な柱 が教授会の自治に存することは学校教育法五九条等の規定より明白である。
 育英短大における前記諸規定中解雇に際して教授会の審議を要求した部分は、右大学の自治の保障を具体化したものであっ て、この手続を怠った瑕疵を軽視することはできず、個々の教授個人の意見を聴取したとしても、これが、会議体として要求されてい る教授会でないこと及び構成員である専任の助教授、助手の意見を反映していないことの二点において、右教授会の審議に代替 するものとは考えられない。
 被申請人は、教授会を開催したときは、申請人が議事を混乱させるおそれがあり、開催不能であった旨主張するが、懲戒処分を 審議する際に被懲戒者には弁明の機会を与えれば足り、審議に加える必要のないことは衆議院規則二三九条、参議院規則二四 〇条等に見られるように会議体一般の扱いであり、被申請人のこの点の主張は理由がなく、かえって(証拠略)、証人羽鳥保太郎 及び同針塚正樹の各証言並びに被申請人代表者尋問の結果によれば、学長において教授会の審議を経ず個別に教授の意見を求 めたのは、教授会を開いたときは、申請人の解雇に反対する教授の発言の影響で本件解雇の決議を得られないおそれがあると考 えたことが、一つの主要な原因であるものと一応認められる。
 以上を総合考慮すれば、本件解雇は、他の諸点を検討するまでもなく、その効力を否定せざるをえない。」


(2) 大学の教員という特殊な地位にあることから,教授会の意思が尊重されるべきでるとする判

中京女子大学仮処分事件
名古屋地裁
昭和61年12月25日

(判決)
「申請人らが大学教員という特殊な地位にあることに鑑ると、通常の雇用契約における労使関係と同一次元でこれを把えることは相 当でない。けだし、大学教員も使用者対被用者の関係においては後者に属することは明白であるが、学問の自由の延長線上にあ る大学自治の担い手であることからすれば、その言動に対する評価判断に際しては、右の視点からの検討を欠くことはできないか らである。ただ、私立大学においては国公立大学と異なり憲法、教育基本法等諸法令の許容内で広範な私的自治の原則が妥当 し、これが尊重されるべきであることから、各私立大学における固有の内部規律がこれに所属する教員の行動に独自の規制を加え ることのあることは当然である。しかし、その一方、大学教育が深く公益に関わるものであることから、諸法令が私立大学の設置運 営についても種々特別の規定を置いていることに照すと、私立大学における私的自治も公益的見地からする一定の制約を免れるこ とはできないというべく、従って、設置者である学校法人ないしその意思決定及び業務執行等を行う理事会の自主性が尊重される としても、右の観点からして許容されないような内部規律を設けたり、あるいはそのような方針に立脚して学校の管理運営にあたる ことは認められない、また、私立大学の自主性は一人理事会の自主性のみを意味するものではなく、このことは、学校教育法(以 下、「学教法」という)が教授会が大学自治の担い手であることに鑑み、私立大学にも「重要な事項を審議するため」教授会の設置を 義務付け、大学の管理、運営にその意思が十分反映されるよう定めていることからも明らかである。
  しかして、本件疎明資料によれば、中京女子大においても、学則で教授会は教育課程及び履修方法に関すること、学生の入 学・退学・懲戒等に関すること及びその他学長の諮問することを審議すべき旨(7条2項)、そして教授会に関する規定は別に定める 旨(同条3項)、をわざわざ規定していること、更に右三項の規定を受けて制定された教授会規程は、(1)授業科目並びに教育及び 研究に関する事項、(2)学生の入学及び卒業の認定に関する事項、?学生の試験に関する事項、?学生団体、学生活動及び学生生 活に関する事項、?学生の懲戒に関する事項、?教職員の人事に関する事項、?その他学部の教育研究及び運営に関する事項等を 審議すると規定している(8条)ことが一応認められる。
  このように見て来ると、理事会と教授会は、ともども大学の自治を擁護していく役割を担っているのであって、教育の実践を含む 大学の管理、運営一般について両者が全く対等な関係であるとは解されないにしても、いずれか一方が常に優位に立つ関係にあ るものと解することも相当ではなく、本来は両者が協働して各々の立場からこれらに当たるのが望ましいことというべきである。た だ、事柄の性質上、経営の最終責任を負う理事会が主導的になることもあろうし、教育研究の主体である教授会の意思が最大限 尊重されるべき場合もあろうと考えられる。
  本件で紛争の原因となったような定員増や学長及び教員人事等の諸問題も本来大学の内部で自主的、自律的に判断し解決し ていくべき事柄であり、本件は、このような問題について大学全体としての意思を決定して行く上での手段、方法について確立した 慣行がなく、或いは一応の慣行がある中で、申請人ら及びこれに同調する教員が慣行を確立し、或いは変革するため開始した活動 が立場を異にする理事会ら当局側との衝突を招き、両者が相互不信に陥って協働関係に亀裂を生じさせたものである。大学の自治 を確立し、大学の更なる発展を期するには、旧来の体質や慣行に安住するだけでなく、ときに新たな変革と創造を目指すことは不可 欠の要請であり、そして、かような変革や創造の過程で各々の立場や見解の相違から軋轢摩擦が生じた場合、理事会ら当局者 は、使用者としての立場から教員を従属的関係にある被用者として見るだけでなく、教員や教授会の前記のような役割を認識し、 通常の労使関係と同様に見れば被用者たる教員に行き過ぎがあると評価されるような行動があったとしても、これを軽々に経営権・ 人事権の侵害又は秩序の紊乱であると結論づけることには慎重でなければならないというべきである。

(3) 私立大学は教員の人事を教授会事項とするかどうかは裁量に任されているが,大学の規定 の解釈から,教授会の意見具申等,教授会の意思を尊重することが求められるとする判決

判例@
西日本短大本訴事件
福岡地裁
平成10年10月21日

(判決)
「いわゆる大学の自治が憲法23条の保障するところであり、したがって大学教員、特に教授会に対しては大学運営について相当の 地位が与えられるべきこと、学校教育法59条の解釈に当たっては右憲法解釈を十分に斟酌すべきことは原告の主張のとおりであ ると解される。しかしながら、具体的にどのような権限が教授会に与えられるべきかについては、右の憲法及び学校教育法の各条 項には特に規程はなく、したがってこれらの条項から、一義的な解釈が当然に導かれるものではないというべきである。言い換えれ ば、学校教育法59条所定の教授会が審議すべき「重要な事項」の具体的な内容については、同条項から当然に導かれるものでは なく、各大学において、右の憲法及び学校教育法の趣旨を尊重しつつ自主的に定めるべきものと解され、また、このように解するこ とが大学の自治の趣旨にかなうものというべきである。
 したがって、右の憲法及び学校教育法の各条項からは、当然には、大学の教授の免職について教授会の審議を経るべきである と解することはできないというべきである。」

「翻って考えるに、短期大学という教育機関にあっては教員は必須の存在であり、とりわけ教授ともなれば教員の中でも中心的な 存在である。そうすると、教授の免職という重大な事項には、短期大学における教育実施の中核ともいうべき教授会の意思が反映 されるべきである。
 したがって、結論としては、教授会規程8条1号の「その他の教員人事に関する事項」には、教授の免職も含まれるものと解され る。しかしながら、このことは教授会の理事会に対する優越を意味するものではなく、前記説示のとおり教授の免職が本来理事会 の権限に属するものであることに鑑みると、教授会を完全に無視して理事会が一方的に決議をしているような場合は別として、教授 会で審議されたことを考慮のうえ理事会の結論が出されているときには、その内容が教授会の決議と異なっていたとしても、そのこ との故に理事会の決定が直ちに違法となるものとは解されない。」

判例A
甲南大学控訴事件
大阪高裁
平成10年11月26日

(イ)被控訴人の業務に関する最終の決定権限は、すべて理事会にあって教授会にはないこと、(ロ)教員の任命は、学長の推薦に 基づき理事長が学園名で行うこと(大学運営規程三条)、(ハ)経営学部等の教授会は、教員の任命について審議決定し、学部長を 通じて、学長に対し、その意見を具申する権限を有すること、(ニ)被控訴人の設置する甲南大学(被控訴人大学)の教授の服務も 就業規則に定められ、その中で懲戒規定に該当する教員の懲戒については、被控訴人が懲戒委員会に諮って行うこととされている ことがそれぞれ明らかである。
(2)大学運営規程二二条では、教員の解任は、任命の手続に準じて行う旨定められているから、右任命手続と同様に、教授会は 教員の解任(懲戒解雇を含む)について意見を具申する権限を有するというべきである。(懲戒解雇の対象となった当該教員の非違 行為が右教員の担当する学術的専門分野において、あるいはこれに関連してなされた場合には、教授会において当該教員の非違 行為が懲戒解雇に相当するものであるか否かを審議決議し、教授会としての意見を具申すべき必要があると解されるところであり、 したがって懲戒解雇の場合も右二二条の規定に基づき、任命の場合に準じて教授会が審議してその結果を学部長を通じて学長に 意見を表明することができると解すべきである。)
(3)しかし、被控訴人の大学運営機構に関する規程五条は、『学長は、教授の任命に関し必要があるときは、これを部局長会議又 は大学会議に諮問することができる。』と規定しており、これと右の大学運営規程二二条(解任は任命の手続に準ずる)、前記就業 規則三六条(懲戒委員会に諮り懲戒する)及び教授会規程二条(教授会は人事に関する事項を審議決定する)を併せ考慮すると、 教員任免には教授会の決定を要件とする旨の規程がない本件の場合、教員の任免過程における経営学部教授会の審議決定は、 学長からの(任意的)諮問に対する部局長会議及び大学会議の答申と同様に意見具申としての意味を有するにすぎず、教員を任免 するための要件ではないというべきである。そして、教員を懲戒解雇する要件としては懲戒委員会に諮ることが規定されているにす ぎないのである。」

「被控訴人大学の人事に関する大学の自治は、寄付行為の定めるところにより業務決定機関である理事会に委ねられているので あって教授会にはその権限がなく、また学問の自由は各教員に保障されているとはいえ、そのことを根拠に、当然に、教員の解雇 については教授会の解任決定が必要かつ有効要件であって、この決定が理事長の前記任免権限を羈束すると結論づけることは到 底できない」


(4) 学問の自由から教授会の自由が当然認められるものではなく,大学の規定の解釈からも,教 授会の審議を当然前提とするとはいえないとした判例

甲南大学本訴事件
神戸地裁
平成10年3月27日

(判決)
(1)証拠(甲三一、三二、三四)によれば、次の事実が認められる
 被告の組織・運営等に関する根本規則である寄附行為には、被告の業務の決定は、理事で構成する理事会によって行うとされて おり(一三条一項)、理事長が被告の業務を代表し、理事長以外の理事は、被告を代表しないと定められている(八条)。寄附行為 の中には教授会の権限について、何ら定められていない。また、被告の経営及び業務の運営に関する重要方針を協議するため常 任理事会が設置されている(寄附行為施行細則六条一項)。
 被告の理事会は、昭和四一年一〇月一日、被告の教員及び職員の就業に関し必要な事項を定めるものとして就業規則を制定 し、そこで被告大学の教授の任免、服務規則、懲戒等について定めている。
 右就業規則では、「大学の教員及び職員の任免は、大学名で発令する」とされ(六条)、教員及び職員は、「学務運営上定められ た会議の決定に従うこと」とされ(二四条三号)、「学園は、第三八条及び第三九条に該当する教員及び職員に対して、懲戒委員会 に諮り懲戒に付する」とされ(三六条)、懲戒について教授会の決議による旨の定めはない。
(2)証拠(甲一九、三四、三五)によれば、次の事実が認められる。
 被告大学の経営学部教授会が昭和三五年四月五日議決し、大学会議が同年五月一九日制定した教授会規程では、教授会は、 人事に関する事項を審議決定すると定められており(二条)、経営学部教授会が昭和四四年九月一六日議決し、大学会議が同年 一〇月一六日制定した人事手続規程では、「経営学部選任教員の採用、昇任及び身分変更……については、この規程に定める手 続を経て教授会で審議決定し、学部長が学長に文書で報告する」と定められており(一条)、平成二年三月三〇日理事会制定の大 学運営規程では、「教員は、理事長が学園名で『任命』又は『嘱託』する。ただし、その候補者の選考は、別に定める規程に従い、 学長が行い、理事長に推薦する」(三条)、「教員及び職員の解任並びに解嘱は、それぞれ「任」、「補」及び「嘱託」の手続に準じて 行う」(二二条)と定められている。
(二)以上の認定事実を下に判断する。
(1)前記認定の被告の諸規程に照らせば、被告の業務に関する最終決定権限は理事会にあって教授会にはなく、被告大学の教 授の服務についても就業規則に定められ、その中で懲戒についても被告が懲戒委員会に諮って行うとされているのであり、教授会 の関与は、教員の採用、昇任及び身分変更について、その候補者の選考に際して審議してその結果を学部長を通じ学長に意見を 表明することであり、これは、教員の採用、昇任等は、学問上の業績といった専門的評価を必要とすることから教授会の審議を必要 としたことによるものと解される。
(2)これに対し、教員の懲戒については、学問上の業績の評価を必要とする教学上の事項といえないことから、昭和四四年制定の 人事手続規程で教授会の審議決定の対象とはされていない。そして、昭和三五年制定の教授会規程の「人事に関する事項」も、 後に制定された人事手続規程における定めと同じと解される。
(3)大学運営規程二二条の「……準じて行う」との定めは、三条で「その候補者の選考は……」とされていることから、被告が教員 を懲戒解雇しようとする場合に、右規程によって採用等の場合のような教授会の審議決定が必要であると解することは困難と言わ ざるを得ない。
(4)以上のとおりであり、教授会は、教員の採用、昇任及び身分変更について学長に意見を表明する権限があるにすぎず、教員に 対する懲戒は、被告が懲戒委員会に諮って行うとされているのであって、教授会の決議が必要であると解することはできず、それを 経ていないことが本件解雇の効力に影響を及ぼすことはない。
(三)原告は、憲法上制度として保障された大学の自治は、私立大学においても適用されるから、大学の自治の根幹となる大学教 授の地位を剥奪する解雇という問題に関しては教授会の決議が必要であり、また、教授の懲戒は学校教育法五九条一項にいう 「重要な事項」にあたるから、本件解雇においても経営学部教授会の決議が必要であったと主張する。
 しかし、同法において、何を「重要な事項」として、教授会の決議事項とするかについては何らの定めもないことからすれば、私立 大学の場合、それは学校法人が自主的に定めるものと解するほかなく、前記(二)において判断したとおり、被告大学の諸規程に 照らして大学教授の懲戒解雇には教授会の決議が必要であると解されない以上、本件解雇に際して経営学部教授会の決議が必 要であったと解することはできない。したがって、右の原告の主張についてもこれを採用することはできない。」