大垣女子短大本訴事件岐阜地裁判決(平成13年8月14日)

大垣女子短大本訴事件岐阜地裁判決(平成13年8月14日)
大垣女子短大本訴事件

岐阜地裁 平成13.8.14判決


判決

   岐阜県大垣市楽田町2丁目28番地の1
    原告堀江 一晃
    同訴訟代理人弁護士山田 秀樹
    同上笹田 参三
    同上河合 良房
    同上安藤 友人
   岐阜県大垣市西之川町1丁目109番地
    被告    学校法人大垣女子短期大学
    同代表者理事大塩 量明
    同訴訟代理人弁護士高井 伸夫
    同上山本 幸夫
    同上岡芹 健夫
    同上廣上 精一
    同上山田 美好
    同上三上 安雄


主文

1 原告と被告との間において、原告が平成12年4月1日以降も原告と被告との間の雇用契約上の地位を有す ることを確認する。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第一 請求
1 主文と同旨
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
第二 事案の概要
  本件は、被告に雇用され助教授であった原告が、被告の行った原告に対する平成12年3月31日をもって解 雇する旨の解雇は無効であるとして、以後も雇用契約がなお存在することの確認を求めた事案である。
1 争いのない事実等
  次の事実は、証拠により認定・判断した?を除き、争いがない。
(一) 被告は、昭和44年に設立された学校法人であり、大垣女子短期大学(以下「本件短大」という。)を設置し ている。
(二) 原告(昭和17年7月29日生)は、昭和44年3月に立命館大学大学院法学研究科修士課程(公法・法哲学 専攻)を修了し、同年4月に被告に大学事務局教務課事務職員として採用され、昭和52年9月に教養科所属の 講師となり、昭和53年4月に同助教授となり、平成9年4月に国際教養科に配属替えとなった。原告と被告との 雇用関係は期間の定めのないものである。
(三) 被告は、平成12年3月14日、原告に対し、被告の就業規則第20条1項4号により同月31日をもって原告 を解雇する旨の解雇予告の意思表示を行い(以下「これを本件解雇予告」あるいは「本件解雇」という。)、同月 31日解雇予告手当を退職金とともに供託した。上記就業規則20条1項4号は、いわゆる解雇条項で、「事業の 縮小廃止、経営の合理化等止むを得ないとき」は職員を解雇する旨を定めている。〔この事実は、乙2、乙16の 1、乙42及び乙43によって認められる。〕
  なお、原告は、被告は原告に対し平成11年4月7日付の内容証明郵便により平成12年3月31日をもって解 雇する旨の解雇予告をなしたと主張しているが、同内容証明郵便による通知書(甲2)は、被告代理人から原 告代理人に宛てた通知書であり、その内容は、原告らを解雇せざるをえない状況にあることの説明及び原告の 任意退職を要望するものであって、解雇予告の意思を表示した文書でないことは明らかであり、原告の上記主 張は採りえない。
(四) 原告の解雇手続については、教授会の審議、決定はなされていない。
(五) 被告は、平成11年度は日本国憲法、生活意識論(哲学を名称変更)、総合科目などの講義科目及び教 養演習(ゼミナール)を担当した。
(六) 被告短大の設置学科、入学定員、在学生数及び教員数は、平成11年4月時点では、次のとおりである。
  なお、幼児教育第3部及び歯科衛生科第3部の「第3部」とは、勤労学生を対象とし、学生は午前の授業と 午後の授業を1週間ごとに交替して受けるものであり、修業年限は3年である。
(1) 幼児教育科第1部(昭和44年設置)
  入学定員100名、在学生数272名、教員数13名(ただし、幼児教育科第3部と合わせた幼児教育科全体の教 員数)
(2) 幼児教育科第3部(昭和45年設置)
  入学定員200名、在学生数398名
  ただし、入学定員は平成12年に100名に変更された。
(3) 音楽科(昭和46年設置)
  入学定員50名、在学生数148名、教員数6名
(4) デザイン美術科(昭和46年設置の美術科を平成2年に名称変更)
  入学定員50名、在学生数177名、教員数7名
  ただし、入学定員は平成12年に80名に変更された。
(5) 歯科衛生科第1部(昭和49年設置の保健科第1部を昭和62年に名称変更)
  入学定員80名、在学生数165名、教員数9名(ただし、歯科衛生科第3部と合わせた歯科衛生科全体の教 員数)
(6) 歯科衛生科第3部(昭和52年設置の保健科第3部を昭和62年に名称変更)
  入学定員(募集停止前)100名、在学生数69名
  ただし、同学科は平成10年4月に学生募集を停止し、平成12年3月に廃科することが決定されている。
(7) 国際教養科(平成3年4月1日設置)
  入学定員(募集停止前)100名、在学生数33名、教員数11名
  ただし、被告の理事会は、教授会及び評議会の審議を経て、平成10年2月、平成11年度の国際教養科の 学生募集を停止し平成12年3月31日をもって同学科を廃科することを決定している。
(七) 国際教養科の入学者数
  国際教養科の開設以降の入学者数の推移は、次のとおりである。
    平成3年度  78名
    平成4年度  126名
    平成5年度  140名
    平成6年度  135名
    平成7年度  120名
    平成8年度  79名
    平成9年度  52名
    平成10年度  34名
(八) 被告が国際教養科に配属替えとなる前に所属していた教養科は、正式の学科ではなく被告短大内の運 営上の組織であり(従って、教養科という学科で学生募集などが行われるわけではない。)、全学の1年生及び 2年生を対象として、教養科目を担当する学科であり、予算及び人事の面において正式の他学科と同様に独立 して運営されていたが、この教養科は平成9年3月廃止された。
2 争点
  本件の争点は、本件解雇が解雇権の濫用に当たるか否かである。
(一) 被告の主張
  本件解雇は、以下のように、合理的な理由に基づく必要やむを得ないのであって、適法、有効である。
(1) 本件解雇は、国際教養科の廃科に伴うものである。国際教養科は、当時の国際ブームを背景に平成3年 4月に新設(入学定員100名)されたが、その後あらゆる学問分野において国際化が浸透したことにより国際教 養科の存在意義が次第に希薄となり、また折からの少子化の影響もあって、入学者数は次第に減少し(前記争 いのない事実?参照)、遂に平成10年度の入学者数は34名を数えるのみとなり、しかもそのうち13名は学納金 免除のスポーツ特別奨学生であり、一般の入学者は僅かに21名にすぎなかった。
(2) 被告の財政状況は悪化している。被告の主な収入項目である学納金と補助金及び主な支出項目である人 件費の平成6年度以降の推移は次のとおりである(単位は万円。万未満の端数額は適宜調整)。因みに、学納 金は入学者数に直結するものであり、また補助金も入学者数に連動して増減するものである。このような経緯 から、収入額から支出額を差し引いた消費収支差額は、平成6年度においては2億6941万円のプラスであった ものが、年々悪化し、平成11年度においては2億7023万円のマイナスとなっている。
  このような被告の財政状態の年々悪化により、被告は、平成10年4月1日から、定期昇給停止年齢の60歳 から55歳への引き下げ、ベースアップ停止の給与額を60万円以上から58万円以上へと引き下げる措置を採 り、また平成12年度からは調整手当を削除するなど各種手当の見直しを実施して、人件費の削減に向けての 対応に苦慮しているところであり、財政的にも原告の雇用を継続する余裕は被告にはない。
  (年度)  (学納金) (補助金) (合計) (人件費)
  平成6年度 16億1549 1億5882 17億7432 9億2814
  平成7年度 15億5843 1億5040 17億0888 9億4676
  平成8年度 13億9516 1億6033 15億5549 10億0444
  平成9年度 12億9110 1億2988 14億2098 9億9130
  平成10年度 11億6738   8684 12億5422 10億1699
  平成11年度 10億6186   8098 11億4284 11億
(3) 国際教養科の廃科に伴い、原告を他学科へ配属替えする余地は存在しない。原告が担当していた授業科 目の日本国憲法は、平成12年4月からのカリキュラム編成上、幼児教育科第1部及び同第3部における授業だ けとなり、開設担当コマ数(1コマは2時間)としては、前期は零であり、後期に3コマしかない。日本国憲法は、 教員養成課程において必修科目であるが、音楽科及びデザイン美術科に従来存在した教職課程は、これを選 択した学生のみを対象とするものであるが、ここ20年間教員採用(中学教諭普通免許取得者)の実績が全くな く、音楽科及びデザイン美術科の教職課程を選択する学生数も減少したため、平成12年4月からこの両学科の 教職課程は廃止することとなり、既に文部省への届出も完了している。そのため、日本国憲法は幼児教育科第 1部及び同第3部における後期の3コマの授業しかなくなったのである。なお、原告が従来担当していた生活意 識論や総合科目は、平成12年4月からのカリキュラム編成上なくなった。通常、専任教員は、前期及び後期に 各6コマ程度の授業を担当するものであるところ、後期のみの3コマの担当は、専任教員が担当すべき業務量 には到底及ばず、平成12年4月からの日本国憲法の担当教員は非常勤講師で十分であり、専任教員を置くこ とはできなくなった。
  被告は、平成11年12月13日、原告に対し、平成12年度の日本国憲法の授業を半期2ないし3コマを非常勤 講師として担当してもらいたいと要請したが、同月20日、原告に拒否された。そこで、原告は、やむなく、日本国 憲法の授業について後期3コマのみの要員として、平成12年4月から非常勤講師を別途採用し担当してもらう ことに決定したものである。
(4) 平成10年2月、被告の理事会は、教授会及び評議会の審議を経て、平成11年度の国際教養科の学生募 集を停止し、平成12年3月31日をもって、国際教養科を廃科することに決定した。また、被告は、平成10年5月 20日の理事会において、早期退職優遇措置(全教職員対象とするが、国際教養科の教員については廃科に伴 うものであることから早期退職の加算金の割増率をより高く設定)を実施すること、同措置に応募しなかった国 際教養科所属教員については、やむなく解雇することを決定し、同月25日付の理事会広報を全教職員に配布 して、その旨を周知徹底した。更に、被告の理事会は、転身相談委員会規程を制定し、同年7月1日付理事会 広報において周知した。また、同年9月17日、全教職員に対して雇用保険への加入を勧め、更に国際教養科 の教員に対しては、平成11年度の勤務について、毎週1日を再就職活動日として勤務免除する措置を採った。
  被告は、組合との間において、平成10年5月28日に団体交渉を、同年9月18日に事務折衝を、同年10月12 日に団体交渉を、同月28日に団体交渉を、平成11年1月26日に事務折衝をそれぞれ実施し、国際教養科の学 生募集の停止及び廃科、同学科所属の教員の処遇について協議を重ねた。組合は被告の説明を了解した。 その後に実施された団体交渉(平成11年2月5日)及び事務折衝(同年3月18日、当年5月27日)においては、 組合は国際教養科の学生募集停止及び廃科、同学科所属の教員の処遇について協議事項に含めなかった。
  その後、組合の執行委員長に原告が就任し、国際教養科所属の教員に関して説明を求めたので、被告 は、平成11年11月15日に組合に対して、重ねて、質疑、協議を行った。因みに、従前は組合員は19名であった が、原告が執行委員長に就任した前後に組合を脱退する者が相次ぎ、現在は原告を含めて僅か5名と激減し ている。
  被告は、前期のように平成10年5月25日付の理事会広報によって、国際教養科所属の教員12名を対象とし て、早期退職優遇措置を実施することを周知し、前述のように組合との協議を行いながら、同措置を実施した。 即ち、平成10年9月、被告は原告を含む12名の国際教養科所属の教員について、個別面談を実施し、その面 談において改めて同学科の廃科に伴う同学科所属教員全員の転身(最終的には就業規則第20条1項4号に基 づく解雇も含む。)を決定した経緯について説明し、退職願(法人都合)を提出した場合は、本来の法人都合退 職金に相当額の加算金を上乗せする旨の優遇措置を取ること及び今後の進路について個別に相談に応じる ための転身相談委員会を学内に設置したことを説明し、その了解を求めた。その結果、原告を除く11名が被告 を退職することに結局同意した。
(二) 原告の主張
(1) 被告は、本件解雇は、国際教養科の廃科に伴う解雇であると主張するが原告は、同学科における専門科 目の教員ではなく、全学生を対象にした一般教育科目の教員であり、国際教養科が廃科となっても、授業科目 はなくならないという関係にある。原告は、以前は一般教育科目を担当する教養科に属していたが、平成9年4 月教養科が国際教養科へ統合され国際教養科に配属替えとなった。しかし、同統合後も担当学生は全学科の 一年生で担当授業科目(日本国憲法、哲学(後に生活意識論と名称変更)、教養演習、総合科目)であって、統 合前後で変わっていない。原告は、「国際教養科の体質強化」のために同学科の所属とされたにすぎず、原告 は「国際教養科の廃科」の影響を受ける立場にはないのであり、人員削減の必要性は当てはまらない。「国際 教養科の廃科」を理由とする解雇でもって原告を解雇することを説明することは不可能である。
(2) 教養科が国際教養科へ統合され、原告が国際教養科に配属替えとなった際に、小瀬洋喜学長及び堀令 司教養科学科長は、「国際教養科が廃止されたときは他学科に分属させる。従って解雇はない。」と明言してお り、原告らはこれを信じて配属替えに応じたのであるから、国際教養科廃科により、被告には原告を他学科に 配転すべき義務があるといえる。そして、原告は、そもそもは幼児教育科に属していたこと、同学科には教員養 成課程があるために日本国憲法は必修科目であることから、原告を幼児教育科に配転して日本国憲法を担当 させることが可能であり、かつ、被告にはその義務がある。
(3) 被告は、平成9年4月に国際教養科のテコ入れのために教養科を国際教養科に統合し教養科所属の教員 を国際教養科に配属替えしたが、被告は、その効果を検証することもせず、同年度内の平成10年2月に、平成 11年度の国際教養科の学生募集を停止し、平成12年3月31日をもって国際教養科廃科することに決定した。こ れは、国際教養科の廃止と同学科所属教員の解雇という意思を秘匿して原告らを配転させたものと評価せざ るを得ず、配属替えをされた教員を著しく愚弄するものであり、そこには被告の悪意の存在を認めざるを得な い。
(4) 国際教養科は、開設後僅か9年で廃科となるが、その主たる原因は、多数の個別雇用契約教員(被告に おいて平成5年から導入されたもので、例えば週3日勤務すれば足りるというもので、実質的には非常勤講師 である。)が存在したために学科会議が機能せず学生指導が十分に行えなかったこと、教育研究設備も不十分 であったこと(ワープロやパソコンの機種が古いことなど)などにより学科の評価を落としたことにあり、これは被 告による国際教養科の運営の失敗であり、被告の経営の失敗を被雇用者である原告らに転嫁し解雇すること は許されるべきではない。
(5) 国際教養科の教員全員を解雇したままであると、被告では短期大学設置基準などで定められた専任教員 数を下回ることとなるが、そのため、被告は平成10年9月以降新たに教員5名を採用し、更に平成12年4月に も3名の採用をして必要教員数を充足することとしているのであり、原告を解雇する必要性は見い出せない。
(6) 被告は、平成12年4月からのカリキュラム編成上、原告の担当科目である日本国憲法は、幼児教育科第1 部及び同第3部における授業だけとなり担当コマ数は後期の3コマだけであり、また生活意識論はなくなったと 主張している。しかし、被告は、平成10年2月に国際教養科の廃科(平成11年度の学生募集停止、平成12年3 月31日で廃科)を決定し、同年9月には国際教養科の教員らに対し退職勧奨をなし、平成11年4月7日付内容 証明郵便(甲2)で原告に対し解雇の意思表明をしている。ところが、平成12年度カリキュラム改正が教授会で 決定されたのは平成11年8月(理事会の承認は平成12年1月)である。つまり、被告は、平成10年9月国際教 養科の教員らに対し退職勧奨をなしているが、同学科の廃科に伴う解雇というのであれば、この退職勧奨をな した時点において、人員削減の必要性や解雇回避の可能性の有無が判断されるべきである。被告は、先に退 職勧奨をなして、その後「外堀を埋める目的」で原告が担当していた生活意識論などの授業科目を廃止してい るのである。なお、平成12年度カリキュラム改正は、中西副学長を座長とするプロジェクトチームで検討された ものであるが、原告を含む旧教養科の教員の参加は排除されており、国際教養科の学科会議でも議論がなさ れず、また教授会の構成員ではない原告らは発言の機会を与えられなかったのであり、手続的保障は全くなか った。
(7) 被告は、本件解雇について、教授会における審議、決定を経ていない。学校教育法59条1項は「大学に は、重要な事項を審議するため、教授会を置かなければならない。」と規定し、被告の大垣女子短期大学教授 会規程第3条は、教授会の審議事項についての定めであり、教員人事に関しては、同条9号において、「教育 職員の資格、昇格、採用にかかる資格審査(研究業績並びに学会及び社会における活動)」と定めているだけ である。
  しかし、憲法23条が保障する学問の自由は、その制度的基盤として大学の自治を包含する。そして、大学 の自治の主要な柱は、教授会の自治であり、教員の身分保障である。真理探究、学問研究は、大学設置者の 一方的判断によってはその教育やその地位を奪われないという、教授会自治や身分保障があってはじめて確 立しうるものであり、教員は教授会の審査を経ることなく、その意に反して免職されることはないのである。
  このことを明文化しているのが学校教育法59条等であり、同法59条1項にいう「重要な事項」には、教員の 任免に関する事項が含まれるべきことは当然のことである。
  国公立の学校に適用される教育公務員特例法が、その6条で、大学管理機関(教員の場合は教授会)の審 査の結果によるのでなければその意に反して免職されることはないと定めているのは、大学の自治から導かれ る要請を明文化したにすぎないのであり、私立大学について明文の規定がないからといって、それは単に立法 が欠落しているにすぎず、この憲法上の要請たる教員の身分保障を否定することは論理的にも実質的にも許 されないことである。
  従って、被告の上記教授会規程第3条9号にいう「教育職員の資格・昇格・採用にかかる資格審査(研究業 績並びに学会及び社会における活動)」の解釈としては、採用時には「採用にかかる資格審査」があるのである から、「教育職員の資格」というのは欠落の場合、つまり免職の場合を指すこととなる。
  仮に、教員の解雇が上記教授会規程第3条9号所定の審議事項に含まれないとしても、上記憲法及び法律 の趣旨からして、教員の解雇は教授会の審議事項であり教授会において審議されなければならない。
第3 争点に対する判断
1 国際教養科の廃止及び整理解雇の必要性について
  本件短大の規模、開設学科、入学定員、入学者数等及び国際教養科の廃科については前記争いのない事 実?及び?に記載のとおりであり、証拠(乙5の2ないし9、証人志知毅)によれば、国際教養科の入学定員は100 名であるが平成10年度の入学者数は34名(このうち13名は学納金免除のスポーツ特別奨学生であり、一般の 入学者は21名)に落ち込み、同学科の廃科はやむを得ない状態であったこと、被告の財政状況をみると、被告 の主な収入項目である学納金と補助金及び主な支出項目である人件費の平成6年度以降の推移は、前記争 点?の?に記載のとおりであり、消費収支差額は、平成6年度においては2億6941万円のプラスであったものが、 年々悪化し、平成11年度においては2億7023万円のマイナスとなっており、被告は国際教養科の廃止とこれに 伴う整理解雇に踏み切らざるを得ない状況にあったことが認められる。
  原告は、国際教養科の廃止の主たる原因は、個別雇用契約教員の多数雇用及び教員研究設備の不十分 による同学科の魅力低下であり、被告の経営努力不足である旨主張するけれども、被告の経営努力を怠った ことが主原因とは認め難い。
2 被告の解雇回避努力義務について
(1) 前示のように国際教養科の廃止とこれに伴う整理解雇はやむを得ない措置であるから、整理解雇の対象 が同学科所属の教員となることは避けられない。
(2) ところで、原告は、平成9年4月教養科が国際教養科へ統合され原告ら教養科所属の教員が国際教養科 に配属替えとなった際に、小瀬洋喜学長及び堀令司教養科学科長は、「国際教養科が廃止されたときは他学 科に分属させる。従って解雇はない。」と明言した旨主張し、甲15(原告の陳述書)には、教養科の学科会議に おいて、国際教養科が定員割れを起こしている現状では、教養科が国際教養科へ統合されると教養科の教員 の身分の不安定が起こるという危険があるのではないかという意見が出され、その際堀令司教養科学科長 が、国際教養科が廃科となったとしても、教養科の教員は全学科共通の一般教育科目を担当しているのだか ら分属(他の学科への配属)することになるので、解雇はないと言明し、小瀬洋喜学長もこの発言に異議を挟ま なかった旨記載されているが、原告本人の供述に照らしても、上記学科長の発言及び学長の無言の態度か ら、国際教養科廃止の場合には教養科から国際教養科に配属替えとなる教員については身分を保証する旨を 被告側が約束したとまでは認めることはできず、上記学科長の発言及び学長の無言の態度を前提にして、原 告ら教養科から国際教養科に配属替えとなった教員について、特段の解雇回避義務を被告が負っていたとは 認めることはできない。
(3) 乙3(志知毅の陳述書)によれば、平成9年4月、国際教養科の強化のため、教養科が国際教養科に統合 され、原告を含む教養科所属の教員は国際教養科に配属替えされた。その後平成10年2月に、被告は教授会 及び評議会の審議を経て、平成11年度の国際教養科の学生募集を停止し、平成12年3月31日をもって国際教 養科を廃止することに決定していることが認められる。この点につき、原告は、原告ら教養科所属の教員を国 際教養科に配属替えをしたうえで国際教養科を廃止し同学科所属教員を解雇するとの意図を持ち、これを秘 匿して原告らを国際教養科に配属替えをし、その意図を実現した旨主張する。なるほど、教養科を国際教養科 に統合して約10か月後に国際教養科の廃科を決定していることは不自然な感がしないではないが、平成9年度 の入学者数が52名でほぼ入学定員の半分であったところ、平成10年度の応募者が前年より更に減少し、入学 者数が僅か34名にまで低減したという状況の変化があったことを考えると、被告が当初から原告主張のような 意図を持っていたとは認め難く、原告主張事実を認めるに足りる証拠はない。原告の主張は採用し得ない。
(4) 証拠(乙3、乙11ないし15、乙35の1・2、乙36、乙37、証人志知毅)によれば、被告の理事会は平成10年5 月20日、早期退職優遇措置(全教職員対象とするが、廃科等に伴う退職者については早期退職の加算金の割 増率をより高く設定)を実施すること、同措置に応募しなかった国際教養科所属教員については転身を図っても らうこと、換言すれば法人都合によりやむなく解雇することを決定し、同月25日付の理事会広報を全教職員に 配布してその旨を周知したこと、その後の被告の採った措置及び組合との交渉経過は、概ね前記争点?の?記 載のとおりであること、他方、国際教養科の廃止に伴うカリキュラムの改正については、同年(平成10年)5月、 被告の理事長から小瀬洋喜学長に対し一般教育科目(教養科目)の見直しの諮問がなされ、そのころ中西治 男副学長を座長とする「教養科目の検討プロジェクト」が発足し、同月22日付の理事会広報にこれが発表され たこと、そして同年7月6日上記副学長から上記諮問に対する答申がなされたこと、その要旨は、従来の教養 科目を共通科目と専門の基礎科目に位置付けること及び法定科目(免許・資格取得に必修が義務付けられて いる科目)の尊重であったこと、その後基本原案に基づきカリキュラムの編成作業がなされ、平成11年8月2日 の教授会において「平成12年度共通科目等カリキュラムの改正」が審議され承認され、平成12年1月26日の被 告の理事会で承認、決定されたこと、この平成12年カリキュラムにおいては、従来の一般教育科目の抜本的見 直しがなされて、専門基礎科目(各学科単独の科目)と共通科目(各学科共通の専門基礎科目)に改編され、 その結果原告が従前担当していた授業科目は、日本国憲法だけ残存してコマ数も後期3コマとなり、原告が従 前担当していた生活意識論等はなくなったことが認められる。
(5) 原告は、被告は平成10年9月に国際教養科の教員らに対し退職勧奨をなしているが、同学科の廃科に伴 う解雇というのであれば、この退職勧奨をなした時点において、人員削減の必要性や解雇回避の可能性の有 無が判断されるべきであり、先に退職勧奨をなして、その後「外堀を埋める目的」で原告が担当していた生活意 識論などの授業科目を廃止している旨主張している。しかし、前認定のように、被告は、平成10年5月に退職勧 奨の措置を採るとともに国際教養科廃止に伴う一般教育科目の見直し及び新たなカリキュラム編成の方針を 打ち出してこれに着手しているのであり、これは学科(国際教養科)廃止に際し全学的に従前の一般教育科目 を見直しカリキュラムを再編しようとするものであり合理的な措置と言わざるを得ず、同年7月6日には既に中 西治男副学長から前記答申がなされていることをも考え合わせると、退職勧奨がなされた時点後にカリキュラ ムの改編がなされ原告が従前担当していた科目の一部がなくなりあるいはコマ数が減少したことをもって、被告 が解雇回避の努力義務に反すると言うことはできない。
(6) 甲15(原告の陳述書)には、平成12年度カリキュラムの共通科目中の生活、倫理、文化論は原告の担当し ていた生活意識論に包摂される科目であり原告の担当可能な授業科目である旨の記載があり、原告本人も同 旨の供述をしているが、乙36、乙37及び証人志知毅の供述に照らすと、上記記載及び原告本人の供述は採り えない。
(7) 原告は、被告は、平成10年9月以降新たに教員5名を採用し、更に平成12年4月にも3名の採用をしてお り、原告を解雇する必要性は見い出せないと主張している。乙34によれば、被告は、平成10年4月から平成12 年4月までの間に、16名の教員を採用しているが、これらは文部省の定める設置基準(教員数)を充足するた めの退職者の補充あるいは欠員の補充であり、いずれも各分野の専門的かつ必要な教員であり、一般教育科 目の担当教員ではないことが認められ、原告が代替しうるものではないことが認められる。
  以上認定の事実を総合すると、従前のカリキュラムが改編され同カリキュラムにおいて原告の担当しうる授 業科目が日本国憲法だけとなってそのコマ数が後期3コマとなったのは合理的でやむを得ない措置であり、こ れを被告の解雇回避の努力義務に反するものということはできない。
3 整理解雇対象者の選定の合理性について
  前記争いのない事実及び前認定の事実によれば、国際教養科の廃止に伴い同科所属の原告を整理解雇 の対象としたことについては、不合理であったとは認められない。
4 教授会の審議の必要性の有無について
  被告は、本件解雇について、教授会における審議、決定を経ていないが、学校教育法59条1項は「大学に は、重要な事項を審議するため、教授会を置かなければならない。」と規定し、乙26によれば、被告の大垣女子 短期大学教授会規程第3条は、教授会の審議事項についての定めであり、教員人事に関しては、同条9号に おいて、「教育職員の資格、昇格、採用にかかる資格審査(研究業績並びに学会及び社会における活動)」と定 めているだけである。この教授会の規定は、教員の解雇を審議事項としていないものと解さざるをえない。そし て、被告は上記学校教育法59条1項につき、私立学校の場合には、重要事項として何を定めるかは大学の内 部規律により定められるべきものであると主張する。しかし、学問の自由を定めた憲法23条の趣旨からすると、 私立大学の場合であっても、教員の解雇は学校教育法59条1項にいう重要事項と解すべきであり、被告におい ても本件整理解雇について教授会の審議を経るべきものというべきである。
  したがって、本件整理解雇は、教授会の審議を経ていない点において、無効というべきである。
5 よって、原告の本訴請求は理由があるから、認容することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法61条 を適用して主文のとおり判決する。


        岐阜地方裁判所大垣支部
          裁判官中村謙二郎