平成16年1月14日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成15年(ワ)第357号 損害賠償等請求事件
口頭弁論終結日 平成15年11月26日
判 決
鹿児島市城西三丁目8番9号
原 告 学 校 法 人 津 曲 学 園
同 代 表 者 理 事 津 曲 貞 春
同訴訟代理人弁護士 金 井 塚 修
同 金 井 塚 康 弘
鹿児島市与次郎一丁目9番33号
被 告 株式会社 南 日 本 新 聞 社
同代表者代表取締役 大 囿 純 也
同訴訟代理人弁護士 保 澤 末 良
同 保 澤 享 平
鹿児島市錦江台三丁目19番13号
被 告 八 尾 信 光
同訴訟代理人弁護士 増 田 博
同 林 健 一 郎
同 井 之 脇 寿 一
同 森 雅 美
同 小 堀 清 直
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告株式会社南日本新聞社(以下「被告会社」という)は原告に対し,440万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日(平成15年5月4日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告らは原告に対し,連帯して,110万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日(平成15年5月4日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告らは原告に対し,日刊紙南日本新聞に,被告会社は別紙1及び2記載の謝罪広告を,被告八尾信光(以下「被告八尾」という)は同記載2の謝罪広告を,それぞれ別紙3記載の条件により,各1回掲載せよ。
第2 事案の概要
本件は,原告が,原告から懲戒解雇された被告八尾ほか2名の申立により 地位保全等仮処分決定があった事実を被告会社が新聞にニュースとして掲載し,さらに被告八尾の論稿を新聞に掲載したことに関し,被告らの行為により原告の名誉が侵害されたと主張して,損害賠償及び謝罪広告の掲載を求めた事案である。
1 争いのない事実
(1) 平成14年3月31日,被告は,経済学部教授であった被告八尾ほか2名を懲戒解雇した。
同年9月30日,鹿児島地裁は,被告八尾らが申し立てていた地位保全等仮処分命令申立事件(平成14年(ョ)第84号)につき,以下の主文による仮処分決定(以下「本件仮処分決定」という)をした。
@ 債権者らが,いずれも,債務者に対し,雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。
A 債務者は,(中略)債権者八尾に対し,各金 −−−万−−−円を平成14年10月から平成15年9月までの毎月20日限り,それぞれ仮に支払え。
B 債務者は,(中略)債権者八尾が(債務者大学7号館)514の研究室をそれぞれ利用することを妨害してはならない。
C 債権者らのその余の申立をいずれも却下する。
(2) 平成14年10月1日,被告会社は,発行部数40万部を超える自己発行の日刊新聞である南日本新聞に別紙4の報道記事(以下「本件記事」という)を掲載した。
(3) 平成15年2月17日,被告会社は,南日本新聞に,被告八尾が執筆した別紙5の論稿(以下「本件論稿」という)を掲載した。
2 主張
原告
(1) 本件記事につき
本件記事は,被告八尾ら3名の仮の地位を定めたにすぎない本件仮処分決定が被告八尾らの復職を命じた旨,誤って報道したものであり,被告会社は,同記事の掲載により読者に事実に反する誤った認識ないし印象を与え,もって原告の名誉を毀損した。
(2) 本件論稿につき
被告八尾は,本件論稿に,事実に反する「鹿児島国際大学経済学部教授」「学部長」の肩書を使用して経歴を詐称し,被告会社はこれをそのまま掲載したものであり,被告両名は,新聞読者に被告八尾が現在もなお正規に大学の教授職にあるかのような印象を与え,もって原告の名誉を毀損した。
(3) 本件記事による原告の名誉権の侵害は甚大であり,これに対する慰謝料額は400万円を下らず,弁護士費用は40万円を下ることはない。
本件論稿による名誉毀損に対する慰謝料額は100万円を下らず,弁護士費用は10万円を下ることはない。
被告会社
(1) 仮の地位を定める本件仮処分決定を復職命令と表現したからといって,事実に反する報道にはあたらない。
(2) 本件仮処分決定により,被告八尾は被告の経済学部教授,経済学部長の肩書を用いることが認められているのであるから,本件論稿は事実に反することはなく,これを掲載したことからといって,被告の名誉を毀損したことにはならない。
被告八尾
被告八尾は本件仮処分決定に従って経済学部教授,経済学部長の肩書を用いたのであり,これを違法とする根拠はない。
第3 判断
1 本件記事について
(1) 本件記事は,「鹿国大3教授解雇」の横見出しの下に白抜き大見出しの「復職の仮処分決定」,その脇に「鹿地裁「解雇の理由ない」」の副見出し付きで,本件仮処分決定の経過及び内容を記載したものであり,その中の2か所に鹿児島地裁が「復職」を認め,ないしは命じる決定をした旨の部分がある。
(2) 原告は,本件記事中の「復職」の語が本件仮処分決定における仮の地位を定める主文とは質的に異なり,事実に反する旨主張するが,懲戒解雇を無効とし,被告八尾ほか2名が原告との間の雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定めるという主文を法律家ではない一般読者向けに分かりやすく説明するとすれば,仮の処分として「復職」が命じられたということになるのであり,これを事実に反する報道とするのは独自の考え方であって,左袒しかねる。
その他,本件記事に原告の名誉をことさら毀損させるような部分があるとは認められない。
2 本件論稿について
(1) 本件論稿は,本件仮処分決定があった後に,被告八尾が鹿児島県内の商店街衰退の傾向に歯止めをかけるための方策を提案する内容の論稿を被告会社に投稿し,被告会社はこれを南日本新聞に掲載したものであるが,この中の被告八尾の肩書に「鹿児島国際大学経済学部教授」,経歴紹介欄に「83年鹿児島経済大(現鹿児島国際大)に赴任。90年教授,経済学部長,(中略),など歴任。(以下略)」という記載がある。
(2) 本件仮処分決定により原告との雇用契約上の権利を有する地位にあることを定められた被告八尾が,無効とされた懲戒解雇前の経済学部教授,学部長という地位役職を,事実上,肩書として用いることを違法とする理由はない。経歴紹介の記事部分は被告会社が自己の責任において記載したものと推認されるが,被告八尾が鹿児島国際大学の経済学部教授,経済学部長を歴任したという記載内容に事実に反する部分があるとは認められない。
以上のとおり,本件論稿において被告八尾が経歴を詐称し,被告会社が事実に反する記事を掲載したとは認められず,その他,これに原告の名誉を毀損するに足りる部分があるとは認められない。
3 よって,原告の本件請求はいずれも理由がない。 鹿児島地方裁判所民事第1部
裁 判 官 池 谷 泉
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