プライバシー保護のため,名称を一部略記している

富士大学解雇事件本訴「訴状」(2003年9月1日)

 

訴状


平成15年9月1日

盛岡地方裁判所 民事部 御中

    原告代理人
弁護士     菅 原 一 郎
同        菅 原   瞳
同     佐 々 木 良 博
同     小 笠 原 基 也
同       加 藤 文 也

当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり

地位確認等請求事件

訴訟物の価額  金2515万8600円
ちょう用印紙額  金11万8600円

請求の趣旨

1 原告が,被告に対し,被告が設置する富士大学経済学部の助教授の地位にあることを確認する。
2 被告は,原告に対し,金1136万7400円及びこれに対する平成15年8月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は,原告に対し,平成15年9月から本判決確定まで,毎月20日限り金42万円及びこれに対するそれぞれの支払日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告は,原告に対し,平成16年から本判決確定まで,毎年6月30日限り金75万6200円及びこれに対するそれぞれの支払日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被告は,原告に対し,平成15年から本判決確定まで,毎年12月31日限り金87万5600円及びこれに対するそれぞれの支払日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 被告は,原告に対し,平成16年から本判決確定まで,毎年3月31日限り金11万9400円及びこれに対するそれぞれの支払日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7 被告は,原告に対し,金700万円及びこれに対する平成13年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
8 被告は,原告に対し,研究室として別紙図面斜線部分の6号館6Bを貸与せよ。
9 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決及び第2項乃至第8項についての仮執行宣言を求める。

請求の原因

第1 前提となる事実
1 被告は教育基本法及び学校教育法に従い学校教育を行うことを目的とし,住所地に富士大学を設置している(甲1)。
2 原告は,昭和51年3月,千葉大学教育学部を卒業後,東京学芸大学大学院教育学研究科で修士課程を修了したのち,一橋大学大学院経済学科研究科に進み,昭和56年3月に博士課程を修了した(甲1)。
3 原告と被告は,平成6年4月1日,原告を富士大学経済学部助教授として勤務することを内容とする労働契約を締結した(甲2,3,4)。
4 原告が,平成13年度に富士大学において,担当していた授業は下記のとおりである(甲1)
(1)講義
 1年生 経済史A
  2年生 日本の歴史A,日本の歴史B,日本経済史(後期に担当予定であった)
(2)ゼミ
  2年生 専門基礎演習
  3年生 専門演習T
  4年生 専門演習U

第2 解雇
1 被告は,平成13年8月1日,原告に対し,教育職員を解任し,事務職員に任命し,図書館勤務を命じる旨の意思表示をした(以下「本件配置転換」という。)(甲5)。その理由としては,原告の経済史の講義の方法が適切性を欠いており,経済史担当教育職員として不適任であるということであった。
2 原告は,これを不服とし,同年11月30日,盛岡地方裁判所に対し,仮の地位を定める仮処分を申し立てた(平成13年(ヨ)第88号)(以下「第1次仮処分事件」という。)。この仮処分申立については,平成14年4月12日,
「1 債権者が,債務者の設置する富士大学の助教授の地位にあることを仮に定める。
 2 債務者は,債権者に対し,研究室として富士大学の6号館6Bを貸与せよ。」
との決定がなされた(甲6)。
3 ところが,被告は,平成14年4月17日,原告を解雇した(甲7)。被告は,原告が,教育職員として,本旨に従った債務の履行を行わなかったこと(債務不履行),及び,就業規則11条第2号(勤務成練が著しく不良で,業務に適さないとき認められたとき)及び第4号(法人の教育事業の発展に支障があると認められたとき)に該当したことを解雇の理由としている。

第3 本件解雇の違法性
1 被告主張の解雇理由の不存在
本件解雇において,被告は,原告が,教職員として債務の本旨に従わなかったこと,勤務成績が著しく不良で,業務に適さないこと,及び法人の教育事業の発展に支障があることを解雇の理由としている。
 しかしながら,原告は,助教授として,担当していた先述の授業を行って,本旨に従った債務の履行をしており,被告が主張する解雇事由に相当する事実はない。
 むしろ,原告は,講義やゼミ指導等を熱心に行い,学生からも慕われ,原告が被告の違法な配転命令により図書館勤務になったのちも,学生の要望に応えてゼミを続けてきたほど,教育熱心である。
 したがって,本件解雇が,具体的事情のもとにおいて著しく不合理であり,社会通念上相当なものとして是認することができないものであることは明白である。従って,本件解雇は無効である。
2解雇手続の違法性
(1)「富士大学教授会規則」3条6項によると,教授会は,「教員の人事に関すること」を審議するとされている(甲8)。同条項が,このように定めている趣旨は,大学内において憲法23条が保障する「学問の自由」及び「大学の自治」を守るために,教員人事に,教授会の意向を十分に反映させるところにある。
また,「富士大学運営委員会規程」6条4項によると,運営委員会は,「人事に関する事項」につき審議するとされているが(甲9),これは,解雇等人事に関する重要事項については,教育職員に対して,大きな不利益を与えかねないものであるから,教授会による審議のみならず,運営委員会の審議も併せて行うことにより,慎重に決定することを義務づける趣旨である。
(2)また,解雇が労働者に与える不利益の巨大さに鑑みると,解雇するに当たっては,対象となる労働者に,十分な告知聴聞の機会を与えることが必要である。特に,原告のような大学教職員においては,学問上の意見の対立がしばしば生じることが予測されるが,この意見の対立が,教員人事に反映されると,個々の教員の「学問の自由」が達せられないことになるから,告知聴聞の機会を与えることの重要性は,他の職種に比べて極めて高い。
(3)しかるに,本件解雇においては,この教授会の審議も,理事会の審議も,運営委員会の審議もいずれも経ないで行われたものである。また,原告に対しては,告知聴聞の機会は一切与えられていない。先述の通り,これらの手続は,「学問の自由」「大学の自治」を守るためのものであり,また,労働者の不利益を鑑みて,慎重な決定をすることを義務づけるきわめて重要な手続であり,これらの手続を踏まずに,経営者の意向のみによって解雇を行うことは,「学問の自由」「大学の自治を踏みにじるものであり,また,労働者に過分かつ不測の不利益を与えるものであるから,このような解雇が著しく不合理であり,社会通念上相当なものとして是認することができないものであることは明白である。
したがって,本件解雇は手続的にも遵法なものであり,かかる点においても無効である。

第4 原告の賃金請求権
1 月額給与
 原告は,本件解雇当時月額平均金42万5000円の賃金を得ていた(甲10の1〜3)。しかし,原告は本件解雇以降,上記賃金の支払いを受けていない。なお,賃金の支払日は,当月分について毎月20日である。
 また,平成14年8月9日,原告の母が死亡し,その後は原告は独居しているため,平成14年8月分以降の給与は家族手当5000円を差し引いた月額42万円である。
2 賞与
 原告には,毎年6月30日までに夏期賞与が,毎年12月31日までに冬季賞与が,毎年3月31日までに期末手当が支給されていた。なお,被告における平成14年度の標準支給率は,夏期賞与が本棒の1.9月分,冬期賞与が本棒の2.2月分,期末手当が本棒の0.3月分である。原告の本俸は,39万8000円であるから,原告が支給を受けるべき賞与は,夏期賞与が年額75万6200円,冬季賞与が年額87万5600円,期末手当が11万9400円である。
 なお,事務職員へ異職種配転される直前の平成13年度の賞与は,夏期賞与0.9月分,冬期賞与も0.9月分,期末手当0.1月分であったが,これは賃金面での嫌がらせで自己退職することを狙った措置であり,不当な評価であるから,これは参照することはできない。

第5 原告の慰謝料請求権
1 本件は,前理事長が教授会などでの原告の発言や態度などに嫌悪感を持ち,自分の気に入らない原告を大学から追放するために退職強要をしたものの,原告が応じないので,自己都合退職に追い込むための嫌がらせとして,助教授から事務職員へ,さらに事務職員から現業職員へと,2度にわたって異種職配置転換をし,その後もさまざまな嫌がらせを続けてきたが,原告がこれに屈せず,地位保全の仮処分の申立を行い,その結果,仮処分決定において,原告の請求が完全に認められるや(甲6),その決定の効力を免れ,かつ当初の目的を果たすために,ついに解雇に踏み切ったというのが本件解雇の真相である。
 この一連の過程で,被告は人事権を逸脱・濫用して,様々な不利益を加えるとともに,大学職員としての原告の教育権・研究権を奪い,さらに下記の通り名誉権・人格権まで損なったのであり,原告の受けた精神的・学問的な損害は甚大である。よって,被告はこのような原告の損害を慰謝するために,原告に対し,700万円の損害賠償を支払うべきである。(松蔭学園事件,東京高裁平成5年11月21日判決,判タ849号206頁参照)。

2 本件配置転換の違法性

 原告は,平成6年4月1日,被告により富士大学の専任教育職員に採用され,助教授に任じられたが,これは原告が有する知的かつ専門的な能力を重視して,雇用される職種であること,教育職員と事務職員との認容,定年,給与体系など取り扱いの差異に鑑みれば,原告と被告の間で労働契約を締結した際,原告の職種を教育職員として限定する旨の合意があった。しかるに,被告が原告に対して,平成13年8月1日になした本件配置転換は,この職種限定の合意に反するものであり,違法なものである。
 原告は,被告の違法な本件配置転換により,教育職員としての地位を剥奪され,事務職員として職務を要求されたことにより,研究・教育の機会を著しく制限された(奪われた)ばかりか,大学教員としての名誉・人格を著しく傷つけられたものである。

3 配置転換以降の原告に対する取り扱い・嫌がらせ
 被告が行った上記の違法な配置転換により,原告は,被告や被告職員から,下記のような様々な嫌がらせを受けた。
(1)再度の配置転換と隔離室勤務
 第1次仮処分審理終結(3月1日)直後の平成14年3月11日,被告は原告に対し,学内清掃・警備などを職務とする現業職員に,再度の配転処分を行った(甲13)。
 その勤務場所とされた「管理部管理課別室」(以下「別室」という。)は,旧校舎の便所直下の汚臭が漏れる旧守衛室であった。この別室は,他の事務職員が勤務する建物から離れており,また,他にも空室はあるにもかかわらず,わざわざこのような古くて,環境衛生上劣悪な部屋に一人きりで勤務させた。なお,この部屋は,被告が気に入らない事務職員を退職させるために用意した部屋で,この部屋に入れられた事務職員は残らず辞表を書くとの噂が事務職員内でささやかれていた。
 後になって示された原告の「業務」は,「1.守衛業務2.学内定時巡視3.学内美化4.その他都度命じられた管理課業務」ということであった(甲14)。この職務は,前任者がいたものでもなく,また,原告の本件解雇後,後任者が任じられたものでもない。
 また,同月16日には,原告の了解なしに,実習実験室と図書館書庫に分置された原告の旧研究室架蔵私有図書がダンボールに入れられたまま放り込まれた(甲15)。この別室は,学生・教職員が利用する食堂の出入ロに所在し,カーテン・ブラインドも設置されていなかったため(なお,1階にある他の事務職員が勤務する部屋には全てカーテンまたはブラインドが設置されている。),室内が丸見えの状態であった。また,原告を勤務させる直前に,この建物(食堂,学生の研究室がある)の出入り口のうち,別室に遠いほうの出入り口を故障と偽って施錠し,わざわざ学生・教職員・学外者に,別室に近いほうの出入り口から通行させるようにした。
 室内は寒いにもかかわらず,スチーム・エアコンなど安全な暖房設備は,なく,旧式の石油ストーブが置かれていたが,室内は,本を詰め込んだダンボール箱・書類など可燃物が密集していたので,この石油ストーブを使えない状態であった。
汚臭については,営業用の大型芳香剤が置かれていたが,これでも,糞尿の悪臭を消せるものではなかった。
(2)別室隔離中の人格権・研究権・教育権侵害
別室勤務の過程で次のような人格権・教育権・研究権侵害事件が頻繁に発生した。
@同年3月11日,原告は,事務職員を対象に行われている朝礼で,Tから「前へ出ろ」といわれ,「管理部管理課(別室)勤務を命ずる」という辞令(甲13)を読みあげられた。原告が,即座に「拒否します」といい,受け取りを拒否すると,側に寄ってきた理事長が,直立していました原告の背広の懐に無理やり辞令を入れた。
A同月12日午前中,原告が図書館で研究中に,Tが,原告の様子をうかがっていった。
B同月13日午前9時45分頃,図書館で研究中の原告に対し,理事長が,原告から約1mの至近距離でコンパクトカメラのストロボをたき,卒業式会場となる体育館の窓ガラス拭きを命じた。原告がこれを拒否すると,「やらないと解雇だ」と叫んで退出した。
C同月15日午後3時過ぎ,原告が,図書館出入口付近のトイレから出てきたところ,Tが,原告の進路に前に立ち,耳元で「移動しろ」とどなり,図書館に入ろうとすると,ドアの前に立って,入室を妨害した。
D同月18日(月曜日),原告が,図書館事務室へ行くと,図書館の備品として原告が使用していた机がなかった。原告が,朝礼中,挙手して,この点について抗議したが,解散を宣告され,聞き入れられなかった。
 その後,副理事長(現理事長)・T・Mが来て,3人で原告の周りをとり囲み,「移動しろ」と言われた。とくに,Tから,耳元に大声で「移動しろ」とどなられた。原告が黙ったままでいると,副理事長が「不退去罪で警察に通告するぞ」と耳元で叫んで恫喝した。そのため,原告が図書館事務室を出て,別室へ行こうとすると,Tが尾行して,別室の前までついて来て,「カギをあけろ」と言うため,原告が,鍵は施錠された別室内にある旨を説明すると,管理課に戻って,マスターキーをとって来させられた。
 同日午後3時10分頃,トイレへ出ていくと,図書館の出入口でTが進路に立ち,原告が「トイレ」というとトイレ入口まで付いてきた。原告がトイレから出てくると,図書館出入口のドアの前に立ち,再入室できないようにしたうえで,「移動しなさい」と高圧的に言った。
E同月19日午前8時41分頃,図書館で研究をしていると,Tが来て「職場離脱」と言ってきた。原告が,別室へ行こうとすると,追いかけてきたので,中から鍵をかけた。
 同日午前11時頃,原告が図書室にいると,Tが来て,原告の進路の前に立ったり,追いかけまわされたりしたので,管理課事務室に避難した。同日午後4時頃,原告が図書館閲覧室において学生を指導している最中に,理事長,副理事長・T・Mら4人が,その学生をとり囲み,理事長が「関係ないでしょ。帰りなさい」と自分の体を接近させながら,脅迫し,帰らせた。そこで,原告は,別室へ戻ったところ,理事長ら4人とも付いて来て,さらに理事長は,原告の側で監視していた。同日午後5時頃,理事長は,近くに止めてある公用車内から室内を覗きこんでいた。
F同月20日,午前8時15分頃に原告が出勤したところ,Tが待ちかまえて,「どこへいくのですか」と聞いたり,図書館の出入ロドアの前に立ったり,原告の後を付きまとったりした。午前10時前ころ,副理事長・M・Tが別室に来て,上限期限3月未までに,私物を大学から搬出せよとの「業務命令書」を置いていった。その後も夕刻まで,ときどき理事長とT事務局長代理が見まわりにきた。
G同日22日は卒業式であったが,原告は8月に配転された後も,4年生のゼミを受け持っていたにもかかわらず,卒業式への参列が禁止され,管理課職員が原告を別室ドアの外で監視していた。
H同日26日午前10時40分頃,原告が学生指導中に,Tが別室内に入ってきて,原告の行動を監視した。同日午後1時30分頃,郵便物を受け取りにいった際に,庶務課にてMから庶務課室を3周追いかけまわされた。
I原告が本件解雇通告をうけた同年4月17日午後,教授会に出席しようとし,大会議室に赴いたが,入口で,事務職員に4人によって実力で排除された。その後も入口付近で待機していたが,大会議室から出てきたT・Mによって,追い帰された。
その際,Tは,直立している原告に対し,体で押してきた。
(3)賃金面における嫌がらせ
 事務職員へ異職種配転される直前の平成13年度の賞与は,夏期賞与0.9月分,冬期賞与も0.9月分,期末手当0.1月分と他の教育職員に比べて異常なほど低額な賞与であるが,これは賃金面での嫌がらせで自己退職することを狙った措置である。

4 本件解雇の違法性
本件解雇が違法・無効なものであることは,先述のとおりであるが,この違法・無効な解雇により,原告は,教育職員としての地位を剥奪され,研究・教育の機会を完全に奪われたばかりか,富士大学助教授として長年培ってきた名誉を侵害された。

5 本件配置転換・本件解雇に関連して原告が受けた不利益

@本件配置転換以前に,原告は,平成6年に着任以来任命されてきた富士大学附属地域経済文化研究所員として,平成13年12月に沢内村で開催される予定だった地域フォーラムの基調講演者・コーディネータに運ばれていたが,本件配置転換・本件解雇に伴って同研究所員を解任されたことによって,原告は基調講演者・コーディネータとなれなかった。
Aまた同研究所員を解任されたことから,花巻市・北上市で開催される予定であった富士大学と花巻市・北上市共催の市民セミナーについても,講師を解任された。

6 被告による直接的な名誉侵害行為
(1)被告は,本件配置転換時に,その必要もなければ,前例もないのに,学生ホールの掲示板,学生食堂入口掲示板の2箇所に,数か月間下記文書を掲示して,学生の原告に対する評価をおとしめることを企て,原告の大学教員としての名誉を侵害した。
「学生諸君へ
本学は川島助教授を平成一三年八月一日付で事務職員に配置転換し図書館勤務を命じました。
 平成一三年八月一日
    学校法人富士大学
          理事長」
(2)被告は,本件解雇の際,その必要もなければ,前例もないのに,本件解雇当日から長期間解雇通知書(甲7)そのものを,全職員・学生はもちろん,外来者も必ず目にすることになる庶務課カウンター上のタイムレコーダー前に貼り付け,また教員控室にある机の上にも貼り付けて,それぞれ掲示し,原告の大学職員としての名著を侵害した。
7 以上に述べた原告が被告より受けてきた仕打ちにより,多大な精神的苦痛を受けたが,これを金銭をもって慰謝するとなれば,金700万円を下らない。

第6 研究室の貸与
 原告が研究者として研究・教育活動を継続していくには研究室が必要不可欠であり,被告も,研究室を貸与することを労働契約の内容にしているので(甲11),原告には研究室貸与請求権がある。
 これまで,原告は6号館7階,7Tの研究室を貸与されていたが,前記のようにこの研究室の利用を拒否された後は,すでに7Tはほかの教官に貸与されており,現在6号館6階6Bが空室であるから,原告は,被告に対して,労働契約上の研究室引渡請求権に基づき,6号館6階6Bを原告に研究室として貸与することを求める。なお,平成14年(ヨ)第66号仮処分事件の決定により,現在,原告に対し,6号館6階6Bが貸与されている。

第7 結論
 以上のとおり,本件解雇は無効であるから,原告は,被告に対し,労働契約上の地位を確認するとともに,労働契約に基づく賃金債権として,平成14年5月から平成15年8月までの給与(金886万円)・賞与(金250万7400円)合計金1136万7400円並びにこれに対する最終支払日である平成15年8月20日の翌日である同月21日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金,平成15年9月分以降の給与並びにそれぞれの支払日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金,平成15年冬期賞与以降の賞与並びにそれぞれの支払日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金,及び,不法行為に基づく損害賠償として金700万円並びにこれに対する本件配置転換の日である平成13年8月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,労働契約上の研究室貸与請求権に基づき,研究室として別紙図面斜線部分の6号館6Bを貸与することを求めるものである。