前文
前文

 国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)の総会は、1997年10月21日から11月21日までパリにおいてそ の第29回会期として会合し、

世界人権宣言(1948年)の第26粂を実現する際にすべての人々に教育を保障する上での諸国家の責任 を自覚し、

 特に、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(1966年)第13条2(c)節の実現における高等 教育を保障する上での国家の責任を想起し、

 高等教育および研究が、知識の追求と進展および伝達における手段であり、かつ非常に貴重な文化 的、学術的資産を構成するものであることを自覚し、

 政府および学生や企業、労働者のような重要な社会集団は、高等教育制度の活動と成果に死活的利 害関係をもち、かつ恩恵を受けるものであることをもまた自覚し、

 高等教育の進展における教育職員の決定的役割と、人類及び現代社会の発展にたいする彼らの貢献 の重要性とを認識し、

 高等教育の教育職員は、他のすべての市民と同様に、すべての人々の文化的、経済的、社会的、市民 的および政治的権利が社会において遵守されるよう努力することが要請されていることを確信し、

 高等教育を社会的、経済的変化に対応して新しく発展させることが必要であり、この過程に教育職員の 参加が要請されていることを自覚し、

 学問の自由を掘り崩しかねない質(タチ)の悪い政治的圧力によって学術の社会が傷つきやすいことに 関心を表明し、

 教育および教育研究への権利は、高等教育機関での学問の自由と自治の雰囲気のなかでのみ十分に 享受することができること、そして、発見や仮説および見解の自由な交流こそが、高等教育の中心に存在 し、かつ学問および研究の正確さと客観性をもっとも強固に保障するものであることを考慮し、

 高等教育の教育職員がこの役割にふさわしい地位を享受することを保障することに関心をもち、世界に おける文化の多様性を認識し、

 異った国々において、高等教育の形態や組織を決定する法や規則、慣行および伝統が多様であること を考慮し、

とくに公務関係の規則が適用されるか否かによって、それぞれの国における高等教育の教育職員に適用 される取り決めが多様であることに留意し、

 にもかかわらず、高等教育の教育職員の地位に関してあらゆる国で同じような問題がおきており、これ らの諸問題は共通する打開方法の採用を求めており、かつ、適用しうる限りでこの勧告を制定する目的で ある共通の基準の適用を必要としていることを確信し、

 教員の地位に関する勧告(1966年)、科学研究者の地位に関するユネスコ勧告(1974年)、そして、結社 の自由及び団結権、団体交渉権、機会均等及び均等待遇に関する国際労働機関の文書はもちろんのこ と、ユネスコが、教育におけるいかなる形態の差別をも禁止するだけでなく、与えられた条件下をふくむあ らゆる段階の教育における機会と取り扱いの平等を推進する責務をもつことを確認した教育における差 別に反対するユネスコ条約(1960年)等の文書を銘記し、

付表に掲げられている国際諸基準に含まれる現行の諸条約や規約、勧告を、高等教育機関およびその 教員や研究者にとくに関係する諸問題についての諸規定によって補強することを希求して、

本勧告を、1997年11月11日に採択する。



I 定義
I 定義

1.この勧告において

(a)「高等教育」(higher education)とは、国の所管官庁および/ないしは大学認可機関によって高等教育 機関として認可された大学その他の教育施設が提供する中等教育後の段階の学習、教育ないし研究の 諸課程をいう。

(b)「研究」(research)とは、高等教育に関して、当該問題の性質および状態によって技術や方法が異な り、問題の解明および/ないし解決にむけられた、慎重かつ批判的で分科した探求をふくみ、かつ、機関 内で適切な組織によって支持される、独創的な科学、技術学・工学、医学、文化学、社会科学および人文 科学ないし教育研究をいう。

(c)「学問」(scholarship)とは、高等教育の教育職員がその研究主題を情況に合敦させ、学術出版に従事 し、その業績を普及し、かつそれぞれの学問分野での教月としての教授学的技術を改善し、その学術的 信頼を向上させていく過程をいう。

(d)「開放業務」(extension work)とは、その機関の使命と矛盾しない限りにおいて、教育機関の資源が、 その守備範囲をこえて、国内あるいはその機関の学区的と考えられる地域内での広範多様な地域社会 に役立つことを拡大する活動をいう。教育活動としては、夜間学級や短期課程、セミナー、講習会などに よる校外の生涯教育および通信教育等広範な活動がふくまれる。研究活動としては、公共分野、私的分 野、非営利団体等にたいして、さまざまな相談活動および応用研究への参加、研究成果を与えることなど により、専門知識を供与することになる。

(e)「高等教育機関」(institution of higher education)とは、大学、その他高等教育の施設やセンター、建 造物、および公私立のそれらの施設等と結びついた研究・文化センターをいう。それらは公認された認可 機関ないし国の所管官庁によって認可されたものを指す。

(f)「高等教育の教育職員」(higher−education teaching personnel)とは、高等教育の教育機関ないし課 程において、教授し、かつ/または学問かつ/または研究に携わり、かつ/または学生あるいは地域社 会一般にたいする教育活動を行うすべての人員をいう。


II 適用範囲   III 指導原則
II 適用範囲

2.この勧告は、すべての高等教育の教育職員に適用する。

III 指導原則

3.加盟各国および国際連合により追求される国際平和と国際理解、国際協力ならびに持続可能な開発 という全世界的な目標は、責任を自覚した市民として地域社会に奉仕し、かつ効果的な学術および高度 の研究に取り組み得る資質と教養とを備えた高等教育機関の卒業者、そして結果として才能と高度の適 性をもつ高等教育の教育職員を必要とすることはもちろん、同時に、とりわけユネスコが規定するところの 平和をめざす教育、平和の文化における教育を必要とする。

4.高等教育機関およびとくに大学は、伝統的な知識と文化について自由に自分の意見をもち、広め、表 現し、かつ既成の教義に拘束されることなく新しい知識を追求する、そのような学者の共同体である。新し い知識の追求とその応用は、そうした高等教育機関に授任された権限の核心部分である。独創的研究が 要請されていない高等教育機関においては、教育職員は学問と教育方法の改善によってその教科に関 する知識を維持し、発展させなければならない。

5.高等教育と学問および研究の発展は、人的および物的社会基盤と資源に大きく依存するものであり、 かつ高等教育の教育職員の学問の自由、職能的責任、同僚間の協同および機関の自治に支えられた人 間的、教育学的および技術的な資質はもちろんのこと、その資格と専門知識にも大きく依存する。

6.高等教育の教育職は専門職である。すなわち、それは、高等教育の教育職員に、生涯にわたるきびし い勉学と研究を通じて獲得され維持される専門家としての知識と特別な技能を要求する公共的業務であ る。またそれは、学生および社会一般の教育と福祉にたいする個人的、機関的責任感、および学問と研 究における高度に専門的な水準への社会的責任を要求するものである。

7.高等教育の教育職員の労働条件は、効果的な教育、学問、研究および大学開放を最高に推進でき、 かつ、その専門的業務の遂行を可能にするものでなければならない。

8.高等教育の教育職員を代表する団体は、教育の進歩に大きく貢献することができ、したがって、理事 者その他のかかわりのある団体とともに、高等教育の政策決定にふくまれるべき勢力としてみなされ、か つ認識されなければならない。

9.国際的基準と同時に国内法規や慣行に従って、加盟各国の高等教育機関の制度の多様性が考慮さ れなければならない。


IV 教育目的および教育政策
IV 教育目的および教育政策

10.国の全般的計画、とくに高等教育の計画立案のあらゆる適切な段階において、加盟各国は、以下の ことを保障するあらゆる必要な措置をとらなければならない。

(a)高等教育は、人間の発達および社会の進歩をめざすものであること。

(b)高等教育は、生涯学習の諸目標の達成およびその他の形態と投階の教育の発展に寄与すること。

(c)公的資金が高等教育に支出される場合、その資金は公的投資の一形態として扱われ、効果的な公的 責任に支配されること。

(d)高等教育の財政支出は、公的投資の一形態として扱われ、その収益は、多くの場合、必然的に長期 的であって、政府および公共の優先順位にしたがうものであること。

(e)公的支出の正当化は常に公の意見によってなされること。

11.高等教育の教育職員は、物事の多様な面を反映した最新の蔵書を備え、かつその所有物が検閲そ の他の形態の知的介入を受けることのない図書館を利用できなければならない。また、教育職員は、検 閲されることなく、教育と学問および研究に必要とする国際コンピュータシステム、衛星プログラムおよび データベースを利用することができなければならない。


∨ 教育機関の権利と義務および責任
∨ 教育機関の権利と義務および責任

A 教育機関の自治

17.学問の自由の適正な享受と以下に列挙するような義務および責任の遂行は高等教育機関 の自治 を要求する。自治とは、公的責任、とりわけ国家による財政支出への責任の体系に沿った、学術的職務 と規範、管理および関連諸活動に関して高等教育機関が行う効果的意思決定、および学問の自由と人権 の尊重、これらのために必要とされる自己管理である。
しかしながら、教育機関の自治の性格は、その施設の類型に従って異なることがある。

18.自治は、学問の自由が機関という形態をとったものであり、高等教育の教育職員と教育機関に委ねら れた機能を適切に遂行することを保障するための必須条件である。

19.加盟国は、高等教育機関の自治にたいするいかなる筋からであろうとも脅威から高等教育機関を保 護すべき義務がある。

20.自治は、この勧告ないし付表に列挙される他の国際基準が規定する高等教育の教育職員の権利を 制限する口実として高等教育機関によって用いられてはならない。

21.自己管理、同僚間の協同および適切な学問的指導性は、高等教育機関にとって意義のある自治の 不可欠な構成要素である。

B 教育機関の公共責任

22.多大な財政投資がなされるという点で、加盟国および高等教育機関は、高等教育機関が享受する自 治の水準とその公共責任の体系との間の適正な均衡を保障しなければならない。高等教育機関はその 公共責任を果たすためにその管理を公開するよう努力しなければならない。高等教育機関は以下の諸点 で公共責任を果たさなければならない。

(a)その教育上の使命の性質に関する効果的な公共へのコミュニケーション

(b)その教育、学問および研究の職務における質および卓越性への社会的責務、その学術的使 命と矛 盾する押しつけに反対して教育、学問および研究の本来性を擁護し、確保する責務

(c)学問の自由および基本的人権の効果的支援

(d)活用しうる資源の制約を条件として、可能な限り多数の学問的資質を備えた個人にたいして質の高い 教育を保障すること

(e)その機関の使命および供与される資源と調和した生涯学習の機会を捷僕する責務

(f)学生が公平かつ公正に、差別なく処遇されるよう保障すること

(g)女性および少数民族の公平な処遇を保障し、性的、人種的嫌がらせを撤廃する政策と手続きを採択 すること

(h)高等教育の教育職員が授業中ないし研究作業中に暴力や脅迫、嫌がらせにより妨害されないよう保 障する

(i)諸資源の効果的な活用

(j)誠実にして公開された経理

(k)同僚間の協同の過程および/または高等教育の教育職員を代表する団体との交渉を通じて、学問の 自由と言論の自由の原則に沿って、高等教育の教育職員の教育、学問、研究および開放業務の手引と なる声明または倫理綱領を創造すること

(l)人びとの諸権利を損い、あるいは一般的に容認される学術倫理、人権および平和に逆行する目的の ための知識と科学、技術の活用を防ぐよう努力し、人びとの経済的、社会的、文化的、政治的権利の実 現を支援すること

(m)社会が当面する今日的な諸問題について高等教育機関が本気で取り組むことを保障すること。この 目的のために、その活動はもちろん、その教育課程も、地域社会および社会一般の現在および将来のニ ーズに適宜に応えるものでなければならず、かつ教育機関はその卒業生にたいして労働市場での機会を 高めるうえで重要な役割を果たさなければならないこと

(n)可能かつ適切な場合、全国的、地域的、政治的、人種的、およびその他の障壁を超える国際的な学 術協力を奨励し、一国が他国によって科学的、技術的に搾取されるのを防ぐために努力し、かつ知識の 追求と活用、文化遺産の保全において世界のあらゆる学術社会との対等の連携を准進する

(0)最新の図書館、および高等教育の教育職員や学生が教育、学問および研究のために必要とする情 報を供給する現代の教育、研究および情報源を、検閲されることなく利用できるように保障すること

(p)教育機関の使命とその適切な維持に必要な施設と設備を保障すること

(q)機密扱いの研究に従事する場合でもそれが教育棟関の教育の使命や目的と矛盾してはならず、かつ 平和と人権、持続可能な開発および環境の一般目標に反してはならないことを保障すること

23.教育機関の公共責任の体系は、科学的な方法論に基づき、かつ明瞭にして現実的、費用効果的、単 純なものでなければならない。その運用においては、公正かつ公平でなければならない。その方法および 結果はともに公開されなければならない。

24.高等教育の教育機関は、個別的にも集団的にも、教育機関の自治ないし学問の自由を損うことなく、 上記の諸目標を達成するための確実な機構をふくむ適切な公共責任体制を構築し、実施しなければなら ない。高等教育の教育職員を代表する団体は、可能な場合、この体制の立案に参加しなければならな い。国家権限による責任機構が確立されている場合、その具体化手続きは、適用可能ならば、関係する 高等教育機関ならびに高等教育の教育職員を代表する団体と協議しなければならない。


Y 高等教育の教育職員の権利と自由
Y 高等教育の教育職員の権利と自由

A 個人の権利と自由一市民的権利、学問の自由、出版の権利および情報の国際交流

25.高等教育の学術職への機会は、適正な学術的資格と能力、および経験にのみ基づかなければなら ず、また、いかなる差別もなしに社会のすべての構成員に平等に開かれていなければならない。

26.高等教育の教育職員は、他のすべての集団や個人と同様に、国際的に確認された、あらゆる市民に 適用される市民的、政治的、社会的および文化的諸権利を享受しなければならない。それ故、すべての 高等教育の教育職員は、身体の自由と安全および活動の自由の権利はもちろん、思想、良心、信教、表 現、集会および結社の自由を享受しなければならない。教育職員は、国家の諸政策および高等教育に影 響を与える政策について自由にその見解を表明することを通して社会の変革に貢献する権利をふくめて、 市民としてその市民的権利を行使することを妨げられてはならない。彼等は、かかる諸権利を行使したが 故にいかなる刑罰も受けてはならない。高等教育の教育職月は、窓意的な、もしくは品位を傷つける取り 扱いを受けてはならない。彼等の諸権利が明らかに侵害された場合、高等教育の教育職員は、国際連合 の諸機関に相当する全国的、地域的機関ないしは国際的組織に訴える権利を有しなければならず、か つ、高等教育の教育職員を代表する団体はこのような事件を全面的に支援しなければならない。

27.上記の国際基準の維持は、国際的にも国内的にも、高等教育の利益として擁護されなければならな い。そうすることによって、学問の自由の原則が完全に遵守されなければならない。高等教育の教育職員 は、学問の自由、すなわち既成の教義に拘束されることなく、教授し論議する自由、研究を実践しその成 果を普及、刊行する自由、彼等が所属する教育機関や制度についての見解を自由に表明する自由、教 育機関の検閲からの自由、そして専門の学術団体または代議制の学術団体に参加する自由等への権利 を保有する資格を有する。すべての高等教育の教育職員は、いかなる種類の差別もなしに、かつ国家お よびその他の筋からの抑圧の脅威なしに、その職務を履行する権利を有しなければならない。高等教育 の教育職員は、その活動する環境が助長的であるならば、この原則にたいして効果的にその力量を発揮 することができるのであり、この環境は民主主義の雰囲気、すなわち民主社会の発展へのすべての者に とっての挑戦を要請するものである。

28.高等教育の教育職員は、教育の基準と方法に関する職能的責任および知的な精密さをふくむ容認さ れた職務上の原則を条件として、いかなる干渉もなしに教育を行う権利を有する。高等教育の教育職員 は、自己の最高の知識および良心に反して教授することを強制されてはならず、あるいは国内的、国際的 な人権基準に相反する教育課程や方法を使用することを強制されてはならない。高等教育の教育職員は 教育課程の決定において重要な役割を果さなければならない。

29.高等教育の教育職員は、その職能的責任に従い、かつ知的厳密さと科学的探求および研究倫理に 関して国内的かつ国際的に確認された職能的原則を守ることを条件として、いかなる干渉ないしいかなる 抑圧もなしに、研究活動を遂行する権利を有する。また、教育職員は、本勧告の第12項で述べたように、 著者ないしは共著者として研究の結果を出版し、伝達する権利を有する。

30.高等教育の教育職員は、教育機関の政策と規制、ないし国の法規や慣行に従って、その所属する機 関にたいする第一義的な責任の遂行を妨げない限り、とくにその専門的技能を高めたり、ないしは地域社 会の諸問題への知識の適用を認めるなど、雇用外で専門的活動を行う権利を有する。

B 自治および団体組織性

31.高等教育の教育職員は、その能力によって、いかなる種類の差別も受けることなく、管理的業務に加 わる権利と機会、関係する学術社会の他の分野の参加の権利を尊重しながらも、自己の所属する機関を ふくむ高等教育機関の機能を批判する権利と機会をもつべきであり、かつまた、当該高等教育機関内の 学術団体の代議員の過半数を選出する権利をもたねばならない。

32.団体組織性の原則は、学問の自由、責任の分担、機関内部の意志決定機構と慣行へのあらゆる関 係者の参加という政策、および諮問機構の開発を包含する。団体組織の意志決定は、学術的優秀性と社 会一般の利益の質を改善するために、高等教育の政策、教育課程、研究、開放業務、予算の配分およ びその他関連業務等の政策の決定と運営に関する諸決定をふくむべきである。


VII 高等教育の教育職員の義務と責任
VII 高等教育の教育職員の義務と責任

33.高等教育の教育職員は、権利の行使が、学術社会の他の構成員の学問の自由を尊重し、対立する 見解の公正な討論を保障する責務をふくめて、特別な義務と責任を伴うということを認識しなければならな い。学問の自由は、その自由を、公正な真理の探求に基づいて研究を進めるという学術的義務と調和す る仕方で行使するという責任を伴う。教育と研究および学問は、倫理的、職能的基準と完全に合鼓して遂 行されなければならず、かつ適宜に、世界の歴史的、文化的遺産の保護と同時に、今日の社会が当面す る諸問題にたいしても応えなければならない。

34.とくに、高等教育の教育職員の学問の自由に固有な個人的義務は以下のものである。

(a)教育機関および国家が提供する手投の範囲内で効果的に学生を教授すること、男女の学生にたいし て公正、平等で、障害をもった学生はもちろん、あらゆる人種と宗教の学生を同等に取り扱うこと、教育職 員とその学生との間の自由な意見交換を奨励し、学生の学習へのガイダンスが得られるようにすること。 必要に応じて、高等教育の教育職員は、各教科目の教授要目に盛られる最少限の内容が網羅されるこ とを保障しなければならない。

(b)学問的な研究を遂行すること、その研究の成果を普及すること、あるいは独創的研究が要請されてい ない場合、学習と研究を通し、かつ教育学的技能の向上のための教授法の開発を通して、担当する教科 目に関する知識を維持し、発展させること、

(c)研究と学問の基礎を、証拠のしかるべき尊重、偏見のない論証および偽りのない報告を伴った誠実な 知識の探求におくこと、

(d)人類、動物、遺産ないし環境をふくむ研究の倫理を遵守すること、

(e)学究の同僚および学生の学術的業績を尊重し、認めること、そして、とくに出版物の著者には、その 出版の内容に実質的に寄与し、それにたいして責任を分担するすべての人をふくめることを保障するこ と、

(f)同輩の批評のような過程の成果とみなされうる内密の原稿、ないし研究や教育の資金申請を通して本 来的に得られた新しい情報や概念、データは、著者が許可しない限り、その使用を差し控えること、

(g)研究が国の法令に従って遂行され、かつ国際人権諸規程を侵犯しないこと、および、それに基づく研 究の結果やデータを、情報が危険にさらされたり匿名が約束されるような場合を除いて、受け入れ機関の 学者や研究者が有効に活用しうることを保障すること、

(h)教育職員を雇用する高等教育機関との利害の衝突を避け、当該機関の認可が得られるように、その 高等教育機関との適切な情報開示および十分な協議により村立を解消すること、

(i)高等教育機関、研究その他の専門的ないし科学関係団体に委ねられたすべての資金を誠実に扱うこ と、

(g)学問上の同僚および学生についての専門的評価の提示にあたって公明正大であること、

(k)その職能的専門分野に関連のない問題に関して学問的な径路の外で発言ないし執筆する場合に責 任を意識すること、職能的専門分野の性質について公衆に誤解されることを避けること、

(l)高等教育機関および専門機関の自律的管理にあたって要請される適切な義務を負うこと、

35.高等教育の教育職員は、その地位が主として彼ら自身およびその達成の質にかかっているから、そ の専門的業務においてできる限りの最高の水準を達成するよう努力しなければならない。

36.高等教育の教育職員は、しかしながら、その業務とその職能上の自由、および知識の進歩にとって必 要な機関の自治を失うことなく、高等教育機関の社会的責任に貢献しなければならない。


VIII 教育職への準備
VIII 教育職への準備

37.高等教育の教育職への入職準備に関する政策は、必要な倫理的、知的、教育的資質を有し、かつ要 求される専門的知識および技能をもつ高等教育の教育職員を十分に社会に供給するその必要によるも のである。

38.高等教育の教育職員の準備に関するあらゆる局面はいかなる形の差別をも受けない。

39.高等教育の教育職への入職準備をめざす侯禰者の中で、同等の学術的資格および経験をもつ女性 および少数民族の候補者は、平等の機会と処遇を与えられなければならない。


IX 雇用の条件  A 学術職への入職
IX 雇用の条件

A 学術職への入職

40.高等教育の教育職員の雇用者は、効果的教育および/または研究および/または学問および/ま たは開放業務に最も資するよう、かつ、公平でいかなる差別もない雇用の条件を確立しなければならな い。

41.学術社会における障害者のために事実上の平等を促進することをめざす一時的措置は、機会と待遇 の均等という目的が達成され、かつ制度が適切に機会と待遇の均等の持続を保障する時に、この措置を 中止する場合、差別的なものとみなされてはならない。

42.高等教育の教育および研究への最初の入職時における試用期間は、人職者への激励および有用な 第一歩であり、個人としてその教育と研究の力量を発達させることはもちろん、適正な職能的基準の確立 および維持のための機会として認識される。通常の試用期間は前もって知らされなければならず、その良 好な終了の条件は専門的能力に厳密に関連づけられなければならない。もしも候補者がその試用期間を 満足に終了できない場合、彼等は、その理由を知り、かつ、その業務を改善するための妥当な機会が与 えられるよう、試用期間の終了に先立ってこの情報を十分に受けとる権利を有しなければならない。ま た、彼等は異議申し立ての権利を有しなければならない。

43.高等教育の教育職員は、次の事項を享受すべきである。

(a)任命、適用可能な場合の終身在職権、昇格、解雇その他関連事項の公平な手続きをふくむ公正かつ 公明な職能能力開発制度

(b)付表に列挙する国際諸基準に沿った、教育機関の中での効果的、公平かつ公正な労働関係制度

44.迫害を受けた際に、他の高等教育機関およびその教育職員との連帯を認める規定がなければならな い。かかる連帯は精神的かつ物質的であって、可能な場合、迫害の犠牲者の保護と雇用ないし教育をふ くまなければならない。


B 雇用の保障
B 雇用の保障

45.適用可能な場合、終身在職権またはそれと同等の地位は、学問の自由を擁護し、専断的決定に対す る主要な手続き的保障である。また、それは有能な高等教育の教育職員を保持し、かつ、その個人的責 任を助長するものである。

46.この専門職における雇用の保障は、適用できる場合、終身在職権またはそれと同等の地位をふくん で、それが高等教育の教育職員の利益だけでなく、高等教育そのものの利益にとって不可欠なこととして 擁護されなければならない。この雇用保障は、厳正な評価に基づいて雇用の継続を確保する高等教育の 教育職員が、専門職能の条件および正当な手続きによる以外は解雇されないことを保障する。また、教 育職員は、あらゆる財政経理が公の点検に開示されており、その教育機関が雇用の終結を防ぐあらゆる 妥当な代替措置をとっており、かつあらゆる雇用の終結手続きにおいて偏見にたいする法的保護が存在 するという条件の下で、「真正な」財政的理由によって解職されることがある。適用可能な場合、終身在職 権またはそれと同等の地位は、高等教育機関の組織ないし内部もしくは制度に変化が生じた時において さえ、可能な限り擁護されなければならず、かつ、安当な試用期間を終えた、教育および/ないし学問に おいて、および/ないし学術団体が認める研究および/ないし高等教育機関が認める開放業務におい て、明白に規定された客観的基準に合う者に与えられなければならない。


C評価
C評価

47.高等教育機関は以下のことを保障しなければならない。

(a)高等教育の教育職員の業績の評価および査定は、教育と学問および研究の過程にとって不可欠のも のであること、かつ、その主要な機能は教育職員個々の関心および力量に応じての能力開発であること、

(b)評価は、学術の同輩が解釈する、研究、教育およびその他の学術的ないし専門的職務における学術 的能力の基準にのみ基づくこと、

(c)評価の手続きは、不変かつ変動せずに表れることがほとんどない個人の能力の測定がもつ固有のむ ずかしさを十分に考慮すること、

(d)評価が、学生、および/または同僚、および/または管理者による、高等教育の教育職員の業務に ついての何らかの直接的査定をふくむ場合、その査定は客観的であり、かつその基準と結果は関係個人 に知らされること、

(e)高等教育の教育職員に関する評価の結果は、また、その機関の教職員の配置の決定および雇用の 更新を考える際に考慮されること、

(f)高等教育の教育職員は、不当と思われる査定にたいして、公平な機関に異議の申し立てをする権利 を有すること。




D 懲戒および解雇
D 懲戒および解雇

48.学術社会のすべての構成員は、独立した第三者機関での同僚からの意見聴取および/または仲裁 機関あるいは裁判所といった公平な機関で論証されうる公正かつ十分な理由がある場合を除き、解雇を ふくむ懲戒処分を受けてはならない。

49.高等教育のすべての教育職員は、解雇をふくむすべての懲戒手続きのそれぞれの段階で、付表にか かげる国際語基準に従って、公正な保護手段を享受しなければならない。

50.懲戒手段としての解雇は、たとえば、職務の恒常的怠慢、総合的不適格、研究結果の偽造ないし変 造、重大な財政上の不法行為、学生や同僚または学術社会の他の構成員との性的ないしその他の非 行、またはそれをめぐる重大な脅威、あるいは、金銭ないし性関係その他の好意と引き替えに成績や免 状ないし学位を偽造したり、あるいは雇用の継続と引き替えに下僚や同僚から性的、財政的その他物的 好意を要求するといった教育運営上の腐敗等、職務上の行為に関連する正当かつ十分な理由がある場 合にのみ行われなければならない。

51.個人は、解雇の決定にたいして、仲裁機関のような独立した外部の機関、あるいは最終的拘束力を もつ裁判所に異議を申し立てる権利を有しなければならない。


E 雇用条件の交渉
E 雇用条件の交渉

52.高等教育の教育職員は、結社の自由の権利を享受しなければならず、かつ、上の権利は効果的に 促進されなければならない。団体交渉ないし同等の手続きは、付表に掲げる国際労働機関(ILO)の諸基 準に従って促進されなければならない。

53.給与と労働条件、および高等教育の教育職員の雇用条件に関連するすべての事柄は、他の同等な 手続きが国際諸基準に合致して設けられている場合を除き、高等教育の教育職員を代表する団体と彼 等の雇用者との間の自発的交渉過程を通じて決定されなければならない。

54.国内諸法および国際諸基準と合致した、適切な機構が、法令または協定によって設立され、それによ り、高等教育の教育職員がその団体を通して公的または私的の雇用者と交渉する権利が保障されなけ ればならない。そのような法的諸権利は、不当に遅滞することなく公正な過程を通じて行使されるものでな ければならない。

55.もしもこれらの目的のために設定された手続きが利用し尽され、または当事者間の交渉が決裂した 場合、高等教育の教育職員の団体は、他の団体にその正当な利益を擁護するために普通に開かれてい る別の手段をとる権利を有しなければならない。

56.高等教育の教育職員は、雇用の条件から生じる雇用者との紛争を解決するために、公正な苦情処理 および仲裁もしくはそれと同等の手続きを利用できなければならない。


F 給与、労働負担、社会保障給付、健康と安全
F 給与、労働負担、社会保障給付、健康と安全

57.高等教育の教育職員が、その職責を十分に果たし、高等教育の段階で不可欠の継続的研修と知識 および技能の定期的更新にたいする必要十分な時間を当てられるように、あらゆる財政的に可能な措置 によって、十分な報酬が与えられなければならない。

58.高等教育の教育職員の給与は

(a)社会にとっての高等教育の重要性、したがって高等教育の教育職員の重要性、同時にこの職能への 入職時から課されるさまざまな責任を反映したものでなければならず、

(b)少なくとも同様ないし同等の資格を要求する他の職業において支払われる給与に相当するものでなけ ればならず、

(c)教育職員とその家族にたいして妥当な生活水準を保障すると同時に、その継続教育ないしその文化 的または科学的活動を追求し、その職業資格の向上に資するための資力を供与しなければならず、

(d)ある地位はより高い資格と経験を必要としかつより大きな責任を伴うという事実を考慮に入れなけれ ばならず、

(e)定期かつ定時に支払われなければならず、

(f)生計費の上昇、生活水準の向上につながる生産性の向上、ないし貸金または給与水準の一般的上昇 傾向等の諸要因を考慮して定期的に見直されなければならない。

59.給与の格差は客観的な基準に基づかなければならない。

60.高等教育の教育職員は、国際的基準が規定するものと合致した他の同等の手続きが備わっている 場合を除き、教育職員を代表する団体との合意で設定された給与表に基づいて支払われなければならな い。有資格の教育職員は、試用期間の間ないしは臨時的に雇用されている場合、同じ水準の常勤の高等 教育の教育職員に規定されたものよりも低い給与表によって支払われてはならない。

61.公正かつ公平な実績評価制度は、職務能力の確実性およびその管理の増進の道具となる。給与の 決定にこれが導入かつ適用されている場合、高等教育の教育職員を代表する団体との事前協議が行わ れなければならない。

62.高等教育の教育職員の労働負担は、公正かつ平等でなければならず、学問、研究および/または学 術行政にたいする責務はもちろん、学生にたいする義務と責任を効果的に果すことを可能にさせるもので なければならず、かつその定められた労働負担を超えて教えることを要請される場合、給与条件で正当 に考慮されなければならず、かつまた、国際基準と合致した他の同等な手続きが規定されている場合を 除いて、高等教育の教育職員を代表する団体と協議されなければならない。

63.高等教育の教育職員は、その健康および安全に否定的な結果ないし影響をもたらすことのない労働 環境を与えられなければならず、教育職員は、病気、障害および年金資格をふくむ社会保障措置、およ びILOの条約と勧告にふくまれるあらゆる不測の事態における健康と安全の保護措置によって保護されな ければならない。この基準は、少くとも、ILOの関連する諸条約と諸勧告に規定されている事柄と同程度に 有利なものでなければならない。高等教育の教育職員のための社会保障給付は権利の間選として認めら れなければならない。

64.高等教育の教育職員が当然に受ける年金権は、国内および二国間、多国間の税法および税協定を 条件として、国内および国際間で、他の高等教育機関へ個人が転出する場合、通算が可能でなければな らない。高等教育の教育職員を代表する団体は、可能な場合、教育職員のために計画された年金計画、 とくに私的で拠出制の年金計画の運営と管理の役割を果たす代表を選ぶ権利を有しなければならない。


G 研究休暇と年次休暇
G 研究休暇と年次休暇

65.高等教育の教育職員は、定期的間隔で、可能な場合、給与の全部または一部を支給されるサバティ カルリーブのような研究休暇を与えられなければならない。

66.研究休暇の期間は、年金計画の規定に従って、年功および年金の村象期間として加算されなければ ならない。

67.高等教育機関の教育職員は、その職能的諸活動に参加できるよう、全部または一部の給与を支給さ れて臨時の休暇を与えられなければならない。

68.二国間および多国間の文化および科学の交流の枠組あるいは外国への技術援助計画で高等教育 の教育職員に与えられる休暇は、勤務とみなされ、その勤務機関での先任権と昇格資格および年金権は 保護されなければならない。加えて、その臨時経費を補償する特別調整が行われなければならない。

69.高等教育の教育職員は、十分な年次有給休暇をとる権利を享受しなければならない。


H 女性の高等教育教育職員の雇用条件
H 女性の高等教育教育職員の雇用条件

70.男女の平等に基づき、付表に掲げる国際諸基準で確認された諸権利を保障するために、女性の高 等教育の教育職員の機会と取り扱いの平等を推進するためのあらゆる必要な措置が構じられなければ ならない。

I 障害をもつ高等教育の教育職員の雇用条件

71.障害をもつ高等教育の教育職員の労働条件に関する基準が、最低でも、付表に掲げる国際基準の 関連諸規定と合致することを保障するためのあらゆる必要な措置が講じられなければならない。

J 非常勤の高等教育教育職員の雇用条件

72.有資格の非常勤高等教育教育職員による勤務の価値が認識されなければならない。非常勤で定期 的に雇用される教育職員は、

(a)常勤で雇用される教育職員に比例して同等な報酬を受け、かつ相当する基本的雇用条件を享受しな ければならず、

(b)有給休暇、疾病休暇および出産休暇に関して常勤の教育職員のそれに相当する条件を与えられなけ ればならず、また、相応の金銭上の権利は勤務の時間もしくは所得に比例して決定されなければならず、

(c)可能な場合、雇用者の年金計画の下での補てんをふくめて、十分にしてかつ適切な社会保障の保護 を受ける資格を有しなければならない。


X 活用と実施
X 活用と実施

73.加盟国および高等教育機関は、その活動が本勧告の適用範囲および諸目標の中にふくまれるよう な、あらゆる国内および国際の政府団体および非政府団体との協力およびそれら相互間の協力を奨励 することにより、高等教育の教育職員の地位に関する彼等自身の活動を拡大し、補完するためのあらゆ る可能な措置をとらなければならない。

74.加盟国および高等教育機関は、それぞれの管轄地域内で、本勧告に掲げられた諸原則を実施する ため、上記に明確にした諸規定を適用するためのあらゆる可能な措置をとらなければならない。

75.事務局長は、加盟国からの情報、および適切と考えられる方法で収集された信頼できる証拠に支え られたその他の情報に基づいて、高等教育の教育職員の学問の自由および人権の尊重をめぐる世界の 情況についての包括的報告を準備する。

76.ある国の領土にある高等教育機関がその国の直接ないし間接の管轄下になく、別々の独立した管轄 下にある場合、その関係当局は本勧告の条文を教育機関に伝達し、その教育機関が勧告の規定を実施 できるようにしなければならない。


XI 最終規定
XI 最終規定

77.高等教育の教育職員が、特定の点で、本勧告に規定されているよりも優遇された地位を享受してい る場合、本勧告の諸規定は、すでに確認された地位を引下げるように用いられてはならない。