鹿国大当局が地裁に提出した訴状

 

 

訴  状

2003年(平成15年)4月22日

鹿児島地方裁判所 民事部 御中


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  請求の趣旨
  請求の原因   別紙に記載のとおり


           原告訴訟代理人
弁護士 金 井 塚      修

弁護士 金 井 塚   康   弘

損害賠償等請求(名誉毀損)事件
訴   額  6,450,000円
貼用印紙額     40,600円
郵 券 額      7,100円

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〒890-0041 鹿児島市城西3丁目8番9号
             原 告 学 校 法 人 津 曲 学 園
上記代表者理事 津   曲   貞   春

〒604-0872 京都市中京区東洞院通夷川上る三本木5-478
       原告訴訟代理人
             弁護士 金 井 塚     修
(送達先)
〒530-0O47 大阪市北区西天満1-7-4 協和中之島ビル403号
   TEL 06-6311-8877  FAX 06-6311-8870
同 上
弁護士 金 井 塚   康   弘


〒890-8603 鹿児島市与次郎1丁目9番33号
  被 告 株式会社南日本新聞社
上記代表者代表取締役 大  園  純  也

〒891-0145 鹿児島市錦江台3丁目19番13号
被 告 八  尾  信  光


請求の趣旨

1 被告株式会社南目本新聞社は、原告に対し、金4,400,000円および訴状送達の日の翌日から右支払い済みに至るまで、年5分の割合による金員を支払え。
2 被告らは、各自連帯して、原告に対し、金1,100,000円および訴状送達の日の翌日から右支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告らは、被告南日本新聞社発行の日刊紙「南日本新聞」に、被告株式会社南日本新聞社においては別紙1および別紙2記載の謝罪広告を、被告八尾信光においては別紙2記載の謝罪広告をそれぞれ別紙3記載の条件で各1回掲載せよ。
4 訴訟費用は、被告らの負担とする。
との判決並びに仮執行宣言を求める。

請求の原因
一 当事者
1 原 告
  原告は、教育基本法および学校基本法に従い学校教育を行うことを目的とする学校法人であり、その目的達成のため、鹿児島国際大学等を設置している(以下、鹿児島国際大学を「原告大学」ということがある)。
2 被告ら
被告株式会社南日本新聞社(以下「被告南日本新聞社」という)は、日刊新聞の発行等を目的とする株式会社である。1881年(明治14年)、「鹿児島新聞社」の設立に始まり、新聞の自由と編集権の確立を基本とする古い歴史を有する。
 被告八尾信光(以下「被告八尾」という)は、原告の経営する鹿児島国際大学の経済学部教授だった者であるが、1999年(平成11年)度の教員公募採用をめぐり、科目不適合の候補者を虚偽の業績評価書等を用いて教授会で推薦させた等の理由で2002年(平成14年)3月31日付で懲戒退職処分を受けた。これを不服とする被告八尾は、原告となり、御庁民事第1部において原告を被告として、他2名の元教授らとともに、解雇無効、地位確認の請求等を求めて提訴しており(平成14年(ワ)第1028号)、現在、第3回口頭弁論期日が終了した段階である。

二 名誉毀損行為(その1)
1 仮処分決定報道に関する誤報
  被告南日本新聞社は、その発行する「南日本新聞」の2002年(平成14年)10月1日付朝刊において、原告の被告八尾ら3人の元教授の解雇問題に関し、仮の地位を認めた裁判所の仮処分決定を報じる記事(甲1)において、「復職」が命じられたかのごとき事実と異なる記事をことさらに掲載し(以下「本件誤報」あるいは「本件誤報記事」という)、原告の社会的評価をことさらに貶め、名誉を毀損した。
すなわち、同記事のリードタイトルとして、白抜きの「復職の仮処分決定」などと大きな見出しを掲げ、本文においても「鹿児島地方裁判所(平田豊裁判官)は、三十日、『懲戒解雇とする理由がない』として、復職と今後一年間の給与支払い、研究室使用を認める決定をし」、「復職と処分前の年収を基準にした給与の支払い」等を命じた旨報じた。
  しかし、仮処分裁判所が認めたのは、「雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める」とするに過ぎないものであり、他の各紙の記事が正確に報じているとおり、正確には「地位保全を認める」(鹿児島新報、毎日、朝日ほか)等と表現すべきものである(甲2ないし甲3)。
  仮処分裁判所は、「復職」など仮にも命じてはおらず、被告南日本新聞社の本件誤報記事は明らかな誤報である。原告の主張の多くが認められない結果であったことは事実としても、それ以上に強い「復職」の命令を裁判所が出し、3氏を正当化したかのような誤った情報ないしは印象を読む者に与え、同時に他面において、原告の社会的評価を過度に毀損したものである。3氏の支援者等が、「新聞で復職と書いてあったのに・・・」等と本案裁判が継続していることすらも非難する材料としている例が多々あることに鑑みても、誤った、ないしは、過度に3氏を正当化する印象を与える誤報であったことは明らかであ る。
また、法的知識があれば、このような誤報は書きようがない。さらに言えば、3氏ら債権者側でさえも「復職」など裁判所には求めてはいない。被告南日本新聞社が本件誤報をしたのは、偏に「早急に職場復帰を」希望する3氏側の意見に肩入れしているからであり、正確、公平な報道を旨とすべき新聞報道の大原則を大きく逸脱しており(『新聞倫理綱領』1946年制定参照)、社会の公器である新聞ジャーナリストの態度としては、極めて遺憾である。
2 被告南日本新聞社の立場の偏向
  さらに付言すれば、被告南日本新聞社の本件公募不正人事問題に関する記事は、当初から偏っている。
処分直後の2002年(平成14年)4月2日付夕刊においても、原告の発表した解雇理由を「『就業規則に抵触するということではないが、教員の採用は大学にとって重要』との説明を繰り返した。」(甲4)等と報じ、ことさらに理由の曖味な解雇であるかの印象を与え、原告の社会的信用を貶めようとした。
解雇理由、根拠については、例えば、外ならぬ自らの朝刊においては、「採用は大学の命運にかかわることで、重い処分にした。」と報じており、また、4月3日付読売新聞は、「大学の根幹を揺るがす問題で、厳しく対処した。」等と報じているように(甲5)、原告は、就業規則に違反していないが解雇したということを述べようとしたものではなく、就業規則違反よりも、もっと重要な大学の自治、あるいは、アカデミズムの根幹にかかわる重大な違反行為であることを理由ないし根拠として処分したということを述べようとした原告の言い分の趣旨を敢えて正しく報じようとしていないからである。
3 本件誤報記事後の経緯
本件誤報記事に関しては、原告から被告南日本新聞に対して、直ちに抗議の申し入れがなされ、本訴までに以下のようなやりとりを行った。
まず、原告代理人より2002年(平成14年)10月4日被告南日本新聞社に対して、原告への謝罪及び紙面の訂正、謝罪記事の掲載等を求めて内容証明郵便を送付した(甲6)。同書面は、同月5日に配達された(甲7)。その後、同月16日付で、被告南日本新聞社からは、代理人弁護士保澤末良氏、同保澤享平氏を通じて、
「『雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める』との決定は、貴大学から懲戒解雇されたことにより一旦雇用関係を失った大学教授3人が、上記仮処分決定により貴大学との雇用契約上の地位にあることを仮に定められたもので、これを『復職』と表現することは一般人の認識に外れないものであり、誤報とは捉えられません。地位保全の仮処分の報道において、債権者側の主張が認められたものにつき『茶髪でクビダメ 元運転手の復職命じる 地裁小倉支部』と報道した例(1997年12月26日朝日新聞朝刊)もございます。」
といった旨の回答がなされ(甲8)、その後、11月1日付で同記事のコピーも送付されてきた(甲9)。
この「一般人の認識に外れないもの」との弁明は、法的には不正確であることの自白に過ぎず、また、同朝日新聞記事は、縮刷版では「茶髪で解雇 認めません 「秩序乱していない」 地裁小倉支部」と訂正・変更されているものでもあり(甲10)、不正確であることが明らかである。かつ、他の新聞社の記事で自社の記事を正当化しようなどとは、そもそも、ジャーナリストの姿勢としてはおよそ失当であり、主体性がないとしか言いようがないものである。
もっとも、その後、懲戒解雇事件についての報道姿勢が、担当者も変わる等して慎重になり、報道内容にも正確性が期されているやに感じたので、原告はそれ以上の追及を控え、被告南日本新聞社の対応を注視していた。

二 名誉毀損行為(その2)
1 新たなる名誉毀損記事:「私の論議 かごしま新世紀」
 ところが、翌年、さらに新たな名誉毀損記事が掲載された。
 被告八尾は、解雇無効を争う本案訴訟の第2回口頭弁論期目(2月24日)直前、被告南日本新聞社が発行する2003年(平成15年)2月17日付南日本新聞の朝刊において、「私の論議 かごしま新世紀」いう欄に投稿し、「『ボラン・システム』活用を 商店街の再生」と題した投稿を発表したが(甲11)、その際、被告八尾の肩書きとして「(鹿児島国際大学経済学部教授)」と冒頭に大きく記載させ、「90年教授、経済学部長」等との経歴記載をしたのみで「解雇され現在係争中」等の何らの注記もなく、現在もなお原告大学の教授職に正規に就いているかのような印象を与える誤った肩書き記載がなされた。
  南日本新聞社の新聞発行部数は多数に及び、上記一連の誤った報道及び肩書き記載の記事によって、原告の名誉は甚だしく毀損されている。また、上記に記載したような経緯もあり、あえて間違った肩書き記載等で係争中事件の一方に加担し、支援しようとした意図から挑戦的に掲載されたものとしか判断できない。被告南日本新聞社の度重なる不公平かつ不正確な記事に対し、原告としては、同社の姿勢は極めて背信的で、認め難いものである。
2 被告八尾の「鹿児島国際大学経済学部教授」肩書き使用の確信犯性
また、被告八尾においては、さらに悪質である。被告八尾は、原告大学の学長から、仮処分決定後、昨年11月15日付の書簡にて、仮の地位を認めた同決定に対する正確な理解を求めつつ、「鹿児島国際大学経済学部教授」との肩書き使用は、「当学園は勿論認めておりません。肩書き詐称であり、裁判所もこのようなことは[仮処分決定では]認めていないことをよくご理解下さい。」旨の通告を受け、注意され、肩書き詐称を禁じられていたからである(甲12)。原告からこの注意を受けながら、本案裁判所で係争中であることも重々知りながら、今般、敢えて新聞紙上に虚偽の肩書き付きを掲載をさせて、表現の自由を盾に姑息にも自己の満足を図ろうとする被告八尾の行為は、許し難い背信行為であり、なりふり構わぬ品位のない確信犯的行為であると言わざるを得ない。
3 繰り返される被告らの不誠実な対応
原告は、被告らの悪質性に鑑み、再度内容証明郵便にて、被告両名に対し厳重に誤報を抗議し、謝罪等を求めた(甲13)。同書面は2月 28日に両名に配達されているが(甲14-1、14-2)、被告八尾からは何らの回答も得られず、被告南日本新聞社からは、「投稿者の職業・氏名については、選定側では調査選別の基準外のものとして、投稿者記載のまま掲載しているものです。」といった掲載責任に頬被りした、無責任な内容の回答を得たのみだった(甲15)。
原告は、なお念のために、被告両名に対し、4月7日付の最終通告書で警告し、提訴を示唆した(甲16)。同書面は同月9日に両名に配達されたが(甲17-1、17-2)、被告南日本新聞社から前同様の不誠実な対応があったのみだった(甲18)。

三 損害と原状回復の必要性
1 仮処分決定をめぐる本件誤報による名誉毀損について、被告南日本新聞社の発行部数はこの地域では40万3,195部(02年2月現在、日本ABC協会資料より)と多く、原告の被った名誉権侵害は甚大なものである。精神的苦痛に対する慰謝料は金400万円を下らず、必要な弁護士費用は40万円を下らない。
2 また、経歴詐称をめぐる本件誤報による名誉毀損についても、慰謝料は少なくとも金100万円を下らず、必要な弁護士費用は10万円を下らない。本件投稿記事については、被告両名は共謀による共同不法行為として連帯責任がある。
3 そもそも被告らによる原告に対する各名誉毀損、社会的評価の毀損は極めて深刻であり、苦痛に対する金銭賠償のみでは慰謝し切れず、被害回復し切れないものであって、原状回復のための適当な処分として、請求の趣旨第3記載のとおりの謝罪広告の掲載が不可欠である。

四 結 語
度重なる警告を受けながらも、意図的に誤報等を繰り返し不誠実な対応に終始する被告らの姿勢は、社会通念上、到底許されるものではない。とりわけ社会の公器としての被告南日本新聞社の責任は、重かつ大である。
 よって、以上により、原告は、被告南日本新聞社及び被告八尾の前記誤報及び肩書き詐称による各名誉毀損に対して、請求の趣旨記載のとおり、その紙面への訂正・謝罪記事の掲載および損害賠償ならびに各不法行為の日の後の日である訴状送達の翌日からの民法所定の遅延損害金の支払を求めて本訴に及んだ。

証拠方法
甲第1号証 新聞記事(H14.10.1付 南日本新聞)
甲第2号証 新聞記事(H14.10.1付 鹿児島新報、毎日新聞)
甲第3号証 新聞記事(H14.10.1付 西日本新聞、読売新聞、朝日新聞)
甲第4号証 新聞記事(H14.4.2付 南日本新聞 夕刊)
甲第5号証 新聞記事(H14.4.3付 読売新聞)
甲第6号証 通告書(H14.10.4付)
甲第7号証 郵便物配達証明書(H14.10.5付)
甲第8号証 内容証明郵便(H14.10.16付)
甲第9号証 書類送付書及び新聞記事(H9.12.26付 朝日新聞)
甲第10号証 新聞記事(H9.12.26付 朝日新聞)
甲第11号証 新聞記事(H15.2.17付 南日本新聞)
甲第12号証 書簡(H14.11.15付 鹿児島国際大学学長菱山泉作成)
甲第13号証 通告書(H15.2.26付)
甲第14号証の1 郵便物配達証明書(H15.2.26付)
甲第14号証の2 同 上
甲第15号証 内容証明郵便(H15.3.10付)
甲第16号証 最終通告書(H15.4.7付)
甲第17号証の1 郵便物配達証明書(H15.4.9付)
甲第17号証の2 同 上
甲第18号証 内容証明郵便(H15.4.15付)

添付書類

1 訴訟委任状             1通
 2 商業登記簿謄本            2通
 3 甲号証写し             2通

以 上

(別紙1)
謝罪広告

2O02年(平成14年)10月1日付本紙朝刊において、鹿児島国際大学教授だった3氏の懲戒解雇間題に関して、同年9月 30日、鹿児島地裁が地位保全の仮処分決定を出したことについて、本紙が、「復職の仮処分決定」「復職・・・を認める決定をした。」「復職と・・・を命じた。」等と表現して報道したことは、「雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める」と決定された地位保全決定の報道記事としては、法的に正確性を欠き、裁判所が仮の地位の保全を認めたのみならず、さらに3氏の「復職」までをも大学側に命じたとの誤った印象を強く読者に与える、不適切な表現でした。
上記記事によって学校法人津曲学園、同鹿児島国際大学に多大なご迷惑をおかけしたことを深くお詫びし、ここに謹んで上記記事の訂正をする次第です。

2O0 年(平成 年)   月  日

株式会社南日本新聞社
      代表取締役  〇  〇   〇  〇


(別紙2)
謝罪広告

2OO3年(平成15年)2月17日付本紙朝刊において、「私の論議 かごしま新世紀」欄において、八尾信光の投稿記事を掲載するにあたり、同人の肩書きと経歴記載において、同人は懲戒解雇処分無効をめぐり裁判所で係争中であり、大学からは「鹿児島国際大学経済学部教授」の肩書き使用は認められないと通告されていたにも関わらず、何の注記もせずに「鹿児島国際大学経済学部教授」の肩書き等を使用し、八尾があたかも投稿記事掲載当時、鹿児島国際大学経済学部教授の職に正規に就いているかのような表現としたことは、不正確であるばかりか、係争中の事件の一方当事者の主張のみを取り上げた形となる不公平な情報伝達であり、八尾が「復職」しているかのような誤った印象を強く読者に与える、不適切な表現でした。
上記記事によって学校法人津曲学園、同鹿児島国際大学に多大なご迷惑をおかけしたことを深くお詫びし、ここに謹んで上記記事中の八尾の肩書きの抹消と訂正をする次第です。

200 年(平成 年)   月  日

株式会社南日本新聞社
        代表取締役 〇  〇   〇  〇

         投稿者 八  尾   信  光


(別紙3)
掲載条件

1 字格は、「謝罪広告」とある部分は、20級活字を、その他の部分は他の記事と同級の活字とすること。
2 広告記事の大きさは、「南日本新聞」紙1面(1頁)全体の少なくとも4分の1のスペースを各々使用すること。
                              以 上