問題の発端

南日本新聞は,「県勢発展のため読者からの建設的な意見,提言」を掲載するために,「私の論/議 鹿児島新世紀」という欄を設けている。

鹿児島国際大学を不当解雇された3教授のうちの1人,八尾信光氏はこの新聞欄に「『ボラン・システム』の活用を-商店街の再生」と題する意見を投稿し,南日本新聞社は2003年2月17日朝刊に同投稿を掲載した。

以下,新聞紙上に掲載された投稿論文

 

「ボラン・システム」活用を-商店街の再生-

八尾信光(鹿児島国際大学経済学部教授)

 地域社会の機能が低下してきている。現代文明と都市化の進展に伴い,地域での人間関係が希薄になってきているからである。

 地域社会の中心である商店街の衰退も著しい。国内内外での競争激化と不況による消費の低迷で商店街の売り上げが激減しているからである。この結果,地域に密着した小規模店が急速に減少している。商業統計表によれば,本県でも従業者四人以下の商店は1991年の26,400軒から99年には20,600軒に減っている。8年間で5,800軒の減少である。

 このような状況を住民自身の力で打破するための一方策として,私は「ボラン・システム」なるものを提唱している。地域社会のためボランティアで労力を提供してくれた人たちに,地域内で利用できる商品割引券(ボラン)で謝礼をするという仕組みである。

 ボラン・システムの主宰団体は○○地域ボランティア振興会といった市民団体でもよいし,○○商店街振興組合でもよい。主宰団体はまず,ボラン所有者への割引販売に応じてくれる数十軒以上の協力店を確保する。その上で,地域社会と住民福祉の向上につながるボランティア事業を企画し,参加者にはボランで謝礼をする。

 例えば,市街の清掃や美化,祭りやイベントのために労力を提供してくれた人には,1時間につき1千ボランといった基準で謝礼を出すのである。協力店は,それぞれが自己申告した割引率の範囲でボラン所持者に割引販売する。一割引を約束した商店は代金のうち1割までの範囲でボランを受け取り,三割引を約束した喫茶店は三割までの範囲でボランを受け取る。協力店は,受け取ったボランを地域内での購入や支払いのために活用してもよいし,店を手伝ってくれた人への謝礼に充ててもよい。

 このようにすれば,住民のボランティア活動への参加が促進され,商店街自体も地域住民を商店街に引き戻すことができる。ボランの使用範囲が広まれば,住民同士の相互支援の媒介物としても役立つ。子育てや通院支援,家事支援やパソコン指導などでお世話になった人への謝礼としても活用できるのである。ボラン・システムは地域社会における住民同士のふれあいと相互支援を促し,地域社会の再生を促進するであろう。

 ボラン・システムは,生協や農協を基盤につくることもできる。異なる地域や団体の間でもそれぞれのボランを適当な比率で両替すれば,協力関係を築くことができる。

 このようなシステムの検討に当たっては,地域通貨の研究者や実践者の方々,西駅一番街をはじめ県内の商店街関係者,鹿児島県・市,商工会議所,税務署などの関係者から貴重な教示を得た。多くの方々がこのシステムを応用し活用してくださるように期待している。

 

やお のぶみつ氏
1947年生まれ。83年鹿児島経済大学(現鹿児島国際大)に赴任。90年教授,経済学部長,経済学教育学会幹事,九州経済学会理事などを歴任。経済学博士。鹿児島市在住。