本訴裁判 原告側(三教授側)仮処分申請書
 

「仮処分申請書」(2003年10月15日)

 

 

 

 

 

仮 処 分 申 請 書

平成15年10月15日
鹿児島地方裁判所 御中

申請人ら代理人
弁護士  林     健 一 郎
同   井 之 脇  寿  一
同   森     雅  美
同   増  田     博
同   小  堀  清  直

当事者の表示―――別紙の通り

申 請 の 趣 旨
1 債務者は、債権者田尻に対し、各金■■万■■円を、債権者馬頭に対し、各金■■万■■円を、債権者八尾に対し、各金■■万■■円をいずれも平成15年10月から本案判決確定まで毎月20日限り、それぞれ仮に支払え。
2 申し立て費用は債務者の負担とする。

申 請 の 理 由

第一 被保全権利
一 債権者らは、いずれも平成14年3月29日付「処分通知書」と題する書面により懲戒解雇処分に付された(疎甲第1〜3号証)。
二 債権者らは平成14年4月5日、債務者の懲戒解雇処分には著しい違法性があるとして、貴裁判所に対し地位保全等の申請をなした(疎甲第4号証)。 債権者らが解雇理由に対して主張した解雇の違法性の詳細は、疎甲第5〜6号証に述べているが、基本的には次の通り懲戒解雇されるような事実は全くないというものである。

1 債権者田尻に対する懲戒解雇理由の不存在

同人に対する懲戒解雇理由は、いずれも処分理由となるものではない。すなわち、先ず懲戒解雇の理由に挙げられているのは次の通りである。
  債務者によれば、 田尻は平成11年度の経済学部経営学科採用人事「人事管理論および労使関係論」に関する教員選考委員会の委員長であったが、その委員会においては、
@ 「公募書類に記載された科目のうち「人事管理論」を削除し、「労使関係論」だけでも採用を可とする方向で審議がなされ、教授会に採用候補者を「労使関係論」の教授として推薦したが、採用候補者の業績は「人事管理論」はもとより「労使関係論」についても科目不適合であり、経営学科の教授としては不適格である」とする。
しかし、このような事実は全くない。採用候補者の業績は十分であり、公募の通り科目は担当できると判断したことに何ら誤りはない。
 なお、本件で公募されたのは、経済学部における「人事管理論および労使関係論」の担当者であった(疎甲第7号証)。
A  「第4回委員会で採用候補者と面接の上、投票をしたにも拘わらず、その結果を速やかに教授会に報告することなく、第8回まで委員会を延長した」ということが挙げられている。
   しかし、これも全く処分理由になるようなものではない。田尻が委員会を延長したことなどない。委員全員の意見により、慎重な審議をしたに過ぎないのである。
B  「投票において、 科目不適合を理由に「否」と投じた主査に対して、副査を交代すること、あるいは副査の書いた業績評価書に連名することを迫ったなど、不当な議事運営が行われた」 というものである。
確かに、業績評価書を作成しない主査に対し、田尻や他の選考委員も副査を交代して欲しいとか、せめて副査の書いた業績評価書に連名して欲しい旨依頼したが、これらを迫ったことなどない。主査はこれを断っている。また、田尻が不当な委員会議事運営を主導したという事実も一切ない。
C 以上の通り、債権者田尻には懲戒解雇されるような事実は全くなく、同処分は明らかに違法である。

2 債権者馬頭に対する懲戒解雇理由について

同人に対する懲戒解雇理由も、何ら処分されるようなものではない。同人に対する理由は次の通りである。
@ 同人は平成11年度の経済学部経営学科採用人事「人事管理論および労使関係論」に関する教員選考委員会の副査であったが、「債権者馬頭は、採用を可とする4名の意に添うべく主査報告に代わる業績評価報告書を作成した」という。
 馬頭は委員会の議決に従って業績評価報告書を作成しただけのことであり、これが処分理由になるなどおよそ考えられない。
A 「馬頭が作成した業績評価報告の結論は「採用候補者が本学の『労使関係論』の担当教授に適任である」とするものであったが、実際には採用候補者の業績は「人事管理論」はもとより「労使関係論」についても科目不適合であり、採用候補者はそれらを担当する経営学科の教授としては不適格と言わざるを得ない。その結果、同人は業績評価報告書(重要な公的文書)の虚偽記載により教授会をあざむく評価書を作成したと認められる。」というものである。
   しかしながら、選考委員会は公募二科目の担当能力を真剣に検討し、一人に絞られた採用候補者は「人事管理論」、「労使関係論」いずれも担当できると判断し、教授会に推薦したものである。選考委員会の学問的判断は、教授会でも認められたものであり、これを債務者が一方的に科目不適合であるなどと決めつけて重大な処分にするなど、およそ大学では考えられないことである。
 また、馬頭が委員会の結論に従って作成した「業績評価報告書」は候補者の論文の概要を適切に紹介したものであり、これに虚偽記載はどこにもない。
B 以上の通り、債権者馬頭が懲戒されるような事実など全くなく、同処分は明らかに違法である。

3 申請人八尾に対する懲戒解雇理由について

   同人に対する懲戒理由も、処分されるようなものではない。
@ 即ち、債務者によれば、同人は平成11年度の経済学部経営学科採用人事「人事管理論および労使関係論」に関する審査教授会が行われた際の学部長であったが、委員会運営の不当性を指摘する多数の教員の意見を無視して多くの疑義ある内容を含む委員会の報告を是とする形での議事運営を行い、教授会審議を誤った結論に導いたというものである。
   しかし、このような事実はない。同人は議長として適正な議事運営を行い、投票の結呆、委員会提案が承認されただけであり、これが処分理由となるなど考えられない。
A 次に、「同人は経済学部長として参加していた大学院開設準備委員会および新学部開設準備委員会において教学の一責任者でありながら、一貫して経営問題に介入し、開設準備委員会の議長であった学長の指示に従わず、議事進行を妨げた」というものである。
 しかし、八尾が上記委員会の委員として大学の将来を心配し、意見を述べることは、むしろ当然のことである。また、同人が議長の指示に従わなかったり、議事進行を妨げたことなど一切無い。
B  第三に、「同人は学長を補佐すべき学部長としての責務を果たさないばかりか学園の方針として理事会で決定された新学部(国際文化学部)の設置を否決した経済学部教授会の越権的審議を主導した」と言うが、このような事実も全くない。
C 第四に、それら大学院、新学部増設の計画について、その誤謬が事実によって明らかになった赤字予測の恣意的なデータにもとづく文書を作成し、繰り返し学内外の多数者に送付したというものである。
しかるに、八尾は客観的なデータに基づいて経営見通しを概算し、これを関係者に提示して意見を述べただけのことである。八尾が文書を新増設計画と無関係な者に送付したこともない。八尾の学園財政に関する予測が決して誤ってはなかったことは、その後の結果で明らかになっている。
D 第五に、同人はこのような的外れの予想に基づき、学長に私信を送り、辞職を督促したと言うが、前述の通り、八尾の懸念は間違ってはいなかった。学長には間近で仕事をしてきた者の立場から私信を出したもので、これも懲戒解雇処分にされるようなものではない。

4 本件処分の著しい違法性

 上記の通り、債権者らについて懲戒解雇の理由は全くない。債権者田尻、馬頭に対する処分は、いずれも同人らが債務者大学経済学部の教員選考委員会の委員として忠実に職務を遂行した結果を、債務者が一方的に不当と決めつけて懲戒解雇したというものであり、このような処分が大学で為されるなど驚くべきものである。
選考委員会は採用候補者の適否を判断し、応募者10名の中から業績と経歴が抜群で最良・最適と思われた候補者を採用候補者としたに過ぎない。前述の通り、同委員会の提案が不適切であれば、最終判断をする教授会が是正すればそれで済むことである。選考委員会の判断が決して誤っていなかったことは、教授会でも賛成多数で認められたことや仮処分申請において提出した各教授の意見書(本申請書では、疎甲第11号証の1、同12号証の1、同13号証、同14号証)により明らかであるが、本申請により更にこの点の疎明を追加するものである(疎甲第11号証の2、同12号証の2、同15号証)。債権者八尾については、議長として教授会で議論し、採決しただけであり、また学内改革に意見を述べただけである。学長に対する個人的な私信が懲戒解雇理由になるなど到底考えられない。
5 上記の通り、本件処分には全く理由がなく、著しい懲戒解雇の濫用であることは明らかである。

三 貴裁判所は、平成14年9月30日に懲戒解雇は理由がないとして、債権者らの地位保全、賃金の仮払い、研究室の利用妨害禁止などを認める決定をした(疎甲第16号証)。

四 通常解雇と違法性

1 債権者らには懲戒解雇に該当するような事実は全くなく、通常解雇にも該当しないことは明白である。ところが、債務者は裁判所の決定に従わないばかりか、懲戒解雇が認められないことを条件とし、予備的に通常解雇の主張を為し、原告らに対し、平成14年10月25日付書面で解雇を通知してきた。そもそも懲戒解雇に対する裁判所の判断が為された後、予備的に通常解雇を為すことなど極めて信義に反するものである。解雇通知によれば、仮処分決定に対する裁判所の判断を非難し、自らの見解が述べられているが、その内容はおよそ理性ある大学の主張とは思えない感情論に終始しており、新たに付加された債権者らに対する処分理由も驚くべき内容となっている(疎甲第17〜19号証)。
 すなわち、債務者が新たな処分理由としてあげているのは、債務者らが記者会見を行ったり、イン夕ーネットでメッセ一ジを出したことが背信的行為に該当し、これによって懲戒解雇処分を貶め、債務者の名誉を毀損したというものである。また、債務者は、債権者らが本件処分の違法性を主張して裁判所に本訴で救済を求めたことに対し、反省がみられないとか、大学教授として不適格であるとか、殊更学長、理事等の個人攻撃をしつつ学外の多衆に頼み学園秩序の破壊を策そうとしていると言うのである。

2 債権者らが、記者らの要請に応じて会見をしたり、インタ一ネット通信で事実を述べ、自己の行為が決して誤っていなかったと訴えることが解雇事由になるのであれば、もはや言論の自由はない(因みに、債務者は、自ら記者会見を設定したり、全教職員に「告知」なるものを送付したり、その一方的な主張を公表しており、更に大学広報紙、意見広告、インターネットで大々的に宣伝したりしている)。 本件処分は、大学教員の学問上の判断を理由にして為されたもので、学問の自由を侵害しているものである。もし、本件処分が許されるのであれば、大学の自治は死減することから、他大学の教員も本件に重大な関心を示し、債権者らに協力してくれる学者も極めて多い。債務者はこのことをもって、債権者らが学外の多衆に頼み、学園の秩序の破壊を策そうとしているなどと述べ、これを解雇理由としているのである。また、債権者らが学長や理事の個人攻撃をしたなどとされているが、このようなことなど只の一度もない。

3 ここに至って、債務者の債権者らに対する懲戒解雇処分が債務者の感情のままになされたものであることは明らかであり、もはや異常さを超え、恐怖さえ覚えるものである。債務者の本件解雇処分が著しい権利の  濫用であることにもはや疑問の余地はない。

五 ところで、原決定は賃全仮払いについて、平成14年10月以降平成15年9月までを認めているところ、債権者らは、御庁に対し、平成14年11月19日に本訴を提起した。債権者田尻、馬頭に関する本件の基本的な争点は、同人らが選考委員として適正な手続により採用候補者を教授会に推薦したのか否かであり、債権者八尾については、教授会で専断的な議事をなしたか否か、及びその他債務者の挙げる理由が懲戒解雇に該当するか否かであるところ、債務者は前者について学問論争に持ち込んでいるため、審理が複雑化し、判決に至るまでにかなりの期間がかかるのではないかと考えられる。

第二 必要性
 債権者らの生活状態は本件仮処分申請時と同様であり、賃金についての仮処分の必要性は依然としてかわりはない(疎甲第8号証の2、同9号証の2、同10号証の2)。
すなわち、本件のようなあまりにも理不尽な処分によって債権者らは生計の手段を失い、収入の途が途絶え、研究費すら与えられず家族を抱えて忽ち今後の生活も路頭に迷うことになる(疎甲第20号証〜第22号証)。
第三 よって、債権者らは本申請に及ぶ。


疎 明 方 法
1 疎甲第1〜3号証(処分通知書)
1 同第4号証(仮処分申請書)
1 同第5〜6号証(準備書面)
1 同第7号証(公募依頼文)
1 同第8〜10号証(陳述書)
1 同第11〜15号証(意見書)
1 同第16号証(仮処分決定書)
1 同第17〜19号証(処分通知書(予備的解雇通知書))
1 同第20〜22号証(陳述書及び源泉徴収票)
1 同第23号証(学則)
1 同第24号証(就業規則)

添 付 書 類
1 疎甲各号証(写)
1 資格証明書
1 委任状

当 事 者 目 録

鹿児島市錦江台3丁目4番13号
               債 権 者    田  尻     利
鹿児島市下福元町5860番地1
            債 権 者    馬  頭  忠  治
鹿児島市錦江台3丁目19番13号
             債 権 者    八  尾  信  光
福岡市中央区大名2丁目10番43号 宮原ビル3階
(郵便番号)810―0041
(電話番号)092―714―2030
(FAX番号)092―224―0892
             債権者ら代理人  林     健 一 郎
 鹿児島市山下町9番31号 第一ボクエイビル
(郵便番号)892―0816
(電話番号)099―224―3303
(FAX番号)099―224―3303
                  同     井 之 脇   寿  一
鹿児島市金生町4番4号 藤武ビル5階
(郵便番号)892―0828
(電話番号)099―225―1800
(FAX番号)099―225―0300
 同     森      雅  美

鹿児島市照国町17番14号 エクセレント照国301号
(郵便番号)892―9841
(電話番号)099―225―1441
(FAX番号)099―224―0892
申請人ら代理人
弁 護 士  増  田      博
同  所
                  同    小  堀   清  直
鹿児島市城西3丁目8番9号
債 務 者  学 校 法 人 津 曲 学 園
上記代表者理事長  菱  山   泉