仮処分再申立裁判 学園側書面
 
主張書面(3) (2004年5月17日)

 

 

 

 

 

平成15年(ヨ)第161号 仮処分命令申立事件
債権者 田 尻  利 ほか2名
債務者 学 校 法 人 津 曲 学 園

主張書面(3)

2004年(平成16年)3月26日
鹿児島地方裁判所
 民事保全部  御 中

債務者代理人
弁護士 金 井 塚    修
弁護士 金 井 塚  康  弘

一 通常解雇について
1 予備的通常解雇の合理性ないし相当性
 予備的通常解雇の理由については、主張書面(1)の76頁以下でまた、「予備的」解雇の有効性、相当性については、同76頁から77頁にかけて既に論じた。
 本主張書面において、さらに次の点を補充し強調しておきたい。

2 債権者らの主張の独善性
  債権者らは、本件の通常解雇理由を「驚くべき内容」とし、記者会見を 行ったり、インターネット通信で事実を述べ、自己の行為が決して誤っていなかったと訴えることは言論の自由であるとか、大学教員の学問上の判断を理由に解雇することは学問の自由の侵害、大学の自治の死滅である等と大仰に非難し、「感情のままになされた」解雇だとか、「もはや異常さを超え、恐怖さえ覚えるものである」等と情緒的な主張を繰り返している(申立書7頁)。
  しかし、自由には責任が伴うのは自明のことであり、研究業績報告書に 虚偽の記載をすること等を学問の自由の名を借りて正当化することができないことはもとより、虚偽の事実を宣伝して自己正当化を図る自由や多衆の威を背景に虚偽を押し通そうとすることが許されるものでもない。債権者らの主張こそ独善的である。

3 対外的信用、名誉毀損行為の非違行為としての重大性
  虚実を織り混ぜてのことさらな記者会見や意見広告(形式的掲載主体は支援者であるが実質的情報提供等は債権者らである)、インターネットを通じての煽動的な意見表明等は、学内的な意見表明等にとどまるものとは明らかに異なり、不特定多数の者に対して、債務者学校法人あるいはその理事長や大学学長らの対外的名誉や信用を著しく毀損しようとするものにほかならない。また、そのような学外の多数者の指示支援を背景に自己の主張を押し通そうと意図してなされた行為であることも明らかである。
  このような雇用者、雇用主体に対する信用、名誉毀損行為、雇用関係上 の信頼関係破壊行為を甘受してまで、雇用者、雇用主体が雇用を継続しなければならないとする合理的理由は、何ら存在しないと言わねばならない。

4 最高裁(1小)H6.9.8判決
  ところで、最高裁は、テストの実施方法等をめぐり法人理事兼学校長となった者と対立してその指示等にしたがわず解雇された高校教師が、地位保全の仮処分を申請し認容される過程で、上記校長の教育を「生徒への人権無視と非人格主義」等と糾弾する内容の人権救済申立文書を弁護士会に送り、週刊誌記者の取材に応じて同旨の自らの言い分を掲載させた事案(学校法人敬愛学園・国学館高校事件)において、この対外的中傷、信用毀損行為を理由にした解雇を、次のように判示して有効としている。

 「 被上告人は、文書1ないし3により、上告人の学校教育及び学 校運営の根幹にかかわる事項につき、虚偽の事実を織り混ぜ、又は事実を誇張歪曲して、上告人および校長を非難攻撃し、全体としてこれを中傷ひぼうしたものといわざるを得ない。さらに、被上告人の「週刊アキタ」誌の記者に対する文春1及び2の情報提供行為は、前示のような問題のある情報が同誌の記事として社会一般に広く流布されることを予見ないし意図してされたものとみるべきである。以上のような被上告人の行為は、校長の名誉と信用を著しく傷つけ、ひいては上告人の信用を失墜させかねないものというべきであって、上告人との間の労働契約上の信頼関係を著しく損なうものであることは明らかである。・・・そして、被上告人の勤務状況には、前記・・・のような問題があったことも考慮すれば、本件解雇が権利の濫用に当たるものということはできない。」(労働判例657号12頁)

 この事案は、1審、2審では、解雇は過酷に過ぎる等として解雇無効とされていたものを、最高裁が上記のように判示して労働契約上の信頼関係破壊を理由にした解雇を相当と認め、これを覆した事例としても注目されている(上記労判コメント、菅野『労働法 第6版』2003、459頁など)。

5 小 括
   既に縷々論じてきたように、本件懲戒解職処分は有効であると債務者は確信しているが、仮にしからずとしても、上述したように、予備的な通常解雇は全く合理的で有効であることが明らかであるから、債権者らには被保全権利がなく、本申立は直ちに却下されるべきである。

二 保全の必要性について
  債権者らは、インターネット等の手段を駆使し、支援者、支援団体を通じて、会計報告で明らかにしているだけでも6,858,000円ものカンパ収入を得ている(2003年9月21日現在の会費、カンパ総額)。債権者1人あたりにすると2,286,000円であり優に一般労働者の年収程度の額に相当する(本書末尾に「鹿児島国際大学三教授を支援する全国連絡会」のWEB上のホームページのダウンロード抜粋を添付する)。
  既に多額の仮払いを1年間受けてきたことからもこれ以上の仮払いの必要性は認められず、多額のカンパ収入があることに鑑みても、債務者らに保全の必要性があるとの疎明はなく、本申立はこの点でも直ちに却下されるべきであると思料する。

以 上