仮処分再申立裁判 被告側(学園側)書面
 
主張書面(2) (2004年1月14日)

 

 

 

 

 

平成15年(ヨ)第161号 仮処分命令申立事件
債権者 田 尻  利 ほか2名
債務者 学 校 法 人 津 曲 学 園

主張書面(2)

2004年(平成16年)1月14日

鹿児島地方裁判所
 民事保全部  御 中

と債務者代理人
弁護士 金 井 塚    修
弁護士 金 井 塚  康  弘

一 債権着らの月額給与
 債権着らは、本件各処分前、次のとおり月額給与の支給を受けていた(2002 年・平成14年1月ないし3月の3か月平均額)。

  債権者田尻(乙28の1ないし3)
   総支給額 ――,――円、 差引支給額 ――,――円
  債権者馬頭(乙29の1ないし3)
   総支給額 ――,――円、 差引支給額 ――,――円
   債権者八尾(乙30の1ないし4)
   総支給額 ――,――円、 差引支給額 ――,――円

 債権者八尾の控除額が大きいのは、共済貯金の点で他の債権者らが月額2 万円であるのに、同人が月額 ―― 円と多額の貯金をしていたためであることの影響が大きいと考えられる。
 債権者らは、基本的には、特に必要性の疎明のない限り、上記の各支給月 額でその月毎の生計を維持してきていた、と考えるのが相当である。

二 1年間の仮払いと仮払い期間前後の生活費について
1 債権者らは、御庁の仮処分決定を受けた債務者の任意の履行により、各1年間の仮払いを受け続けた。
   その仮払い総額は、下記のとおり、通常の勤労者の年収の何倍にも相当する多額に上る。

   債権者田尻 ――――円
       (内賞与 ――――円)
   債権者馬頭 ――――円
       (内賞与 ――――円)
   債権者八尾 ――――円
       (内賞与 ――――円)

  なお、労働仮処分の仮払いを、審尋決定後から1年間に限る方式は、東京地裁方式等とも呼称され、近時、東京地裁労働部を中心に行われている仮処分の仮払いと同じ手法である(大阪地裁等においても数年程度前から労働部の1部の裁判官が採用しているが一般的ではない。この手法の当否自体に労働法学者等からの批判があるが、ここでは論じない)。
2 仮払い前の生活費等については、債権者らについても特段の必要性の疎明がなかったものといえ、債権者田尻については、年金の全額支給と配偶者の収入や貯蓄によって、債権者馬頭は教職員組合からの借入やカンパと配偶者の収入や貯蓄によってまかなったとされている(甲25、甲26ほか)。
  仮払い終了後の生活費等については、上記と同様債権者田尻については、年金の全額支給と配偶者の収入や貯蓄によって、債権者馬頭は教職員組合からの借入やカンパと配偶者の収入や貯蓄によって何とかまかなっているといい、また、容易に推測できる。
 なお、債権者八尾は、最も具体的な主張や疎明がなく、配偶者の稼働状況も債権者八尾は明らかにしようともしていない。
  さらに各債権者らの貯蓄額も不明であるが、通常相当額の貯蓄があると推認される。
3 各債権者には仮払いの必要性が最早存しない。
 (1) 債権者田尻について
  既に主張書面(1)でも述べたが、債権者田尻については、旧甲19-3には1989年から2001年までの各年の月平均支出額の記載があり、1998年以降は、概ね67万円から83万円に平均月額の減少が認められる。旧甲19-3は、その根拠となる各月の記載や領収書等の根拠となる書類の添付等が無く根拠は判然としないが、この記載を前提としても、漫然と年収額を基準とした「収入相当額の仮払いの必要性」など認めることは不可能である。
  2001年の平均月額は ――― 円であり、前の仮払い決定時を基準として、既に17か月分以上が仮払いされている。少なくとも本年4月までの生活費の仮払いがなされている計算になる。
  前述の平均支給月額の----万円余を元にすると、既に約25か月分もの仮払いがなされた計算となる。
 (2) 債権者馬頭について
  債権者馬顕については、旧甲20-3によると月額平均金額は ――― 円である。これも債権者馬頭の配偶者の陳述書に過ぎず、根拠となる各月の記載や領収書等の根拠となる書類の添付等が無く根拠は判然としないが(今回車輌費の追加費用の主張と疎明がなされている)、この記載を前提としても、漫然と年収額を基準とした「収入相当額の仮払いの必要性」など認めることは不可能である。
   前記の仮払い額を基準に考えても、約15か月分の仮払いは既になされている計算となる。
   前述の平均支給月額の---万円余を元にすると、既に約30か月分もの仮払いがなされた計算になる。
 (3) 債権者八尾について
   債権者八尾にっいては、旧甲21‐3を見れば分かるが、必要生活費の疎明が債権者田尻、同馬頭ほどにも明らかにされていない。
   債権者八尾は作成者不明のワープロの集計打ち出しを提出しているだけであり、証拠価値が著しく低い。
   そこでの支出の主張は月額平均 ――― 円であり(所得税を加えると --- 万円余との主張)、前記の仮払い額を基準に考えても約25か月もの仮払いは既になされている計算となる。
前述の平均支給月額を元にすると、驚くべきことに債権者八尾については、実に既に約42か月分もの仮払いがなされた計算となる。
 (4) いわゆる「研究費」について
   また、債権者らは研究費の必要性を云々するが、大学教員の研究は大学での教育と不可分のものであり、研究面はさておいても、教育面を担当しない債権者らの個人の研究のために債務者が全額の負担を強いられるのは、筋が通らない。賞与についても給与とは異なり、本来、勤務状態や教育・研究等についての学会や債務者への貢献度を基準に支給される性質のものであり、これについても債務者が全額の負担を強いられる筋合いのものでもないと考える。
  債権者らは、全国レベルでの多数の大学教員を中心とする支援者がおり、債務者学園内で組織されている教職員組合の支援も全面的に得ており、物心両面の支援を十分に得ていることからも(審尋の全趣旨)、月額支給額以上の支払いや、特に研究費名目の緊急の仮払いの必要性も存しないというべきである。
 (5) 以上によれば、平均支給月額を元にすると、債権者らは、25か月から42か月もの仮払いを既に受けていることになり、本訴の残余の審理期間は債権者らの主張からも2年程度までであるから、これ以上の仮払いの必要性は存しない、少なくともさらなる仮払いの必要性があるとの疎明はない、特に債権者八尾についてはない、といわざるを得ない。
三 結 語
  以上により、各債権者らが本件裁判紛争で生活上様々な制約を受けていることはそのとおりであろうが、それは債権者らの非違行為の結果であるとしか申し上げようがない。債権者も有形無形多大の損害ないし制約を被っているところである。
  さらに、既に多額の仮払いを受けている債権者らに、これ以上の仮払いの必要性はそもそもなく、疎明もないというべきであり、債権者らの訴えは直ちに却下されるべきであると思料する次第である。
 以 上