解雇事件保全抗告申立裁判 学園側書面
 
保全抗告状(2004年(平成16年)4月17日)(乙31の1)

 

 

 

 

 

乙第31号証の1 

保全抗告状

2004年(平成16年)4月17日
福岡高等裁判所 宮崎支部 民事部 御中

当 事 者 の 表 示
抗告の趣旨・理由    別紙記載のとおり
添  付  書  類

       抗告人訴訟代理人
弁護士 金 井 塚     修
弁護士 金 井 塚  康  弘

貼 用 印 紙 額   金3,000円
予 納 郵 券   金5,800円

 別紙当事者間の鹿児島地方裁判所平成14年(モ)第1538号保全異議事件について,平成16年3月31日決定があり、同年4月5日決定正本の送達を受けましたが、全部不服であるから抗告します。

抗告の趣旨

1 鹿児島地方裁判所が、同所平成14年(モ)第1538号保全異議事件について平成16年3月31日にした決定を取り消す。
2 被抗告人の仮処分命令申立を却下する。
3 訴訟費用は、全て被抗告人らの負担とする。
との裁判を求める。

抗告の理由

第1 保全命令事件の表示
鹿児島地方裁判所平成14年(ヨ)第84号地位保全の仮処分命令申立事件、
同所同年(モ)第1538号保全異議事件。

第1 保全命令申立事件の決定
 鹿児島地方裁判所が、2002年(平成14年)9月30日地位保全の仮処分命令申立事件について仮処分決定をしたので、抗告人は同年12月25日付けで上記仮処分決定に対して保全異議の申立てをしたところ、双方審尋の結果、2003年(平成15年)8月29日、審理を終結し、7か月後の2004年(平成16年)3月31日付にて仮処分決定を認可する旨の決定をした(以下「本件認可決定」という)。

第3 抗告事由
1 違法な認可決定
しかしながら、本件認可決定は、まず、手続上重大な瑕疵があり、違法、無効と断ぜざるを得ない。
(1) 審理終結(8月29日)
 保全異議の審尋は、上記の申立後は、解雇無効地位確認の本訴(鹿児島地裁平成14年(ワ)第1028号事件)の口頭弁論期日と並行して、2003年(平成15年)2月24日、4月7日、5月26日、8月11日と4回開催され、8月11日には、同月29日が審理終結日と定められた。審理終結によって、その後の主張、疎明等を考慮できないという禁止効が法定されている。
池谷泉裁判長の当初の言では、9月末までに決定を出すということであった。それは、審理終結からも相当な期問であり、異議の対象とされている仮処分決定が2003年(平成15年)9月20日まで仮払いを命令していたことからもその頃に異議に対する決定がなされるはずであった。
(2) 裁判長退官(1月16日)
 しかるに、異議に対する決定は、延々と出されなかった。遅延の理由も何ら明らかにされなかった。
他方で、本案の裁判は弁論準備期日が9月24日、10月29日と進行し、主張整理を抗告人(本案訴訟の被告)は池谷裁判長に求めたが、本案訴訟の主張整理も何らなされないまま、12月22日に証人尋問期日も指定され、実施された(本案訴訟の被告側外薗証人、韓証人)。翌2004年(平成16年)2月2日にも証人尋問期日が指定されたところ、異議審や本案裁判を主導してきた池谷裁判長は、1月16日、異議に対する決定もしないまま、突然、退官された。
 本案の訴訟は、4月の人事異動まで後任の裁判長が就かず、地裁所長裁判官が代行することで、2月2日の証人尋問期日は実施された(被告側原口証人、衣川証人)。
(3) 遣法な認可決定(4月5日)
 4月に後任の裁判長の着任をまって適切に審尋が再開等されて、特に重要な証人尋問がなされたのであるから、その結果等の疎明資料を踏まえて、異議に対する決定が当然なされるべきものであったところ突然、年度の変わり目の3月31日付で、2人の裁判官によって本件認可決定がなされ、新聞報道にも先に回され、4月5日に抗告人(債務者)に送達された。
審理終結から実に7か月余、裁判長退官からでも2か月半後のことである。
 このような遅延した決定は、適切に主張、疎明状況の進展に応じて審尋再開がされるべきであるのにされずになされた決定である点においても、当事者への不意打ちという点においても違法なものである。また、民事保全法が仮差押命令の送達の日から2週間ないしは最終の弁済期日から2週間を経過した執行を禁止していること、疎明という事柄の性質上も、手続きの迅速化という民事保全法改正の趣旨に鑑みても違法な決定であり、社会通念に照らしても、退官してから2か月半も後に退官した者の名前で裁判するなどという杜撰なことは、到底、許されるものではない。

2 主張整理の遺漏、脱落
 さらに、上記認可決定は、そのように審理終結から7か月もかけたにもかかわらず、主張整理がずさんで、特に抗告人(債務者)側の主張整理に顕著な遺漏、脱落があり、認可決定を無理やり導くための意図的な認定落ち、ないしは、遺漏、脱落であると推認せざるを得ない点も存する。すなわち、争点を争点として掲記せず、争いのない事実ないし容易に疎明される事実に滑り込ませて、実質上争点を判断しない手法と評せようか。
(1) 事案の概要での遺漏、脱落
 事案の概要について、本件決定は、 「教員の採用人事に関連して不適切な議事運営を行った、あるいは、大学院及び新学部の設置を妨害するような行為を行ったことが懲戒事由に該当するとして」 懲戒解雇したことが有効か無効か争われ地位保全の仮処分決定が出されたため、保全異議が申し立てられている事案である旨、冒頭でまとめている(2頁)。
 しかし、抗告人(債務者)は「不適切な議事運営」等だけを問題としているものではない。不適切なまとめというを通り越して、原決定裁判所が問題の核心を把握していないことを端的に示すまとめである。ちなみに、仮処分決定は、「同大学の教員選考に関して問題があった等として・・・懲戒解雇」された問題と事案の概要でまとめていて、抗告人に公募採用人事上の不正行為(業績評価書の虚偽記載等)が問題であることが異議理由で縷々述べられていた(異議理由書2頁以下)。一般の新聞報道のまとめでも「教員公募採用をめぐり不正行為があったとして・・・懲戒免職処分」がなされた事例とされている(例えば、2002年4月2日付南日本新聞記事、甲22)。そうとすると、裁判所は、あえて事案を正しく把握しようとしていないとさえ評し得るものである。
 南日本新聞にもまとめられている「公募採用」人事の問題だということを落としている点が意図的であることについては後述する。
(2) 大学改革事業の経過等のまとめでの遺漏、脱落
 仮処分決定でも認定されている、「しばしば、財政問題について発言し、議長(学長)から注意を受けた。」(仮処分決定7頁)ことの脱落、「平成11年3月8日、鹿児島大学で開催されたシンポジウム」にて、被抗告人(債権者)八尾が、個人の資格としながら「先が約束されない新設や増設のために巨額の投資をしている」(同)等と対外的場にて根拠のない批判活動をしていることの脱落等が顕著である。
 学則改正(案)の評決等の掲記をしながら、なぜ、単一学部の教授会が唯一の合議体である時に制定された旧学則が現状の大学運営に合わず不適切かを述べた学長見解(2000年2月7日付)は、疎明資料が追加されたにもかかわらず(乙93)、ことさら掲記されていない。
 仮処分決定でも、「学長に宛てた書簡、文書が33回(計41通)、理事長に宛てた書簡、文書は6回(計6通)」、「学部長を退いた平成13年4月1日以降も継続された。」(仮処分決定7頁)との執拗な働きかけについては掲記されていたのに、本件決定では「書簡を合計41通送付した」とのみ掲記し他を遣漏させた(5頁)。評議員および学外者への文書配布も「評議員らに送付したとのみ掲記し(同)、対外的活動の問題性を遣漏させている。
その他の遺漏、脱落についてはさらに補充して述べる。
(3) 教員選考での遺漏、脱落
 科目適合性について議論がなされた等と一般的な記載しかせずに、主査が仲村候補の各業績について、第6回選考委員会(1月31日)、第7回選考委員会(2月8日)と詳細に科目適合性を分析して報告し、経済学の業績ではあっても「人事管理論」、「労使関係論」の業績としては、該当論文1、2点に各数行程度の記載しかないこと、本学の規定としては、教授なら科目適合論文10点以上、助教授でも科目適合論文が5点以上必要であるから、両科日とも科目不適合である等を指摘した点など(乙12ほか)、具体的な虚偽記載、ないし、科目不適合に関する具体的事実は、抗告人が異議申立書でも縷々述べているにもかかわらず(4頁以下)、掲記もせず遣漏、脱落させた。
 教員選考に最適の判断ができる専門委員の「主査が反対票を投じた」というこれまでに例のない未曾有の投票結果であったが故に、直ちに教授会に報告しなければならない事例だったことが、大学教員公募採用における大学の自治、教授会の自治の重要性に鑑み、本件の最も重要な問題点であることを抗告人が異議申立書で縷々指摘しているにもかかわらず(2頁)、この重要な観点が遺漏ないし脱落させられ、専門的科目適合性抜きの単なる「意見の一本化」問題に矮小化されている。
 教授会で、債権者田尻が、人事管理論を仲村候補に担当させるのかとの質問に「『そうである』と答えた」ことのみ掲記するが(10頁)、業績のない人に授業をさせるのは学生に対する背信行為だとの批判の中でのやりとりであるのに(乙16)、その批判の部分は遺漏、脱落させ、教授会への報告のように掲記している。
 その他の遺漏、脱落についてはさらに補充して述べる
(4) 普通解雇での遺漏、脱落
 普通解雇した事実のみ掲記し、解雇事由(乙95の1以下)は懲戒処分とされた非違行為のみにとどまっていないのに、これを一切遺漏、脱落させて疎明されているのに具体的に記載もしていない(13頁)。争点の整理の部分でも、債務者の主張としてなんら普通解雇事由を具体的に記載せず遺漏、脱落させている(22頁)。
 後に、独立に普通解雇の相当性の判断を一切せず、「懲戒事由に該当する事実は認められないから、予備的解雇は解雇権の濫用に該当し無効」(32頁)と独立の理由も付さずに断定する布石としている。
(5) 争点での遺漏、脱落
 懲戒解雇事由の項目では、債務者の主張をまともに取り上げていない。
ア 特に、債権者馬頭についての債務者の主張から、業績評価書の「虚偽記載」を具体的に指摘しているにもかかわらず、債務者の主張としても掲記していない(17-18頁)。
イ また、予備的解雇の項目で、債務者の主張としてなんら普通解雇事由を具体的に記載せず、遺漏、脱落させていることは(2頁)、先にも述べた。
ウ さらに、保全の必要性の項目で、「(債権者ら)」として、「ア 収入」「イ 研究室の使用」と2項目を立てているにもかかわらず、「(債務者)」では「研究室の使用」しか掲記していない。抗告人(債務者)は、その2003年(平成15年)7月18日付主張書面において、各債権者の月平均支出額に関する疎明資料(甲19の3、甲20の3、甲21の3)を前提にするとしても、平均支出額は債権者田尻につき**,**円、債権者馬頭につき**,**円、債権者八尾につき**,**円であり、これらの金額も信用性に乏しいが、これを前提にしても各仮払金額は多額で必要性を大きく超えるもの(債権者田尻につき月額**,**円の超過、債権者馬頭につき月額**,**円の超過、債権者八尾につき**,**円の超過)であることを指摘していた(同主張書面4-5頁)。
 本件決定は、異議審の時点で浮上してきた主要な争点である予備的解雇の有効性、仮払いの必要性について、一切掲記も判断もしていないという、杜撰としかいいようのない決定書となっている。
エ その他の遺漏、脱落についてはさらに補充して述べる。

3 争点に対する判断の誤り
(1) 債権者田尻、同馬頭について
ア 科目適合性を主査が専門的見地から反対していること(単に人物が気にくわないとか、感情レベルの反対等ではない)について、一顧だにせず、単に意思統一の問題として1人対4人の判断の違いのように論じていることが、本件決定の特徴であり、根本的な誤りである。
債務者は、まさしく、1人であれ専門的意見が非専門委員の多数決や大声、暴言、脅迫で押し切られたことが、大学においてあってはならないこととして問題としているからである。このような主査である専門委員の専門的意見に反する「選考委員会の裁量」(25頁)など学問の府である大学においてはそもそもあり得ないし、もとより、理事長も学長もそのような裁量権を与えてはいなかった。
 また、学者の学問的良心を踏みにじり、専門的意見を枉げてさせて「意見を一本化」させることなど、到底、大学における「議事体としての裁量の範囲内」(27頁)などにはなく、これらありもしない「裁量」権を作り上げて懲戒事由に該当しないと結論付けることが誤りであることは、明らかである。
投票後、専門委員である主査が反対しているからこそ、直ちに教授会に報告して善後策を協議するようにすべきだったという債務者の主張がなんら顧みられていないことも不当である。意見の一本化が会議体として正しいかどうか、といった一般論を問題としているのではないからである。
イ 大声で選択を迫ったことを認めながら、大声は第2回と第5回だけで、第7回は原口主査も「暴言脅迫という表現はつかいつつも大声で怒鳴られたとは供述していない」から、第7回選考委員会では大声で選択を迫ったとは認められず懲戒事由はないと結論づける点も、集団での不当な圧力から原口主査が自由だったかどうかだけが問題であり、一連の会議の中で、第7回と他の回の委員会と外部者が参加しているとか、公開の場でなされたとか状況が違うならともかく、密室で1対4の不当な圧力のもとの審議である点に変化のない本事案の場合、本件決定のような結論は、社会通念上、到底あり得ない疎明資料の評価であり、事実認定である。
 大声での脅迫等を続けることが、特に大学内では許されないと抗告人(債務者)は訴えてきたものであるが、どうして「社会的に許容される範囲」なのであろうか。本当に理解に苦しむ決定である。
ウ 虚偽記載があるかどうかも、前提事実ないし主張整理段階で、債務者の具体的主張をあげていないこともあって、何の判断もせずに、論点を「虚偽記載の有無」から、「科目適合性の有無」の判断にずらせ、科目適合性の判断は原則として懲戒事由に該当しないという独自の抽象論にすり替えている(25頁)。
 学問的立場を尊重するということと虚偽の記載をするということは、別問題である。例えば、この候補者のこの業績は基本的には経済学の技術論に関する論文であるが、労使関係論についても2行記載があり(正確な事実表記)、私は労使関係輪の業績とも評価できる側面がある(科目適合性判断)、というようなの報告であれば、虚偽の報告ではない。記載が正しいか、その正しい公平な記載に基づく適合性判断が正しいか、それぞれについて、認定、評価できるのに、本件決定は、まともな認定を拒否し抽象論に逃げている。
 しかも「人事管理論については適任として推薦はしないが、大学での授業を担当する程度には問題ないとの意向をもって」などと勝手な認定をするが(25頁)、学問的にもおかしく、また、どうして、抗告人(債務者)やその学生が科目適合性もない「教授」の講義を甘受しなければならないのか、あきれ果てた判示である。
 なお、仮処分決定でさえ、「候補者の人事管理論についての科目適合性を明らかにしなかったのは、不十分なものであったことは否めない」と指摘していた(仮処分決定17頁)。
エ 対外的信用に関わる公募人事で許されないことをしたというのが、抗告人(債務者)の主張であり、公募人事では2科目で公募しながら1科目で採用したような例はない。内部昇格人事で一部例外的に1科目で昇格を決め例があっただけであったのに、公募人事でもそのような例あったとして、虚偽を述べてまで本件の不正な教員選考を正当化しようとしていたのが債権者田尻、債権者八尾らである。本件決定は、公募人事であり内部昇格証人事の例を持ち出すのは相当でないとの債務者の主張に何ら答えず、内部昇格人事の例もあるというようなことで正当化しており(24頁)、争点に答えず、まともな決定の体をなしていない。
オ その他の事実認定の誤りについては、さらに補充して述べる。
(2) 債権者八尾について
ア 採決を強行せずに学長や理事長に、主査が反対しているこれまで例のない案件で、退席者が7名もいる未曾有の事態に直面したとき、どのように議長として進行してゆくべきか、任命権者と相談、協議等すべきであったというのが債務者の主張である。しかるに、本件決定は、単に議論が一応出尽くしたら投票することは何ら非難されるべきではないなどと一般論で答え、懲戒事由に該当しないとする誤りを犯している。
イ また、債権者八尾が、学部長という責任ある地位にありながら、大学の組織としての決定等に執拗に反する行動を無責任に、また、社会通念上許容される範囲を超えて書簡、文書等を送り続けたという非違行為を抗告人としては問題としているのに、本件決定は、職責の重要性を考慮もせず、学内には様々な意見があって当然といった一般論に逃げ、懲戒事由に該当しないとする誤りを犯している。
ウ その他の事実認定の誤りについては、さらに補充して述べる。
(3) 予備的解雇
ア 先にも述べたが、普通解雇の事由を具体的に掲記せず、「懲戒事由に該当する事実は認められないから」予備的解雇は解雇権の濫用と争点に何の判断もしていない誤りを犯しでいる。
イ 予備的通常解雇の通知
 抗告人(債務者)は、先にも述べたが裁判所の本件仮処分決定は誤っていると考えているものの、懲戒解雇を無効として仮の地位を定める仮処分決定が出されたことも踏まえ、原告らの処分後の行状等にも鑑みて、2002年(平成14年)10月25日付の処分通知書をもって、念のため予備的に、被抗告人らをそれぞれ就業規則第19条2号、4号、9号に基づき、通常解雇する通知を発し、被抗告人らはそのころ当該通知を受領した(乙95の1以下)。
ウ 通常解雇理由
 本件予備的解雇の理由は、被抗告人ら3名について、先に述べてきた各懲戒退職理由に該当するとした対象の不正行為のほか、各解職日以降通知時まで、被抗告人らが抗告人に対して行った背信的諸行為(本年4月2日の記者会見や4月5日付、4月6日付メッセージ等をインターネットを通じる等して事実を歪曲して喧伝したこと等)によって本件懲戒処分の有効性を貶め抗告人の名誉を毀損したこと、また、公募教員選考過程での不正という大学運営の根幹を揺るがした自らの不正行為の重大性への反省が全く見られないこと、学問の正統性・科目適合性等を無視して多数決で決せられると考えている学問・研究に対する根本的誤解など教師・研究者・大学教授としての不適格性、さらには、ことさらに学長、理事等の個人攻撃をしつつ、学外の多衆にたのみ学園秩序の破壊を策そうとする、協力性、協調性の欠如等を付加したものである。
 被抗告人田尻については、上記の外、暴言、威嚇行為をこととしたことが教授としての不適格性を示すことも付加しており、被抗告人馬頭については、暴言、威嚇をこととする教授としての不適格性のほか、業績不十分も付加して通常解雇理由としている。
エ 予備的通常解雇の有効性、相当性
 上記の本件予備的通常解雇の通知は、本案訴訟で前記懲戒退職処分が無効と確定的に判断されることを条件とする予備的主張であるので、解雇無効の本案判決が出るまでは法的には前記懲戒退職処分は有効なものとして存在し機能している。仮処分決定を我田引水的に解釈援用し、学内秩序の混乱を企図する被抗告人らの策動から被告学園の職場秩序を守るため、懲戒解雇とされた不正行為のほか懲戒処分後の行状等も含めて総合考慮の上、最低限度の措置として執られた予備的通常解雇であり、無効行為とされた懲戒解雇処分の無効行為の転換としての通常解雇処分を主張している場合とは異なる(従来この有効可能性を判示する判例もあったが、東京地判昭和45年6月23日労民21巻3号980頁[日本経済新聞社事件]、学説の批判を容れ近時の判例は概ねこれを否定する。例えば東京地判昭和60年5月24日労経速1227号8頁・硬化クローム工業事件ほか)。
 新たな、別個の理由に基づく予備的通常解雇処分であるので、その有効性、相当性は、労働法学説上はもとより(例えば菅野『労働法 第5版補正2版』2001、449頁)、労働判例においても一般的に認められている(東京地判平成2年7月27日労判568号61頁・三菱重工相模原製作所事件、東京地判平成5年10月13日労判648号65頁・日本メタルゲゼルシャフト事件ほか)。
オ 被抗告人らは、本件の通常解雇理由を「驚くべき内容」として、記者会見を行ったり、インターネット通信で事実を述べ、自己の行為が決して誤っていなかったと訴えることは言論の自由であるとか、大学の教学上の問題に関してなされた解雇は大学の自治の侵害であるとか、大学の自治の死減である等と大仰に非難し、通常解雇処分を「感情のままになされたもの」であるとか、「異常さを超え、恐怖さえ覚える」等と情緒的な主張を繰り返している(本案訴訟の訴状12頁等)。
 しかし、自由には責任が伴うのは自明のことであり、研究業績報告書に虚偽の記載をすること等を学問の自由の名を借りて正当化することができないことはもとより、虚偽の事実を宜伝する自由や多衆の威を背景に虚偽を押し通そうとすることが許されるものでもない。被抗告人らの主張こそ独善的である。
カ 対外的信用、名誉毀損行為の非違行為としての重大性
 虚実を織り混ぜてのことさらな記者会見や意見広告(形式的掲載主体は支援者であるが実質的情報提供等は被抗告人らである)、インターネットを通じての扇動的、情緒的な意見表明等は、組合内あるいは学内的な意見表明等にとどまるものとは明らかに異なり、不特定多数の者に対して、抗告人学校法人あるいはその理事長や大学学長らの対外的名誉や信用を著しく毀損しようとするものにほかならない。また学外の多衆の支持,支援を背景に自己の主張を押し通そうと意図してなされた行為であることも明らかである。
 このような雇用者、雇用主体に対する、対外的な信用、名誉毀損行為、雇用関係上の信頼関係破壊行為を甘受してまで、雇用者、雇用主体が雇用を継続しなければならないとする合理的理由は、何ら存在しない。
キ 最高裁(1小)H6、, 9, 8判決
 ところで、最高裁は、テストの実施方法等をめぐり法人理事兼学校長となった者と対立してその指示等にしたがわず解雇された高校教師が、地位保全の仮処分を申請し認容される過程で、上記校長の教育を「生徒への人権無視と非人格主義」等と糾弾する内容の人権救済申立文書等を弁護士会に送り、週刊誌記者の取材に応じて同旨の自らの言い分を掲載させた事案(学校法人敬愛学薗・国学館高校事件)において、この対外的中傷、信用毀損行為を理由にした解雇を、次のように判示して有効としている。

 「被上告人は、文書1ないし3により、上告人の学校教育及び学校運営の根幹にかかわる事項につき、虚偽の事実を織り混ぜ、又は事実を誇張歪曲して、上告人および校長を非難攻撃し、全体としてこれを中傷ひぼうしたものといわざるを得ない。さらに、被上告人の「週刊アキタ」誌の記者に対する文書1及び2の情報提供行為は、前示のような問題のある情報が同誌の記事として社会一般に広く流布されることを予見ないし意図してされたものとみるべきである。以上のような被上告人の行為は、校長の名誉と信用を著しく傷つけ、ひいては上告人の信用を失墜させかねないものというべきであって、上告人との間の労働契約上の信頼関係を著しく損なうものであることは、明らかである。・・・そして、被上告人の勤務状況には、前記・・・のような問題があったことも考慮すれば、本件解雇が権利の濫用に当たるものということはできない。」(労働判例657号12頁)

 この事案は、1審、2審では、解雇は過酷に過ぎる等として解雇無効とされていたものを、最高裁が上記のように判示して労働契約上の信頼関係破壊を理由にした解雇を相当と認め、これを覆した事例としても注目されている(前記労判コメント、菅野『労働法第6版』2003、459頁など)。
ク 予備的普通解雇が有効であれば、本件仮処分決定が認可されることはあり得ない重要な論点であるから、普通解雇の有効性については、実質的な判断がなされなければならない。
(4) 仮払いの必要性
 被抗告人らは、本件各処分前、次のとおり月額給与の支給を受けていたものである(2002年・平球14年1月ないし3月の3か月平均額)。
被抗告人田尻
総支給額 ***,***円、差引支給額 ***,***円
被抗告人馬頭
総支給額 ***,***円、差引支給額 ***,***円
被抗告人八尾
総支給額 ***,***円、差引支給額 ***,***円
 被抗告人八尾の控除額が大きいのは、共済貯金の点で他の債権者らが月額−−円であるのに、同人が月額***,***円と多額の貯金をしていたためであることの影響が大きいと考えられる。
 被抗告人らは、基本的には、特に必要性の疎明のない限り、上記の各支給月額でその月毎の生計を維持してきていた、と考えるのが相当である。
先に被抗告人ら提出の疎明資料である甲号証に基づく月額平均支出の疎明額より、仮処分決定にかかる仮払い命令額が多額であることを異議申立の段階から主張、疎明してきたことを述べてきた。
 にもかかわらず、抗告人(債務者)の主張を掲記もせず、理由も付さずに、賞与を含めた年額の報酬を1か月平均した給与額の「仮払いの必要性が認められる」と漫然判示した本件認可決定は、極めて失当である。
(5) 研究室使用について
 この点については、被保全権利がないにもかかわらずそれを認め、保全の必要性も認められないにもかかわらず、研究室使用が認められているが、単に被抗告人らの支障というだけのことで認めており、人文系学問の研究は研究室でなくとも、インターネット等の利用などによって、特に近年十分に可能であるとの抗告人(債務者)の主張に一顧だにされていないのは、失当極まりない。「債権者らが研究室を使用することによって、債務者が何らかの不利益を被るとの疎明がない」とするが、被抗告人らの「教授会にも出席させろ」等の仮処分命令主文にもない要求の頻発や職場秩序の混乱等の不利益は縷々主張し疎明してきたところである。
 その他の判示の誤りについては、さらに補充して述べる。

第4 結語
よって、抗告の趣旨記載の裁判ありたく、本保全抗告に及んだ。
本文中にも適宜必要箇所で記載したが、さらに、おって、抗告人の主張と疎明を迫加する予定である。

添付書類
1 訴訟委任状                        2 通

                              以 上


当事者目録

〒890-0041 鹿児島市城西3丁目8番9号
抗告人 学 校 法 人 津 曲 学 園
上記代表者理事 菱   山      泉

〒604-0872 京都市中京区東洞院夷川上る三本木5-478
抗告人訴訟代理人
弁護士 金 井 塚    修
(送達先)
〒530-0047 大阪市北区西天満1-7-4 協和中之島ビル403号
TEL 06-6311-8877   FAX 06-6311-8870
同 上
弁護士 金 井 塚   康  弘

〒891-0145 鹿児島市錦江台3丁目4番13号
被抗告人 田  尻     利

〒891-0145 鹿児島市下福元町5860番地1
被抗告人 馬  頭  忠  治

〒891-0145 鹿児島市錦江台3丁目19番13号
被抗告人 八  尾  信  光