仮処分再申立裁判  原告側(三教授側)書面
 
準備書面(2004年5月31日)

 

 

 

 

 

平成15年(ヨ)第161号
 債 権 者  田  尻   利 外2名
 債 務 者  学校法人津曲学園

準 備 書 面

平成16年5月31日

鹿児島地方裁判所 御中

上記債権者ら代理人
弁護士  林     健 一 郎
同   井 之 脇  寿  一
同   森     雅  美
同   増  田     博
同   小  堀  清  直

 債務者提出の平成16年1月14日付主張書面(2)に対し、次の通り主張する。
1 債権者らの月額給与について
  債務者は、債権者らが差引支給額で月毎の生計を維持してきていたと考えるのが相当であると述べている。しかしながら、債権者らが生計を維持するためには、学者としての研究活動のために諸費用が必要であることはいうまでもない。債権者らは大学における従来の地位保全を求め、これが認められているものである。その前提として、最小限必要な研究室の利用の妨害排除を求め、現在も研究室において研究活動をしているものである。したがって、本件は、債権者らの生計を維持するだけの金額では仮処分の意味は失われるものである。
2 仮払いの必要性について
(1)
債務者は、債権者田尻について、少なくとも約17ケ月ないしは25ケ月もの生活費の仮払いがなされている計算になるからその必要はないと主張している。
 しかし、前述の通り、田尻は学会、研究会出席、論文執筆等の研究活動を続けており、コンピュー夕ー・図書購入費用、その他諸々の費用が必要であり
(疎甲第28号証の1、2)、生計費だけに固執する債務者の主張はきわめて不当である。
(2)債務者は、債権者馬頭について、同人が最低必要と主張する月額平均金額は、領収証等がないと主張している。しかし、生活費について逐一領収証を保管して生活している者などなく、本件において同人及びその妻の各陳述書はきわめて詳細で合理性があり、疎明としては十分であると考える。
 債権者馬頭の場合、生計費を補充するため妻が稼働しはじめ、長男の大学入学のための費用を他から借り入れるなどしている。時期的に長女も相当の学費を必要とする。その他、学会、研究活動、書籍購入もかなりの費用を要するものである。債務者が違法な処分をしながら、最低の生活費でよいと主張するのは信義に反するものである(疎甲第29号証)。
(3)債務者は、債権者八尾についても、必要な生活費の疎明が十分でないと述べるが、疎甲号証において明確に生活状況を述べており、十分疎明されているものである。
 債権者八尾は、貯蓄を取り崩して生計を立てている。本件処分により、同人の妻は予備校講師の職を棒に振り、保険の外交員をして家計の補充をしてきた。債権者八尾は、学会出張、研究のための会合、その他研究活動にも費用が必要である。したがって、生計費だけではこれらの研究活動が阻害されるものである(疎甲第30号証)。
3研究費について
 債務者は研究費について、教育面を担当しない債権者ら個人の研究のために自己が全額の負担を強いられるのは筋が通らないと述べ、賞与についても、給与とは異なり、本来勤務状態や教育、研究等についての学会や債務者への貢献度を基準に支給される性質のものであるから、これも全額の負担を強いられる筋合いのものではないと述べている。
 教育面を担当し、学会や債務者に対する貢献したいということは債権者らの切望するところである。しかし、債務者は裁判所の決定を「噴飯もの」などと述べて無視した上、これを遵守しようとしないのである。自ら裁判所の判断に従わず、債権者らの教育や貢献を妨害しておきながら、債権者らがこれをしていないと主張するのは明らかに信義に反する。
4支援者による支援について
 債務者は、債権者らが教職員組合や全国の支援者による物心両面の支援を十分に得ていることからも仮払いの必要性はないと述べている。本件は、債務者が、債権者田尻、同馬頭に対しては採用科目の適合性のない学者を推薦したと決めつけ、債権者八尾に対しては教授会の議長として採決をしたとか大学改革を妨害したなどとして懲戒解雇を行ったものである。本件の本質は、大学の経営者が学問の内容に立ち入り、一方的な立場から学問的評価をして懲戒解雇処分に及んだものであり、もしこのようなことが計されるならば、大学における学問の自由はない。経営者の意思に反する見解を表明すれば忽ち処分の対象になる虞れがある。これでは学問の発展は阻害されてしまう。このようなことから、全国の多くの学者が本件を注視し、債権者らに物心両面の援助を寄せているものである。
 しかしながら、その援助があるから仮払いを認めるべきでないとする債務者の主張は全くの筋違いであるといわなければならない。なぜなら、これらの資金援助は数多くの人々に事件の内容、本件の真相を知ってもらい、学問の自由を守るために使用されるもので、そもそも債権者らに対する生活援助ではないからである。債権者らには幾ばくかの支援がされているが、この支援は本来、債権者らがいかに誠実に職務を全うしたかを多くの人に知ってもらうためのものであって生計のためではない。仮に生計に使用されたとしても、このような一時的なものを考慮すべきではない。したがって、支援者の寄付行為は、本件仮払いの必要性には何ら関係がないと考えるべきである。