本訴裁判 原告側(三教授側)書面
 

準備書面(2003年8月11日)の骨子

 

 

 

 

 

告側 準備書面(平成15年8月11日付)の目次

 

第一 被告の準備書面(1,2,3)の内容
第二 原告が主張する本件懲戒解雇処分理由〔準備書面(3)の当該部分への反論〕
 一 原告田尻の処分理由
 二 処分の違法性
 三 原告馬頭の処分〔理由〕
 四 処分の違法性
 五 原告八尾の処分理由
 六 処分の違法性
第三 被告提出の準備書面(1)に対する認否・反論
 一 公募科目について
 二 選考過程について
 三 教授会審議について
第四 平成15年4月4日付被告準備書面に対しては、追って認否反論する予定。

 

準 備 書 面(骨 子)


                         
原告ら代理人 
弁護士 増田 博 ほか4名
被告提出の各準備書面に対し、次の通り反論する。  

第一 被告の準備書面の内容
   (略)

第二 被告が主張する本件懲戒解雇処分理由(への反論)


一 原告田尻教授に対する処分理由は次の通りである。
1(平成11年度当該教員選考委員会の委員長)田尻は、公募書類に記載された科目のうち「人事管理論」を削除し、教授会に採用候補者を「労使関係論」の教授として推薦したが、採用候補者は「労使関係論」についても科目不適合であった。
2 第4回委員会で投票をしたにも拘わらず、その結果を速やかに教授会に報告せず、第8回まで委員会を延長した。
3 主査に対し、副査との交代や、副査の書いた業績評価書への連名を迫るなど不当な委員会運営を主導した。
4 公募科目中1科目の審査で可としたことは、社会に対して不公正、無責任である。
5 委員会で暴言を繰返したのは、資質、品格にさえ問題がある。


二 処分の違法性
1 本件公募は、被告大学経済学部の「人事管理論および労使関係論」担当の助教授または教授である。これにつき選考委員会が上記2科目で審議したことは明らかである。被告は、人事管理論を削除し、「労使関係論」だけでも採用を可とする方向で審議されたとするが、選考委員会が「人事管理論」を削除して審議した事実はない。選考委員会が推薦した採用候補者は両科目を担当するについて抜群の業績を有する優れた学者で、科目不適合であるとの被告の主張は全く理由がない。

2 被告は、第4回委員会で投票したにも拘わらず第8回まで委員会を延長したと述べているが、第4回の投票で主査が反対票を投じたことから全員一致で採用候補者の論文を更に検討することになり、第5回の委員会では主査が決められた論文を読んでこなかったことから次の委員会が開かれることになり、第6回では主査作成の業績評価書の検討がなされ、第7回では委員長報告や業績評価書の検討がされ、第8回では教授会提案に向けての最終確認が行われた。それらは全て必要なものばかりで、これに反対する委員はいなかった。委員会を延長したことをもって処分理由にするなどおよそ考えられないことである。

3 被告は、田尻が主査に対し、副査との交代や業績報告書への連名を迫ったなどと述べているが、そのような事実もない。主査が委員会の決定に添った業績報告書の作成を拒否し、その作成に協力しようともしなかったため、やむなく副査が業績報告書を作成することになった。委員会は主査に、副査と交代するか、せめて業績報告書に連名してほしい旨要請したが、主査はこれにも協力しなかった。委員会は、これらのことを主査に要請したのであって、強要などしていない。従って、この点に関する被告の主張も事実に反するものである。

4 被告は、公募科目と採用科目が今回だけ一致していなかったと述べているが、今回も公募科目と採用科目は一致しており、採用候補者の推薦には全く問題がなかった。群を抜いた業績を有するこの教授が公募に応じたことは、被告大学にとっても名誉なことであった。

5 被告は公募科目2科目を念頭に応募した者や公募を断念した者に申し開きもできないと述べているが、本件公募には幅広い分野から多数の応募があった。すなわち、経済学、心理学、社会学、公共政策、経営学、商学などであった。応募を断念した者がいるなどおよそ考えられない。

6 田尻が暴言を繰り返したという事実はない。選考委員会では全員一致で採用候補者が1人に絞り込まれ、投票後の委員会も全員の意見で進められており、殊更田尻が主査に対し暴言を繰り返すような理由などなかった。
ただ、第2回委員会で主査が自ら候補者の論文を選び、これを読んでくるという約束になっていたのにこれを反古にしたため、強く批判したことはある。

7 田尻は、選考委員会の委員長として真剣に委員会をまとめ職責を果たしている。田尻に対する懲戒解雇が違法であることは明白である。


三 原告馬頭教授に対する処分理由は次の通りである。
1 採用を可とする委員4名の意に添って、主査に代わり業績評価報告を作成した。
2 業績評価書の結論は、「採用候補者が本学の労使関係論の担当教授に適任である」とするものであったが、採用候補者の業績は「人事管理論」はもとより「労使関係論」についても科目不適合であり、経営学科の教授としては不適格であった。馬頭は「業績評価報告書(重要な公的文書)の虚偽記載」により教授会を欺いた。


四 処分の違法性
1 馬頭は、委員会の結論に従って業績評価書を作成したにすぎない。業績評価書を主査以外の者が作成してはならないという規程もない。主査が委員会の議決に添った評価書の作成を拒否したため、委員会の意向により副査馬頭が作成したのである。馬頭が委員会の決定に添う業績評価書を作成したのは当然のことである。このことで処分するなど到底許されるものではない。

2 馬頭は業績報告書で、「採用候補者が本学の労使関係論の担当教授に適任である」とした。これについて被告は、採用候補者は「労使関係論」を担当する経営学科の教授としても不適格であり、馬頭は公的文書である業績報告書に虚偽の記載をしたと主張している。だが、馬頭が作成した業績評価書には虚偽の事実など記載されていない。被告は虚偽記載の事実を全く明らかにしていない。被告は自己の誤った解釈との違いをもって虚偽だと述べているにすぎない。業績評価書には虚偽記載など存在せず、これを理由に懲戒解雇処分にすることは明らかに違法である。

3 業績評価書について
(1) 被告は業績評価書について、次のように述べている。
@ 検討した12点の業績が何の業績かを述べず、経営学分野の業績ではないことを隠蔽しようとしている。
A 経営学に関係のありそうな部分を拾い上げて論文全体を経営学分野の業績であるかの印象を持たせ、教授会メンバーを錯誤に陥れようとしている。
B 経営学の中の「労使関係」を敢えて拡大解釈する誤りを犯している。
C 結論として、「労使関係論の教授として推薦する」根拠が全く希薄である。

(2) だが、被告の主張は根拠がない。
@馬頭の作成した業績評価書は採用者の業績内容を要約し、科目担当の適合性を明らかにしており、経営学との関連についても指摘はするが、経営学の業績でないことを隠蔽するような箇所などはない。業績評価書は、一般に理解されている人事管理論、労使関係論を想定して記載されている。
A教授会のメンバーを錯誤に陥らせようとしている部分もない。教授会では、被告主張の基本となっている主査の見解が文書で配布され、同人は詳細に反対意見を述べている。教授会の構成員はこれらの意見をふまえて判断しており、錯誤などありえないことである。
B被告は、公募科目は経営学の中の科目と主張し、公募科目二科目を事実上、労務管理論一科目にすり替えて論じている。労使関係論は経済学の系譜を引くもので「経営学の中の労使関係論」などという科目はない。このような誤った解釈を前提として、拡大解釈だと述べること自体が誤りである。
C業績評価書では労使関係論の業績が明らかにされており、その業績は人事管理論の基礎ともなるものである。推薦の根拠が希薄であるとする被告の主張は全く理由がない。

4 虚偽記載であるとする被告の主張について
被告は馬頭が業績評価書に虚偽の記載をしていると主張しているが、同評価書に虚偽の部分はない。被告は、評価書のどこが事実に反しているか何一つ明確にしていない。被告は自己の解釈と異なるから虚偽記載だと主張しているだけである。
以下、被告が主張する部分が悉く虚偽記載ではないことを明らかにする。

(1) 研究業績評価書「1概要」における虚偽記載、
@同評価書の「労使関係論(=労資関係論)」との表現
被告はイコールとしたことが意図的な誤りであるとしているが、学長もこのような理解はあると述べている。
A「労使関係論(=労資関係論)を軸にした」との表現
被告はこの表現も捏造であると主張しているが、候補者の業績や関心は、被告が主張するような経済学の中の技術論のみに限らない。この表現の方が正確であり、何らの捏造はない。
B「社会政策および工業政策(地域経済も含む)に係わっている」との表現
被告は「労働経済論、階級論、生産力論、技術論、分業論」に係わっているとしているが、候補者の業績全体の捉え方は評価書の方が正確である。
C「この分野においては屈指の研究者」との表現
被告は、「この分野」とは何の分野か意図的に分からなくしていると述べているが、「この分野」とは、素直に読めば、「社会政策および工業政策(地域経済も含む)」以外に捉えようがない。●●教授がこの分野の屈指の研究者であることを否定する者はあるまい。
D「当該担当科目に関連するもの」との表現
この表現が何故に虚偽なのか全く不明である。このことについては、選考委員会でも問題とはされなかった。

(2)業績報告書における虚偽記載について(以下では論文名は略し,A,B,C…,第一論文,第2論文…と表記する)
@「A(第1論文)」
被告は、「賃金水準と格差構造を分析」した部分は総資本レベルの考察であり、経営学の業績ではないとする。だがこの論文は総資本レベルだけを扱ってはいないし、一体どこが虚偽記載なのか不明である。
A「B(第2論文)」
被告は、(人事管理生誕の過程)という表現は副査が勝手に付加したもので、原論文にはないから虚偽記載であるというが、これは、馬頭の評価を記述したものであり、●●教授の文章に勝手に加筆したものではない。
また被告は、「星野芳郎は経済学の中の技術論の研究者である」と言うが、星野教授は現代技術史と技術論の研究者であって、「経済学の中の技術論」の研究者とはされてはいない。
更に被告は、「青水司『情報化と技術者』は産業技術論の書籍であり、『経営学では知られた』とは言えず虚偽の記載である」と述べるが、青水教授は経営学者(経営学修士)である。
B「C(第3論文)」
被告は、「資本による労務管理・・・」という引用文が、人事管理論として1本で通用する業績であるかのような印象を与えようとしているとするが、この記述でそのような印象を持つものなどあるまい。
C「D(第4論文)」
被告は「企業内の技術的労働過程を考察」は捏造の記述であるとし、原論文では「社会的総資本の生産過程において」となっていると述べているが、原論文の要約として上記の表現を用いたもので、捏造の記述は全くない。
D「E(第5論文)」
被告は、評価書で「生産過程に即した労働の質的編成と量的均衡」「労働編成における等級制と賃金の階梯との対応関係」を考察したとしているが、考察していないから捏造であると述べている。しかし、この「対応関係」について、同書65〜69頁で考察しているのは明らかな事実である。
被告は、●●教授は「スミスにはこの点が欠落していることを指摘しているに過ぎない」と言うが、●●教授は、スミスの分業論をバベッジやユーアの労働編成論と比較し、詳細に論述している。
被告は「井上清」は経営学者ではないと述べているが、同氏は大阪経済大学経営学部経営学科の教授で、『アメリカ企業形態論』や『工業生産と管理の理論』などの著書がある著名な経営学者である。
E「F(第6論文)」
被告は、「・・・体系的に考察することの経済学的意義を」は、原文では「・・・最初に体系的に考察したのはAスミスである」となっているから虚偽であるとするが、評価書の当該部分は引用文ではない。被告は●●論文に上記の文章があることを奇貨として虚偽であると述べているに過ぎない。
F「G(第7論文)」
被告は「彼の工場制度論が」は意図的な誤りで「正しくは分業論である」とするが、原論文でも工場制度の問題として論じている(179頁)。英国産業革命期に展開された分業論を工場制度論と理解するのは学問上の常識である。
G「H(第8論文)」
被告はこれに関する記述のどこが虚偽であるか一切述べず、これは労働経済論の全国レベルでの労使関係論に関する業績であると述べている。馬頭の記述には、どこにも虚偽はない。
H「I(第8論文)」
被告は「ショップ・ステュワード(職場委員)を中心とした運動」に関する記述は、中心ではなく、新しい動きの一つとして指摘しているにすぎないから、これは意図的な誤りであるとするが、新しい動きとして、職場委員を中心とした運動が起こったということであり、何ら誤りはない。
I「K(第9論文)」
被告は「賃金、格差構造、技術の3点から80年前後の『資本と賃労働の対抗関係』を見る」について、でたらめな記述であると述べるが、どこがでたらめか不明である。論文を素直に要約したもので、記述に誤りはない。
J「L(第10論文)」
被告は、同論文は経済学の中の●●論の業績であると述べているが、仮にそうだとして、どこが虚偽記載なのか全く不明である。
K「M(第11論文)」
被告は「テイラーやフォードシステムと比較しながら」との記述は、比較していないから捏造的記述であるという。しかし、●●教授は1950年代のオートメーション(フォードシステムやテーラーシステムの展開)とマイクロエレクトロニクス革命を比較して、今日の生産構造と技術革新を捉えており、比較していないとすることこそ失当である。

(3)被告は、研究業績評価書の総括部分のうち「賃金水準、労働力の格差構造および技術の3側面からする『資本、賃労働関係』についての部分」は、でたらめな捏造の記述であると述べている。しかし、これがどうして捏造なのか不明である。●●論文をみても評価書の記述には捏造部分はない。
また、被告は「労使関係論(政府、資本家、経営者、労働者、労働組合の利害関係、相互関係、協力関係などを分析対象とする)」は、経営学の中の労使関係を拡大解釈し、経済学レベルの労使関係と同じように記述しているもので、重大な誤りであると述べている。しかし、公募した「労使関係論」は「経営学(労務管理論)の中の労使関係論」ではない。被告は公募科目を労務管理論にすり替えた上で、これを拡大解釈する重大な誤りだとしているに過ぎない。
被告は、「労使関係論は人事管理論から分かれたものである」とするが、そのような学説はない。更に、「労使関係論は広義の労務管理論の一部である」とするが、そのような学説もない。「労使関係論」は経営レベルの労使関係を研究する学問だと定義するが、それは、労使関係の実態や労使関係研究を知らないものの独断である。
「労使関係論の担当教授に適任である」としたのは「重大な誤り」であると述べているが、その判断の学問的根拠を示してない。

(4) 以上のとおり、被告は自己の一方的見解に基づいて業績評価書に誤りと捏造があると述べているにすぎず、業績評価書のどの部分が真実に反するのか全く明らかにしていない。上記処分理由は全く根拠がない。

5 資質、品格について
(1) 被告は馬頭についても資質、品格に問題ありと主張し、委員会で主査に対して大声で暴言を繰り返したとか、威圧を与えたなどと述べている。被告が述べている委員会での議論の内容からも理解されるとおり、馬頭は主査に対し暴言を吐いたり、威圧を与えたりしたことはない。第5回と第8回の委員会で、原口主査に抗議しただけである。前者は、第4回委員会で●●教授の論文を検討すると決めたにも拘わらず、その追加論文コピーの配布を事務局に命じて勝手に差し止めたからである。(しかもそれらの論文は主査と馬頭が協力して選定したものであった)。委員会で決めたのに主査が勝手に差し止めるのは委員会の決定に反するものではないか、選定論文の未読は2回目であると述べ抗議したのである。主査のこのような行為により、第5回委員会は事実上流会となった。後者は、主査が馬頭の作成した業績評価書について、根拠もなく捏造であるなどと暴言を吐いたからである。主査は、業績評価書における捏造部分など全く明らかにしなかった。
(2) 主査に対する強要、恫喝がなかったことは、同主査が選考委員会において自己の意思を十分に表明しているばかりではなく、当初述べていた自己の意見を後になって平然と覆すような態度をとっていることからも明らかである。主査は選考委員会での投票後、「一旦投票を行い、出た結果は都合が良かろうが悪かろうが受け入れるのが民主主義のルールと思います」と委員長の田尻に書面で告げているのであるから(乙第15号証)、その立場を貫き、選考委員会の決定を尊重して業績評価書の作成に協力すべきであったにも拘わらず、これを拒否した。このように、原口主査は自己の意思を思うままに貫いており、強要、恫喝があったという同主査の説明は悪意に満ちた作り事である。

6 以上の通り、原告馬頭は選考委員会の副査として忠実にその義務を果たしており、同人が業績評価書を作成したのは委員会の意思に基づくもので、業績評価書の内容も全て誠実に作成されている。
馬頭に対する懲戒解雇が違法であることは誰の目にも明らかである。


五 原告八尾の処分理由
原告八尾に対する懲戒解雇理由は5点挙げられているので、逐一反論する。

1 議事運営
(1) 八尾は、採用人事「人事管理論および労使関係論」に関する審査教授会が行われた際の学部長であったが、委員会運営の不当性を指摘する教員の意見を無視し、委員会報告を是とする形で議事運営を行い、教授会審議を誤った結論に導いたと、被告は主張している。
(2) だが、上記教授会では教員選考委員会から推薦された採用候補者について相当時間をかけて議論がされた後、採決がなされている。八尾が委員会の報告を是とする形で強引に議事を進行させたという事実はない。むしろ八尾は、反対意見を尊重し、原口主査が自己の業績評価資料を配布することを認め、30分にもわたり反対意見を述べさせている。その後の審議を踏まえ、規程に基づいて投票で結論を出したのである。その結論が誤ったものであったというのは、それこそ教授会を蔑ろにし、大学の自治を蹂躙するもので、議長をこのような理由で処分するなどおよそ考えられないことである。(なお、教授会が決定した採用候補者は、学長の判断により不採用とされている。)

2 経営問題介入
(1) 第2に、八尾は経済学部長として参会していた大学院開設準備委員会及び新学部開設準備委員会において、一貫して経営問題に介入し、議長であった学長の指示に従わず議事進行を妨げたとされている。
(2) 八尾が経済学部長として大学の将来を懸念し、準備委員会等において財政的な見地から意見を述べたことは事実である。だが、八尾はこれらの委員会において議事進行を妨げたことはないし、それにより大学院開設や新学部開設が遅滞したこともない。新増設計画については、八尾だけではなく多くの教員が大学の将来を案じ、種々の意見を表明していた。被告はこれらの意見にも耳を傾けるべきであった。学則では「大学の機構、組織並びに制度」に関する事項は大学評議会の協議事項と定められており(同40条)、慣例として教授会でも審議がなされてきたにも拘わらず、被告は教授会や大学評議会での審議を認めようとしなかった。八尾が意見を述べたり学長に参考資料や書簡を送ったりしたのは、ひとえに大学の将来を慮ってのことであり、決して処分されるようなことではない。

3 教授会の越権的審議の主導
(1) 被告は、理事会で決定された新学部(国際文化学部)の設置を否決した経済学部教授会の越権的審議を主導したと述べている。
(2) だが、経済学部教授会が越権的な審議をしたという事実はない。新学部設置に関わる学則改正案を学則の定めに従って審議したに過ぎない。それが過半数の賛成を得られなかったのは、被告が教授会の意見を尊重しようとしなかったからである。またそれは、教授会の中に新学部設置について心配する意見がかなり多くあったことも意味している。新増設についての最終的な決定権は学園理事会にあるとしても、それについての意思表示は自由な筈である。いずれにしても、学則に従った教授会運営を八尾に対する処分理由とすることはできない。

4 文書等の送付
(1) 被告は、八尾が大学院・新学部増設の計画について、恣意的なデータに基づく文書を作成し、繰り返し学内外の多数者に送付したと主張する。
(2) しかし、八尾が文書を無関係な人々に送付したという事実はない。八尾は、被告大学での新増設計画について財政見通しの面から心配して、これに関する資料や試算表、文書などを作成したが、それらを提出または送付したのは、学長、理事長、伊東顧問、S委員など、被告大学の機構改革と将来計画に関わった人々に対してである。学長には、かなり多くの資料や文書を提出したが、それを「止めて欲しい」と言われたことはない。逆に理事長からは「いろいろ資料などをいただいて・・・」と言われたこともある。ただし、八尾の慎重論は受け入れられず、大学院と新学部の開設計画は予定通り実現された。
被告は、八尾が赤字予測をしたデータは、誤謬が事実によって明らかになった恣意的なものであったと述べているが、八尾が作成した主な試算表には参照資料や試算方法などが示されており、その後の事実は八尾の試算が誤謬でなかったことを示している。
(3) 平成12年度に新学部が開設されてから大学の消費収支決算書は配布されなくなったが、それまでの資料とその後「学園だより」などで示された決算書と予算書は、平成12年度以降、大学の黒字が収縮し、学園全体の消費収支が厳しいものに転化したことを示している。しかもこの間、大学・短大では定年の大幅な引下げや授業担当(基準コマ数)の引上げなどが行われ、「経費の全面的な見直しによる支出削減」が進められているのである。
  被告は平成14年3月末の「処分通知書」で、八尾の「赤字予測」は「その誤謬が事実によって明らかになった」と述べているが、それは明白な虚偽であり、そのような前提の上に行われた処分の不当性を示すものである。
八尾が大学の将来を心配して学長などに信書で意見を述べたことが処分理由になるのであれば、信書の自由すらなくなる。

5 大学改革の妨害
被告は、原告八尾が学園改革と大学運営を妨害したと主張しているが、その言動はどのようなものであったかについて述べる。
(1) 八尾が、新増設計画等について、理事長及び学長に対して経営計画の見通しに関する個人的意見を述べた書簡を送ったことは事実であるが、そのようなことが処分理由でありうるとは考えられない。八尾は新学部設置について再考をお願いしただけであり、迫ったということはない。被告は、八尾の行為は学園の一職員としての権限を逸脱した行為であると述べているが、八尾はそのために自己の権限を行使したわけではない。
(2) 被告は、八尾が鹿児島大学でのシンポジュウムに参加し、「私の勤務校である経済大学の場合は・・・先が約束されていない新設や増設のために巨額の投資をしているように見える」と述べたとし、就業規則に抵触すると主張する。しかし八尾はそのようなことを述べてはいない。最初に「役職者としてではなく、個人として発言します」と断った上、「私の勤務校である経済大学の場合は、一応黒字を出しながらやっているが、全国の私立大学を見ると、・・・・先が約束されない新設や増設のために巨額の投資をしているように見える」と発言したのである。被告は事実を偽ってこれを処分理由としており、悪質という他はない。
(3) 被告は、原告八尾が学長に対して自分の意見を押しつけようとし、それが容れられないとみるや、学内外の者に対して学長批判を繰り返したと述べているが、被告が述べているような事実はない。被告は、学長への勇退を進言した書簡について、名誉毀損やストーカー的行為にあたると主張しているが、そのような進言をストーカー的に繰り返した事実はない。
いずれにしても、相手を信頼して出した私的な書簡が処分の理由になり得ないこと、就業規則に抵触するものでないことは明らかである。
(4) 被告は大学院と新学部の開設に至る経緯を詳述し、そのための準備委員会の委員長である学長が議長として「経営見通しや財政問題にかかわることは本委員会では検討しない」旨表明したにも拘わらず、八尾は財政問題を持ち出して、これに従わなかったと述べている。
だが議事録を見ても、議長がそのような方針を表明したという記録はない。逆に議長は、「新学部開設準備委員会では、・・・・財政的なものを考えなければならない」(第1回「議事概要」7頁)と述べているのである。大学の将来計画を具体化するための委員会で、財政見通しを考慮するのは当然である。
但し、八尾が議長に従わず、このことばかりを論じて議事を妨害したなどという事実はない。原告八尾が被告大学の将来を心配したのは、被告大学に対する愛着が大きく、大学と学園が近隣私学のような経営危機に向かうことがないようにと願ったからであり、そこにはいささかの私心もなかったのである。

六 処分の違法性
  以上の通り、原告八尾に対する処分理由は全く存在せず、本件懲戒解雇は明らかに違法である。

第三 被告提出の準備書面(1)に対する認否・反論 (この部分14ページ割愛)

第四 被告準備書面のうち処分の経過を詳述した4月4日付の「準備書面(2)」などについては、追って認否し反論する予定である。