本訴裁判 原告側(三教授側)口頭弁論
 

第1回口頭弁論意見陳述(2003年)

 

 

 

 

 

意見書


平成15年1月20日

原告代表 田尻  利

原告を代表してわたくし田尻利から,冒頭にあたり,意見を述べさせていただきます。

1.教員選考委員会の委員長田尻と副査馬頭忠治の懲戒理由は,委員会が教授会に推薦した候補者の業績が「人事管理論」はもとより「労使関係論」についても科目不適合であるとされています。両科目ともに不適合の候補者を教授会に推薦したことが今回の処分の大前提になっているのです。しかし,理事会のこの判断はまったく一方的なものであります。委員会審議のなかで,労使関係論については,主査を含めて,この候補者の科目適合性に異議を唱える委員は一人もなく,採用候補者として面接することに全員が同意いたしました。この候補者は42点の業績と30年余の教育歴を有しており,応募者のなかでも群を抜く研究者でした。田尻と馬頭は,いまもこの候補者が人事管理論・労使関係論担当者として適格性があり,応募者のなかで最良最適の人材であったと考えております。候補者の科目適合性については,この科目の専門家の多くがわたくしたちの見解を支持しています。「鹿児島経済大学教員選考規程」および「鹿児島経済大学教員選考規程経済学部施行細則」にもとづいて委員会は運営されました。

2.経済学部長であった八尾信光に対する第一の懲戒理由は,この人事案件を審議した教授会における議事運営が不適切であり,教授会審議を誤った結論に導いたこととされています。しかし八尾は,委員会提案に反対する教員たちと主査に充分な発言の場を与えたうえで,採決をおこなったのでした。八尾は少数意見を尊重した議事運営をおこない,「鹿児島経済大学教授会通則」にもとづいて採決をおこなったにすぎません。八尾については,ほかに大学の将来計画にかかわる言動が懲戒理由とされています。将来計画を策定する委員会の委員が,経営見通しについて質問をし,意見や要望を述べるのは当然ではないでしょうか。

3.新たに教員を採用しようとする場合,研究業績などを評価することがまず必要ですから,これは教員でなければおこなえない仕事であり,教育と研究に関する事柄であります。わたくしたちの委員会は規程にもとづいて候補者を選定し,教授会はその候補者の採用を決定しました。これまで,教授会の決定は一貫して尊重されてきました。ところが,学長と理事長は教授会が決めた候補者の採用を取り止めました。委員会・教授会の判断を,まず一方的に否定したのです。委員会の審議・運営に問題があるというのであれば,教授会または評議会のもとに調査機関を設置し,事態の究明にあたるべきでした。ところが,理事会は,こうした過程をいっさい踏むことなく,理事会のもとに設けた鹿児島国際大学問題調査委員会において,わたくしたちに対する事情聴取をおこないました。鹿児島国際大学においては,理事会が教育・研究の分野に直接介入したことはかつてなく,教職員は理事会の良識に信頼を寄せてきました。田尻は本学に勤務すること30年を越えますが,理事会が教育・研究の分野に介入した事例は今回がはじめてであります。事態の異常性がきわだっています。

4.このたびの懲戒処分は,理由と手続きにおいてとうてい承服できるものではありません。わたくしたちの委員会の判断と運営に関して,3名の委員が懲戒処分を受けました。ほかに1名がなお処分審議中にあります。八尾は教授会運営を理由として懲戒処分を受けています。教育と研究に関する事柄が懲戒処分の理由とされているのです。しかも,この処分は大学教員に対する懲戒処分であるにもかかわらず,必要とされる手続きがとられていません。解雇にせよ,減給にせよ懲戒処分を受けるということは,教員にとってきわめて重大な不利益処分であり,慎重に処理されなければなりません。この問題は教授会および大学評議会において審議されるべきでした。大学教員の身分を保障した教育基本法,大学の重要事項は教授会で審議されるべきと定めた学校教育法,教員の身分保障を厳格に定めたユネスコ「高等教育の教育職員の地位に関する勧告」などの精神からみても,理事会の処分は理不尽といわねばなりません。

5.わたくしたちには,懲戒処分を受けなければならない理由はひとつとしてありません。処分通知書には就業規則上の根拠は示されていませんでした。各自がそれぞれの職責をまじめに全うしたにすぎないのです。委員会や教授会などにおける教員の判断や言動が,就業規則上の懲戒処分の対象とされてよいのでしょうか。教授会や委員会における発言や判断がただちに懲戒処分の対象にされるのであれば,大学内の言論は封殺され,学問の自由は失われます。教育・学問の府としての大学の死を意味するのではないでしょうか。

6.鹿児島地方裁判所が仮処分において「解雇は無効」と判定を下されたのちも,大学当局はわたくしたちの教授としての地位を認めようといたしません。わたくしたちと家族は懲戒解雇された者という汚名を着せられ,言葉につくせない苦痛と不安を強いられてきました。わたくしたちは,一刻も早く大学に復帰し,教育と研究に専念いたしたいと願っています。貴裁判所の公正かつ迅速なご判断をお願い申しあげます。

以上

(上記意見書における注記)
この意見書は,第1回口頭弁論において,そのまま読み上げられたものでなく,裁判長,傍聴人が理解しやすいように,捕捉されている。上記の文書のなかで,「この候補者は42点の業績」とありますが,口頭弁論では「この候補者は,公募科目に関連するだけで,42点の業績」と述べられている。