仮処分裁判 学園側「答弁書」(2002年4月23日)より抜粋

 
学園側「答弁書」にみる田尻教授の懲戒事由 

(2)解雇事由について

 @ 申請人田尻について
 イ 申請人田尻は,上記選考委員会委員長として審査を主宰するにあたり,公募書類に記載された内容と異 なる審査方法を進めた。
 即ち大学における人事,殊に教員の選考人事は大学における教育・研究の根幹にかかわることであり,これ をゆるがせにすることは大学の存立にかかわる重大事である。人事の選考手続の進め方は勿論,採用候補者 の業績及び専門分野についても採用を予定している教員の資格,担当科目に照らし適格であるかどうかが厳 正に審議されなければならず,選考手続に不透明,不合理な部分があり,業績や専門分野の審査が正しく行 われなければ,大学の教育・研究に重大な支障を及ぼすこととなり,ひいては大学の存立をも危うくすることは 明かである。
 なぜなら,教育・研究を本務とする高等教育機関である大学にとっては,すぐれた研究者であると同時に教育 上適切な資質をもつ教員を採用することが死命を決する課題であることは言うまでもないが,その場合,最も重 要な観点は「学部・学科の教育課程の編成にあたり,重要な基本的科目にそれぞれ最も適合する担当者を置く こと」になければならないからである。もしこの点に対する配慮が充分でなければ,大学の教育内容は劣悪なも のとならざるを得ず,教育の質の低下を招くことは必至である。
 したがって,大学教育に携わる者は,教員組織のなかにその専門性が科目適合性を満たす人材を擁するか 否かということに最も意を用いなければならない。大学にとってはすぐれた人材こそ最高の財産であるが,単に すぐれた研究者を擁するというだけでは充分でない理由は,大学教育にはそれぞれの学部・学科の教育目的 を達成するための調和ある教員組織が必要であるという点にある。本件採用人事の採用候補者となった人の 業績は経営学に含まれるものではなく,経済学に属する「社会政策」あるいは「労働問題論」に関するものであ るが,本学経済学部には,その分野についてすでに優秀な専門家が配置されている。にも拘わらず,本件採用 人事の教員選考委員会が科目不適合を敢えて無視してまで,新たに同一分野の研究者を推薦してきたこと は,大学経営にゆゆしい損害を与える行為であるのみならず,教育を受ける学生に対して無責任であるとのそ しりを免れない。
 しかるに申請人田尻は,本件採用人事は「人事管理論および労使関係論」という担当科目で公募され,上記 科目についての教員選考委員会委員長であったにも拘わらず,上記事実経過記載のとおり委員会の審査が行 われる中で,主査であった原口教授から採用候補者についての科目適合性に疑問が呈せられるや委員会内 だけの審議により担当科目中の「人事管理論」を削除し,「労使関係論」のみを取り出した形で審査を行うことと し,しかも,原口主査の反対にも拘わらず,教授会に対し採用候補者につき,「労使関係論」の教授として推薦 したもので,かかる行為は,単に選考手続の瑕疵というに止まらず,広く大学の社会的信用を低下させ,名誉 を傷つけるものと言うべきである。
 何故ならば,申請人田尻らが行った採用科目の変更は,採用科目を見て公募に応じた者に対しても,又それ を見て応募をあきらめた者に対しても,不公平な扱いになることは明らかであり,大学自体が対外的に無責任 というそしりを受けることを免れないからである。
 即ち申乱入の上記行為は,就業規則38条2号の禁止事項に定める「職務上の権限をこえ,又は権利を濫用し て専断的な行為」に該当する。
 ロ 不適切な委員会運営を行ったこと
 i 上記事実経過のとおり教員選考委員会においては,第3回委員会まで採用候補者を1名に絞り,第4回委員 会で候補者に面接のうえ,投票による採決を実施した結果,賛成4,反対1となり,教員選考規程によれば採用 を可とする結論となった。
 かかる場合委員長としては,慣行的にも又規則に照らしても,速やかに委員会の審議結果を教授会に報告 し,教授会の審議に委ねる手続を採るべきところ,申請人田尻は,投票結果が全員一致でなかったこと,しか も反対票が主査の票であり,その理由が科目適合性の点で不適格であるということであったことより,そのまま これを教授会に報告すれば教授会が紛糾し,採用候補者の採用が危うくなることを恐れ,主査の反対をくつが えす目的のもと,委員会審議の継続再開にふみきった。
 ii 再審査隼ふみきった彼の委員会運営においても,飽くまで科目不適合性を理由に反対意見を表明する主 査に対し,申請人田尻は他の委員らと共に主査に対し「主査を降りるように」迫ったり,「副査の書いた業績報 告書に主査も連名するように」強要したりした。
 申請人田尻の上記i及びiiの行為は,上記イと同様就業規則38条2号に該当する。

 
 

 

 
学園側「答弁書」にみる馬頭教授の懲戒事由

A 申請人馬頭について

 イ 同申請人は上記選考委員会の副査であったが,公発した担当科目は「人事管理論および労使関係論」で あり,面接を行った採用候補者について,同委員会の主査が担当科目不適合を理由にその採用に反対の意 見を表明したことから,同申請人が教授会に提出する研究業績評価書を作成することになったが,同申請人が 作成した評価書は公募した担当科目が上記のとおり二科目であったにも拘わらず,採用候補者は「労使関係 論」の担当教授に適任であるとするものであった。
 しかしながら既述のとおり公募形式の採用人事において,選考委員会だけの審議により,担当科目の「人事 管理論」を削除して「労使関係論」のみで採用を可とすることは,単に手続上の瑕疵に止まらず,著しく社会的 公平性を欠き広く大学の社会的信用を低下させ,名誉を傷つけるものであるところ,申請人が主査の意見を無 視して,敢えて上記評価書を作成したことは,就業規則38条2号に該当すると言うべきである。
 因みに採用候補者の業績については,客観的にみる限り,経営学科の担当科目である「人事管理論」はもと より「労使関係論」としても不適格と判断せざるを得ず,仮に申請人馬頭がそのことを承知のうえで上記業績評 価報告書を作成したとすれば,就業規則38条2号はもとより,同条1号の「職務上の地位を利用し,自己の利益 を図ること」にも該当することになる。
 ロ 申請人田尻の不適切な委員会運営に加担したこと
 選考委員会の議事運営に委員長が責任を負うべきは言うまでもないが,本件採用人事に関する選考委員会 では,「公募科目内容を勝手に変更したこと」,「委員会としての結論は第4回委員会の投票で一旦出されたに も拘わらず,第8回まで延長して主査の反対意見を変更させようとしたこと」,「主査に辞任を強要し,あるいは 副査の作成する評価書への主査の連名を迫ったこと」等,大学の教員選考委員会としては概そ考えられない 不当な議事運営がなされており,この間申請人馬頭も一貫して委員長の不適切な議事運営を支持し,特に主 査に対する辞任や評価書への連名の強要については,申請人自らも積極的,主導的役割に加担しており,こ れらの行為は就業規則38条2号に該当する。
B 申請人八尾について
 申請人八尾は,上記公募による経済学部経営学科採用人事に関する審査教授会が行われた際の学部長と して議長を務めた。この教授会において,副査が作成した業績評価書と主査が準備した業績評価書とが,採用 候補者の科目適合性をめぐってまっこうから対立している事実が判明した。このとき申請人は議長として,教授 会で明白になったこの事実を極めて重要視しなければならなかった。さらに,副査が作成した業績評価書にもと づいて,「労使関係論」のみで可とする選考委員会報告に対して,「業績評価報告書が副査の作成したものであ ること」,「投票後にも委員会が継続されていること」,「助教授から教授への委員の交替が教授会の承認を得 ていないこと」,「公募科目が2科目から1科目に変更されていること」等,委員会に対する多くの根本的疑念が 指摘された。にも拘わらず,申請人は委員会報告を是とする方向で議事を運営し,強引に投票に持ち込もうと した。このため,主査を含む教員7名が投票行為の不当性のみならず,この採用人事そのものの不当性を訴え て退席するなど紛糾するなか,申請人は投票を強行した。その結果,投票総数32票中,委員会提案に賛成17 崇,反対7票,白票7票,無効1票となった(乙13)。
 この結果は,反対,白票及び退席者らの委員会提案に批判的と考えられる教員数が賛成者数を超えることを 意味する。したがってこれは,多様な意見をもつ教授会構成員のコンセンサスにもとづく表決とは到底みなし得 ないことは明白である。その意味で,本件採用人事の投票行為は著しく妥当性を欠くばかりか,申請人の議長 としての議事運営は専断的であったと断ぜざるを得ない。
 この点は就業規則第38条2号に該当する。

 
 

 

 
学園側「答弁書」にみる八尾教授の懲戒事由

3 申請人八尾に関するその他の懲戒処分事由について

(2)懲戒事由について
 @ 大学改革事業に対する妨害
 申請人八尾は,学部長のひとりとして「大学院開設準備委員会」および「新学部開設準備委員会」に参加し, 大学改革について教学的観点からの意見を述べる立場にあったが,その席において上記委員会の審議事項と は関係のない,被申請人の経営問題についての独自の意見を繰り返し陳述し,自らの意見が委員会委員の賛 同を得られないとみるや,最高責任者である理事長および大学学長に対して,経営計画の見通しを批判する個 人的意見を述べた書簡多数を送りつけ,学園改革事業の妨害を図った。
 特に1999年(平成11年)1月27日付理事長宛書簡(乙 59−2)において,新学部設置にかかわる文部省への 第一次申請手続が終了した後においても「申請を取り下げるように」と迫っている点は,一学部長としての立場 を弁えない越権的行為であると共に,自ら新学部開設準備委員会の委員でありながら,委員会の全体的結論 に基づいてなされた申請手続についてこれを取り下げるよう個人的に理事長に求める極めて無責任かつ専断 的行為であり,これら申請人の行為は,就業規則38条2号に該当する。
 A 理事会で決定された新学部(国際文化学部)の設置について,これに伴う学則改正案を平成10年の第6 回経済学部教授会の協議に付し,一部教員からこのような理事会決定事項については投票による採決は適正 でないとの指摘にも拘わらず,投票による採決に持ち込んで学則改正案を否決することによって理事会決定事 項の変更を迫ろうとした(乙69)。
 即ち,上記学則の改正とは,上記理事会の決定に基づいて大学に置く学部について,それまでの経済学部と 社会学部の二学部に国際文化学部を加えるだけの極めて形式的変更であったが,旧学則の規程上学則の改 廃は教授会の協議事項とされていた(乙32−1,38条4項1号,乙32−2)ことを利用して,事実上理事会の決定 事項を変更しようとしたものである。
 なお上記旧学則の規程は,かつて大学が鹿児島経済大学と称して経済学部のみを置く単科大学であった頃 の規程がそのまま残されていたものであって,その後大学が社会学部(現福祉社会学部),大学院等を設置し て総合大学となった以上,学則の改廃という全学的事項については全学的管理機関である大学評議会の協議 事項に変更されるべきものであったものであるが,申請人は偶々旧学則の条文がそのまま残されていたことを 奇貨としてこれを経済学教授会の協議に付し,しかも自らも否決する側に参画して上述(1)のM記載のような投 票結果を導いたもので,申請人のかかる行為は就業規則38条2号に該当する。
 因みに社会学部教授会においては,一応旧学則の規程に則り,学則の改正案として協議には付されている が,実質的内容は理事会決定事項とのことでその報告と承認という形で終わっている。
 B 大学改革事業に対する申請人個人の意見が容れられないとみるや,学長はじめ学内者および学外者に 対し,以下のとおり上司である学長を非難し,あるいはその名誉を傷つける文書を送付した。
 i 学長に対して:「学長は経営問題を無視しており,学園理事のひとりとして無責任である」,「学長のやり方は 教授会を無視した非民主的なものである」,「学長は学者としては立派だが,経営者としては失格である」という ような発言を大学評議会や経済学部教授会で繰り返し,また同一趣旨文書を学長宛執拗に送りつけ(その数 は計41通に上る,乙58−1〜41),特に2000年(平成12年)4月25日付で送付した書簡(乙58−24)は,「先生 は,この機会に御自身の判断で進んで勇退を決意された方がよいのではないかと思われます。一年後には(今 回の大学改革による)赤字が消費収支計算書にはっきり現れてきますし,それ以後の計画によって,この赤字 が破滅的な規模になるだろうということも,知られるようになってこざるを得ないだろうと思われるからです。」と まで記載してある。
 ii 評議員に対し:2000年4月17日付文書(乙72)により,学長見解に対する反論という形で,学長に送付した書 簡及び申請人八尾が作成した「新設された国際文化学部の財政収支について」と題する前記と同様趣旨の文 書等を送付した。
 iii 学外者(瀬地山敏 関西大学教授,京都大学前学長,同名誉教授),(赤岡功 京都大学副学長,京都大 学大学院教授)に対し:平成2000年9月21日付で前記と同旨の文書(乙75−1)を送付し,特に瀬地山教授に対 しては「現学長に適切にアドバイスしてほしい」と述べた後で「本当は先生御自身が本学の学長になってくださる とありがたい」などと記載している(乙75−2)。
 これら申請人八尾の行為は,大学人としてはもとより,一般の市民としても他者の迷惑を顧みることのない非 常識かつ不条理なものであって,就業規則38条2号に該当する外,同36条1号「学園の名誉を重んじ規律を維 持し職員としての品位を保つこと」,同条2号「上司の職務上の指示に忠実に従うこと」に抵触し,又38条3号「学 園の不利益となるおそれのある事項を他に告げること」に該当する。
 因みに,申請人八尾は1999(平成11)年1月8日付けの理事長に対する書簡において,「新学部と大学院の設 置によって生ずる年々の赤字は6億円以上であり,学園全体の財政収支も6億円程度の赤字になる」(前掲資 料乙59−1参照)と述べ,また,2000(平成12)年4月 25 日付けの学長に対する書簡においても,「大学院経 済学研究科と国際文化学部だけでも,完成年度までに60億円近い学園資金の持ち出しが生じ,その後もこの2 部門だけで年々6億円程度の赤字が発生する」「一年後には,上記の赤字が消費収支計算書にはっきりと現わ れてきますし,それ以後の諸計画によって,この赤字が破滅的な規模になるだろう」(上掲資料乙76参照)と述 べている。
 しかし,平成14年3月19日付け本学園作成の「大学・短期大学部合計平成14年度消費収支試算表」および 「大学平成14年度消費収支試算表」によって明らかなように,平成12年度決算において大学・短期大学部合計 による消費収支差額(黒字)は277,643,000円,大学だけでは504,081,000円であり,平成13年度決算(見込 み)において大学・短期大学部総計による消費収支差額(黒字)見込みは 596,238,000円,大学だけでは 363,978,000円となっている(資料乙77参照)。これによって明らかなように,大学院や新学部の設置,また, 短期大学の改組転換等の改革によって,本学園の財政は赤字に転落してはおらず,むしろ,短期大学の財政 赤字によって発生することが予想された学園経営の危機的状況を回避することができたのであって,申請人八 尾の見通しは全く的はずれのものであったことは明かである。