仮処分裁判 懲戒事由に対する鹿児島地裁の判断

 
田尻教授に対する懲戒事由の判断 (2002年9月30日判決文より抜粋)

(ウ) 以上の事実を総合すれば,債権者田尻について,債務者主張のうち,担当科目中の「人事管理論」を削除 し,「労使関係論」のみを取り出した形で審査を行うこととしたとの事実,原口主査に対し,主査を降りるように 迫ったり,副査の書いた業績報告書に連名するように強要したとの事実はいずれも認められない(乙25−2等 によれば,債権者田尻又は債権者馬頭が大きな声を出したことが窺えるが,強要等が行われたとまで認める に足りない。)。

また,債権者田尻が投票による採決の結果が出た後も審議を継続したことは認められるが,候補者の業績を 更に検討しようとの意図の下に行われたものであると認められ,債務者主張のように,採用候補者の採用が危 うくなることを恐れ,主査の反対をくつがえす目的があったとの事実を認めるに足りる疎明資料はない(本件大 学教員選考規程(乙4)14条の「委員長は,審査の結果をすみやかに教授会に答申しなければならない。」との 規定は,「採決の結果」ではなく,「審査の結果」とされているのであって,採決後,合理的な理由がある場合に, 相当期間審査を継続することまでも禁止しているものとは解されない。),

なお,債務者主張のうち,債権者田尻が本件教授会において,候補者を「労使関係論」の教授として推薦したこ とが認められるところ,原口主査以外の委員が候補者について人事管理論の教授としても適合性があると考え ていたのであれば,その趣旨の報告をすべきであり,候補者の人事管理論についての科目適合性を明らかに しなかったのは,不十分なものであったことは否めないが,本件教授会において原口主査から反対意見の陳述 が予定されており,実際に,そのような結果となったこと等に照らせば,懲戒解雇事由としての,本件就業規則 38条2号に該当するとまでは認められない。

 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
馬頭教授に対する懲戒事由の判断 (2002年9月30日判決文より抜粋)

(エ) 債権者馬頭についても,上記(イ)(ウ)の事実を総合すれば,債務者主張のうち,債権者田尻の不適切な委員 会運営を支持し,原口主査に対して辞任や評価書への連名を強要したとの事実は認められず(なお,乙7−2 等によれば,債権者馬頭は,債権者田尻と意見が対立していた点も多々窺われる。),候補者が「労使関係 論」の担当教授に適任であるとする内容の研究業績評価書を作成したことは認められ,この点は,上記(ウ)の 債権者田尻と同様,不十分な評価書となっているが,上記(イ)のとおり,当初の債権者馬頭作成の原案から,委 員会の意見で「人事管理論」 の記載が削除されたものであること,上記(ウ)と同様,本件教授会において,原口 主査から反対意見の陳述が予定されており,実際に,そのような結果になったこと等に照らせば,本件就業規 則38条2号に該当するとまでは認められず,同条1号に該当しないことは明らかである。

 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
八尾教授に対する懲戒事由の判断 (2002年9月30日判決文より抜粋)

(オ) また,債権者八尾について,本件教授会の議事運営については,上記(イ)のとおりであり,原口主査に資料 を配付させて詳細な報告をさせる等しており,債務者が主張するように,本件教員選考委員会報告を是とする 方向で議事を運営し,強引に投票に持ち込もうとしたり,主査を含む教員7名が退席する等紛糾する中,投票 を強行したとの事実は認められないのであって,本件就業規則38条2号に該当する事実はない。

また,大学改革事業については,債務者主張のうち,債権者八尾が,大学院開設準備委員会や新学部開設準 備委員会の席上,しばしば財政間題を議論したこと,学長,理事長,大学評議員に対し,経営計画の見通しを 批判する個人的意見を述べた書簡を多数送付したことは認められるが,いずれも本件大学の改革事業の妨害 を図ったものであるということまでを認めるに足りる疎明資料はなく,その方法等について,いささか社会的相 当性を欠いている面は否めないが,懲戒解雇事由としての本件就業規則38条2号,3号,同36条1号,2号等 に該当するとまでは認められない。

また,新学部(国際文化学部)設置に伴う学則改正案を教授会の協議に付したことは認められるが,特段問題 とすべき意図があったものと認めるに足りる疎明資料はなく,さらに,学外者に書簡を送付したことも認められ るが,その内容について,特段問題とすべき点は認められない。これらのほか,債権者八尾について,懲戒解 雇事由に該当する事実は認められない。