就業規則上の手続き違背

 

三教授側準備書面(2002年5月20日)より抜粋


第2 懲戒解雇の違法性

四.就業規則上の手続違背

 更に重大なのは、被申請人は、本件処分について自らが定めた就業規則上の手続きを全く守っていないこと である。すなわち、就業規則第55条は、懲戒退職(懲戒解雇)をなす場合、「所轄労働基準監督署長の認定を 経て、予告又は予告手当なしに直ちに解雇し、退職金を支給しない」と定めている。
 ところが、本件懲戒解雇について所轄庁である鹿児島労働基準監督署長の認定は全くなされていない。被申 請人自身、そのような理由がないと考えていたとしか思えないことについては既に述べた通りであるが、被申請 人は懲戒解雇を「予告又は予告手当なしに」直ちになしうることになっているにも拘わらず、解雇予告手当を支 払っているのである。被申請人は懲戒解雇事由がなかったため、予告手当を支払った上で懲戒解雇処分をな すという矛盾した行為に出ざるを得なかったのである。
 いずれにしても、被申請人は本件懲戒解雇処分について就業規則に定められた手続を履践していないことは 間違いない。したがって、被申請人の本件処分は就業規則にも反する違法なものである。

 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
三教授側準備書面(2002年7月25日)より抜粋

二.適正手続違背

3 就業規則上の手続違反

(1) 既に述べたとおり、債務者が教員を懲戒解雇するためには、債務者学園の就業規則第55条に基づいて、 労働基準監督署長の認定手続を経なければならないとされている(疎甲第5号証)。就業規則に労働条件に関 する規程が存在する場合、同条件を一方的に不利益に変更することは出来ないとされ、これに反した場合には その効力は否定される(通説判例)。懲戒解雇は労働者の地位や財産を根こそぎ剥奪するもので、労働条件の 変更の最たるものであることは言うまでもない。したがって、就業規則上要求されている手続をなさないまま懲 戒解雇をした場合、実質上の不利益変更としてその効力は否定されると考えるべきである。なお、最高裁判決 は就業規則に法規範性を認めているから、これに反した場合には原則として違法、無効となると考えられる(最 判昭43.12.25 民集22−13−3459参照)。このことについて、「懲戒解雇を為す場合の手続きとして就 業規則で定められた一定の手続きがある場合には、それは制裁手続きを民主化したものとして、上記の手続 きを踏まない懲戒解雇を無効とするものと解すべきである」とされる(石井照久『労働法』251頁)。本件におい て債務者は就業規則上の手続を経ていないことを認めている。したがって、本件懲戒解雇は就業規則上の手 続きを踏まない重大な違反が存在するから、違法・無効であると解すべきである。
(2) このことについて、債務者は、「年度末を控え、教学上の措置、計画作成等で多忙のため認定手続を行う時 間的余裕がなかった」と述べている(乙第39号証、学長陳述書4頁)。本件は長年債務者のために貢献してき た教員らに対する大規模で苛酷な処分であるから、忙しかったから就業規則上要求される手続をしなかったと いうのは全く理由にならない。本件は債権者らの誠実な行為を債務者の一方的な評価判断の下に処分すると いう内容のものであるから、それが正しいか否かについて憲法・労働基準法に基礎を置く公的な機関の長の認 定を経なければならないことはとりわけ強く要請される。ところが、債務者は債権者らの2年も前の行為を今頃 になって処分した理由について、「慎重を期す必要があり、『規定上の手続き』を踏む必要があったからである」 などと述べている。就業規則所定の手続を履践することは当然、債務者の述べる『規定上の手続』に含まれる ことは言うまでもないから、就業規則上の手続をしなかったことについて、時間的余裕がなかったとする弁明 は、処分に慎重を期す必要があったということと矛盾するものである。
(3) そもそも多忙であったとか、時間的余裕時間がなかったということではなく、本件処分について監督署長の 認定が得られなかったというしかない。監督署長は事案の真相を調査して認定することになっているが、本件を 調査すれば解雇理由などないことは明白であるから、本件懲戒解雇処分を認定することなどありよう筈はな い。債務者は認定を得られなかったため、やむなく予告手当を支払わざるを得なかったものと考えざるを得な い。予告手当を支払ったことについて、債務者は温情的配慮であるなどと述べているが(乙第39号証)、これも 認定を受けられないことへの弁解にすぎない。債権者らの真摯な選考作業や議事運営を理由に懲戒解雇とい う想像も出来ないような処分をしながら、一方では温情的配慮をしたなど矛盾も甚だしいものである。債務者が 労働基準監督署長の認定手続きをしなかったのは、本件処分が余りに理不尽なものであったからに他ならな い。
以上のとおり、本件懲戒解雇は就業規則上の手続がなされておらず、これは重大な手続違背であり、その効力 を否定すべきである。


 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
学園側準備書面(2002年8月1日)より抜粋

3 (就業規則上の手続違反の主張につき)

申請人らは、債務者が教員を懲戒解雇するためには、債務者学園の就業規則第55条に基づいて、労働基準 監督署長の認定を経なければならないとされている。したがって、就業規則上要求されている手続をなさないま ま懲戒解雇をした場合、その効力は否定されると主張され、最高裁判決(最判昭43.12.25)を引用されてい る。(7月25日付申請人準備書面14頁以下)
 然し、就業規則において、懲戒解雇につき行政官庁の認定に関する定めがある場合の意味については、従 来論じられてきたのは次のとおりである.即ち、懲戒解雇は予告期間をおかないで解雇する、ただし行政官庁 は認定を受けないときは解雇予告手当を支払う、旨の規定がある場合は、あまり問題はない。
 次に、「懲戒解雇は行政官庁の認定を得て後行う」旨の定めがある場合は、「とくに懲戒解雇の事前に除外認 定を要する旨を明示したものであると理解され、懲戒解雇の恣意的な行使から従業員の地位を保障する趣旨 とみられるので、これと異なる慣行等特段の反対事情が認められない限り、除外認定を経ないでした懲戒解雇 は無効と解するのが相当である」と考えられている。
 そして、「懲戒解雇は行政官庁の認定を受けて予告期間を設けず、予告手当を与えないで解雇する」旨の定 めがある場合が問題となる。これについては、判例は分かれる。
 行政官庁の認定は懲戒解雇の効力発生要件でないとするものは、「右就業規則の規定が、労働基準監督署 長の認定を以って懲戒解雇の効力発生要件として定めたものでないことは規定自体に徴しても明かである。即 ち、右規定は使用者側の恣意的判断を排除するために設けられた労働基準法弟20条第3項の公法上の義務 を就業規則上において使用者の義務として亦定めたものであって、これがあるため解雇の効力を左右するもの とは解せられないとか、右条項は労働基準法第20条第1項但書、第3項、同法施行規則第7粂の規定をそのま ま要約してひきうつしたものにすぎず…従前から懲戒解雇の場合に右条項による除外認定を受けるべきことを 必ずしも明らかに認識していなかったことが認められるから、右条項の定めあることをもって、懲戒解雇の効力 を除外認定の有無によって左右さるべきものとして、懲戒解雇をなすにつき自律的制限を加えた趣旨のものと みることは相当でないというものである。
 これに対して、除外認定を解雇の有効要件と解するものは、右労働協約、就業規則上の規定は、文理上も除 外認定を受けずに予告手当を支払って懲戒解雇できる趣旨のことは全く読み取れないこと、就業規則中の労 働条件に関する規定は使用者の恣意的判断から労働者を守ることが最も重要な存在理由とされているのであ るから、その解釈に当っては、労働者を保護する方向に厳格になされなければならないことを理由に、労働基 準監督署長の除外認定を受けない懲戒解雇は、これと異って解釈すべき特段の事情の認められない限り、原 則として無効と解すべきであるとするものである。
懲戒解雇の意思表示は、行政官庁の認定を得ていなくても、その後除外認定を受けたときは、これによって懲 戒解雇は有効なものとなると解しているのが、判例多数説である。
「使用者のなす即時解常の意思表示の法律上の効力は専ら法第20条第1項但書所定の事由の存否にかかる 実体法上の問題であって、行政庁の認定の制度を設けたのは、使用者が労働者を解雇するに当り自己の恣 意的な判断に基いて即時解雇に値する解雇理由あるとして不当に平均賃金の支払を拒否しようとするのを防 止するためであって、これによって使用者を指揮監督し、以って労働者の保護を図ることが目的である。従って 行政庁の認定はそれ自体として使用者に何等の権利義務の効果を発生させるものでもなく、また平均賃金の 不払を正当づけるものでもない」というのが判例の立場である。
 労働基準監督者長の認定は即時解雇の有効要件とは解されないというのが、多数判例である。