仮処分裁判 債権者側(三教授側)書面
 
仮処分申請書

 

 

 

 

 

仮 処 分 申 請 書


平成14年4月5日
鹿児島地方裁判所 御中

申請人ら代理人

増 田   博

小 堀 清 直

森   雅 美

当事者の表示―別紙の通り
1 申請人らと被申請人との間に雇用契約上の地位があることを確認する。
3 被申請人は申請人らに配備された研究室を申請人らが利用することを妨害してはならない。
2 被申請人は、申請人田尻に対し、平成14年4月以降毎日20日限り1ケ月金▲▲万円、申請人馬頭に対 し、平成14年4月以降毎月20日限り1ケ月金▲▲円、申請人八尾に対し、平成14年4月以降毎月20日限り 1ケ月金▲▲円を仮に支払え。


申請の理由


第1 被保全権利
 1 被申請人は、教育基本法及び学校教育法に従い、大学、短大などの学校教育を行うことを目的とする学 校法人である。
 2 申請人らは、いずれも被申請人設立の鹿児島国際大学経済学部教授である。
 3 被申請人は申請人らに対し、平成14年3月29日付け「処分通知書」と題する文書により、いずれも「懲戒 解雇」処分に付した。
 4 懲戒解雇について
 解雇は被用者にとって職場を失い、被用者の生活基盤をを奪うという過酷な処分であるから、その濫用が厳 に禁止されていることは一貫した判例の態度である。それ以上に懲戒解雇は被用者の退職金を奪うばかりか、 将来の就職も事実上一切出来ない(懲戒解雇になった者を雇用するものはいない)という被用者にとって死命 を制する最も過酷な処分であるから、このような厳しい処分をなす場合、就業規則に定められた手続きが遵守 されることは勿論のこと、弁明の機会を与えるなど適正手続きに加え、懲戒解雇に値する厳格な事由が必要と されている。殊に、大学の場合には学問の自由、大学の自治の見地から教授会の議を経る必要があり、弁明 の十分な機会を与えた上、重大な処分事由がなければならないとされている。本件は、適正な手続きがなされ ていないだけでなく、懲戒解雇の事由も全くなく、ましてや懲戒解雇をする事由など何らない違法なものである。
  以下詳述する。
 5 懲戒解雇の違法性
 (1) 本懲戒解雇の不存在
1) 申請人田尻について
@ 申請人田尻に対する懲戒解雇理由は次の通りである。
 田尻は、平成11年度の経済学部経営学科採用人事「人事管理論および労使関係論」に関する教員選考委 員会の委員長であったが、その委員会においては、@公募書類に記載された科目のうち「人事管理論」を削除 し、「労使関係論」だけでも採用を可とする方向で審議がなされ、教授会に採用候補者を「労使関係論」の教授 として推薦したが、採用候補者の業績は「人事管理論」はもとより「労使関係論」についても科目不適合であり、 経営学科の教授としては不適格である。A第4回委員会で採用候補者と面接の上、投票をしたにも拘わらず、 その結果を速やかに教授会に報告することなく、第8回まで委員会を延長した。B投票において、科目不適合 を理由に「否」と投じた主査に対して、副査を交代すること、あるいは副査の書いた業績評価書に連名すること を迫ったなど、不当な議事運営が行われた。田尻はその不当な委員会議事運営を主導したというものである。
A 上記処分事由は、田尻が教員選考委員として不適格者を採用することを可としたということにある。そこ で、先ず教員の採用と教員選考委員会について述べる。
  被申請人大学が教員を採用する場合、公募の方法がとられるが、教員選考委員会で審査し、教授会が最 終決定することになっている。教員選考委員会は5名の委員で構成され、委員会の委員は教授会で選任され、 委員会では委員長、主査、副査が選任される。委員長は委員会を主催し、教授会に委員会報告をなし、主査、 副査は評価の対象となった業績報告書を作成するのが慣例になっていた。同委員会は、いわば教授会の諮問 機関的存在である。因みに選考委員会は多数決ではなく、4分の3以上の議決により適否を定めるのが慣例で あった。
B 申請人田尻は平成11年10月に選考委員に選任された。平成11年10月13日締め切りで、被申請人に 教授又は助教授の公募があり、その頃学部長から選考委員会を開催するように要請された。同委員会は平成 11年11月2日に開催され、申請人田尻が委員長に選任された。委員会では各委員が公募者の経歴、論文、 業績等を考慮し、各人がそれぞれの意見を述べた。その結果、採用候補者は適格と判断された。このことに関 し、被申請人は採用候補者が「人事管理論」「労使関係論」について不適格であるのに適格であると議事運営 を不当に主導したのは懲戒解雇事由にあたるとして田尻を処分したものであるが、選考委員会の構成委員は 教授4名、助教授1名であり、それぞれが独立して自己の判断によって採用候補者を評価し、意見を述べてお り、田尻が議事運営を不当に主導することなどありえないことである。そもそも採用候補者が不適格であると決 めつけて、これを適格者としたことが懲戒解雇処分の対象となるとする被申請人の態度は独裁的である。同候 補者に対し、業績、論文等優秀であるとした選考委員の判断こそ遵守されるべきであり、一方的に決めつけた 理由によって懲戒解雇がなされるのであれば、委員会の意味はなく、委員会において自己の意見すら言えなく なる。
C また、被申請人は田尻に対し委員会は8回にわたって開催されたが、被申請人は第4回委員会で投票がな されたのにも拘わらず、その結果を教授会に報告しなかったことを懲戒理由としている。教授会に報告するの は当然のことであるが、それは選考委員会の最終的な結論であり、4回委員会の段階では未だ結論は出てい なかったのである。この段階で教授会に報告する義務はなく、また報告しても無意味であり、教授会からも報告 を求められたことは一度もない。したがって、田尻が報告をしなかったということは何ら懲戒の理由となるもので はない。
D 更に、被申請人は田尻に対し、投票において「否」を投じた主査に対して副査と交代すること、あるいは副 査の書いた業績評価書に連名することを迫ったなどということを懲戒事由にあげているが、これはとんでもない ことである。この選考委員会において、主査は「否」の意見であったことから、業績評価書は作成出来ないと述 べた。これに対し、委員会は副査と代わって欲しいと要請したところ、主査がこれを拒んだため、主査に代わっ て副査が評価書を作成したものである。いずれにしても、田尻は選考委員長として忠実に職務をおこなったも のであり、これを理由として懲戒解雇が為されるなど唖然とするばかりである。
2) 申請人馬頭について
@ 同人に対する懲戒解雇事由は次の通りである。
  同人は平成11年度の経済学部経営学科採用人事「人事管理論及び労使関係論」に関する教員選考委員 会の副査であったが、?採用を可とする4名の意に添うべく主査報告に代わる業績評価報告書を作成した。?そ の業績評価報告の結論は「候補者が本学の『労使関係論』の担当教授に適任である」とするものであったが、 実際には採用候補者の業績は「人事管理論」はもとより「労使関係論」についても科目不適合とであり、採用候 補者はそれらを担当する経営学科の教授としては不適格と言わざるを得ない。その結果、同人は「業績評価報 告書(重要な公的文書)の虚偽記載により教授会をあざむく評価書を作成したと認められる。」というものであ る。
A これらは、全く処分事由にはあたらない。申請人馬頭は、教員選考委員として自己の見解を述べ、委員の 職責を忠実に行っただけのことである。委員会は採用候補者を適任とした。ところで、主査は「否」の意見であ ったことから、前述の通り業績評価報告書は作成できないと述べたため、やむなく副査であった申請人が同報 告書を作成した。このように、「主査報告に代わる業績評価報告書を作成」することは審議の経過においてあり うることである。これに対し、被申請人は、実際には「人事管理論」、「労使関係論」いずれも不適格であったの に「労使関係論」の担当教授に適任であるとしたことは「業績評価報告書」の虚偽記載にあたるとしているが、こ れは名誉毀損も甚だしいものである。なぜなら、選考委員会において各委員は採用候補者の履歴、業績すべ てに基づいてそれぞれの意見を述べ結論を出したものだからである。この結論に対し、被申請人が不適格であ ったなど一方的に決めることではない。もし、真に不適格であれば、最終判断は教授会でなされるのであるか ら、これにより是正されるだけのことである。それが大学の自治である。選考委員会が自主的に判断したことを もって、これが誤りであると決めつけ、懲戒事由とされるのであれば、もはや民主主義はない。また、選考委員 会の意味など全くないことになる。申請人馬頭が委員の職責を全うしたことが懲戒解雇の事由になるなど、まさ に前代未聞のことと言わなければならない。
3) 申請人八尾について
1 同人の懲戒解雇理由は次の通りである。
@ 同人は平成11年度の経済学部経営学科採用人事「人事管理論及び労使関係」に関する審査教授会が行 われた際の学部長であったが、委員会運営の不当性を指摘する多数の教員の意見を無視して多くの疑義ある 内容を含む委員会の報告を是とするかたちでの議事運営を行い、教授会審議を過った結論に導いた。
A 経済学部長として参加していた大学院開設準備委員会および新学部開設準備委員会において教授の一 責任者でありながら、一貫して経営問題に介入し、開設委員会の議長であった学長の指示に従わず、議事進 行を妨げた。
B 学長を補佐すべき学部長としての責務を果たさないばかりか学園の方針として理事会で決定された新学部 (国際文化学部)の設置を否決した経済学部教授会の越権的審議を指導した。
C それら大学院、新学部増設の計画について、その誤謬が事実によって明らかになった赤字予測の恣意的 なデータにもとづく文書を作成し、繰り返し学部内の多数者に送付した。
D このような的外れの予想に基づき、学長に私信を送り、辞職を督促した。
というものである。
2 これらの理由も悉く懲戒事由にあたらない。
@ 申請人八尾は上記平成11年当時、経済学部長であったことはその通りであるが、上記審査教授会が行わ れた委員会運営の不当性を指摘する多数の教員の意見があったという事実も、委員会の報告を是とする形で 議事運営をした事実もない。同委員会はすべての委員が対等の独立した地位にあり、これらの委員の総意に より審査がなされるのであり、いかに学部長であったとしても他人の意見を曲げることは出来ないのである。
A 上記Aについて述べれば、申請人八尾が学部長として経営問題について意見を述べることは当然のことで ある。また、学長が開設準備委員の議長であったことはその通りであり、申請人は同委員会で自己の意見を述 べたことはあるが、その指示に従わなかったり、議事進行を妨げたことなど一切無い。申請人が学部長の責務 を果たさなかったというのは何をもって述べられているのか明確ではないが、申請人は未だかつてその責務を 果たさなかったことはない。
B また、理事会で国際文化学部の設置が決定されたが、経済学部教授会では上記設置は否定されている。 それは、学生数が減少している時期に新学部を設置することは被申請人の経営上、重大な疑義があるとされ たからである。このことをもって越権であり、これを懲戒解雇事由とすること自体、学内民主主義を否定するも のである。
C 上記新学部について経済学部は調査分析をなし、客観的なデータに基づいて経営見通しを検討した結果、 これを学内の関係者に配付して多くの意見を求めることは被申請人のために極めて重要なことである。因み に、八尾は意見書を学外者に配付していない。開設準備委員の評議会の人々に対してである。被申請人が経 済学部の判断を誤謬であったなど、これまた一方的に決めつけて、八尾に対し懲戒解雇の事由とすることは民 主主義とは相いれないものである。
D 申請人八尾は大学院と新学部が発足したのを機に、個人的に学長に対し、手紙により個人的に意見を述 べたことはあるが、このことをもって被申請人の申請人に対する処分事由とすることは公私混同といわざるを得 ず、私信でさえ出せないことになる。
 6 本件処分の著しい違法性
(1) 以上、本件について申請人らに懲戒解雇事由は全くない。申請人田尻、馬頭に対する処分は、いずれも同 人らが被申請人大学の教員選考委員会の委員として忠実に職務を遂行した結果を被申請人が一方的に不当 と決めつけて懲戒解雇したという驚くべきもので、本件処分はまさに独裁者の専断としか言いようがない。選考 委員会は採用候補者の適否を判断するだけであり、前述の通り、同委員会の意思が誤っていれば最終判断を する教授会が是正すれば、それで済むことである。仮に、申請人らが選考委員として相応しくなければ、選考委 員を解雇すれば足りる。本件の異常とも言える処分は著しい懲戒解雇の濫用である。
また、申請人八尾は経済学部長として教授会において議事進行にあたっただけであり、結局教授会においても 選考委員会の意思が尊重されたものである。このことが気に入らないから、これを懲戒解雇事由とすることは 異常としか言いようがない。また、前述の通り、申請人八尾が学内の新学部の新設に意見を述べようとすること はむしろ当然のことであり、理事長の意見と違うから懲戒解雇処分をするのは独裁以外の何ものでもなく、明ら かに大学の自治に反するものである。
(2) 本件は畢竟、申請人らの意思が理事長ら経営者の意向に反したことにあると言わざるを得ない。被申請人 は大学であり、真理探究を目的とする学問の府である。そこでは自由で闊達な研究や意見が尊重されなけれ ば憲法で保障された学問の自由、大学の自治はあり得ない。学校運営について理事長らの意向に反する意見 を述べたことが懲戒自由になるなど、およそありえないことで、ましてや懲戒解雇がなされることが許されるとす れば大学における真の自治は崩壊し、学問の自由も死滅する。したがって、本件処分は憲法にも違反するもの である。
 7 適正手続き違背について
 大学においては、憲法上、学問の事由が保障されていることから、とりわけ大学の自治が尊重される。大学 の自治を守るためには、研究者の身分保障が重要である。そのようなことから、教授、研究者に対する懲戒処 分の場合、学校教育法の趣旨により最も重要な自治機関である教授会の議を得ることが必要であり、殊に懲 戒解雇のような処分の場合には上記教授会の議決が必要とされており、これを欠く場合には、大学の自治を定 めた憲法の趣旨に反するものとして処分が違法になる。(前橋地裁、昭63.3.11判、労働判例514号6頁)。 本件処分については、教授会の承認は一切ない。したがって、本件は処分に必要な適正手続きが全くなされて おらず、この点からも違法である。
第2 必要性
1 申請人らは収入の途が全く無くなり、今後の生活も路頭に迷うことになる。本件のような余りにも理不尽な理 由による処分がなければ、申請人田尻は1ケ月平均▲▲万円、同馬頭は1ケ月平均▲▲円、同八尾は1ケ月 ▲▲円の収入が得られたものである(因みに、給与支払日は毎日20日である)
2 また、申請人らは大学内に立ち入ることを禁止されているが、それぞれ与えられた研究室を利用して経済学 の研究に努めてきたもので、同研究室には自己の書類やその他の物品なども存在し、申請人らは今後も同研 究室で研究を積む必要がある。申請人らとしては、被申請人の独裁的な感情によりこのような処分をされ、研 究室の出入りまで禁止されるなど、たまったものではない。また、新学期も間もなく始まり、学生の講義、ゼミな どに重大な支障も生じる。大学の府としておよそ考えられないような恣意的な理由による処分により、被害を受 けるのは申請人らはもちろんであるが、学生もまた被害者である。裁判所としては、被申請人が大学としての自 覚の下に学問の自由、大学の自治を取り戻すためにも、あまりにも酷い違法な処分を早期に是正されることを 求めて本申請に及ぶものである。

疎 明 方 法


1 疎甲第1〜3号証(処分通知書)
1 同第4号証(学則)
1 同第5号証(就業規則)
1 同第6〜8号証(源泉徴収票)
1 同第9〜11号(陳述書)

添 付 書 類


1 疎甲各号証
1 資格証明書
1 委任状

当 事 者 目 録


鹿児島市錦江台3丁目4番13号             申請人  田 尻   利
鹿児島市下福元町5860番地1             申請人  馬 頭 忠 治
鹿児島市錦江台3丁目19番13号            申請人  八 尾 信 光
鹿児島市照国町17番14号 エクセレント照国301号

(郵便番号)892―9841

(電話番号)099―225―1441

(FAX番号)099―224―0892

申請人ら代理人

弁護士 増 田  博

同所
同  小 堀 清 直
鹿児島市金生町4番4号 藤武ビル5階

(郵便番号)892―0828

(電話番号)099―225―1800

(FAX番号)099―225―0300

同  森 雅美

鹿児島市城西3丁目8番9号
被申請人    学校法人津曲学園
上記代表者理事長 津 曲 貞 春