仮処分裁判の争点


争点@ 今回の懲戒解雇事件の異常性

 

三教授側の主張
仮処分申請書
抜粋
2002.4.5
準備書面
抜粋
2002.7.25
準備書面
抜粋
2002.8.29

 

 
 
仮処分申請書(2002年4月5日)より抜粋

6 本件処分の著しい違法性

(1) 以上、本件について申請人らに懲戒解雇事由は全くない。申請人田尻、馬頭に対する処分は、いずれも同人らが被申請人大学の教員選考委員会の委員として忠実に職務を遂行した結果を被申請人が一方的に不当 と決めつけて懲戒解雇したという驚くべきもので、本件処分はまさに独裁者の専断としか言いようがない。選考委員会は採用候補者の適否を判断するだけであり、前述の通り、同委員会の意思が誤っていれば最終判断を する教授会が是正すれば、それで済むことである。仮に、申請人らが選考委員として相応しくなければ、選考委 員を解雇すれば足りる。本件の異常とも言える処分は著しい懲戒解雇の濫用である。
 また、申請人八尾は経済学部長として教授会において議事進行にあたっただけであり、結局教授会においても選考委員会の意思が尊重されたものである。このことが気に入らないから、これを懲戒解雇事由とすることは異常としか言いようがない。また、前述の通り、申請人八尾が学内の新学部の新設に意見を述べようとすること はむしろ当然のことであり、理事長の意見と違うから懲戒解雇処分をするのは独裁以外の何ものでもなく、明ら かに大学の自治に反するものである。
(2) 本件は畢竟、申請人らの意思が理事長ら経営者の意向に反したことにあると言わざるを得ない。被申請人は大学であり、真理探究を目的とする学問の府である。そこでは自由で闊達な研究や意見が尊重されなけれ ば憲法で保障された学問の自由、大学の自治はあり得ない。学校運営について理事長らの意向に反する意見 を述べたことが懲戒自由になるなど、およそありえないことで、ましてや懲戒解雇がなされることが許されるとす れば大学における真の自治は崩壊し、学問の自由も死滅する。したがって、本件処分は憲法にも違反するもの である。

 

 
 

 

 
 
三教授側準備書面(2002年7月25日)より抜粋

第二 申請の理由
一.はじめに
1 本件は債権者田尻、馬頭らが教員選考委員として誠実に任務を果たしたにも拘わらず、その委員会の運営 と結論を理由に処分がなされたという、まさに驚くべき事案である。田尻や馬頭が公募内容に従って、いかに真 摯に審査をしたかは同人らの陳述書に詳しく述べられている。
しかも、同人らが教授として採用適当であると判断した候補者は業績の優れた○○大学の教授であり、同教授 を採用したからといって、大学の名誉や評価が高まることはあったとしても、減殺されることなどおよそ考えられなかった。
2 ところが、債務者は、債権者田尻や馬頭らが科目不適格者を選考したと独断した上、選考方法にも問題があったなどとし、懲戒解雇という異常とも言える処分をしたのである。
債権者田尻や馬頭を含む選考委員会が選考した教授の業績が優れていることは債務者側の学者でさえ認め るところであり、しかも、同教授が採用に相応しい科目適合者であったことは、後述の通り多くの学者も認めて いる。したがって、田尻や馬頭、その他の選考委員が、適切な判断をしたことは疑うべくもない。これが懲戒の 対象となり、ましてや懲戒解雇という処分がなされるに至っては表現しようのない恐ろしささえ覚えるものであ る。
3 仮に、債務者の主張の通り、田尻らが科目不適格者を選任したとしても、それが懲戒解雇という重い処分を 科すに値する程のものであっただろうか。本件選考委員会において、応募者すなわち採用候補者は10名であ ったが、最終的には○○教授1人に絞られた。このことについては、面接前の段階ではすべての委員の意見が一致していたのである。そして、面接後の投票で5名中、4名の委員が採用を是とし、この選考結果を教授会も 支持したことは疑いのない事実である。それにも拘わらず、債権者らの選考行為は大学から排除されなければ ならない程、重大な背信行為だったのだろうか。田尻や馬頭らは文献を読み、議論の末、結論を出している。 就業規則上、懲戒として譴責、減給、停職、降職、解雇、懲戒解雇が規定されているが、同人らの行為がこの いずれかに該当するとも思えない。ましてや、最大の背信行為に該当するとして処分することなど到底許される ものではない。
4 債権者八尾は、教授会において田尻らの選考委員会報告を認めさせる方向で専断的な議事運営をしたな どと言われ、処分されている。教授会でいかに十分に論議が尽くされているかは、八尾の陳述書に詳細に述べ られている(疎甲28号証)。これが、懲戒解雇の処分理由とされるなど唖然とするばかりである。これに加え、八 尾については学部新設について財政上の観点から意見を具申したことが問題とされているが、こうしたことは一 般企業においてさえ許されていることを考えると、民主主義が最も機能すべき大学で意見を述べたり、書簡を 送ることは出来る限り尊重されるべきで、これが重大な処分理由となるなどおよそ考えられないことである。仮 に、同人の行為が何らかの処分に値するとしても同人の行為が懲戒解雇という最も重い処分がなされる程の 背信行為に該当するとは到底考えられない。

 
 

 

 
 
三教授側準備書面(2002年8月29日)より抜粋

4 本件処分の真相

(1) 債務者は学問の自由、大学の自治を尊重すべきこと、学問に関する考え方の相違があることも認めてい る。そうであれば、選考委員会が選考した候補者の業績が「人事管理論」、「労使関係論」に属するとの有力な 学問的見解がある以上、その見解の上に立って判断をした者に対し、自己の一方的な判断に反するとして懲戒解雇をもって臨むことがいかに学問の自由を侵害するものであるかを理解すべきである。
(2) ところで、債務者は本件に関し、特定政治イデオロギ一集団の支配とか支持者による多数派工作などと全く 根拠がないことを主張し、債権者らの出身大学まで誹謗、中傷するに至っている。結局、本件の恐怖とも言える 処分の真相は、債務者の理出のない予測に基づく債権者らの思想、良心にあったという他はない。
(3) 債権者らは特定の政治イデオロギ一の下に多数者工作をしたことなど未だかつてない。 債務者大学の従 来の教員選考でも業績、 研究によってなされており、多様な考え方の教員が採用されている。本件において も、債権者田尻や馬頭らが選考委員としてどれ程真剣に討議して候補者の業績を判断しているかは債権者ら の陳述書にも詳細に述べられており、馬頭が虚偽の業績報告書など絶対に作成していないことも既に述べた 通りである(債務者は馬頭に対し、処分事由として虚偽報告書の作成を挙げていなかったが【答弁書】、今にな って再びこのことを持ち出してきた。しかし、馬頭の報告書のどこにも虚偽の記載などなく、債務者も具体的に 全く指摘していない)。
(4) 思想、良心の自由は憲法上保障された最も重要な権利である。殊に大学において思想・良心の自由は過 去の歴史からもとりわけ尊重されるべきであり、戦後民主化の中で全ての大学において保障され、学問の発展 につながってきたものである。債務者は、本件には何ら関係のないばかりか、根拠のない思想の問題を持ち出 し、債権者らの行為を非難することはまさに本件処分の本質が候補者選考の適格性に名をかりた思想・良心を 理由にするものであると言わざるを得ない。このような理由で大学教員が処分されるのは民主主義の死滅を意 味する。このような処分はどのような観点からも許されるものではない。