仮処分判決全文(鹿児島地裁 2002年9月30日)

 

 

平成14年 (ョ) 第84号 地位保全等仮処分命令申立事件


決        定

鹿児島市錦江台3丁日4番13号
     債   権   者          田   尻     利
鹿児島市下福元町5860番地1
     債   権   者          馬   頭   忠   治
鹿児島市錦江台3丁目19番13号
     債   権   者          八    尾   信   光
上記3名代理人弁護士          増   田     博
     同                 小    堀 清   直
     同                  森     雅 美
鹿児島市城西3丁目8番9号
     債   務   者   学 校 法 人 津 曲 学 園
     同代表者理事      津     曲    貞   春
     同代理人弁護士     和   田      久
     同     妻 毛 長 史
     同     金 井 塚 修

主         文

1 債権者らが,いずれも,債務者に対し,雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

2 債務者は,債権者田尻に対し,各金▲▲ 万▲▲円を,債権者馬頭に対し,各金▲▲万▲▲円を,債権 者八尾に対し,各金▲▲万▲▲円をいずれも平成14年l 0月から平成15年9月までの毎月20日限り,それぞれ仮に支払え。

3 債務者は,債権者田尻が債務者大学7号館518の研究室を,債権者馬頭が同号館502研究室を,債権者八尾が同号館514の研究室をそれぞれ利用することを妨害してはならない。

4  債権者らのその余の申立てをいずれも却下する。

5  申立費用は,債務者の負担とする。


理          由

第1 申立て
1 主文1項同旨
2 債務者は,債権者田尻に対し平成14年4月 1日以降1か月当たり▲▲万▲▲円を,債権者馬頭に対し 平成14年4月 1日以降1か月当たり▲▲万▲▲円を,債権者八尾に対し平成14年4月 1日以降1か月当た り▲▲万▲▲円をそれぞれ毎月20日限り仮に支払え。
3  主文3項同旨

第2 事案の概要
1 本件は,債務者が設置する大学の教授であった債権者らが,同大学の教員選考に関して問題があっ た等として,債務者から懲戒解雇 (懲戒退職) されたため,同解雇は無効であると主張し,同大学の教授 としての地位保全,賃金仮払い及び同大学研究室の利用妨害禁止を求めているのである。
2 主たる争点
 (1) 債務者の行った懲戒解雇は有効か。
  ア 債権者らに懲戒解雇事由が存在するか。
  イ 懲戒解雇手続は適法か。
 (2) 各仮処分について,保全の必要性があるか。

第3 当裁判所の判断

1 本件紛争の経緯
(当該箇所に疎明資料等を掲げた事実は,当該疎明資料等により明らかに認められる事実であり,それ以外の事実は,当事者間に争いのない事実又は当事者が明らかには争わない事実である。)

(1) 当事者
ア 債務者は,教育基本法及び学校教育法に従い学校教育を行うことを目的とする学校法人であり,鹿児島国際大学 (旧名称 鹿児島経済大学。 以下,いずれも 「本件大学」という。),鹿児島国際大学短期大学部等を設置している。本件大学には,大学院 (経済学研究科,社会福祉学研究科),経済学部(経済学科,経営学科)及び福祉社会学部 (現代社会学科,社会福祉学科,児童学科),国際文化学部(言語コ ミュニケーション学科,人間文化学科)がある。

イ 本件紛争当時,債務者理事長は津曲貞春,本件大学学長は菱山泉であり,菱山は債務者の理事で もあった (以下,それぞれを「理事長」,「学長」ということもある。)

ウ 債権者田尻は,昭和45年に本件大学経済学部講師として採用され,昭和55年に同学部助教授,平成 元年に同学部教授となり,平成2年4月から平成6年3月まで同学部長に就いた (甲19−2)。

エ 債権者馬頭は,昭和58年に本件大学経済学部講師として探用され,昭和63年に同学部助教授,平成 6年に同学部教授となり,平成12年4月から平成14年3月まで同学部経営学科長に就いた (甲20−2)。

オ 債権者八尾は,立教大学助手を経た後,昭和58年に本件大学経済学部助教授として採用され,平成 2年に同学部教授となり,平成9年4月から平成12年3月まで同学部長に就いた (甲21−3。 以下,同人を 「学部長」ということもある。)。

(2) 債権者ら3名に関する教員選考問題の事実経緯
ア 本件大学経済学部では,同学部経営学科の「人事管理論および労使関係論」を担当していた助教授の札幌学院大学転出に伴い,その後任者を新たに公募,採用することになり,学長と経済学部長名で担 当科目を「人事管理論および労使関係論」,職名を 「教授または助教授」と記載した,平成11年7月31日 付け公募文書(乙3)を関係諸機関に発送した。

イ 同年10月20日開催の平成11年度経済学部第6回教授会において,本件大学教員選考規程経済学部 施行細則 (乙6)に基づき,教員選考委員会 (以下 「本件教員選考委員会」という。) が設置されるととも に,専門委員 (採用候補者の担当予定科目に最も関連する専攻領城の委員)として経営学科所属の原口俊道教授及び債権者馬頭の2名が選出され,他の委員の選出は各学科会議に一任された結果,経済学 科会議からは債権者田尻が,経営学科会議からは○○○○助教授が,一般教育会議からは○○○○教授がそれぞれ選出された。

ウ 平成11年11月2日から平成12年2月17日までの間,次のとおり,計8回にわたって教員選考委員会が開催された。
(ア) 第1回(平成11年11月2日)において,委員長に債権者田尻が,主査に原口教授が,副査に債権者馬頭がそれぞれ互選されて就任した後,応募者10名の中から5名ヘのしぼりこみが行われた。

(イ) 第2回(同年11月26日)において,5名から1名を外すことが決定され,第3回(同年12月17日)に おいて,4名から1名を外し,残る3名のうちの1名 (以下,単に「候補者」 という。) を候補第一位とし て面接することが決定された。

(ウ) 第4回(平成12年1月8日)において,○○委員に代わって,経営学科の○○○○教授が委員とな り,委員全員で,候補者に対して面接した後,投票を行った結果,賛成4,反対1 (候補者が人事管 理論について業績がないことを理由として,主査が反対した。) であったため,候補者の論文を更 に7本追加して検討した上で再審査することとなった (乙7の1〜3)。

(エ) 第5回(同月14日), 第6回 (同月31日) 及び第7回 (同年2月8日)において,再審査自体の問題,候補者の科目適合性等が議論されるとともに,委員会報告書に主査が反対投票をしたことを明 記するか,候補者の業績評価書を誰が作成するか,侯補者の人事管理論の業績等をどのように記載するか等がそれぞれ議論された(乙7−1〜3)。

(カ) 第8回(同月17日)において,委員会報告書について,主査が反対投票をしたことは明記しない こと,候補者を「「労使関係論」の担当者として適任である」旨記載すること等が,業績報告書につい て,副査が作成し,主査が口頭で補足意見を追加すること等が決定され,委員会の議論を終了した (乙7−1〜3)。

エ 平成12年2月22日開催の平成11年度経済学部第13回教授会(学部長(債権者八尾)が議長を務めた。 以下「本件教授会」という。)において,教員選考委員会提案の「採用人事について」が議題とされ,田尻委員長から選考経過報告がされた後,馬頭副査から候補者の業績評価報告がされた。いずれも,候補者 が「労使関係論」の教授として適任であるというものであった。その後,原口主査が資料を配付した上で候 補者は人事管理論及び労使関係論の教授又は助教授として不適格である旨主張した。長時問にわたる 議論の末,原口教授を含む7名の教授及び助教授が退席した後に投票が行われ,その結果は,投票総数32中,委員会提案に賛成17, 反対7,白票7,無効1であった。(乙7−1,乙9〜13)。
 この結果は,「白票・無効票は投票総教から除く」という慣例的ルールにより,委員会提案を承認するも のであるとして,学部長から学長(菱山泉)に対して候補者を採用すべきである旨の要請がされた。

オ しかし,平成12年3月16日,本件採用人事について,@委員会の運営と結論に疑義がある,A副査の 評価をもって委員会の結論が示されており,主査の意見が捨象されている,B主査が配付した資料によ れば,委員長らが主査に辞任や副査の報告書ヘの連名を迫ったということである,C学長への相談なし に「労使関係論」に絞った審査をしたのは不当である,D投票前に委員会内の少数意見の開陳も認めた というが,主査・副査の意見が別れているのに教授会での投票に踏み切ったのは早計である,として,理事長の承認を得て,同月13日付けで,理事長と学長の連盟により候補者に対し,貴意に沿うことができな かった旨の文書を送付したこと,今後の措置として,理事長・学長宛に原口主査の上申書と退席した6名 の上申書が提出されていることから,本件について,理事長の下に外部の大学人を複数入れた調査委員 会を設けたいこと等を内容とする学長所見が示され,これは,同月24日開催の平成11年度経済学部第17 回教授会において,学部長を通じて発表された(乙14)。

(3) 債権者八尾に関する大学改革問題の事実経過
ア 菱山泉は,平成8年4月,本件大学の学長に就任して,大学院設置と新学部開設に向けての準備に着手し,理事会の下に,次の各準備委員会が設置された。
(ア) 大学院開設準備委員会

平成8年10月19日,福井県立大学大学院の伊東光晴教授を顧問,本件大学学長を委員長,京都大学経済学部教授2名,鹿児島県社会福祉協議会長,鹿児島銀行会長,本件大学経済学部長(第 3回委員会以降,債権者八尾),本件大学社会学部長,債務者事務局長,本件大学事務局長の計8 名を委員として,第1回「鹿児島経済大学大学院開設準備委員会」が開催され,平成10年12月5日 まで,計10回開催された。その審議に基づき,文部省に対し,平成10年6月25日,申請書類が提出 され,一部補正の上,同年12月22日,文部省から認可の通達があり,平成11年4月1日から,大学 院経済学研究科修士課程が発足した。

(イ) 新学部開設準備委員会

平成8年11月30日,本件大学学長を委員長,債務者理事長,広島女子大学教授,東京大学医学部 教授,鹿児島県社会福祉協議会長,鹿児島銀行会長,鹿児島短期大学学長,鹿児島高等学校 長,鹿児島中学校長,本件大学経済学部長 (第3回委員会以降,債権者八尾),本件大学社会学部 長,本件大学一般教育協譲会長,債務者事務局長,本件大学事務局長の計13名を委員として,第 1回 「鹿児島経済大学新学部開設準備委員会」が開催され, 平成11年12月18 日まで,計1 1回開催 された。その審議に基づき,文部省に対し,平成10年9月 2 5 日に第一次設置申請が,平成11年6 月 24 日に第二次設置申請がされ, 同年1 2月 22日,文部省から新学部の設置認可の通達があ り,平成1 2年4月 1日から,国際文化学部が発足した。

イ 債権者八尾は,任期途中で辞任した○○○○教授の後を受けて,平成9年4月 1日,本件大学の経済学部長に就任し,上記のとおり,大学院開設準備委員会及び新学部開設準備委員会の各委員となり,い ずれの委員会についても第3回以降の審議に加わったが,しばしば,財政問題について発言し,議長 (学 長) から注意を受けた。 また,債権者八尾は,本件大学内の教職員や開設準備委員会に関わっている 教授等に対し,文書を送付し,特に,学長や理事長に対し,開設準備委員会で検討中の大学院及び新学 部設立にかかわる経営見通しについて,文書を送付し,学長に宛てた書簡,文書は33回 (計41通),理事 長に宛てた書簡,文書は6回 (計6通)にのぼり,これは,債権者八尾が学部長を退いた平成13年4月1日 以降も継続された。

ウ 債権者八尾は,平成1 1年3月8 日,鹿児島大学で開催されたシンポジウム 「2 1世紀の大学像を探 る」 に, 「鹿児島経済大学経済学部長」 として参加し,最初に「役職者としてではなく個人とし発言します。 と断った上で,「私の勤務校である経済大学の場合は,一応黒宇を出しながらやっているが,全国の私立大学を見てみると,かなり持ち出しをして,先が約束されない新設や増設のために巨額の投資をしている ように私には見える。 」と発言した。

エ 債権者八尾は,平成10年6月17日開催の平成10年度経済学部第5回教授会において, 自ら,「1  大 学院や新学部の設置といった課題については,経営面からの調査や分析も十分に行い,どのような経営見通し,収支見通しを持っているのかを可能な範囲でご説明下さい。 2 大学院・新学部の設置に伴っ て,本学と本学部の教員組織はどのように変化するのか,学部学生の学費がさらに引き上げられること はないのかなどについて可能な範囲で見通しをお示し下さい。 3 大学の改組・改革のための構想の策定 や具体化に当たっては,教授会や評議会を尊重し,各機関の正規の代表者と協議しつつ,これを進めて下さい。 」 との内容の学長に対する要望書案を提示し, これが可決されると,同月19日,学長に対し,同要望書を提出した (乙68)。

オ 債権者八尾は,平成10年7月15日開催の平成10年度経済学部第6回教授会において,新学部設置に 関わる鹿児島経済大学学則改正案の審議に際し,無記名投票による探決をした。その結果は,新学部 設置について,賛成18,反対10,白票8であり,議事録に「賛成数が投票総数の過半数に達しなかったた め,学則改正 (案)は承認されなかった。 」と記載させた (乙69)。

(4) 債権者らに対する本件解雇処分の経緯等
ア 債務者は,平成12年2月8日開催の理事会において,大学問題調査委員会の設置及び同委員の選任 を理事長に一任することを決議していた (乙17)ところ,上記の同年3月 16日付け学長所見のとおり,本件 について,同委員会で調査することとなり,本件大学学長を委員長,債務者理事長,本件大学事務局長 を委員とし,瀬地山敏関西大学教授及び赤岡功京都大学教授を外部委員として,同年4月 5日,第1回 「大学問題調査委員会」が開催され,同年11月 25日まで,計5回開催された。
(ア) 第3回 (同年7月 14日) において,上記の平成12年2月 22日開催の平成11年度経済学部第13 回教授会で投票前に退席した原口主査を含む7名が呼び出されて質問を受けた。

(イ) 第4回(同年)8月4日)において,債権者八尾及び原口主査以外の本件教員選考委員4名が呼 び出されて質問を受けた。

(ウ) 第5回(同年11月25日)において,原口主査,馬頭副査及び田尻委員長が再度呼び出されて面 接調査された。

(エ) 以上の審議の結果は,委員長(学長)により,平成13年7月23日付け「鹿児島国際大学問題調 査委員会報告−経済学部「公募採用人事」 (人事管理論および労使関係論)について−」(乙21)に まとめられ,債務者理事会に報告された。

イ 同委員会の報告を受け,債務者理事会は,平成13年10月1日,懲罰委員会の設置及び委員の選任を 理事長及び菱山理事(本件大学長)に一任することを決議した。委員の構成は,債務者理事長,本件大学 長,学識経験者として京都大学名誉教授伊東光晴,債務者事務局長,本件大学事務局長の5名となり, 本件大学長秘書室長がオブザーバーとして出席した。懲罰委員会は,同月19日,債権者八尾に対し,同 年11月5日,債権者田尻,債権者馬頭及び○○教授に対し,それぞれ「懲戒理由書」を送付し,同年10月 25日及び同年11月14日,債権者八尾の,同月22日,他の3名の各弁明聴聞が行われた。(乙24−1〜4, 乙25−1〜4))

ウ 懲罰委員会において,候補者の業績評価について,改めて大学内で調査を行うべきであるとの合意 に達し,平成13年12月17日開催の大学評議会において,学長が別議として,大学評議会の下に,学長を 議長とする「採用人事調査委員会」を設置すること,委員を大学院経済学研究科から選出すること,その 推薦を同科長に一任すること,同委員会では,候補者の業績が公募科目に適合しているかどうかの一点 に絞って審査すること等を提案し,承認を得た(乙26)。同委員会,平成14年1月21日,同年2月22日及び 同月26日の計3回開催され,その結果は,同月27日付け「大学評議会における調査委員会議長(菱山学 長)への報告書」 (乙27)にまとめられた。その内容は,候補者の研究業績のほとんどは経済学的業績で あり,決して経営学的業績ではなく,経営学の一分科学である労使関係論に関する研究業績でもなけれ ば,その先行科学である人事管理論に関する研究業積でもないというものであった。同報告書は,同年3月14日開催の大学評議会に提出され,朗読により紹介された(乙28)。

エ 懲罰委員会において債権者八尾,同田尻及び同馬頭においては,「懲戒退職」(ただし,同年4月末日 までに申し出があれば,諭旨退職を認める。)とし,○○教授については 「減給6か月」とする原案をまと め,平成14年3月29日開催の理事会に提案され,それが承認された(乙2 9)。

オ 債務者は,平成14年3月29日,債権者らそれぞれに対し,「平成14年3月31日付けで学校法人津曲学 園就業規則第55条第1項第6号の「懲戒退職」とする。なお,今後許可なくして鹿児島国際大学の構内・津 曲学園施設内に立ち入ることを禁止する。」との処分通知書(甲1〜3。 以下「本件処分通知書」という。)  を郵送し,債権者らは,いずれもそのころこれを受領した。また,債務者は,同日,債権者らそれぞれに対し,予告手当として,給与の1か月分(所得税法上の源泉徴収後)を各給与口座ヘ振り込んだ(甲1〜 3)。

2 争点についての判断

(1)争点(1)ア(債権者らに懲戒解雇事由が存在するか)について
ア 債務者の就業規則(甲5。以下「本件就業規則」という。) 上の懲戒解雇に関する規定
(ア)6条(任命権者)

職員の任免その他人事に関する事項は, 理事長がこれを行う。

(イ)54条 (懲戒)

職員が次の各号1に該当する場合においては, これに対して懲戒処分をすることができる。

(1) 学園の教育方針に違背する行為のあった場合

(2) 上司の職務上の指示に従わず学園の秩序を乱した場合

(3) 職務上の義務に違反し,又は職務を怠った場合

(4) 第4章に規程する服務規律に違反した場合

(ウ) 第4章 服務規律 36条 (遵守事項)

(1) 学園の名誉を重んじ規律を維持し職員としての品位を保つこと。

(2) 就業規則,同付属規程及び上司の職務上の指示に忠実に従うこと。

(3) 以下 省略

(エ) 第4章 服務規律 38条 (禁止事項)

(1)職務上の地位を利用し, 自己の利益を図ること。

(2)職務上の権限を越え,又は権利を濫用して専断的な行為をすること。

(3)職務上知り得た秘密を漏らし, 又は学園の不利益となるおそれのある事項を他に告げる こと。 

(4)以下 省略

(オ)5 5条 懲戒処分は, 次の区分によって行う。

(1)〜(5) 省略

(6)懲戒退職 所轄労働基準監督署長の認定を経て予告又は予告なしに直ちに解雇し退職金を 支給しない。

イ 債務者の主張
(ア) 債権者田尻について

本件教員選考委員会の委員長として審査を主宰したが,@「人事管理論および労使関係論」 という担当科目で公募されていたにも拘わらず 同委員会の審査が行われる中で,原口主査 から採用候補者についての科目適合性に疑問が呈せられるや,担当科目中の「人事管理論」を削除し,「労使関係論」のみを取り出した形で審査を行うこととし,しかも,原口主査の反対にも拘わらず,教授会に対し採用候補者につき,「労使関係論」の教授として推薦し,A第 1回委員会で候補者に面接のうえ,投票による採決を実施した結果,賛成4,反対1となり, 教員選考規程によれば採用を可とする結論になったため,このような場合,委員長としては, 慣行的にも,また規則に照らしても,速やかに委員会の審議結果を教授会に報告し,教授会 の審議に委ねる手続を採るべきところ,投票結果が全員一致でなかったこと,しかも反対票 が主査の票であり,その理由が科目適合性の点で不適格であるということであったことより, そのままこれを教授会に報告すれば教授会が紛糾し,採用候補者の採用が危うくなることを恐れ,主査の反対をくつがえす目的のもと,委員会審議の継続再開にふみきり,B再審議に ふみきった後の委員会運営においても,飽くまで科目不適合性を理由に反対意見を表明する主査に対し,他の委員らと共に主査に対し「主査を降りるように」迫ったり,「副査の書いた業績報告書に主査も連名するように」強要したりした。これらの行為は,本件就業規則38条2 号に該当する。

(イ)債権者馬頭について

本件教員選考委員会の副査として審査を行ったが,@上記(ア)の債権者田尻の不適切な委 員会運営を支持し,特に原口主査に対する辞任や評価書への連名の強要については,自 ら,積極的,主導的に加担し,A原口主査の意見を無視して,公募された担当科目が「人事管理論および労使関係論」であったにも拘わらず,候補者が「労使関係論」の担当教授に適任であるとする内容の研究業績評価書を作成した。これらの行為は, 本件就業規則38条2号に該当する(仮に,候補者が「人事管理論」はもととより「労使関係論」としても不適格であることを承知のうえで上記業績評価報告書を作成したとすれば, 同条1号にも該当する。 ) 。

(ウ)債権者八尾について

a  本件教授会において,学部長として議長を務めたが, 副査が作成した業績評価書と主 査が準備した業績評価書とが,採用候補者の科目適合性をめぐって真向から対立しているこ とが判明し, 副査が作成した業績評価書に基づいて「労使関係論」のみで可とする本件教員 選考委員会報告に対し,「業績評価報告書が副査の作成したものであること」 ,「投票後にも 委員会が継続されていること」 ,「助教授から教授ヘの委員の交替が教授会の承認を得てい ないこと」 ,「公募科目が2科目から1科目に変更されていること」等,多<の根本的疑念が指 摘されたにも拘わらず,同委員会報告を是とする方向で議事を運営し,強引に投票に持ち込 もうとしたため,主査を含む教員7名が投票行為の不当性のみならず,この採用人事そのも のの不当性を訴えて退席するなど紛糾する中,投票を強行した。この行為は,本件就業規則 38条2号に該当する。

b  @学部長の一人として「大学院開設準備委員会」及び「新学部開設準備委員会に参加し, 大学改革について教学的観点からの意見を述べる立場にあったが,その席上,債務者の経 営問題についての独自の意見を繰り返し陳述し,自らの意見が委員会委員の賛同を得られ ないとみるや,最高責任者である理事長及び学長に対し経営計画の見通しを批判する個人的意見を述べた書簡を多数送りつけ,A 新学部 (国際文化学部)の設置に伴う学則改正案 を教授会の協議に付し,一部教員からこのような理事会決定事項については投票による採決は適正でないとの指摘があったにも拘わらず,投票による採決に持ち込んで学則改正案を否 決することによって理事会決定事項の変更を迫ろうとし,B上司である学長を非難し,又はその名誉を傷つける発言を大学評議会や教授会で繰り返し,大学評議員や学外者(瀬地山敏  関西大学教授,赤岡功 京都大学副学長)に対し,同趣旨の書簡を送付した。これらの行 為は,本件就業規則38条2号に該当するほか,同36条1号,同条2号に抵触し,また,同3 8条3号に該当する。

ウ 検討
(ア) 懲戒解雇は,使用者が,企業秩序を維持するため,これに違反した被用者に対して制裁を行う 権能(懲戒権)の行使の一態様であり,譴責,減給,停職,降職,諭旨退職,懲戒退職等の各懲戒処分の中で,使用者の―方的な意思表示によって労働契約を終了させるという最も重いものであるから,懲戒解雇事由の存否の判断に当たっては,当該行為の秩序違反の程度が解雇に値するほどの重大なものかという観点から行う必要がある。

(イ) そこで,検討するに,本件教員選考委員会の審議,同委員会提案を受けての本件教授会の審議の経緯等は,上記認定のとおりであり,このほか,乙7−2(原口主査作成の経過報告書),乙7−3(○○委員作成の経過報告書),乙13−1,2及び審尋の全趣旨を総合すれば,@第2回本件教員選考委員会において,原口主査は,候補者の業績について,理論的で内容も深く力作であるが労働経済論に属するのではないか,労使関係論はよいとして,人事管理論の適合性に疑問を感 じる等の発言をしたこと,A第3回同委員会において,人事管理論については,原口主査の疑問があるため,講義担当の可否を面接で本人に確認し,担当不可であれば,採用を「否」とすることを委員全員で確認したこと(なお,乙7−2には,原口主査が,候補者の業績について,社会政策,労働経済の分野であり,人事管理論・労使関係論との関連が弱く,科目不適合であると発言した旨の記載があるが,原口主査がこの時点から労使関係論についても疑問を呈していたというのは,同委員会の全体の議論の流れ等から不自然であり,採用しない。), B第4回同委員会において,原口主査が候補者に人事管理論及び労使関係論の各業績を質問したこと,投票の後,候補者の論文を 更に7本追加して審査することになったが,同委員会から数日経過した後,原口主査は,一旦投票 を行った以上,再審査するのは問題であると考え,追加論文(コピー)の受領を拒否し,馬頭副査へ の配付を差し止めたこと,C第5回同委員会において,原口主査以外の委員は,同主査の言動を容認せず,改めて,再審査することとなったこと,D第6回同委員会において,原口主査は,候補者の業績について,「経営学の中の人事管理論・労使関係論」として通用する(1本として評価できる) 論文が全くなく,若干の関連する論文もその関連の程度は弱く,科目適合性が著しく低い。 従って, 経営学の中の人事管理論・労使関係論担当の教授または助教授として不可である。」等と記載した 書面(乙12)を提出し,○○委員から,原口主査の主張は,投票以前と以後では大きな矛盾があるのではないかとの指摘があったこと,原口主査が委員会の意向を踏まえて業績評価書を作成することを拒否したため,馬頭副査が作成することとなったこと,E第7回同委員会において,田尻委員長作成の報告書原案について,候補者を「労使関係論」の教授として推薦する旨の記載があったため,原口主査から公募科目と異なるとして懸念が表明されたが,主査以外の委員からは,過去に同様の前例があるとして,上記記載が承認されたこと,馬頭副査作成の業績評価書原案について,候補者が本件大学の「労使関係論」「人事管理論」の担当教授に適任である旨の記載があったため, 上記委員長報告書との整合性から「人事管理論」が削除されたこと,原口主査以外の委員の総意 として,副査単独で業績評価書を作成するのは異様であるので,主査と副査の連名という形で作成するか,主査を交替することはできないかという要望が出されたこと,F第8回同委員会において, 原口主査が上記要望をいずれも拒否したため,副査単独で業績評価書を作成することとなったこと,教授会に対し,原口主査が文書による報告を行うことは認められなかったが,口頭で述べることは了承されたこと,G本件教授会において,債権者田尻及び同馬頭の報告の後,原口主査の意見 が求められ,同人は,馬頭副査の報告には多くの誤りがある旨主張した上で,主査の立場で作成し た研究業績評価資料を配付して報告したいと申し出たため,これについて賛否両論が出された後, 原口主査及び他の教員からの強い要望により,同資料が配付され,原口主査から詳細な報告が行われたこと,その後,馬頭副査との間で,候補者の業績評価を巡り,激しい議論が交わされ,他の教員から,種々の意見が出されたこと,これら長時間にわたる議論の末,本件について投票してほしい旨の動議が出され,議長が投票に移る旨を宣言したところ,原口主査を含む7名の教員が投票拒否を表明し,退席した後,投票が行われたこと,以上の事実が認められる。

(ウ) 以上の事実を総合すれば,債権者田尻について債務者主張のうち,担当科目中の「人事管理論」を削除し,「労使関係論」のみを取り出した形で審査を行うこととしたとの事実,原口主査に対し,主査を降りるように迫ったり,副査の書いた業績報告書に連名するように強要したとの事実はいずれも認められない(乙25−2等によれば,債権者田尻又は債権者馬頭が大きな声を出したことが窺えるが,強要等が行われたとまで認めるに足りない。)。 また,債権者田尻が投票による採決 の結果が出た後も審議を継続したことは認められるが,候補者の業績を更に検討しようとの意図の下に行われたものであると認められ,債務者主張のように,採用候補者の採用が危うくなることを恐れ,主査の反対をくつがえす目的があったとの事実を認めるに足りる疎明資料はない(本件大学 教員選考規程(乙4)14条の「委員長は,審査の結果をすみやかに教授会に答申しなければならない。」との規定は,「採決の結果」ではなく,「審査の結果」とされているのであって,採決後,合理的な理由がある場合に,相当期間審査を継続することまでも禁止しているものとは解されない。),なお, 債務者主張のうち,債権者田尻が本件教授会において,候補者を「労使関係論」の教授として推薦 したことが認められるところ,原口主査以外の委員が候補者について人事管理論の教授としても適合性があると考えていたのであれば,その趣旨の報告をすべきであり,候補者の人事管理論についての科目適合性を明らかにしなかったのは,不十分なものであったことは否めないが,本件教授 会において原口主査から反対意見の陳述が予定されており,実際に,そのような結果となったこと等に照らせば,懲戒解雇事由としての,本件就業規則38条2号に該当するとまでは認められない。

(エ) 債権者馬頭についても,上記(イ)(ウ)の事実を総合すれば,債務者主張のうち,債権者田尻の不適切な委員会運営を支持し,原口主査に対して辞任や評価書への連名を強要したとの事実は認め られず(なお,乙7−2等によれば,債権者馬頭は,債権者田尻と意見が対立していた点も多々窺 われる。),候補者が「労使関係論」の担当教授に適任であるとする内容の研究業績評価書を作成 したことは認められ,この点は,上記(ウ)の債権者田尻と同様,不十分な評価書となっているが,上記(イ)のとおり,当初の債権者馬頭作成の原案から,委員会の意見で「人事管理論」 の記載が削除 されたものであること,上記(ウ)と同様,本件教授会において,原口主査から反対意見の陳述が予定されており,実際に,そのような結果になったこと等に照らせば,本件就業規則38条2号に該当 するとまでは認められず,同条1号に該当しないことは明らかである。

(オ) また,債権者八尾について,本件教授会の議事運営については,上記(イ)のとおりであり,原口主査に資料を配付させて詳細な報告をさせる等しており,債務者が主張するように,本件教員選考委員会報告を是とする方向で議事を運営し,強引に投票に持ち込もうとしたり,主査を含む教員7名が退席する等紛糾する中,投票を強行したとの事実は認められないのであって,本件就業規則3 8条2号に該当する事実はない。また,大学改革事業については,債務者主張のうち,債権者八尾 が,大学院開設準備委員会や新学部開設準備委員会の席上,しばしば財政間題を議論したこと, 学長,理事長,大学評議員に対し,経営計画の見通しを批判する個人的意見を述べた書簡を多数送付したことは認められるが,いずれも本件大学の改革事業の妨害を図ったものであるということ までを認めるに足りる疎明資料はなく,その方法等について,いささか社会的相当性を欠いている 面は否めないが,懲戒解雇事由としての本件就業規則38条2号,3号,同36条1号,2号等に該 当するとまでは認められない。また,新学部(国際文化学部)設置に伴う学則改正案を教授会の協議に付したことは認められるが,特段問題とすべき意図があったものと認めるに足りる疎明資料は なく,さらに,学外者に書簡を送付したことも認められるが,その内容について,特段問題とすべき点は認められない。これらのほか,債権者八尾について,懲戒解雇事由に該当する事実は認めら れない。

エ 以上のとおり,債権者らのいずれについても,懲戒解雇事由に該当する事実は認められないから,そ の他の点について検討するまでもなく,本件懲戒解雇は無効であるといわざるを得ない。

(2) 争点(2)(各仮処分について,保全の必要性があるか)について
ア 賃金仮払いについて
本件懲戒解雇前,債権者馬頭が1か月平均▲▲万▲▲円の収入を得ていたことについては,当事考間 に争いがなく,甲44によれば,平成13年度,債権者田尻が1か月平均▲▲万▲▲円の収入を得ていた こと,甲8によれば,平成13年度,債権者八尾が1か月平均▲▲万▲▲円の収入を得ていたこと(ただ し,いずれも源泉徴収前のもの),甲5によれば,本件就業規則48条2項により,給与の支払日は,毎月 20日と定められていることがいずれも認められる。また,甲19−3,甲20−2,3,甲21−4,5,審尋 の全趣旨によれば,債権者及びその家族の生活費として,債権者らに対しては,いずれも,それぞれ上 記の収入相当額の仮払いの必要性が認められるところ,その期間としては,本決定後1年間を限度とす るのが相当である。

イ 地位保全,研究室利用妨害禁止について
審尋の全趣旨によれば,本件懲戒解雇前,債権者田尻が債務者大学7号館518の研究室を,債権者 馬頭が同号館502の研究室を,債権者八尾が同号館514の研究室をそれぞれ利用していたことが認め られるところ,債権者らに対する各処分通知書に,今後,許可なくして本件大学の構内に立ち入ることを 禁止する旨の記載があるとおり,本件懲戒解雇後,上記研究室は,いずれも原則として立入禁止とされて おり,債権者らからの申し入れがあれば,債務者は,債務者職員の立会の下で,一定時間,債権者らの 立入を許可する扱いになっていることは,当事者間に争いがない。 
大学設置基準(甲15)36条1項及び2項で,大学は,その組織及び規模に応じ,研究室等を備えた校舎 を有するものとすること,及び,研究室は,専任の教員に対しては必ず備えるものとすることが定められて いるとおり,大学教授にとって,研究室を利用することは,十分な教育及び研究を行うために必要不可欠 な,その身分に直結した権利の一つであると解されるから,雇用契約上の権利を有する地位を仮に定め るとともに,研究室利用妨害禁止を求める必要性が認められる。

3 よって, 債権者らの本件申立ては,主文第1ないし第3項の限度で理由があるから,担保を立て させないで認容し,その余は,理由がないので,いずれも却下する。

平成14年9月30日

鹿児島地方裁判所

裁判官  平  田     豊