仮処分裁判 懲戒事由に対する鹿児島地裁の事実認定

 

 
裁判所の事実認定(2002年9月30日判決文より抜粋)

ウ 検討
(ア) 懲戒解雇は,使用者が,企業秩序を維持するため,これに違反した被用者に対して制裁を行う権能 (懲戒権)の行使の一態様であり,譴責,減給,停職,降職,諭旨退職,懲戒退職等の各懲戒処分の中 で,使用者の―方的な意思表示によって労働契約を終了させるという最も重いものであるから,懲戒解 雇事由の存否の判断に当たっては,当該行為の秩序違反の程度が解雇に値するほどの重大なものかと いう観点から行う必要がある。



(イ) そこで,検討するに,本件教員選考委員会の審議,同委員会提案を受けての本件教授会の審議の 経緯等は,上記認定のとおりであり,このほか,乙7−2(原口主査作成の経過報告書),乙7−3(○○ 委員作成の経過報告書),乙13−1,2及び審尋の全趣旨を総合すれば,



@第2回本件教員選考委員会において,原口主査は,候補者の業績について,理論的で内容も深く力作 であるが労働経済論に属するのではないか,労使関係論はよいとして,人事管理論の適合性に疑問を 感じる等の発言をしたこと,



A第3回同委員会において,人事管理論については,原口主査の疑問があるため,講義担当の可否を 面接で本人に確認し,担当不可であれば,採用を「否」とすることを委員全員で確認したこと(なお,乙7− 2には,原口主査が,候補者の業績について,社会政策,労働経済の分野であり,人事管理論・労使関 係論との関連が弱く,科目不適合であると発言した旨の記載があるが,原口主査がこの時点から労使関 係論についても疑問を呈していたというのは,同委員会の全体の議論の流れ等から不自然であり,採用 しない。),



B第4回同委員会において,原口主査が候補者に人事管理論及び労使関係論の各業績を質問したこ と,投票の後,候補者の論文を更に7本追加して審査することになったが,同委員会から数日経過した 後,原口主査は,一旦投票を行った以上,再審査するのは問題であると考え,追加論文(コピー)の受領 を拒否し,馬頭副査への配付を差し止めたこと,



C第5回同委員会において,原口主査以外の委員は,同主査の言動を容認せず,改めて,再審査する こととなったこと,



D第6回同委員会において,原口主査は,候補者の業績について,「経営学の中の人事管理論・労使関 係論」として通用する(1本として評価できる) 論文が全くなく,若干の関連する論文もその関連の程度は 弱く,科目適合性が著しく低い。 従って,経営学の中の人事管理論・労使関係論担当の教授または助教 授として不可である。」等と記載した書面(乙12)を提出し,○○委員から,原口主査の主張は,投票以 前と以後では大きな矛盾があるのではないかとの指摘があったこと,原口主査が委員会の意向を踏まえ て業績評価書を作成することを拒否したため,馬頭副査が作成することとなったこと,



E第7回同委員会において,田尻委員長作成の報告書原案について,候補者を「労使関係論」の教授と して推薦する旨の記載があったため,原口主査から公募科目と異なるとして懸念が表明されたが,主査 以外の委員からは,過去に同様の前例があるとして,上記記載が承認されたこと,馬頭副査作成の業績 評価書原案について,候補者が本件大学の「労使関係論」「人事管理論」の担当教授に適任である旨の 記載があったため,上記委員長報告書との整合性から「人事管理論」が削除されたこと,原口主査以外 の委員の総意として,副査単独で業績評価書を作成するのは異様であるので,主査と副査の連名という 形で作成するか,主査を交替することはできないかという要望が出されたこと,



F第8回同委員会において,原口主査が上記要望をいずれも拒否したため,副査単独で業績評価書を 作成することとなったこと,教授会に対し,原口主査が文書による報告を行うことは認められなかったが, 口頭で述べることは了承されたこと,



G本件教授会において,債権者田尻及び同馬頭の報告の後,原口主査の意見が求められ,同人は,馬 頭副査の報告には多くの誤りがある旨主張した上で,主査の立場で作成した研究業績評価資料を配付 して報告したいと申し出たため,これについて賛否両論が出された後,原口主査及び他の教員からの強 い要望により,同資料が配付され,原口主査から詳細な報告が行われたこと,その後,馬頭副査との間 で,候補者の業績評価を巡り,激しい議論が交わされ,他の教員から,種々の意見が出されたこと,これ ら長時間にわたる議論の末,本件について投票してほしい旨の動議が出され,議長が投票に移る旨を宣 言したところ,原口主査を含む7名の教員が投票拒否を表明し,退席した後,投票が行われたこと,以上 の事実が認められる。