三教授側準備書面(2002年6月3日)より抜粋
二.懲戒解雇における教授会の審議の必要性
1 本件処分については、教授会の審議が必要であり、これを欠く本件懲戒解雇は効力がないことについては 既に述べたが、その理由を若干付加する。
学校教育法第59条1項は「大学には重要な事項を審議するために教授会を置かなければならない」とされて いることについては既に述べた通りである。上記「重要な事項」には、大学の歴史的沿革及び「大学の自治」の
条項から少なくとも次のような事項が含まれると解されている。すなわち、(イ)学科課程に関すること、(ロ)学生 の入学試験及び卒業に関すること、(ハ)学位、称号に関すること、(ニ)教員の任免、その他人事に関するこ
と、(ホ)学部内の規制に関すること、(へ)その他学長が諮問した事項である。上記諸権限のうち、(ニ)及び (ホ)は「大学の自治」の核心をなすものであることから、教特法によって具体的に法定、保障されている。教員
及び学部長の転任、降任及び免職、懲戒などの処分はいずれも人事に関する「重要な事項」であり、且つ不利 益的処分であるから、採用、昇任の如き利益的処分の場合より一層慎重な制度と手続きを必要とする。したが
って、教員及び学部長に対する処分の「審査」はいずれも条理上、教授会が処分決定機関であることを黙示的 に前提としていることに注意を要するとされている(有倉遼吉編、新版教育法別冊法学セミナーNα33、基本法
コンメンタール)。
なお、この点に関し、芦部信喜「憲法」(岩波書店)は大要次のように説明している。「学問研究は・‥自由な立 場で」行わなければならない。「学問の自由の実質的裏付けとしては、‥・研究者に職務上の独立を認め、その
身分を保障すること」が必要である。また、その「制度的保障」としては「大学の自治」が必要である。「大学にお ける研究教育の自由を十分に保障するためには、大学の内部行政に関しては大学の自主的な決定に任せる」
べきなのである。「大学の自治の内容として特に重要なものは・・・人事の自治」である。「学長・教授その他の研 究者の人事は、大学の自主的判断に基づいてなされなければならない」(同書134〜137頁)。
2 学則違背について
仮に、本件懲戒解雇について教授会の審議が必要でないとしても、被申請人は自らの学則に違反しており、 いずれにしても手続上の違法があるものである。すなわち、学則によると被申請人に大学評議会が設置される
ことになっている(同39条、乙第32号証の1)。同評議会は「教員の人事に関する事項」を協議すると定められて いる(同40条)。懲戒解雇のような重要な事項については教授会の審議が必要であると解すべきであるから、上
記「教員の人事に関する事項」の中に通常解雇や懲戒解雇のような重要な事実は含まれないと解するべきであ るが、仮に懲戒解雇について教授会の議決が必要でないとしても、同学則によって、少なくとも被申請人が上記
教員の人事に関する事項として懲戒解雇について評議会で協議する必要があると考えられる。しかし、本件に おいて、被申請人は申請人らの懲戒解雇については上記評議会で何ら審議していない。被申請人は、形式を
整えるために評議会のもとに調査委員会を設けているが、評議会では調査委員会の報告を聞いたにすぎない (乙第26、27号証)。
したがって、評議会が協議事項として何ら審議をしていないのである。本件は、どのように考えても教授会の 審議も学則で定めた評議会の協議すら経ていないもので、手続違背が存在することは、もはや疑う余地はな
い。
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