仮処分裁判 八尾信光教授の懲戒解雇処分の不当性の主張

 
仮処分申請書(2002年4月5日)より抜粋

1 同人の懲戒解雇理由は次の通りである。(−略−)

2 これらの理由も悉く懲戒事由にあたらない。
@ 申請人八尾は上記平成11年当時、経済学部長であったことはその通りであるが、上記審査教授会 が行われた委員会運営の不当性を指摘する多数の教員の意見があったという事実も、委員会の報告を 是とする形で議事運営をした事実もない。同委員会はすべての委員が対等の独立した地位にあり、これ らの委員の総意により審査がなされるのであり、いかに学部長であったとしても他人の意見を曲げること は出来ないのである。
A 上記Aについて述べれば、申請人八尾が学部長として経営問題について意見を述べることは当然の ことである。また、学長が開設準備委員の議長であったことはその通りであり、申請人は同委員会で自己 の意見を述べたことはあるが、その指示に従わなかったり、議事進行を妨げたことなど一切無い。申請人 が学部長の責務を果たさなかったというのは何をもって述べられているのか明確ではないが、申請人は 未だかつてその責務を果たさなかったことはない。
B また、理事会で国際文化学部の設置が決定されたが、経済学部教授会では上記設置は否定されて いる。それは、学生数が減少している時期に新学部を設置することは被申請人の経営上、重大な疑義が あるとされたからである。このことをもって越権であり、これを懲戒解雇事由とすること自体、学内民主主 義を否定するものである。
C 上記新学部について経済学部は調査分析をなし、客観的なデータに基づいて経営見通しを検討した 結果、これを学内の関係者に配付して多くの意見を求めることは被申請人のために極めて重要なことで ある。因みに、八尾は意見書を学外者に配付していない。開設準備委員の評議会の人々に対してであ る。被申請人が経済学部の判断を誤謬であったなど、これまた一方的に決めつけて、八尾に対し懲戒解 雇の事由とすることは民主主義とは相いれないものである。
D 申請人八尾は大学院と新学部が発足したのを機に、個人的に学長に対し、手紙により個人的に意見 を述べたことはあるが、このことをもって被申請人の申請人に対する処分事由とすることは公私混同とい わざるを得ず、私信でさえ出せないことになる。

 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
三教授側準備書面(2002年4月30日)より抜粋

第7 申請人八尾について

1 被申請人は同人に対する懲戒事由として次のように主張している。
@ 八尾は経済学部経営学科採用人事に関する審査教授会の学部長として議長を務めた際、多くの根 本的疑念が指摘されたのにも拘わらず委員会報告を是とする方向で議事を運営し、強引に投票に持ち込 もうとした。議長として専断的議事運営をしたことは就業規則第38条2号に該当する。
A このような事実は全くない。審査教授会は平成12年2月22日に開催され、選考委員会の提案に対す る賛否の意見が出された。八尾は議長として賛否の議論を進め、主査らの反対意見にも十分に発言時間 を与えた上で投票に入ったものである。結局、教授会では選考委員会の提案が受け入れられた。投票の 結果、賛成、反対、白票などあったが、それは教授会の各人がそれぞれの見識に基づいて判断した結果 である。
 教授会の構成員は、それぞれが自己独自の見解をもった優秀な人材であり、議長が勝手に議事進行で きるものではない。被申請人は教授会の結論が気に入らなかったことから、議長であった八尾の責任を 追求しようとしているにすぎず、同人が委員会報告を是とする方向で運営したとか、強引に投票に持ち込 もうとしたなどとの主張は一方的な決めつけ以外の何ものでもない。また、このような主張をすることは、 出席した教授らの人格や識見を誹謗するものである。
B 被申請人は、八尾の上記以外の懲戒解雇事由として大要次の主張をしている。
ア 大学改革事業に対する妨害をした。すなわち、大学院開設準備委員会及び新学部開設準備委員会 の議事を妨害し、議長権限を侵害した。
イ 学内外の者に大学の経営見通しや予測にかかわる主張の文書を繰り返し発送し続け、理事会事項に 干渉し、学部長としての権限を逸脱乃至濫用している。
ウ 学内外の者に対し学長を非難し、名誉を傷つける文書を送付した。
C 新学部及び大学院設置については学内でそれほどの異論はなかったが、少子化の一途にある社会 的状況があり、学生が必ずしも集まらない現状で学部を増設することは大学の財政画から問題が多く、場 合によっては大学存続の危機をもたらすことになりかねない。八尾はこのことを懸念して学長に慎重な判 断を求めた。
八尾が準備委員会において財政問題を持ち出すことがあったのは事実である。しかし、それで議事が紛 糾したことなどないし、出席委員からもその発言内容を問題とされたことはない。
D 八尾が委員会の議事を妨害したことはない。もしその準備委員会でそのような事態があったとすれ ば、議長が注意すればそれですむことである。ところが、学長は八尾に対し、特別に意見を述べさせて論 争までしている。このような措置を講じながら、八尾の行為を懲戒理由にするのは信義に反すると言わな ければならない。
E また、八尾は平成9年6月頃から平成12年4月頃までの間、学長に書簡を送り、理事長に対しても数 回書簡を送っているが、それは大学の問題を憂えてのことである。八尾は礼を尽くして学長や理事長に対 し、大学のために書簡を送ったものであることは、その内容からも明らかである。その内容は主として、将 来計画の策定と具体化にあたっては充分な調査と分析、予測と試算をして「誤りのない判断をお願いしま す」という趣旨のものが殆どであった。八尾が関係者らに宛てた書簡も、論理を尽くして訴えているもの で、これもまた一途に大学のためを思っての行為である。これらの書簡によって学科の新設が遅れたと か、大学院の設置が遅れたということはない。八尾が大学のことを心配して書簡を送り、意見を理解して もらおうとしたのは言論の自由の範囲内であり、大学においては欠かせないものである。これらを理由に 懲戒解雇することは明らかに処分権限を逸脱していると言わなければならない。
F 八尾は学長を誹謗中傷したことはない。八尾が学長に宛てた書簡をみれば容易に理解できることで ある。
2 上記の通り、八尾が大学の財政問題を憂え、度々書簡を送ったり、学長に無責任であるとか経営問題 を無視しているなどとして学長の名誉を傷つけたと考えるのであれば、大学は八尾に対しこれをやめるよ う注意や忠告をするなどし、それでも言動が止まない場合には、相応の処分をするなりの方法があったは ずである。 開設準備委員会での発言が委員会の目的に反し、その議事進行を妨げているのであれば、 委員を解任すればすむことである。そうしたこともせず、突如懲戒解雇という過酷な処分をするのは明ら かに適正手続に反するものである。

 
 

 

 

 

 

 

 

 
三教授側準備書面(2002年7月25日)より抜粋

4 債権者八尾に対する解雇事由の不存在

(1) 同人に対する解雇事由は、教授会審議にあたって選考委員会報告を是と する方向で議事を運営し、 強引に投票に持ち込もうとし、議長としての議事運営が専断的であったというものである。しかし、このよう な事実が全くないことは、教授会の審議内容そのものを見れば明らかである。八尾が議長として議事をど のように進行させたか、審議がどのようなものであったかについては同人の陳述書に詳細に述べられて いる(疎甲第28号証)。審議の検討の内容は次の通りであった。
(2) 八尾は経済学部長として選考委員会委員長である田尻からの連絡を受け、本件採用人事に関する審 議を平成12年2月22日教授会の議題に挙げた。当日の教授会は学部長である八尾が議長を務め、42 名が出席した。田尻委員長からは○○教授を最適任者として選考した経緯、労使関係論の教授として推 薦し、人事管理論についても担当可であることの報告がなされ、馬頭が同教授の業績報告をなし、これら について議論が交わされた。教員選考委員会の票決で否とした原口主査も自己の作成した文書を出席 者全員に配布し、長時間白己の主張を展開した。また、後に教授会を退席して投票を放棄した教員らも 自らの意見を述べた。約3時間にわたって議論がなされた後、採決がなされた。その時点での出席者39 名のうち賛成17、反対7、白票7、無効1、退席7であった。白票、無効票は除外するとの従来からの教 授会申し合わせにより、有効票は24、うち賛成が17であったため、選考委員会の提案は承認され、教授 会は同教授を採用可と決定した。
採決にあたって、原口氏ほか6名の教員が退席した。債務者は、このような中で投票行為は著しく妥当性 を欠くばかりか、八尾の議長としての議事運営は専断的であったと述べ、これを解雇事由としている。しか し、議長としては賛否両論を闘わせた後、最終的には採決に入らなければならない。これが民主主義の ルールである。例え退席者が出ても、そのルールに従うのが議長である。もし、反対する者や退席した者 が何人かいるという理由で議長が採決を中止したとすれば、それこそ議長の専断である。出席していた教 員全てが有識者であり、反対した者や退席した者の意見だけが尊重されなければならない理由はない。 討議に参加し、真剣に判断した上で採決に加わった者と、反対意見だけ述べ、投票を拒否して民主主義 のル一ルに従わなかった者のどちらが責任を問われるべきであるかは自ずと明らかである。民主主義の ルールに従わず、事実を歪曲し、学長という絶対的な権限を持った者の力を借りて教授会の自治を破壊 することこそ、大学教員には相応しくない行為と言うべきで、到底許されるものではない。
(4) 八尾が教授会における議長として長時間議論を尽くし、採決をしたのは 単に民主主義の手順に従っ ただけである。多数の教員は賛否両論の中から、それぞれの見識に基づいて、教員選考委員会の結論 を支持した。債務者が原口主査や退席した教員らの考え方だけを正しいとし、委員会提案に賛成した者 の見解が誤りだとするのは、多数の教員の見識を冒とくするものである。八尾が議長として採決をしたこと が懲戒解雇の事由になるのであれば、大学における民主的ルールは死滅すると言わなければならない。
このような理由により懲戒解雇をするのは、余りにも権限を逸脱しているばかりか、異常と言う他はない。
5 私信等について
(1) 八尾については、新学部開設準備委員会などで経営問題について意見を 繰り返し述べて、議事を妨 害したり、経営計画の見通しについての個人的 意見を述べた書簡を多数送りつけ、学園改革事業の妨 害を図ったとする懲戒事由が付加されている。殊に、八尾が学長に宛てた私信について、債務者は異常 な程に執着し、これを懲戒理由としている。八尾は学長に対して多くの書簡や資料などを送っているが、そ れらの内容については八尾の陳述書に詳細に述べられているので、ここでは書簡が何故に出されたの か、それが果たして懲戒解雇という処分をされるようなことなのかについて述べる。
(2) 八尾は債務者の学部新設等について、経済学部長として、もう少し教員の意見や要望も踏まえ、大 学・学部の将来に対する不安を取り除くような方法で進めてもらいたいという希望を有していた。そのよう な希望を有していたのは、何も同人だけではなかった。学生数が年々減少する時代の中、学部を新設す ることについては十分な調査と予測を踏まえなければ、大学そのものの存亡にかかわる。そのようなこと から、八尾は準備委員会で財政見通しなどについても考えて欲しい旨の発言をなした。利用可能な資料を 用いて、財政釣な試算をし、学長に慎重な検討と御判断をお願いした。
(3) 八尾は債務者の主張するような同じ内容の私信を繰り返し出したわけではない。その都度、時宜に応 じた内容のものを差し上げている。その中には、学長室での面談の際、直接に手渡した資料のようなもの も多い。私信の中で学長に対し勇退を進言したことは失礼だったかも知れないが、八尾はそのことについ て謝罪している。このような個人的な手紙を懲戒処分の事由とするのは、公私混同であり、余りにも酷で あると言わなければならない。八尾は理事長やその他の関係者にも書簡や資料を提出している。それ は、大学の将来を心配して、増設計画は慎重に検討して欲しいというものである。これらも大学の将来を 心から考えてのことである。八尾が学部新設などに関し、これと関係のない学外者に私信を出したことは ない。大学・学園の将来を心から心配して、学長や関係者に私信を出したことが、何故に懲戒解雇処分の 理由になるのか全く理解が出来ない。同人の私信は個人的な名誉を侵害する文書を大学内の掲示板に 貼付したり、全く関わりのない者に送付し、関係者の名誉を著しく毀損した甲南大学事件の事案とは質的 に異なるものである。
(4) ところで、新学部の設置に向けて学則が改正されることになり、経済学部教授会はそのための学則改 正案を平成10年度第6回教授会で審議することになった。同教授会では改正実に関連して種々の意見 が出され、採決の結果、賛成18票、反対10票、白票8票となった。八尾は議長であったが、投票に参加 し、賛成票を投じた。このことについて、債務者は、一部教員から、このような理事会決定事項について は、投票による採決は適当でないとの指摘があったにも拘わらず、八尾は投票による採決に持ち込み、 学則改正案を否決することによって理事会決定事項の変更を迫ろうとしたとか、教授会を私物化したと主 張している。これが処分事由となるということも驚くべきことである。八尾は学則に従って学則改正案を教 授会で審議しただけであり、教員の中にこの案件についての危惧や問題を感じた者が多かったため、反 対票や白票が多く出たのである。教授会を私物化したなどありえないことである。八尾がこの件について 片寄った一方的議事運営をしたという事実はない。大学の教員ほどの者が一人に左右されるほど、見識 のない者ではないし、教授会はそのような者の集合ではない。
(5) なお、八尾の懲戒事由として列挙されている事柄については、大学内ばかりか理事会の下においても 詳しい調査と審議が行われたという事実がなく、そのことを示す陳述や資料も提出されてはいない。