仮処分裁判 田尻利教授の懲戒解雇処分の不当性の主張

 
仮処分申請書(2002年4月5日)より抜粋

@田尻氏の処分内容(−省略−)

A 上記処分事由は、田尻が教員選考委員として不適格者を採用することを可としたということにある。そ こで、先ず教員の採用と教員選考委員会について述べる。
  被申請人大学が教員を採用する場合、公募の方法がとられるが、教員選考委員会で審査し、教授会 が最終決定することになっている。教員選考委員会は5名の委員で構成され、委員会の委員は教授会で 選任され、委員会では委員長、主査、副査が選任される。委員長は委員会を主催し、教授会に委員会報 告をなし、主査、副査は評価の対象となった業績報告書を作成するのが慣例になっていた。同委員会は、 いわば教授会の諮問機関的存在である。因みに選考委員会は多数決ではなく、4分の3以上の議決によ り適否を定めるのが慣例であった。
B 申請人田尻は平成11年10月に選考委員に選任された。平成11年10月13日締め切りで、被申請 人に教授又は助教授の公募があり、その頃学部長から選考委員会を開催するように要請された。同委員 会は平成11年11月2日に開催され、申請人田尻が委員長に選任された。委員会では各委員が公募者 の経歴、論文、業績等を考慮し、各人がそれぞれの意見を述べた。その結果、採用候補者は適格と判断 された。このことに関し、被申請人は採用候補者が「人事管理論」「労使関係論」について不適格であるの に適格であると議事運営を不当に主導したのは懲戒解雇事由にあたるとして田尻を処分したものである が、選考委員会の構成委員は教授4名、助教授1名であり、それぞれが独立して自己の判断によって採 用候補者を評価し、意見を述べており、田尻が議事運営を不当に主導することなどありえないことである。 そもそも採用候補者が不適格であると決めつけて、これを適格者としたことが懲戒解雇処分の対象となる とする被申請人の態度は独裁的である。同候補者に対し、業績、論文等優秀であるとした選考委員の判 断こそ遵守されるべきであり、一方的に決めつけた理由によって懲戒解雇がなされるのであれば、委員 会の意味はなく、委員会において自己の意見すら言えなくなる。
C また、被申請人は田尻に対し委員会は8回にわたって開催されたが、被申請人は第4回委員会で投 票がなされたのにも拘わらず、その結果を教授会に報告しなかったことを懲戒理由としている。教授会に 報告するのは当然のことであるが、それは選考委員会の最終的な結論であり、4回委員会の段階では未 だ結論は出ていなかったのである。この段階で教授会に報告する義務はなく、また報告しても無意味であ り、教授会からも報告を求められたことは一度もない。したがって、田尻が報告をしなかったということは 何ら懲戒の理由となるものではない。
D 更に、被申請人は田尻に対し、投票において「否」を投じた主査に対して副査と交代すること、あるい は副査の書いた業績評価書に連名することを迫ったなどということを懲戒事由にあげているが、これはと んでもないことである。この選考委員会において、主査は「否」の意見であったことから、業績評価書は作 成出来ないと述べた。これに対し、委員会は副査と代わって欲しいと要請したところ、主査がこれを拒んだ ため、主査に代わって副査が評価書を作成したものである。いずれにしても、田尻は選考委員長として忠 実に職務をおこなったものであり、これを理由として懲戒解雇が為されるなど唖然とするばかりである。

 
 

 

 

 

 

 
三教授側準備書面(2002年4月30日)より抜粋

第5 申請人田尻について
1 同人に対する解雇事由として、
@ 第一に、「田尻は選考委員会委員長として審査を主宰するにあたり、公募書類に記載された内容と異 なる審査方法を進めた。すなわち、公募書類は『人事管理論および労使関係論』と記載されていたのにも 拘わらず、『労使関係論』のみで審査を進めた。このような審査は大学の社会的信用を低下させ、名誉を 傷つけるものであり、要件を満たさないとして応募を諦めた者に対しても不公平な扱いとなり、大学自体が 対外的に無責任という誹りを免れない」 とされている。
A しかしながら、上記のような事実は一切ない。
ア 田尻は選考委員長として、委員会において公募者に対し公募に記載された通り「人事管理論および労 使関係論」の教授として教授会への提案に値する人物であるか否かについて討議を進行させ、他の選考 委員は自己の識見に基づいて意見をのべこれを判断したものである。その結果、「人事管理論」について は1名が疑問を呈した(なお、「労使関係論」については全員一致であった)。こうして、前述の通り、選考 委員会は最終的に候補者に関し「労使関係論」の教授として可とし、「人事管理論」も担当可との意見を付 して教授会にこれを提案したのである。
イ その結論に至るまでには当然各委員の意見があり、活発な議論の上で 結論が出されることこそ学問 の府である大学の本旨である。その前提として当然議論は自由になされるべきであり議論の内容を取り 上げ、これを処分の対象とするなど、およそ大学として考えられないことである。
2@ 第二に、被申請人は田尻が不適切な委員会運営を行ったと述べ、その内容として「第3回委員会ま で公募科目採用候補者を1名に絞り、第4回委員会で候補者に面接の上で投票による採決を実施した結 果、賛成4名、反対1名となり、教員選考規程によれば採用を可とする結論となった」。
「かかる場合、委員長としては慣行としても規則に照らしても速やかに委員会の審議結果を教授会に報告 し、教授会の審議に委ねる手続きをとるべきところ、田尻は投票結果が全員一致でなかったこと、しかも 反対票が主査の票であったりその理由が科目適合性の点で不適格であるということであったからそのま まこれを教授会に報告すれば教授会が紛糾し採用候補者の採用が危うくなることを恐れ、主査の反対を 覆す目的のもと、委員会審議の継続再開に踏み切った」と述べている。
A 確かに4回委員会で採決をした結果、上記の通り賛成4名、反対1名となった。選考委員会は、5回委 員会以降、業績評価書と委員会報告の作成を課題としたが、未読の論文をも検討して「人事管理論」につ いての業績評価書を作成することになったのであり、このことについて異論を唱える委員は誰一人として なく、結局同候補者の七つの論文の検討をしてみようということになった。そのようなことから委員会が延 長されたものであり、委員会として「そのまま教授会に報告すれば教授会が紛糾する」などと考えたわけで はない。ましてや、「田尻が採用候補者の採用が危うくなることを恐れた」など独断も甚だしい。田尻が主 査の反対を覆す目的の下に4回で終了させなかったという主張に至っては唖然とするばかりである。
B 主査は投票後、自己独白の見解を貫き反対の意見を維持した。そして結局は採決結果に基づく提案 がなされた。賛成した委員も反対した委員も独自の識見に基づいて候補者の資格を判断したもので、そ の正否を専門外の第3者が云々すべきではない。ましてや、被申請人が勝手に判断の正否を決めるべき 筋合いのものでもない。
 ところが、学長は平成12年3月に、関係者からの事情聴取もせずに委員会の結論を否定した。
もし委員会を5回以上開催したことが懲戒事由となるのであれば、これに賛同した委員全員が懲戒処分さ れるべきであるが、そのようなことがいかに不条理であるかは言うまでもない。
C 被申請人は田尻に対し次の理由を付加している。すなわち、「再審査に踏み切った後の委員会運営 においても、あくまで科目不適合性を理由に反対意見を表明する主査に対し、田尻は他の委員らと共に 主査に対し『主査を降りるよう』迫ったり、『副査の書いた業績報告書に主査も連署するよう』強要したりし た」というものである。
D しかし、このような事実は全くない。前述のように、本来業績報告書は、主査及び副査が作成するのが 慣例であるところ、主査は反対票を投じたことから同報告書を書かないと言い出したため、他の委員から 「例え反対であったとしても慣例に従うべきである」旨意見が出た。ところが、主査がどうしても書こうとしな かったことからやむなく副査が作成することになった。その際、田尻は主査に対し慣例でもあるから署名し てほしいという意見を述べたことはあるが、これは委員長としてむしろ当然のことであった。 民主的な手続 きに従おうとしなかった主査の態度は全く問題にされず、他方、田尻が慣例に基づいて署名を求めたこと が懲戒の対象となるなど、これもおよそ考えられないことである。
3 いずれにしても、申請人田尻は選考委員長としての責務を適切に果たしており、懲戒解雇の理由は全 くないものである。

 
 

 

 

 

 

 
三教授側準備書面(2002年7月25日)より抜粋

三.懲戒解雇事由の不存在

1 債権者田尻、同馬頭に対する解雇事由の不存在
(1) 債務者の田尻、馬頭に対する懲戒解雇事由については既に述べたが、解雇事由の前提事実そのも のがないことを詳細に述べるために便宜上、債務者の主張を再度揚げる。
@ 田尻については次のようなものである。担当科目「人事管理論および労使関係論」で公募したにも拘 わらず、担当科目中「人事管理論」を削除し、労使関係論のみを取り出した形で審査を行うこととし、「労 使関係論」の教授として推薦した。田尻は採用候補者を決定するために、選考委員長として投票による採 決をしたにも拘わらず、これをそのまま教授会に報告すれば採用候補者の採用が危うくなることを恐れ、 主査の反対を覆す意思を持って委員会審議の継続再会に踏み切った。その後の委員会運営においても 他の委員らと共に、原口主査に対して主査を降りるように迫ったり、業績評価書に連名するよう強要したり したというものである。
馬頭については、「労使関係論」のみで採用を可とする業績報告書を作成しただけでなく、田尻の不適切 な委員会運営に加担したり、主査の辞任や評価書への連名を迫ったというものである。
A しかし、そのような事実はないばかりか、むしろ両名は選考委員とし て、極めて誠実にその任務を果 たしている。以下、委員会で議論された内容を詳細に述べ、このことを明らかにする。
2 本件で田尻、馬頭が公募者を選考するにあたり、人事管理論を削除し、労使関係論だけを取り出した 形で審査をしたという事実は全くない。このことについては、原口主査の委員会経過報告からでさえ削除し て審査したという事実は出てこない(乙第7号証の2)。また、選考委員会では最終的に一人に絞られた候 補者が「労使関係論」を担当することについては全員に異論がなく、人事管理論の担当ができるか否かで 議論がなされている。この点からも人事管理論を削除して審査がなされたという事実などないことは明ら かである。
3 選考委員会の審議
選考委員会の審議の経過については、債権者田尻、馬頭の陳述書で詳細に述べられている(疎甲第2 6、27号証)。これらにより、採用候補者が決定された経緯を要約すれば次の通りである。
(1) 債務者学園は経済学部経営学科の○○助教授が平成11年3月に札幌学院大学に転出したため、教 員候補者を公募することになった。○○助教授は社会政策学会に所属し、人事管理論、労使関係論の講 義を担当していた。
平成11年7月の教授会において教員を公募することが決定されたことを受けて、債務者は学長、経済学 部長の連署で「教員候補者公募について(依頼)」と題する文書を平成11年7月21日付で全国の諸大学 や研究諸機関に発送し、広く人材を求めた。担当科目は「人事管理論および労使関係論」、募集人員は1 名、職名は「教授または助教授」であった(乙第3号証)。
(2) これに伴い、経済学部教授会は教員選考規程経済学部施行細則第6条に基づいて、平成11年10 月、 専門委員として債権者である馬頭と原口俊道教授を選出した。 因みに、 馬頭の専門領域は経営 学、経営組織論であり、経営学基礎、経営組織論の講義を担当している。また、原口教授の専攻領域は 経営管理論であり、経営管理論、経営学基礎の講義を担当している。     
選考委員会の委員は前記専門委員の他、経済学科より田尻、経営学科から○○助教授、一般教育から ○○教授が選出された。一般委員は専門委員とは専攻領域を異にするが、研究者として業績について論 文の展開や資料の利用などで基本釣な研究能力について判断が出来ると共に、専門委員の審査が的確 であるかどうかを総合的に判断するもので、この選出方法は昭和57年度からなされていた。
(3) 教員選考委員会は5名で構成されるところ、第1回の選考委員会は4名 が出席した。そこで、委員長 に田尻を選出し、規程上、専門委員から主査、副査を選出することになっていた。そこで、委員会は年長 の原口を主査に馬頭を副査とした(疎甲第26、27号証)。主査は業績評価書を作成するのが慣例になっ ており、副査は主査と共に候補者の業績評価において中心的な役割を持ち、主査の代わりを務めるのが その任務である。
(4) 応募者は10名であった。選考委員各自が応募者の研究業績を読み、これに基づいて審議がなされ た。その結果、資格不足、論文不足などにより4名が、また1名は論文が概説的な内容にとどまっていた という理由で外された。候補者は5名に絞られたが、まず1名は業績に学術性が高くないという理由で、続 いて他の1名は主要論文が提出されず、年齢の割に発表論文も少なかったということから、残り3名に絞 られた。この3名に絞ることについては全員一致であった。その3名の中で、○○(当時○○大学教授)は 研究業績は論文31本(42点)で、業績と経歴の両面で3名中、群を抜く研究者であることにも異論はなか った。他の2名については論文の審査の結果、委員の間で評価が分かれ、また採用職位が教授、または 助教授であったのに、両名は大学院在籍中であったため、職位の面からも困難と判断された。そして、結 局、研究業績の際立つていた○○教授に絞られた。
(5) 債権者馬頭及びその他の委員は○○教授は労使関係論だけでなく、人事管理論も十分に担当できる との評価を与えた。原口主査は労使関係論の業績については理論的で内容も深く力作であるとしたが、 人事管理論の適合性に疑問を呈した。ところで、前任者の○○助教授は前述の通り、社会政策学会に所 属し、人事管理論、労使関係論の講義を担当していた。○○教授も同じく社会政策学会に所属しており、 前任者の講義内容を踏襲する意味でも同教授はきわめて適任と考えられた。選考委員会の中でも労使 関係論について全員異論はなかったが、原口主査から上記の通り人事管理論について疑義が出された ことから、○○教授がこの講義を担当できるか否かについて更に論議がなされた。
(6) ところで、人事管理論における人事管理は作業者層だけではなく、職員、技術者、専門家、管理者な どを対象とする学問であり、○○教授は○○の企業の労働過程への包摂(賃労働化)や賃金体系に与え る影響と経済的な必然性について考察していた。また、一方における個別資本の労務政策と他方におけ る労働組合の活動の具体的な展開の中で、○○の位置付けの解明がなされていた。このようなことから、 馬頭は○○教授は人事管理論も担当可という判断をしたのである。そもそも、労使関係論と人事管理論 は全く別個の体系に属する学問でなく、研究領域が相互に交錯している学問であり(京都大学の赤岡教 授は両者を切り離して扱うのは限界があるとしている。 乙第20号証) 少なくとも両科目は相互に関連す る科目で あることに間違いない。研究者は一般的には特定の分野を深く研究するものであり、そのため に関連分野の幅広い知見が必要となる。このようなことから、文部省は専攻科目に関連のある科目につ いては担当出来るとしているのである(疎甲第14号証)。
(7) 選考委員会では原口主査の意見を尊重して議論が進められた。委員会において一人の委員から「一 般論として研究領域が相互に交錯している状況にあって、科目の適合性を狭く固定化するのではなく、広 く解釈してはどうか」との意見が出された。この意見は研究者が広い学問体系の知識をもとに固有の専門 領域について研究するため、隣接する関連科目や基礎的な科目について一定の知識を有するのは当然 であり、学生にも体系的な知識を教育することができるとされているという立場に立つものである。○○教 授は研究業績が豊富で、その業績は人事管理論や経営学と共通するところがあり、また大学で長年○○ 論を担当し研鎮されていることから、当然人事管理論も担当できると判断された。因みに、このことに関 し、赤岡教授は○○氏が「『人事管理論』は専門家ではないけれども講義できる」(乙第18−10号証、10 頁)としている。
次に、委員長から○○教授を面接し、同教授に人事管理論を担当できるか否かを確認し、もしできないと いうことであれば採用を見送ればどうかという意見が出された。原口主査もこれに異論がなかった。選考 委員会はこの方針を採用し、面接することになった。このことについて、教員選考委員会報告にも「○○ 氏の面接を全員賛成で決定、但し人事管理論については原口氏の疑問があるため、担当の可否を面接 で本人に確認することになった」と記載されている(乙第73号証)。
(8) 平成12年1月8日の選考委員会は○○教授の面接を行った。原口主査は同教授に人事管理論につ いて質問した。○○教授は「専門分野と『ストレート』ではないが、『根っこ』は同じであり、『関連領域(科 目)』である。両科目でも講義担当可能」との説明であった(乙第7−3号証)。○○教授による○○を背景 とする○○の労働やその歴史的傾向についての先駆的な研究は、企業内の労働組織や賃金体系の変 化を捉えたもので、人事管理研究の基礎となりうること、更には○○の源流である○○や○○らの○○の ○○制度を研究されていることから、上記の回答があったのである。また、○○大学の大学院時代に○ ○教授という○○の学説に学んだことも紹介された。
(9) 面接においては、○○教授の人事管理論担当について不適格とするだけの判断材料は得られなかっ た。このことについて原口主査自身も全く異論を述べなかった。そこで、同教授を採用するについて投票 に入った。投票は規程に従って無記名でなされ、その結果、これを可とする者は4で、反対は1であった。こ の投票により、選考委員会は○○教授を教授会に推薦することになった。
ところが、原口主査は自己が反対票を投じたと述べた。他の委員達は、面接前、原口主査が○○教授の 人事管理論の業績に疑問を呈したことは知っていたが、その後に行った面接の結果について主査より反 対意見が出されなかったので、同人も異論がないと考えていた。
(10) ところが、主査が否としたと述べたことから、委員会としては人事案件については出来るだけ全会一 致が望ましいと考えた。そこで、委員会で検討した結果、○○教授には論文が他に多く存在する訳だが、 それらに目を通しておらず、人事管理論を否とするだけの業績評価をしていないのではないかとの意見が 出された。結局この意見が容れられ、更に主査と副査で○○教授の7点の論文を読み、人事管理論につ いて評価することが決定された。ところが、主査はこれらの論文を読もうとしないばかりか、副査である馬 頭にもその論文の配布を差し止めた。このような主査の不識実な態度に馬頭は抗議した。
(11) その後、7本の論文を読むことになったが、主査は従来の態度を一変し、人事管理論及び労使関係 論の2つとも業績が不適合であると言い出した。この時の主査の評価は、それまでに検討した論文12本 に対して、実際は0.7本分の業績しかないという、学術的な根拠を欠く非論理的なものであった。労働経 済論の論文は個別企業の枠を越える問題だから不適合、企業の○○を扱った論文は「○○論に関する 業績」だから不適合だなどと、従来同人が述べていたこととはまるで一貫しない見解を述べはじめたので ある。
(12) 原口主査の考えは上記の通りであったが、選考委員会の結論は既に投票によって出されていたこと から、委員会としては委員会報告書と業績報告書の作成に入ることになった。委員会報告は委員長が、 業績評価書は主査が作成するのが慣例となっていたところから、委員会は主査に対し、委員会の審議や 票決を踏まえた業績報告書を作成して欲しい旨打診したところ、主査は作成できないと言うことであった。 主査としては、例え自己が反対の立場であったとしても教員選考規程に基づいて出席委員の3分の2以 上の賛成によって決定されたのであるから(同規程第11条4)、これに従って作成するのがその役割であ るのに、その任務を放棄したため、やむなく副査である馬頭が業績報告書を作成することになったのであ る。これについては、主査も反対はしなかった。委員会としては、主査に対し、副査と替わってもらえない か、せめて副査と連名して欲しいなどと協力を求めたが、同人はこれに応じようとしなかった。このことに ついて、主査は強要されたと述べているが、そのような事実はない。
副査の作成した当初の業績報告書では○○教授は「労使関係論」、「人事管理論」の担当教授として適任 であるとしていたが、委員長が作成した教員選考委員会報告との整合性から、委員会は○○教授を「労 使関係論」の担当教授として推薦し、「人事管理論」を担当可として口頭で報告することにした。
(13) 債務者は副査が報告書を作成したことを処分理由の一つとしている。し かし、副査は前述の通り、 主査と共に業績評価において中心的な役割を果 たすものであり、本件のように主査が多数決を無視し て、その業績評価書 を作成しないのであれば、副査が替わりに作成せざるを得ない。債務者の 主張によ れば、主査しか業績評価書が書けないことになるが、同人が反対 すれば何も出来ないということになり、 主査に絶対的な権限を認めることになる。選考委員会を設置し、多数決で判断する意味はすべて失われ てしまう。このような債務者の主張は、余りにも常識に反し、到底受け容れられるものではない。そればか りではない。債務者は馬頭副査が作成した業績報告書は虚偽記載であるなどとして、これが処分理由と なっている(疎甲第2号証)。
 馬頭の作成した業績報告書の内容には虚偽の記載など何処にもない。さすがに答弁書ではこのことは 懲戒の理由としてあげられていないが、学長の陳述書は相変わらず虚偽の業績報告書を作成したとし、 それを懲戒解雇の理由としてあげている(乙第39号証)。しかし、同陳述書には馬頭の報告書のどの部 分が虚偽なのか何処にも具体的にあげられていない。業績報告書にはどこにも偽りはないから挙げられ る筈などない。債務者の本件処分がいかに恣意的なものであるか、このことからも明らかである。
(14)@  以上の通り、債権者田尻や馬頭らが「人事管理論」を削除して審査した事実がないことは明らか である。また、投票による採決後、すぐに教授会に報告しなかったのは、委員会報告書と業績評価書の作 成が不可欠であり、そのための時間が必要であったからである。したがって、不適切と言えるような委員 会運営はなされておらず、債権者らの上記行為には大学に相応しい真剣さがあったとしても、同人らに処 分の対象になるような事実は全くない。選考委員会において主査に対し副査と替わって欲しいとか、連署 して欲しい旨依頼したのは、主査が為すべきことをしなかったからであり、これも何ら処分事由となるもの ではない。
A 債務者は選考委員会が決定した候補者を不適格者と決めつけ、債権者田尻、馬頭らがそのような者 を選考したことと、選考の仕方に問題があつたとして処分したものである。しかし、選考委員会が選考し、 教授会が推薦を決定した○○教授は、その豊富な業績からも「人事管理論および労使関係論」を担当す るについて極めて適任であるとされており、赤岡教授でさえ、前述の通り○○教授が人事管理論を講義で きるとされているのである。したがって、田尻や馬頭ら選考委員会が同教授を選考したのは正しかったの である。
B 本件公募における採用者の「担当科目」は、「人事管理および労使関係論」とされており、この点から も選考委員会は決して選考を誤っては いない。同人らが専門とはまるで関係のない人物を選考したので あればともかく、候補者の論文を真摯に検討し、大学に相応しい優れた学者を選考したことをもって懲戒 解雇という極刑に等しい処分に付すということは、まさに恐るべきことと言わざるを得ず、懲戒権の著しい 濫用と言わざるを得ない。