弁明機会の欠如について

 

 
三教授側準備書面(2002年5月20日)より抜粋

第2 懲戒解雇の違法性

 一.懲戒解雇の要件
 既に述べた通り、懲戒解雇は勤労者を絨首した上、長年の勤労に対する対価を全て剥奪するばかりか、今 後の労働の機会をも事実上奪うことになる死刑にも等しい処分である。懲戒解雇がこのような過酷なものであ ることから、処分については適正な手続きが求められると共に、それに値する重大な事由が必要であることに ついて争いはない。勤労者の権利が憲法及び労働法によって手厚く保護されている民主主義社会の下で、使 用者の独裁的な判断によって処分をすることは絶対に許されるものではない。
 殊に、学問の自由が保障され、学問の砦を守るため自治が最大限尊重されている大学の場合、適正手続上 記要件が厳に守られなければならない。しかしながら、本件懲戒解雇は適正な手続きが全く守られていないだ けではなく、懲戒事由も全くない著しく遵法なものである。

 二.適正手続違背
 (1)弁明の機会について
 懲戒解雇処分がなされる場合には、先ず被処分者に対し弁明の機会が与えられなければならない。本件で はこの機会は与えられているものの、単に形式を繕っただけのものであった。被申請人は申請人田尻、同馬頭 に対して平成12年1月22日、同八尾に対して平成13年10月25日と同年11月14日にそれぞれ弁明させたことにな っている。しかし、本件で被申請人は、当初から申請人らの処分を決めており(乙第 考証以下によると、弁明 の前から処分を決めていたことは明らかである)、弁明の時間も殆どなかった。
 およそ弁明の機会を与えたというためには、処分事由にあたる事実が存在したか否か、仮にそのような事実 があったとすれば何故になされたのか、そのようにせざるを得なかった事実はなかったのか、本人に同情する ような事由はないか等を詳細に問い質されなければならない。そして何よりも、弁明の事実等を考慮した上で判 断がなされなければならない。
 ところが、被申請人は当初から申請人らの弁明を聞き入れる気持ちなど全くなく、申請人らの弁明は処分に あたって参考にすらされなかったのである。
 もし、被申請人が申請人らの弁明を真撃に受けとめる気持ちがあれば、申請人らが自己の職務を忠実に遂 行していたことが明確に理解できたものである。すなわち、申請人田尻は選考委員会において選考委員長とし て適切に議事を進行させ、委員会をまとめている。申請人馬頭も選考委員会の副査として、その役目を果たし ている。後述の通り、同人が作成した業績評価書のどこにも虚偽の記載はない(被申請人の処分通知書によ れば申請人馬頭は虚偽の記載をしていると記載されているが、一体何処が虚偽の記載にあたるのか全く明ら かにされていない)。申請人八尾についても、その弁明書からも明らかな通り、懲戒解雇に教授会の議長として 議事運営に努め、意見をまとめている。同人は学部新設等について、その経営を心配して熱心に意見を述べ たり、信書を出してるが、他の誰にも迷惑を掛けたことはないし、それが学校経営に支障をきしたこともない。し たがって、同人にも懲戒解雇をなしうるような事由がないことは言うまでもない。
 ところが、被申請人が行った弁明手続きは処分のためのものであったため、懲戒解雇に要求される適正手続 の欠映を回避するための形式的なものにすぎなかったのである。このような形式だけの弁明手続きがなされた としても、それは真に弁明の機会を与えたとは言えない。したがって、本件では適正手続違背が存在する。

 
 

 

 
三教授側準備書面(2002年7月25日)より抜粋

二.適正手続違背

1 弁明手続が形式にすぎなかったこと
(1) 懲戒処分は労働者に重大な不利益を与えるものであるから、使用者は懲戒権行使における信義則上の要 請として具体的な懲戒事由を開示するに止 まらず、労働者に対して、充分弁明の機会を与える義務を負うもの である。
而して、ここに言う「弁明の機会を与える」とは、通り一辺の弁解をさせて済ませるというのではなく、弁明の趣 旨を正確に把握し、必要があればこれを基に更に調査を重ねるなど真摯な態度で弁明を受けることを意味する のである。処分を予め決めておいて形式的に弁明をさせたからといって、弁明の機会を与えたことにはならない ことは言うまでもない。
(2) ところが、債務者は当初から「責任者の処分も考えたい」(乙第18−2号証)などとし、予め処分することを 決めた上で弁明させ、原口主査や投票もせず退席した教員のみの一方的な言い分だけを取り上げ、処分を決 めていることは本件各証拠から明らかである(乙第18−1号証以下乙第29号証等参照)。
本件採用人事について、もし選考委員会での審議などに問題があるというのであれば、本件は教学上の問題 であるから、まず教授会か或いは評議会に調査、検討を求めるべきである。それが大学の自治を標傍する者 の取るべき態度である。ところが、債務者は理事会の下に平成12年2月28日、学長を委員長とする大学問題 調査委員会を設け、債権者らの意見を全く考慮せず、債権者らが不適格者を選考したと断定し、その他自己に 都合のよい事実を取り上げるに至った。そして、これを前提に平成13年10月1日に学長が加わった懲罰委員 会を設け、3名を懲戒解雇とする結論を出したのである。大学の自治を無視したこの一連の事実をみれば、債 務者は当初から債権者らの処分を目的としていたという他はない。結局、債権者らの弁明は形式を繕うだけの ものだったのである。
このように、処分を予め決めてなされた弁明は処分の適正な手続を回避するためになされたと言わざるを得な い。したがって、本件では弁明手続きにおいても適性を欠いていると言わなければならない。