仮処分裁判 債権者側(三教授側)書面
 
準備書面(2002年5月20日)

 

 

 

 

 

平成14年(ヨ)第84号
 申 請人  田 尻  利 外2名
 被申請人  学校法人津曲学園


準 備 書 面

平成14年5月20日


鹿児島地方裁判所 御 中

申請人ら代理人

弁護士   増  田   博
 同   小  堀  清  直
同      森  雅  美

 


第1 被申請人の主張に対する認否
 申請人らに対する本件懲戒解雇処分が、適正手続きに反し、理由のないことについては更に後述するもので あるが、先ず答弁書第三「被申請人の主張」に対し、認否、反論する。
 一.第1項 懲戒退職事由の存在について
 1 被申請人の就業規則について
  事実は認める。
 2 教員選考問題に関する懲戒処分事由について
 (1)教員選考問題に関する経過
 @、Aは認める。
 Bの事実中、選考委員会の第1回〜第3回委員会の記述のうち、第3回委員会の「第3回委員会で主査は面 接対象となった・・・その結果、面接結果の如何によっては、採用を否とすることもありうることを委員会全員が 確認した」ことは否認し(但し、同文面中「面接することについては合意した」ことは認める)、「第4回では・・・そ の結果、賛成4、反対1となった」ことは認める。但し、原口主査が採用を否とする投票をなした理由が、候補者 の面接の回答のためであったか否か不知。その余は争う。第4回委員会の記述のうち、投票の結果については 認め、その余は争う。第4回委員会以降の記述のうち、「第5回からの委員会に前委員である○○助教授も委 員会に参加させることも決められた」ことは認め、る。但し、○○助教授は5回からの委員会ではなく、次回(5 回)の委員会に参加してもらおうということであった。その余はすべて否認する。
Cの事実中、「平成12年2月22第13回経済学部教授会に委員会からの提案がなされた」ことは認め、その余は 否認する。但し、教授会では一部教員から同記載の指摘がなされたことは認める。
 Dの事実中、「投票に先だって主査を含む教員7名が投票を拒否して教授会を退席した」こと、「その結果、教 授会の投票は退席した7名を除く出席者32名が参加して行われ、その結果は委員会提案に賛成17票、反対7 票、無効1票というものであった」こと、「この結果は委員会提案を承認するものとして学部長から学長に対して 候補者を採用すべきである旨の要請がなされた」ことは認め、その余は争う。また、「白票、無効票は投票総数 から除く」というのは、従来からの教授会の申し合わせであり、大学規定集にも掲載されている。
(2)解雇事由について
@ 申請人田尻について
 イの事実中、本件採用人事は「人事管理論および労使関係論という担当科目で公募された」こと、「即ち大学 における・・・教員組織が必要である点にある(13〜14頁)」は一般論として認める。その余はすべて否認する。
 ロのiの事実中、前段「上記事実経過の通り・・・採用を可とする結論となった」ことは認め、その余は争う。
同iiの事実は否認する。
A 申請人馬頭について
 イの事実中、「申請人が選考委員会の副査であった」こと、「公募した担当科目は人事管理論および労使関係 論であった」こと、「申請人が教授会に提出する研究業績評価書を作成することになった」ことは認め、「選考委 員会だけの審議により担当科目の「人事管理論」を削除して「労使関係論」のみで採用を可とした」ことは否認 し、その余はすべて争う。
 ロの事実はすべて否認する。申請人馬頭が主査に評価を強要したり、副査の作成する評価書への主査の連 名を迫ったりしたことなど全くない。
 B 申請人八尾について
 「申請人八尾は公募による経済学部経営学科採用人事に関する審査教授会が行われた際の学部長として議 長を務めた」こと、「教員7名が退席した」こと、「投票総数32票中、委員会提案に賛成17票、反対7票、白票7 票、無効1票となった」ことは認め、その余はすべて否認する。
3 申請人八尾に関するその他の懲戒処分について
(1)大学における改革事業の経過について
 @からDの事実はほぼ認める。
 Eの事実中、「審議の重要なルールとして経営問題は理事会で検討し、開設準備委員会では純粋に教学的 な観点から審議することを申し合わせた」ことは否認する。正式にこのような申し合わせはなかった。
 Fの事実中、「議長はこの検討事項文書を説明するときに『経営見通しや財政問題にかかわることは本準備 委員会では検討しない』旨を表明した」ことは否認し、その余は認める。
 Gの事実中、前段部分のうち「申請人八尾は平成9年4月1日に経営学部長に就任し、大学員院開設委員会 及び新学部開設準備委員会の委員となり、いずれも第3回より準備委員会審議に加わった」こと、「同人が財政 問題を持ち出すことがあった」ことは認め、その余は争う。
 準備委員会において、議長は財政問題について発言した申請人八尾に対し、その間題は持ち出さないように 述べたことはあった。これに対し、八尾が議長の発言を無視して発言を続けたことは全くない。
大学院開設準備委員会
 アは争う。
 イはほぼ認める。但し、議事を妨害したことはない。
新学部開設準備委員会
 ア、イは認める。
 ウは認める。但し、議事を妨害していない。
 エは認める。但し、食い下がって議事を妨害したことはない。
 オは認める。但し、八尾が強引な姿勢をとったことはない。
 カは概ね認める。但し、八尾が財政問題について意見を表明したことが新学部問題に関する作業の阻害要 因になったことはない。
 Hの事実中「申請人八尾が委員会で持論(財政問題)を繰り返し提起した」こと、「大学内の評議員らや開設 準備委員会に加わっている教授等に対し文書を発送した」こと、「特に大学学長と学園理事長に対して開設準 備委員会で検討中の大学院および新学部開設にかかわる経営見通しについて文書を送付している」こと、「そ の送付は申請人八尾が開設準備委員会に参加するようになった直後(平成9年6月頃)から始まっており、大学 学長に宛てた書簡、文書は33回(計41通)、理事長に宛てた書簡、文書は6回(計6通)にのぼっている」こと、 「1997年7月28日以降は「経済学部長」あるいは「経済学部長八尾信光」との著名人りになっている」こと、「時期 的には学部長在任中の3年間のみならず、学部長を退いた平成13年4月1日以降にもこの言動を継続してい た」ことは認め、その余は争う。
 申請人八尾が書簡を頻繁に送付したのは学長であり、理事長に対しては6回程度である。同人は、被申請人 の新学部開設、大学院設置に伴う財政問題を憂慮し、学長や理事長に対しこのことを考慮して欲しいことを気 持ちを込めてお願いしている。これが理事会事項に干渉したというような内容ではないことは、その内容によっ て明らかである。また、文書を送付し始めた当初は自署のない文書であったなどと述べているが、差出人を示 さずに送付した文書はない。
 Iの事実中、「申請人八尾は、一貫して経済学部の存立という狭い視野に立ち・・・学園としての事業計画に 関する独善的要望を執拗に送り続けている」ことは否認し、その余はほぼ認める。
 申請人八尾が新学部の収支などについて懸念を抱き、意見を述べ、学長らに考慮を求めることがあったが、 同人は経済学部の存立だけという狭い視野で意見を述べたことはなく、ましてやその要望は決して独善的なも のではない。同人が大学のことを心配して意見や要望を繰り返し述べたことが何故に権限を逸脱及至濫用する ことになるのか理解に苦しむ。
 Jの事実中、申請人八尾は「大学以外の部外(中学校、高等学校、短期大学)の赤字を削減し、大学のみを 拡充すればよいとの私案を出した」こと、理事長に対して、「面子を捨てて、計画を中止するように迫った」ことは 否認し、その余はほぼ認める。申請人八尾が財政的な面から意見を述べたり、書簡にて再考をお願いしたこと は事実であるが、それによって経営権に介入しようとしたとか、理事会決議を覆すことを迫ったと述べるのは行 き過ぎである。
 Kの事実は認める。
申請人八尾は○○大学のシンポジウムで個人的に意見を述べているが、同人は私の勤務校である経済大学 の場合には一応黒字を出しながらやっていると述べているだけであり、被申請人に対して批判する意見を述べ たことも、学園全体のイメージダウンにつながる影響を与える結果となったというようなことなども全くない。
 Lの事実中、「申請人八尾が、収支計算をした」こと、「近隣の2つの私立大学が赤字であることを言及してい る」ことは認め、その余は否認する。
 同人は合理的な試算をなし、被申請人の財政について意見を述べている。このことが、被申請人の信用、名 誉にかかわることになるのか到底理解できない。
 Mの事実中、前段「申請人八尾が・・・みなされざるを得ない」のうち、申請人八尾が1998年6月17日の第5回 教授会に於いて、学長に対する要望書を提示した」ことは認め、その余は争う。但し、要望書(案)である。
 このことについて、被申請人は申請人が教授会を私物化し、操作するという挙に出たと述べているが、これは 教授会を蔑視するものである。要望書を提出しようとの意見が教授会において示されたことから、八尾は教授 会に要望書の案を提示したのである。これに基づいて教授会で協議がなされた。教授会はそれぞれ独自の見 解をもつ学者の集まりであり、
 いかに学部長であってもこれを私物化できるようなものではない。このような被申請人の主張こそ、教授会の 意見を平然と無視する態度につながるものであり、被申請人が平然と教授会の意思を無視して本件候補者の 採用を拒否したことと無関係ではない。同Mの後段、「また、1998年7月15日・・・決定した」の事実中、「1998年7 月15日の第6回教授会における新学部設置にかかわる学則改正案の協議において、投票による採決をした」こ と、「その結果は新学部設置に対して、賛成するというものと賛成しないものが同数(賛成は18、反対10、白票 8)であった」ことは認め、その余は争う。
 経済学部教授会では学則案改正について議論がなされた結果、承認されなかった。このことについて、被申 請人は申請人八尾が「教授会の結論は可否同数であり、本件は承認されなかった」とする内容で議事録を記録 することに決定したと述べているが、このような事実はない。教授会通則では出席人数の過半数がなければ承 認されないことになっている。そのようなことから、八尾は投票結果をどのように判断し、記録すべきかを教授会 に諮った上で、議事録に「以上の結果、賛成数が投票総数の過半数に達しなかったため、学則改正案は承認 されなかった」と記載したのである(乙69号)。このことに関する被申請人の主張は悪質でさえある。
(2) 懲戒事由について
 @については争う。申請人八尾が、「大学院開設準備委員会」及び「新学部開設準備委員会」に参加し、被申 請人の経営問題について意見を述べたことや理事長及び学部長に対し書簡を送ったのは、ひとえに大学の将 来を心配したからであり、このことが学園改革事業の妨害を図ったことになるなどありえよう筈がない。また、申 請人八尾は理事長に対し新学部設置にかかわる文部省の第一次申請手続が終了した後において「申請を取 り下げるように」とお願いしているが、これが「取り下げを迫った」とか、越権であり極めて無責任かつ専断的行 為であるということになるなど到底考えられない。
 Aについて、前段「理事会で決断された・・・変更しようとしたものである」の事実中、「理事会で決定された新 学部の設置について、これに伴う学則改正案を平成10年の第6回経済学部教授会の協議に付した」こと、「そ の際、一部教員からこのような理事会決定事項については投票による採決は適正でないという指摘があった」 こと、「旧学則の規定上、学則の改廃は教授会の協議事項とされていた」ことはいずれも認め、その余は争う。
 上記の通り、学則の改廃が教授会の協議事項であったことから、教授会での議論の結果、前述の結論が出 たものである。被申請人は「上記学則の改正は、それまでの経済学部と社会学部の2学部に国際文化学部を 加えるだけの形式的変更であった」などと述べているが、これは極めて重要な変更であり、既存学部に及ぼす 影響も大きく、教授会でも重要な問題として議論がなされるべき事柄であった。これを申請人八尾が投票による 採決に持ち込んで学則改正案を否決することによって理事会決定事項の変更を迫ろうとしたとか、教授会を利 用したと述べるのは全くあたらない。教授会は一人の者によって左右されるようなものではない。
 中段「なお上記旧学則‥・該当する」部分は争う。
 後段「因みに・・・終わっている」の事実中、「因みに社会学部教授会においては一応学則の規程に則り、学則 の改定案として協議に付された」こと「実質的内容は理事会決定事項のことで、その報告と承認という形で終わ っている」ことは不知。
 社会学部教授会と経済学部教授会の結論が異なることがあったとしても、別におかしいことではなく、それだ からといって経済学部教授会の結論が正当でないということには決してならない。
 Bについて、iの事実ははば認めるが、引用は正確でない。
 申請人八尾は大学の財政を憂慮し、学長宛に書簡を数多く出したことは事実であるが、その内容は学長の名 誉を毀損するようなものでは決してない。
 iiの事実は認める。
 iiiの前段、「学外者に対し・・・に該当する」の事実中、申請人が瀬地山敏教授、赤岡功教授に対し、平成12年 9月21日付で文書を送付したこと、瀬地山教授に対する内容が同記載のようなものであったことは認める。
 被申請人がこのような個人的な信書の内容を理由に処分することは信書の自由に反するものである。被申請 人はこの信書について、「上司の職務上の指示に忠実に従うこと」、「学園の不利益となるおそれのある事項を 他に告げること」に該当すると述べているが、大学の財政を心配し、「現学長に適切にアドバイスして欲しい」と か「本当は先生御自身が本学の学長になってくださるとありがたい」と申請人八尾が個人を信頼して自分の気 持ちを述べた信書が被申請人の手に入ること自体が異常であるが、この信書の内容のどこがこれらの条項に 反するのか理解に苦しむという他はない。なお、瀬地山(前学長ではなく、前副学長である)、赤岡両教授は被 申請人の採用人事問題についての「調査委員会」の委員であり、八尾を調査して判断を下すべき立場にあった 者であるから、平成12年8月4日の調査尋問の際、述べたことをより正確に伝えようとしたのである。B後段「因 みに申請人八尾は・・・全く的はずれなものであったことは明らかである」との事実中、申請人八尾が同記述の 書簡を理事長および学長宛に出したということは認め、その余の事実は不知。
 被申請人は、大学、短大合計の収支が黒字であったことから、申請人八尾の指摘が全く的外れであったと述 べている。しかし、実際には大学、短大における黒字幅は減少し、学園全体の収支は赤字となっている。しか も、定年の引き下げや既存学部における教員数の削減が行われている。八尾の指摘は決して的外れなもので はなかったのである。

二.本件処分までの手続について
 1、4についてはほぼ認める。但し、原口主査及び教授会における退席教員6名からの連名による書簡が理事 長及び学部長に出されたことは不知。
 資料乙15、16によれば、上記書簡が出されているようであるが、これらは同書簡の期日に提出されたか否か 疑問である上(申請人らを処分するため、後日作成された可能性がある)、このような個人的で一方的な書簡に より処分することは到底許されるものではない。もし、反対する者の意見だけで理事長や学長らによって処分が 許されるのであれば、学内民主主義は否定され、独裁であると言わなければならない。
 2の事実は不知。
 被申請人が大学間題調査委員会を設置し、調査することについて同委員会の委員に学長の直弟子である瀬 地山、学長の後輩である赤岡両教授を加えたということ自体、公正ではない。そればかりでなく、被申請人は選 考委員会、教授会で認められた候補者を不採用にし、候補者間題は決着しているにも拘わらず、上記両教授 に今回の公募人事の候補者について業績評価科目適合性という視点から調査に参加してもらうことにしたとい うことに至っては、大学独自の自治を放棄するばかりではなく、当初から自己の気の入らぬ人物を排斥する意 図が明らかであると言わざるを得ない。なお、不採用として通知した候補者の業績を本人のことわりなしに第三 者に評価させたことは、著しく社会的動道義に反すると言わなければならない。
 3の事実中、「第4回調香委員会で八尾教授及び原口主査以外の教員選考委員4名が呼ばれ、面接聴聞がな された」こと、「第5回では原口主査、馬頭副査、田尻委員長の3名が再度呼ばれて面接聴聞された」ことは認 め、その余は不知。
 因みに2名の外部委員からは採用候補者について人事管理論としても労務管理論としても不適合と言わざる を得ないとの結論であったということであるが、それは学長の直弟子や後輩である2名の外部委員の意見にす ぎない。これらに適合する実績があったか否かは、当然各教授によって見解が異なるものであり、だからこそ、 最終的には投票によって決められるのである。被申請人は、自己の都合のよい外部委員を選任し、その結論 を利用して処分するのは、独裁としか言いようがない。
 4の事実中、「昭和57年以降平成10年度までの人事はすべて公募科目と採用科目が一致している」こと、「主 査と副査評価では主査の方が重要性をもつ」こと、「人事管理論と労使間理論との間には切り離しがたい連関 性があり、両科目を合わせて「労務管理論」が成り立つというのが学会の有力な通説である」こと、「選考委員 会の審査過程において、委員長や副査が主査に対して暴言を繰り返した」ことはいずれも否認する。
 過去には、これらの事実は被申請人が提出した一覧表だけでは判断できないものである。審査報告書の内 容が重要なのである。
 5の事実中、「同報告書に田尻委員長、原口主査、馬頭副査、その他の委員の順で委員会における各委員の 言動について批評がなされている」こと、「このうち、申請人田尻、馬頭について、同記載の評価がなされてい る」こと、「申請人八尾について同記載の言及がなされている」ことは認める。
 申請人らに対して指摘された各事実及び言及された事実(但し、申請人馬頭についてもBのうち、副査自身 の書いた評価書へ連名を求めたことを除いて)は、すべて偽りであることは後述の通りである。
 被申請人は調査委員会の調査という名目で偽りの事実を作り上げて(仮に、そのような事実があったとしても 処分理由になるものではないが)、これを処分理由にしているが、このような手口著しく信義に反すると言わな ければならない。
 6の事実中、「被申請人理事会は平成13年10月1日、理事会において懲罰委員会の設置を承認した」こと、 「委員の構成は理事長、学長、伊東光晴教授、本部事務局長、大学事務局長の5名であり、大学学長秘書室 長がオブザーバーとして出席している」こと、「懲罰委員会では田尻、馬頭、○○教授が同記載の月日に弁明聴 聞が行われた」ことは認め、その余は不知。
 被申請人は選考委員会や教授会の決議に従わず、採用候補書の採用を拒否した。これにより候補者間題は 既に解決した筈であった。もし、被申請人が選考委員会や教授会が誤った人選をなしたということであれば、こ れらの委員会、教授会の改革をすることが常識である。ところが、被申請人は決着済みの問題を一方的に調 査し、偽った事実を作り上げて1年も経過した時期に懲罰委員会を設置すること自体異常というべきである。し かも、懲罰委員も中立的な第三者ではなく、理事長、学長はじめすべて被申請人側で構成されている(伊東教 授は学長の京都大学、福井県立大学時代の同僚である。また、オブザーバーとはいえ、上申書を提出した外 薗学長室長が出席している)ということからみても、予め処分を決めておいた処分のための委員会であったこと は誰の目にも明らかである。そればかりではない。懲罰委員会で改めて大学内で候補者の業績調査を行うこと になったということも理解し難い。被申請人は2人の教授に採用候補者の業績評価をさせ、その評価を既に出し ていたからである。加えて、平成13年12月17日の大学評議会に「採用人事調査委員会」の設置をしたということ も処分を目的とした意図的なものであるとしか言いようがない。
 7の事実は不知。
 採用人事調査委員会は候補者の業績が労使関係論に関するものでも、人事管理論に関するものでもないと したということであるが、これは学問を無視した悪質な結論としか言いようがない。候補者の業績は労使関係論 ではずば抜けたものであり、また人事管理論の担当も可能であるという実力を備えていたからである。
 8の事実は不知。
 懲罰委員会は懲罰対象者4名のうち申請人ら3名について懲戒退職、申請外○○については減給6ケ月とす る原案をまとめ、これを理事会に提案し、理事会が承諾したということである。しかし、この事続きはきわめて不 公平である。なぜなら、懲罰委員会の構成委員のほとんどが理事会の構成員であり、理事会が承諾しなことな どありえないからである。このような重大な処分について、いわば身内だけで審査し、同じ身内が決定するとい う手法自体違法なものである。
 9は争う。
 被申請人は、本件処分について、教員選考委員会の主査、大学経済学部教授会構成員ら7名の上申を受 け、外部の専門家2名を含めた大学間題調査委員会及び懲罰委員会及び採用人事委員会の慎重な審査を経 て、かつ申請人らに対する十分な弁明聴聞の機会を与えた上で行われたものであり、その手続きも何らの瑕疵 はないと主張している。ところが、これらの委員会の主査及び経済学部構成員ら7名の上申の内容は事実に反 する部分や誇張が多く、被申請人が設置した上記各委員会はすべて理事長、学長らで構成された不公正なも のである。このような委員会が行った弁明聴聞が形だけのものであったことは当然のことであり、その他本件処 分にあたり被申請人がその他重要な手続きに違背していたことは既に述べた通りである。

第2 懲戒解雇の違法性
 一.懲戒解雇の要件
 既に述べた通り、懲戒解雇は勤労者を絨首した上、長年の勤労に対する対価を全て剥奪するばかりか、今 後の労働の機会をも事実上奪うことになる死刑にも等しい処分である。懲戒解雇がこのような過酷なものであ ることから、処分については適正な手続きが求められると共に、それに値する重大な事由が必要であることに ついて争いはない。勤労者の権利が憲法及び労働法によって手厚く保護されている民主主義社会の下で、使 用者の独裁的な判断によって処分をすることは絶対に許されるものではない。
 殊に、学問の自由が保障され、学問の砦を守るため自治が最大限尊重されている大学の場合、適正手続上 記要件が厳に守られなければならない。しかしながら、本件懲戒解雇は適正な手続きが全く守られていないだ けではなく、懲戒事由も全くない著しく遵法なものである。
 二.適正手続違背
 (1)弁明の機会について
 懲戒解雇処分がなされる場合には、先ず被処分者に対し弁明の機会が与えられなければならない。本件で はこの機会は与えられているものの、単に形式を繕っただけのものであった。被申請人は申請人田尻、同馬頭 に対して平成12年1月22日、同八尾に対して平成13年10月25日と同年11月14日にそれぞれ弁明させたことにな っている。しかし、本件で被申請人は、当初から申請人らの処分を決めており(乙第 考証以下によると、弁明 の前から処分を決めていたことは明らかである)、弁明の時間も殆どなかった。
 およそ弁明の機会を与えたというためには、処分事由にあたる事実が存在したか否か、仮にそのような事実 があったとすれば何故になされたのか、そのようにせざるを得なかった事実はなかったのか、本人に同情する ような事由はないか等を詳細に問い質されなければならない。そして何よりも、弁明の事実等を考慮した上で判 断がなされなければならない。
 ところが、被申請人は当初から申請人らの弁明を聞き入れる気持ちなど全くなく、申請人らの弁明は処分に あたって参考にすらされなかったのである。
 もし、被申請人が申請人らの弁明を真撃に受けとめる気持ちがあれば、申請人らが自己の職務を忠実に遂 行していたことが明確に理解できたものである。すなわち、申請人田尻は選考委員会において選考委員長とし て適切に議事を進行させ、委員会をまとめている。申請人馬頭も選考委員会の副査として、その役目を果たし ている。後述の通り、同人が作成した業績評価書のどこにも虚偽の記載はない(被申請人の処分通知書によ れば申請人馬頭は虚偽の記載をしていると記載されているが、一体何処が虚偽の記載にあたるのか全く明ら かにされていない)。申請人八尾についても、その弁明書からも明らかな通り、懲戒解雇に教授会の議長として 議事運営に努め、意見をまとめている。同人は学部新設等について、その経営を心配して熱心に意見を述べ たり、信書を出してるが、他の誰にも迷惑を掛けたことはないし、それが学校経営に支障をきしたこともない。し たがって、同人にも懲戒解雇をなしうるような事由がないことは言うまでもない。
 ところが、被申請人が行った弁明手続きは処分のためのものであったため、懲戒解雇に要求される適正手続 の欠映を回避するための形式的なものにすぎなかったのである。このような形式だけの弁明手続きがなされた としても、それは真に弁明の機会を与えたとは言えない。したがって、本件では適正手続違背が存在する。
三.教授会の決議について
(1)学問の自由が保障されている大学では、教授会が大学の自治における最も重要な機関である。学問を担う 教授、助教授を懲戒するには教授会の決議が必要であり、とりわけ懲戒解雇のような重大な処分をする場合に は教授会の議決がなされなければならない。それによって、はじめて大学の自治が守られるからである。
 大学は真理を求め、学術の中心として広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授、研究する場である (学校教育法52条)。そして、大学には、学長、教授、助教授、助手等をおかねばならない。また、大学には教 授会をおかねばならず、教授会は重要な事項を審議することになっている(同法58、59条)。大学は自由な研 究、教育の場であるから、大学の教員の身分は当然に保障されていなければならず、そうでないと自由聞達な 学問の探究はできない。教育公務員特例法も「国公立大学における教員は大学管理機関の審査の結果による のでなければ、その意思に反して免職されることはない」と定められており、これは私学にも類推されるベきも のである。
 大学の自治について判例は次のように述べている。「大学における学問の自由を保障するために、伝統的に 大学の自治が認められている。その自治は特に教授、研究者の人事に関して認められる。それは、『学問の自 由と自治は大学が深く真理を探究し、専門の学芸を教授、研究することを本質とする』ことに基づくから、直接に は教授、その他の研究者の研究、その結果の発表、研究結果の教授と自由とこれらを保障するための自治と を意味する」(最高裁8.38.5.22判時335号5頁)。
 このように、大学の学問の中心を担う教授、助教授の身分の得喪が、きわめて重要な事項であることは疑い ない事実である。
 本件においては3人もの教授を懲戒解雇に付するものであるから、学校教育法59条により重要な事項として 当然教授会で審議されなければならない。
 (2)被申請人自身、学則において「日本国憲法及び教育基本法の精神に則り・・・専門的学術機能を教育研 究し・・・」と定め(第1条)、寄附行為には「学校教育法に従い、学校教育を行うことを目的とする」と規定している (学校法人津曲学園寄附行為第3条)。更に、人事については、就業規則において「この規則は、学校法人津曲 学園寄附行為並びに労働基準法及び関係法会の精神に則り・・・」と定めている。このように、被申請人自身、 憲法、教育基本法はもとより学校教育法、労働法を遵守すべき旨規定しており、被申請人はこれらの規定を遵 守し、学校教育法59条の規定により、本件懲戒解雇について重要事項として教授会の審議を経た上、処分をし なければならなかったものである。本件は明らかに適正手続きに反している。
 (3)このことについて、被申請人は、自己が総合大学であり、教員の任免に関する条項の定めはなく、就業規 則6条が「職員の任免、その他人事に関する事項は理事長がこれを行う」とあるのみであるから、教授会の承 認がないことを理由とする本件処分の違法性の主張には理由がないと述べている。
 しかしながら、就業規則6条は理事長の専断によって懲戒解雇ができると規定しているものではない。同規則 は、一定の手続きの下に、最終的には理事長が任免するという趣旨であり、このことは前記被申請人の寄附行 為、学則等により明らかである。
 また、被申請人は、人事院に対する国立大学教官の不利益処分の審査請求の事案に閲し、「国立大学教官 の懲戒処分が評議会の審査のみによりなされ、所属学部の教授会の議決がなくても違法ではない」との人事院 決定を例に挙げている。同記述の懲戒がどの程度のものであったのか、懲戒の理由がどのようなものであった か不明であるから、これは必ずしも参考にはならないが、例え教授会の審査が必要でないとしても、教授会が 選任する評議会の審査がなされており、本件とは異なるものである。
 本件では、重大な処分でありながら評議会の審査すらなかったのである。本件のように3人もの教授を懲戒解 雇することは、きわめて重大な事項であることについてはおそらく異論はあるまい。したがって、本件処分には 教授会の審査が必要であり、この重要な手続を経ていない本件では、適正手続きに反する重大な違法が存在 することは明らかである。
四.就業規則上の手続違背
 更に重大なのは、被申請人は、本件処分について自らが定めた就業規則上の手続きを全く守っていないこと である。すなわち、就業規則第55条は、懲戒退職(懲戒解雇)をなす場合、「所轄労働基準監督署長の認定を 経て、予告又は予告手当なしに直ちに解雇し、退職金を支給しない」と定めている。
 ところが、本件懲戒解雇について所轄庁である鹿児島労働基準監督署長の認定は全くなされていない。被申 請人自身、そのような理由がないと考えていたとしか思えないことについては既に述べた通りであるが、被申請 人は懲戒解雇を「予告又は予告手当なしに」直ちになしうることになっているにも拘わらず、解雇予告手当を支 払っているのである。被申請人は懲戒解雇事由がなかったため、予告手当を支払った上で懲戒解雇処分をな すという矛盾した行為に出ざるを得なかったのである。
 いずれにしても、被申請人は本件懲戒解雇処分について就業規則に定められた手続を履践していないことは 間違いない。したがって、被申請人の本件処分は就業規則にも反する違法なものである。
五.懲戒解雇事由の不存在
 本件処分が被申請人の悉意によってなされたことについては、平成14年4月30日付準備書面で詳柵に述べた 通りであるが、更に敷衍して述べる。
 (1) 申請人らに対する処分理由の基本は、人事管理論及び労使関係論という担当科目で公募されたにも拘 わらず、申請人らは選考委員会において「人事管理論」を削除し、「労使関係論」のみを取りだした形で審査を 行い、「労使関係論」だけについて教授会に推薦したということにある。このことについては既に述べたが、申請 人らは人事管理論を削除し、労使関係論のみを取り出した形で審査を行ったなどないことは、被申請人の述べ る委員会の討議の経緯からも明らかである。申請人らは、上記2つの担当科目に基づいて審査し、採用候補者 が上記「人事管理論および労使関係論」の教員として相応しいか否か、採用候補者の業績を判断し、同教授の 研究業績、同教授の説明、労使関係論と人事管理論との関連性などから人事管理論も十分に担当可能である と判断したのである。
 その結果、労使関係論の教授として人事管理論担当可との意見を添えて教授会に推薦したものである(因み に、人事管理論担当可の意見は口頭で行っている)。教授会では異論はあったものの、最終的には選考委員 会の判断に組みした。教授会の議決を受けて、経済学部長であった申請人八尾は、この結果を学長に報告し たところ、学長は直ちに異論を唱え、これを認めない態度を取った。
 (2)大学の場合、たとえ学長や設立者の意に沿わない学者であっても教授会の意思が尊重されることが大学 の自治であり、学問の自由はそれによって守られ、学問の発達につながってきたのである。学長や設立者の気 に入る者だけを適切だとし、もし大学内の機関がそうでない者を選任した場合、それが処分に値するということ であれば、まさに独裁である。それは大学の自殺行為であることは言うまでもない。
 (3)そもそも選考委員会での議論は自由でなければならない。委員会での議論を一々問題にして、これをもと に処分することなど許されないことは既に述べた通りである。
 選考委員会は、勿論公募された「人事管理論」および「労使関係論」の2科目担当を前提に審議を重ねてき た。応募者は10名で、法学、経営学、社会学、経済学の大学院研究科の出身であった。選考委員会はそのう ち経済学研究科の出身で、社会政策や労働問題論を専攻する研究者3人に絞った。これには異論は全くなか った。3名のうち、2名は大学院生で、1名は現役の○○大学教授であった。2人の大学院生については、公募さ れた職位が教授、助教授であったため、結局研究業績の卓越した同教授に絞られた。同教授について「労使 関係論」については全く問題にはならなかったが、主査は人事管理論について、そのものの業績がないことに 懸念を示した。申請人馬頭は、同教授の研究業績から人事管理論も十分に担当可能であるとの意見であった が、最終判断は面接をしてからということになった。面接の結果、同教授は人事管理論にかかわる基礎研究は しており、担当は出来るということであった。労使関係論と人事管理論は関連科目であり、文部省の設置基準 要項には「関連科目は担当できるものとする」との条項があり(経済学関係学部設置基準要項第4の3の5)、同 条項に照らし合わせても問題はなかった。面接終了後の委員会で主査は何らの疑問も意見も述べず、賛成の 態度が窺われた。他の委員全員も賛成の意向であった。ところが、投票結果は賛成4、反対1であった。投票は 無記名であったのに主査が「否」の投票したと発言したため、委員会としては主査の意見を無視できず、議論に なった。その中で候補者には膨大な業績があり、未検討の著書、論文が多く残っており、全業績を読む必要が あるのではな
 いかという一委員の意見により、委員会は一致した。検討の結果、主査はやはり前意見のままであった。しか し、賛成4、反対1という結論であり、主査は例え個人的には反対だとしても可決されている以上、業績評価書を 作成すべきである。ところが、主査は書けないと言い出したため、やむなく副査である申請人馬頭が作成した。 そして、選考委員会はその結論を教授会へ送った。因みに選考委員会は反対した主査の立場を尊重して副査 の作成した委員会の「業績評価書」の他に、主査の業績評価書の教授会への発言を認めている。
 (4)このように、選考委員会は何回もの委員会での議論の末、候補者の適否を判断した。これを受けた教授 会においても議論がなされた。申請人八尾は議長として活発な議論を求め、賛否の意見が出尽くし、議論が煮 詰まったところで、採決に入った。採決にあたって退席した者がいたが、それはそれぞれの意思に基づいた行 動であり、このこと自体を非難するつもりはない。他方、退席した者の意見が正しかったということにもならな い。最終的な意見は多数決によって決められることになるからである。
 (5) この経緯からも申請人田尻、馬頭らは選考委員として、申請人八尾は学部長としていかに真剣に採用 候補者の適否を検討しているか明らかである。申請人田尻、馬頭の行為はその労を称えられこそすれ、何ら懲 戒の理由にならない。被申請人が申請人田尻、馬頭について議事の進行が悪かったとか、意図的に誤った判 断をしたとか、議長に加担したとか、副査でありながら業績評価書を作成したことが不正であるとか、申請人八 尾の議事のやり方が強引であったなどと述べているが、これらがいかに常識にかけ外れた主張であるかが理 解できるであろう。本件処分が著しく違法なものであることは、もはや言うまでもない。
 (6)加えて、申請人八尾が被申請人の学部新設等について財政上の観点から準備委員会で発言をし、学長 や理事長に私信を送ったことはその通りであるが、委員会での発言によって議事が妨害されたことなど全くない し、また私信によって財政的な面を深く考慮して欲しい旨お願いしたことは、ひとえに被申請人の財政や存立を 心底憂慮したからであり、そのことによって被申請人の信用や名誉を害したりしたことなど全くないことも既に述 べた通りである。申請人八尾の財政に関する試算が決して的外れなものではなかったことについては同人の詳 細な陳述書によっても窺える。したがって、上記行為により申請人八尾を懲戒解雇という重大な処分をすること は余りにも常識に反する。
六.以上の通り、本件は適正手続に違背するだけでなく、処分理由も何らない驚くべき処分であると言わざるを 得ない。したがって、このような著しく違法である本件は早期に救済されるべきである。