仮処分裁判 債務者側(学園側)書面
 
八尾信光教授 弁明書(乙25-1号証)

 

 

 

 

 
2001年11月14日


学校法人 津 曲 学 園                   
 理事長 津 曲 貞 春 殿


鹿児島国際大学経済学部教授

      八 尾 信 光


10月19日付の懲戒理由書についての弁明

は じ め に


 「八尾信光教授懲戒理由書」について、改めて弁明の機会をお与え下さったことに感謝し御礼を申し上げます。時間内で可能な範囲の弁明をさせていただきます。
 平成9年度以降、大学のあり方と将来計画について色々申し上げてきましたが、それは、小生が鹿児島を愛 し大学と学園を心から愛してきたからです。
 まず御理解いただきたいのは、小生が経済学部長として「大学院開設準備委員会」と「新学部開設準備委員 会」に参加させていただいて以来、これらの将来計画を実行した場合の経営見通しの検討と、それに基づく慎 重な御判断とを、繰り返し御願い申し上げたのは、大学と学園が、○○私学のような経営危機に向かうことが な いようにと願ってのことであり、そこには、いささかの私心もなかったということです。
 [略]私大は、いずれも新事業が裏目に出て、深刻な経営危機を露呈させつつあります。
 例えば、○○年に関学した○○大学(○○学部・入学定員○○名)は、学生数○○名の小さな大学であるに もかかわらず、(学生納付金収入と専任教職員数などから推計して)[略]と見られます。(○○刊「大学ランキ ン グ」各年版等参照)。
 総額約○億円の公的援助を受け、○○年に開学した○○大学は、[略]せざるをえなくなりました。(「○○新 開」○○年○月○日付ほか参照)。
 ○○大学は立派なキャンバスを建設して10年前に開設した○○学科をついに廃止せざるをえなりました。 (「○○」臨時増刊号○○年○月○日付など参照)。○年前に新設された○○[略]にすぎません。
 「○○」を主眼とした研究と教育には(受け入れる学生数や納付金収入との関係で見て)これまでとは比較に ならないほどの費用と要員が必要になります。
 国際文化学部の新設や鹿児島国際大学への名称変更などについて、繰り返し慎重な検討と御判断をお願 い 申し上げたのは、○○で上記のような経営危機が進行しつつあり、本学と学園がそのようなことになっては 欲し くないという願いが基本にあったからに他なりません。
 もうひとつ申し上げておきたいのは、新増設部門や新事業のために過大な費用が支出されれば、そのため に 既存学部の学生と教員が過重な負担を負わなければならなくなり、そのことが既存学部そのものの衰退を 招く ことを懸念せざるをえなかったということです。既存学部の学生は、すでに3年前の段階において九州と四 国の 経済・経営・商学系の大学の中では最高水準の学費(年額85万円)を納めなければならないようになって いまし た。1人当たり県民所得が全国でも最下位に近い本県の学生や父母にとって、これは重すぎる負担で す。現に 毎年多くの学生が経済的理由によって退学を余儀なくされています。これをさらに引き上げなければ ならなくな ったとすれば、志願者数と入学者数が減少し、入学者の水準と本学への社会的評価が低下するだ けでなく、大 学・学園の財政そのものが危機に向かうのではないかと心配したのです。既存学部の学生は、他 の類似大学 に比べて高過ぎる学費を負担してきました。にもかかわらず、最近数年の間にこれらの学部の教 員数は大幅に 削減されました。このような状況下で、学生募集と学部教育に責任を負わなければならない立場 にある学部長 が危機感をもたざるを得なかったというのは、どなたにも御理解いただけることではないでしょう か。

 *例えば経済学部の場合、その教員数は1992年度の56名から98年度までに48名まで減らきれ、新学部発 足 後の2000年度には37名にまで削減されています。この結果、今年5月時点における専任教員1人当たり学生 数 は、大学院経済学研究科が〔43÷6≒)7名、国際文化学部が〔471÷45≒〕10名(ただし学生はまだ1.2年生 の み)であるのに対して、経済学部の場合は〔2269÷37≒〕61名です。もちろん、経済学部の教育に当てられて い る実質的な教員数を把揺するためには、国際文化をはじめとする他学部の先生方が経済学部の教育のた め に投じて下さっている労力を加味し、他方では経済学部教員が他学部や大学院での教育のために投じてい る 労力を控除しなければなりません。しかし、そうした点を考慮に入れたとしても、新学部や大学院に比べて、 経 済学部の学生に対する教員の配置があまりに少ないことは明白ではないかと思われます。

懲戒理由書の内容について

 1.懲戒理由書は、「八尾氏には、学部長としての在職期間中に、学園改革事業および大学運営を妨害する …言動があった」としています。しかしながら、小生が「学園改革事業および大学運営を妨害」したという事実は ありません。懲戒理由書にも「大学運営を妨害」したという具体的事実は示されていません。小生が学長に対し て、@「大学の機構、組織並びに制度」の改変と大学運営は「学則・諸規程」を遵守し教授会および評議会を尊 重しながら進めて下さい、A新増設に当たっては既存学部に過度の負担を強いることがないように、収支見通 しも考えながら検討して下さい、と申し上げたのは事実です。しかしそれは、経済学部長としては当然のことで 何ら責められるべきことではないと考えます。

 2.懲戒理由書の@には、「八尾氏は……大学院開設準備委員会および新学部開設準備委員会…‥の席で 自らの意見が多数の賛同を得られないとみるや、〔学園・大学経営の〕最高責任者である理事長および大学学 長に対して経営計画の見通しを批判する個人的意見を述べた書簡多数を送りつけ」た、とあります。
 しかし、これは事実に反しています。これらの「準備委員会」において「経営見通し」が初めて報告されたの は、1999年3月20日のことです。それは資料なしに口頭で行われました。大学院の設置申請から9カ月後、新 学 部の設置申請から6カ月後のことです。つまり、大学院・新学部についての基本計画を確定し、文部省への 第一 次申請を済ませた半年以上あとのことです。それまでは「経営見通し」についての報告や論議なしに経営 計画 の具体化が進められたのです。したがって、それまでの段階で理事長や学長にお送りした書簡が「経営 計画の 見通しを批判」したものでないことは言うまでもありません。「経営計画の見通し」そのものが示されては いなか ったからです。
 小生は、大学や企業が重要な経営計画を策定し具体化する際には、それと並行して経営見通しの検討をす るのが普通ではないかと思っていました。しかも18歳人口が減少し、鹿児島純心女子大学の国際言語文化学 部や宮崎国際大学では大幅な赤字を出し続けていると見られた時期です。ところが「開設準備委員会」では、 大学院・新学部を開設した場合の「経営見通し」が全く論議されなかったばかりか、それに関わる予測や試算 も 示されませんでした。そのような中で大学・学園の将来を左右する重要な計画が策定され具体化されていっ た のです。両「準備委員会」の委員であった小生が、経営見通しについての検討を繰り返しお願いし、自らも試 算 表を作成してお送りしたのは、以上のような事情のためです。それが「学園改革事業の妨害」に当たるもの でな いことは、一般の大学や企業で将来計画の策定に関与されたことのある方々であれば、どなたにも御理 解いた だけるものと確信しております。
 いずれにしても、小生が上の事柄について繰り返し意見や要望を申し上げたのは、大学・学園を、他大学の ような経営危機に向かわせてはならないという、切なる気持によるものであったことを御理解いただきたいと思 っております。

 3.@では、「特に1999年1月27日付の理事長あての書簡において、新学部設置にかかわる文部省への第一 次申請が済んだ後に、「申帝を取り下げるように」と迫っている点は、……越権行為であったと認められる」とさ れています。しかしながら小生は、自らの「職権」を利用してそのようなことを「迫った」わけではありません。
 「新学部棟の本格着工」がまだ開始されず、「第二次申請までに5ケ月」、「新学部開設予定日までに14ケ月」 あるのですから、急いで「再検討」して「申請を取り下げて下さい」と「お願い申し上げ」たに過ぎません。理事長 に何かを「迫る」ような権威や権限は小生には全くありませんでした。
 あの時点で小生があのような「お願いを申し上げ」たのは、その時までにようやく判明した大学院・新学部の 骨 格に基づいて、「平成15年度以降の各学部・学科の財政収支」を試算してみると、新学部と大学院とで年々 数 億円規模の赤字を発生させ、学園財政を赤字に転落させると思われたからです。 その少し前にNHKで、北 海 道拓殖銀行があのように悲劇的な倒産に到ったのは、最高級リゾートホテルの建設に深入りし、一度決め た建 設計画は完遂するしかないと思いつめたことが直接の原因であったということが報じられたことも一つの 背景で した。
 あのとき小生が、それまでに判明した大学院と新学部の概要に基づいて、大学・学園の財政見通しを試算さ せていただいたのは、先に申し上げたように、両「準備委員会」ではそうしたことについての報告や検討がなさ れてこなかったからです。自分なりに試算してみた結果、大きな赤字が出ることが判明したので、急いで理事 長 ヤ学長にお手紙を差し上げたというのが、そのときの経緯に他なりません。
 このまま行けば、大学・学園の将来が危ないと思ったならば、急いでそれを理事長や学長に申し上げるの は、 将来計画の策定に関与させて頂いた者の責務でさえあったのではないでしょうか。

 *今年4月2日に理事会が公表された収支予測(予算)によりますと、大学の消費収支は平成12年度が2億 円、13年度が4億円近い黒字になると予想されています。しかしそれほ、経済学部と福祉社会学部で10億円以 上の黒字を出す(必要があれば試算の根拠をお示しします)からであって、新学部と大学院そのものは、大幅 な 赤字部門という形になっているのではないでしょうか。学園全体の収支は、(一時的な出費や収入不足も含 んで いる点を考慮しなければなりませんが)平成12年度が12億円、13年度が9億円の赤字と見込まれていま す。新 学部が完成すれば、その収支はある程度改善されると思いますが、それでも、新学部と大学院がかなり の負担 になり、学園が黒字を回復するのにかなりの困難が伴うのは明らかであるように思われます。(ちなみ に、新増 設前の平成10年度における大学の消費収支は7億5500万円の黒字、学園全体の消費収支も10億円 近い基本 金組入れをしながら均衡していました。)
 小生自身は、単に異論や慎重論を申し上げただけでなく、学内外の状況と鹿児島の実情を踏まえれば、他 に なすべきこと、なしうることが色々あるのではないかと考え、そうしたことについても申し上げてきたつもりで す。 また、新学部についての具体案が、当初の構想よりはずっと整理された形のものとなった点については、 小生 の発言も撫駄ではなかったという気持をもっております。

 4.大学・学園経営の「最高責任者である理事長および大学学長」に対して、計画の再検討を「お願い」するこ と自体は「越権行為」でもなければ「権利の濫用」でもないはずです。小生はそれを「要望」し「お願い」しただけ です。小生には、理事長や学長に再検討を強いる権利もなければ、理事長・学長の意に反して計画を勝手に 修 正するような権限もありませんでした。現にそのような「行為」はしておりません。大学・学園の将来を心配し て 「お願い」を申し上げたに過ぎません。「お願い」したことをもって、「職務上の権限を越え…専断的な行為を」 し たとか「職務上の…権利を澄用して専断的な行為を」したと言うことはできないはずです。 ちなみに、約1兆 9000億円の負債を抱えて倒産した「そごう」の場合は、「警鐘役の側近不在」が、あのような結果を生んだ原因 であったと報じられています(「朝日新開」2000年7月13日付)。小生自身は「側近」などという立場にはありませ んでしたが、将来を左右する重要な計画を決定し実行しようとする際に、それを色々な面から検討して慎重論 を 述べる者がいるというのは、経営体が健全でありつづけるための要件でさえあるのではないかという気がい たし ます。

 5.@の最後では、鹿児島大学におけるシンポジウムで、小生が「私の勤務校である経済大学では、先が約 束 されていない新設や増設のために巨額の投資をしている」と述べたとされています。しかし、それは事実に反 し ています。小生が述べたのは、「私の勤務枚である経済大学の場合は、一応黒字を出しながらやっている が、 全国の私立大学を見ていると、かなりの持ち出しをして、先が約束されていない新設や増設のために巨額 の投 資をしているように…見える」ということに過ぎません。小生の発言が、「経済大学」ではなく「全国の私立 大学」 に関するものであることは明らかです。しかも小生は発言の冒頭で「役職者としてではなく個人として発言 しま す。」とも述べています。小生の発言は、[略]なども念頭に置いた一般論に他なりません。
 小生の発言が「学園の不利益となるおそれのある事項を他に告げ」たものでないことは明白です。

 6.Aでは、「学長に対する名誉毀損」が問題とされています。しかし、そこに記された引用文は正確ではあり ません。「経営者としては失格である」などとは一度も言ったことがありません。小生は、学長が大学経営の責 任者であり、経営計画を策定するためのいくつもの委員会(大学院開設準備委員会、新学部開設準備委員 会、鹿児島短大・鹿経大社会学部改組準備委員会、社会学部大学院開設準備委員会など)の委員長をされて いたにもかかわらず、学長室において、「私は経営のことを考える立場にはない」という趣旨のことを繰り返し 言 われたので、それは違うのではありませんかということを申し上げたに過ぎません。
 小生は学長に(私学の将来計画を策定される以上は)経営面についても関心を向けていただきたいと思った だけであり、学長の名誉を傷つけたいなどという意図は全くもっていませんでした。それは、学長がいかに便れ た業績のある立派な学者であられるかいうことを機会あるごとに述べさせていただいてきたことからも明らかで す。

*小生は、自らの講義や新入生への挨拶、父母懇談会や入試説明会などで、菱山学長がいかに優れた業績 のある立派な先生であるかを繰り返し述べさせていただきました。それだけでなく小生は、菱山先生に対する 敬 愛の念を行動でも示してきました。理事長が、経済学部教授会に対して、菱山先生を学長候補として紹介さ れ たさいには、真っ先に賛成の発音をさせて頂きました。先生着任後は、先生の旧友である伊東光晴先生や 本 多健吉先生、お弟子さんの根井雅弘氏などをお招きして、講演会や研究会を開かせていただきました。お 弟子 さんである加藤秀樹氏やカムチャイ氏をお招きした研究会にも、学部長として協力し参加させていただき まし た。大学院の授業では学長の特別講義を企画させていただきました。これらすべてのことは、小生が菱山 学長 をいかに尊敬し敬愛していたかを示しています。小生に学長の名誉や人格を傷つけたいなどという意図が なか ったことは、以上のことからしても明らかではないでしょうか。

 7.残念ながら、学長の大学運営が以前に比べて民主的なものでなかったのは事実であるように思われま す。
 例えば、1997年度からの役職者を選定された際には、「役職者選出規程」の趣旨と前例に反して、全学投票 の結果とは異なる方々を役職者に指名されました。こうした例は、その後5年近くの間に色々ありますが、最近 の例を挙げさせて頂けば、昨年来進めてこられた学則・諸規程の改廃は明らかに学則・諸規程の定めに反し て いるように思われます。学則及び諸規程の「改廃は、教授会及び評議会の議を経なければならない」とされ てい るにもかかわらず、教授会や評議会での「協議」を経ずに改廃が進められてきたからです。このようなやり 方に 対しては、教授会だけでなく評議会も事前の承認を与えてはおりません。平成12年11月の第5回評議会議 事録 を見ますと、そのような方針が示されてはいますが、それは審議事項としてではなく、報告事項の中 の 「その 他」の一つとして扱われているに過ぎないからです。
 小生は学長にも学則や諸規程を尊重していただきたかったと思っております。そうでなければ、学生に「本学 学則、諸規程」を守りなさいと指導し、「違反…者に対しては、学長が…懲戒を加える」という資格がなくなってし まうからです。したがって、こうした点について小生が「大学評議会や経済学部教授会などの公の席で繰り返 し」 発音し、それを直接学長にお手紙や文書で申し上げたことは、何ら規則違反には当たらないと考えます。ト ップ に対して文審や手紙で意見や要望を述べさせていただくこと自体は、他の大学や企業、政府や自治体で は広く 行われていることで、問題がないはずです。
 小生が学長に何度もお手紙や文書をお送りした一つの理由は、大学自体が学則・諸規程に反するようなこと をしてはならないはずであるという強い信念があったからです。そのようなことを繰り返していたら、大学は教育 機関としての資格を失うと考えたのです。もう一つの理由が、大学・学園を近隣他私大のような経営危機に向 か わせてはならないと思ったことであるという点については、すでに申し上げました。
 いずれにしても学長に何度もお手紙や文書をお送りしたのは、大学とその将来を思う切なる気持によるのも であったことを、是非ご理解いただきたいと思っております。
 それを繰り返したことが学長に不快感や心理的圧迫をお与えしたとすれば、その点はどうぞ広い御心でお許 しくださるようにお願いを申し上げます。小生自身も半年前からはそうしたことを控えさせて頂いているつもりで す。

※なお、大学が1999年春に理事長名で文部大臣に提出した「鹿児島経済大学学則の一部変更について」の書 類(平成11年3月31日付)は、違法な文書であったように思われます。提出文書には教授会議事録(写)が(抜 粋の形で)11回分24ページわたって収録され、それらの一つ一つには、「この写は原本と相違ないことを証明 す る。/平成十年九月二十日/鹿児島経済大学経済学部長 八尾信光」といった証明文が付けられていま す が、これらはいずれも経済学部長と社会学部長には無断で作成され、提出されたものだからです。しかもそ れ らの中には、議事録原本とは異なる記述、加筆、削除などが含まれています。
 例えば、「経済学部第6回教授会議事録(写)」においては、新学部設置のための学則改正案についての投 票 の経緯が議事録原本とは違った形で書かれ、その結果についての教授会としての判断(「賛成多数が投票 総 数の過半数に達しなかったため、学則改正(案)は承認されなかった」)は欠落しています。その他にも議事 録 原本と異なる記述、加筆、削除、欠落が色々あります。(なお、提出文書に以上のような問題があったことに つ いては、1999年度第3回から第6回の評議会議事録に記録されています)。第4回評議会では、これらが単な る 「事務的なミス」として処理されていますが、このような文書を、両学部長の承認印もないのに、これでよいと した 上で文部省に捷出されたことについては大学自体にも責任がありはしないかという気がいたします。
 小生は、この問題を文部省に通報してはおりません。大学・学園にダメージを与えたくなかったからです。し か し、このような行為は止めていただきたいと思っております。

 8.Fでは、小生が2000年9月21日付で瀬地山敏先生にお送りした私信も問題とされています。瀬地山先生と は二つの学会でご一緒させていただき、何度もお会いして手紙や葉書もやりとりさせて頂いていた関係です。 そ の先生への私信の内容を公の場に持ち出して「名誉毀損」とすることはできないはずです。したがって、それ に 基づいて懲戒を加えることもできないはずであると考えます。

*懲戒理由書は、この私信に「現学長の退任を願っている」というようなことが書かれているとしていますが小 生はそのようなことは書いておりません。
 「学者としての菱山先生には心からの愛敬の念をもっておりますし、それを行動でも十分にお示ししてきたつ も りです」が、「学長としての菱山先生の行動には二つの点(経営計画の策定に当たって経営面からの検討を しよ うとはされなかった点と、学則や諸規程に反し教授会や評議会を軽視した大学運営をされている点)で残 念な 気持をもっております」と述べた上で、「(瀬地山)先生は、本学の将来計画の策定にも関与され、菱山先 生の 一番弟子のお立場にもあられると存じますので、…菱山先生に‥・適切なアドヴアイス〔助言〕をして下さ います ようにお願いを申し上げます」とし、「本当は〔現学長の信任が最も厚いと思われる瀬地山〕先生‥が本 学の学 長になって〔現学長を引き継いで〕下さるとありがたい」ということを申し上げたに過ぎません。菱山学長 の後を 菱山先生の高弟が引き継いで下さるとすれば、菱山先生も安心され満足されるのではないかと愚考し たので す。このことは小生が菱山先生とそのお弟子さんに何らの悪感情ももっていないばかりか、そのような 方法で大 学の将来を切り開いて頂きたいと願っていたことをも傍証しています。
 瀬地山先生は小生と同じ時期に本学の将来計画具体化のための委員会に参加されました。その後も、本学 の学内問題に関する委員会に参加されています。菱山先生の信任が最も厚いと思われる先生です。そのよう な先生に対して以前同じ委員会の委員であった小生が、本学の現状についての悩みを打ち明けたとしても、そ れは許しがたい過誤とまでは言えないのではないでしょうか。
 なお、懲戒理由書にある「学長の計画は放漫で無貫任なものであるから、適切にアドバイスしてほしい」という 文章は、前後の説明を無視したもので、小生自身の文章ではありません。

 9.Aの最後では、2000年4月26日付の私信で、学長に対して「勇退」を進言したことが問題とされています。 尊敬する大先達に対して、間近で仕事をさせて頂いていた部下や後輩が「勇退」を進言するということは、一般 企業や大学ではよくあることではないでしょうか。進言すること自体が規則違反であるとは思われません。

 *私信では、まず小生が学長をいかに尊敬し、それを行動でも示してきたかを述べ、次いで学長が経営面の ことには十分な関心を向けられなかった点を遺憾とした上で、「勇退」を進言させて頂きました。それは、私信 の 後半で申し上げたように、学長が大学院と新学部を開設され、大きな尊敬を集めておられる今こそ勇退され る にふさわしい時期であり、それが学長御自身にとっても一番よい事ではないかと愚考したからです。末尾で は 「失礼の段どうぞ御海容下さいますようにお願い申し上げます」と述べています。 それは、決して「学長の名 誉 を毀損」しょうとしたものでも、「強圧的に自らの願望を押し付け」ようとしたものでもありません。それを学長 が、 そのように受け止められたのであれば残念であり、お許しを乞いたいと思いますが、菱山学長のような大 先生 には、もっと広い御心で受け止めていただきたかったとも思っております。
 上にお示しした脈絡からも明らかなように、小生の私信は「私の意見を容れないのであれば、退職せよ」とい う ような趣旨のものではありません。

 それは「強圧的に自らの願望を押し付けるストーカー的行為でもある」とされていますが、小生には学長に 「強 圧」を加えうるような権威も権限もありません。
 「自らの願望」とありますが、小生の進言が自らの利益を求めたものでないことは明らかです。自己の利益を 求めるのなら、学長の方針には異議を唱えず、役職者に指名してもらう方が得であるに違いないからです。
 学長に何かを「進言」したからといって、それが「上司の職務上の指示に」反する行為をしたことにはならない はずです。小生は学長への畏敬と敬愛の念を機会あるごとに表明し、行動でもそれを示し、お手紙にもそのよ うに書いております。「規律」を破り「品位」のない行為をしたとは思われません。したがって、学長への「進言」 を もって規則違反とすることはできないはずであると考えます。

*なお、懲戒理由書で「(今回の大学改革による)赤字」とされている部分と「それ以後の計画によって」とされ て いる部分は、原文に即したものではなく不正確です。

 10.Bでは1999年度における「人事管理論および労使関係論」の採用人事に関する教授会の運営が問題と さ れています。これについての懲戒理由書の記述には幾つもの事実誤認があります。
 教員選考委員会報告が「労使関係論のみで可」としたとありますが、それは事実に反しています。委員会報 告 は、「○氏を「労使関係論」の教授として推薦する」としているのであり、面接で「両科目とも担当可能」である こと を確認したことも報告されました(「教員選考委員会の経過報告」第4回分をも参照)。
 「委員会報告に対して反対する教員多数があるなかで」とありますが、反対者は少数であり、反対論を展開さ れたのは数名の方々でした。
 「八尾氏が学部長として…強引に議事を運営した」とか、反対論を「封じ」たというのは事実に反しています。 小 生は、異例のことではありますが、委員会内の少数者(6人の内の1人)に資料配布を認め、他の4人全部よ りも 多くの発言時間を与えることまでして、委員会内の少数意見に十分すぎるほどの配慮をしました。
 2000年9月13日付の学長への書簡で小生は、「本学でも教員の採用や昇格について、一教員に二つ以上の 科目を担当させることを求めてはおりません」とは書いていません。「一人の教員に二つ以上の科目を担当し て もらう場合に、それらのすべてについて十分な業績を求めるのが酷であることは容易に御理解いただけるの で はないでしょうか。本学でも教員の採用や昇格について、そこまでは求めておりません」というのが元の文章 で す。「一人の教員に二つ以上の科目を担当してもらう場合もありますが、それらのすべてについて十分な業 績を 求めてきたわけではありません」という意味であるのは明白ではないでしょうか。
 「憲法」担当で「採用を決定した後に行政法の担当をも依頼したというのが正しい事実経過である」とあります が、これも正しくありません。 採用候補者には面接段階で「行政法」も担当していただける事を確認した上で 「採用を決定した」はずです。
 「〔過去の採用人事についての〕事実誤認に基づく重大な瑕疵を含む教員選考委員会報告」とありますが、 「委員会報告」には過去の採用人事についての言及はありません。 「公募採用書類に書かれた担当科目内 容 が審査の過程で変更され」たかのように書かれていますが、選考委員会は採用候補者の担当予定科目を 変更 したわけではありません。公募書類に示した二つの科目とも「担当可能」であることを確認した上で、その 一方 である「労使関係論の教授として推薦」したにすぎません。
 もし、こうした教員選考が許されないとするならば、本学部における過去のいくつかの昇格人事も不当なもの とし無効としなければならなくなります。二つの講義科目を担当していただいている先生を一つの科目について の教授として昇格させたという事例は、統計学、○○論、金融論などいくつもあったからです。(これらの審査を 担当されたのは当時学内外で大活躍されていた有力教授でした)。
 懲戒理由書は、「主査」も「採決に参加するのを拒否して退席したにもかかわらず」、採決をしたことを職権 「濫 用」だとしています。しかしながら、教員選考規程施行細則は、教授会が採用「候補者の担当予定科目に 最も 関連する専攻領域から2名」を選んで(専門)委員とすることを定めているだけで、そのどちらを主査とする かは 委員会に委ねられていました。また主査に絶対的な判定権を与えてもいませんでした。そのようなことを 認めた とすれば、各分野の主要科目を担当する教授が、その分野における教員審査についての絶対的な判 定権を持 つことになるからです。したがって、委員会が規程に基づいて(5分の4の絶対多数により)決定した結 論を教授 会が尊重するのは当然のことです。長時間の審議を経たあとで採決をしたことをもって「職権濫用」で あるとは 言えないはずです。小生生にはむしろ、委員会審議において、業績審査と面接を経て投票に入るまで の段階で は採用反対の意志を表明しなかったのに、投票段階で突如反対票を投じたH委員の行動の方が見 識を欠いた もののように思われます(「教員選考委員以下の経過報告」参照)。
 懲戒理由書は、「八尾氏は・‥7名にものほる教員が採決に参加するのを拒否して退席したにもかかわら ず、 無理やり採決に持ち込んだ。これは、八尾氏が学部長としての権限を濫用したものであり、不適切な議事 運営 であった、と言わざるを得ない。」としています。しかし、あの採決は、学則・教授会通則・教員選考規程・ 同経済 学部施行細則に照らして完全に適法的であり、何ら責められるべき点はなかったと確僧しております。 年度末 を1カ月後に控え、最後に残った3名の候補者をあれ以上待たせることができなかったというのは、大学 人なら ばどなたにも御理解いただけることではないでしょうか。(応募された方々の勤務校や非常勤先のことを 考えれ ば、あの時点でも既に遅すぎたことをお考え下さい)。長時間の審議をしたにもかかわらず、7名が退席 したから といって採決をしなかったとするならば、採決に賛同された大多数の教授会メンバーの意思を踏みに じることに なります。実力行使をすれば採決を妨害できるという悪い前例を創ることにもなります。
 いずれにしても、あの採決が全く適法的であり、「職権濫用」などではなかったということは、どなたにも御理 解 いただけるものと確倍しております。

 学長は、上記の教授会運営に問題があったとして、小生を「平成11年度公募採用人事」に係る「調査委員 会」 なるものの調査対象とされ、それを理由に、平成12年9月から13年8月に予定されていたロンドン大学への 留学 を出来ないようにされました。上限300万円の留学費が支給されなかったことは言うまでもありません。
 この留学中止は小生にとって大きな損失でした。何度も申請してようやく認められた国外留学の機会を、上 の ような理由によって奪われたのだからです。小生は、平成12年の6月5日までに、受入れを歓迎しますという ロン ドン大学からの公式文書を含め、提出を求められた文書のすべてを用意して提出し、留学準備を完了さ せつつ ありました。そうした努力と計画のすべてが水泡に帰したのです。もし「公平な第三者」がこのような経緯 を知っ たとするならば、何というひどい仕打ちであろうかと思われるに遠いありません。このようにして、小生は すでに 大きすぎる不利益を受けているということも申し上げておきたいと思います。


む す び


 以上で申し上げたことから明らかなように、小生に対する「懲戒理由書」には数多くの事実誤認が含まれてい ます。それ以外の部分も含め、法令・学則・諸規程・就業規則に照らして、小生が懲戒を受けなければならない ような事実は示されておりません。
 小生は、法令や学則等に照らし、全国の大学人・文部省・司法関係者・マスコミなどに対して申し開きのでき な いような行為は何一つしていません。 大学と学園のことを想って精一杯努力し、考え、発言してきたに過ぎ ま せん。
 二年余り前に東京の大学に移らないかという話がありましたが、それについては学長に御相談を申し上げ、 学長が慰留して下さったので断念いたしました。鹿児島と本学への愛着が大きかったことが、もう一つの理由 で す。
 理事会の皆様には、是非こうしたことを御理解下さり、公正な判断をして下さいますようにお願いをいたしま す。
 小生の大学・学園を愛する気持が人一倍大きいことは、理事長にも十分に御理解いただいているものと存じ ますので、今後ともどうぞよろしく御願いを申し上げます。